第13話
金曜投稿です。
リーゼちゃんが宝珠に触れました。
淡い光を放ち、宝珠に込められていた魔法が、リーゼちゃんを包みます。
数秒間、精査していた魔法が収まりますと、空中に家系図が浮かび上がりました。
連名と続く家系図の一角に、ベルナールの文字を見つけました。
リーゼちゃんのお父様は、本筋の家系でした。
その横に、お母様の名前とリーゼちゃんの愛称が並びました。
「おおう。誠にベルナール様の遺児であります」
「これで、分家も黙るだろう」
家令さんとお爺さんが、安堵の息を吐き出されました。
反対に、リーゼちゃんは記載された兄妹の名前を痛ましく見つめています。
灰色の文字は故人の様です。
見える限り、本家筋の生存者が少なく記載されています。
呪いと関連があるのかも知れません。
「早速、分家を呼びましょう。リーゼ様の継承権を……」
「待ってください。リーゼさんは、ヴェルサス家には戻りませんよ」
「黙れ。獣人風情が、名誉あるヴェルサス家に口を挟むな」
家令さんの勇み足に、ラーズ君が待ったをかけます。
しかし、竜人族の気質が表れる家令さんに、怒気を向けられました。
竜人族も、実力主義でありますから、能力的に劣る獣人族を見下す傾向にあります。
帝国の人族主義と何ら変わらないと、理解しているのでしょうか。
かちんと、きたのは私だけではありませんでした。
「リーゼ様は、ヴェルサス家には無くては為らない方におなりだ。リーゼ様を、ドラグースにお連れした功には報いる。だが、只今からは、薄汚いお前達とは、縁が切れた。即刻、出ていきなさい」
「ワイズ。黙るのは、お前の方だ」
「何を言われますか。正統な後継者たるリーゼ様を、蔑ろにするおつもりですか? 輝かしいリーゼ様の経歴に汚点を残されるのは、我慢なりません」
「ワイズ。リーゼに、ヴェルサス家は相応しくはない」
「何故です」
お爺さんは、リーゼちゃんの本性を知っていますが、家令さんには知らされていないのですね。
当主のみに伝承する口伝でしたかね。
それにしましても、家令さんが発言する度に、リーゼちゃんがお怒りになっているのが分からないのですか。
ラーズ君が念話で抑えていなければ、血の雨が降りますよ。
「分家筆頭の貴方の立場を脅かすリーゼ様を、在野に追い出す気ですか?」
「そうではない」
「では、何です。正統な後継者がお戻り頂けたのです。レンダルク家が成せなかった、儀式にお出になれば成功は約束されるのです」
儀式。
ぶつぶつと呟いているジェイナス氏が、肩を揺らします。
何かと、正統な後継者を連呼する家令さんです。
家令の立場で、意見するのはでしゃばり過ぎです。
当主のお爺さんとは、仲は良好ではなさそうです。
好々爺とした見ために反して、好戦的な印象を覚えました。
「儂は、リーゼを儀式に出すつもりはないし、ヴェルサス家と内情に関わらせる気もない。お前達屋敷の使用人が、儂を影で嫌っているのは承知しておる。儂は、婿だからな。しかし、儂が当主なのは、先代が決めた。気に入らぬのなら、出ていけ」
「! では、リーゼ様は、わたしが別邸にお連れします。精々、お悔やみになればよいのです。さあ、リーゼ様。参りましょう」
「否定。断る」
「なっ⁉」
差し出される手を、リーゼちゃんは拒みます。
当たり前です。
何処に、リーゼちゃんの意思を確認もせず、自分勝手な理論を押し付ける方に、着いていきますか。
リーゼちゃんは、きっぱりと否定します。
私の姉を利用しようとする悪巧みには、ラーズ君が気付いていました。
家の為にと喚いていましたが、所詮は自分の見栄の為に理由を知らない遺児が必要なだけです。
本来なら、先ずは御披露目でしょう。
それなのに、いきなり儀式とやらを持ち出す。
不審がるのは当然です。
「リーゼ様。貴女は、このヴェルサス家の正統な後継者なのです。正統な権利を行使する義務があるのです」
「家。いらない。父、産まれた家、見て見たかった」
「何故に、分からないのですか。ヴェルサス家には……」
「いい加減にしてください。リーゼさんは、ヴェルサス家には入らない。貴方の都合の良い駒では、ありません」
「黙れ、獣人」
只人なら、気絶物な竜人族の怒気が発せられます。
ラーズ君は、平素で対峙しています。
私にも、効いてはいません。
家令さんよりも怖い殺気には慣れっこですからね。
アッシュ君は鍛練においても、手加減はしてくれません。
本気で抵抗しなければ、蹂躙されてしまいます。
毎回悔し涙にくれる結果ですが、必ずや一矢は報いてやります。
「貴方の言葉の端々からは、リーゼさんを利用して、後見人に収まろうとする野心しか見えません。大方、家令の立場を逆手にとり、使用人に虚言を流しているのではないのですか」
「ぐっ。何を根拠に」
これは、リーゼちゃんからの情報です。
リーゼちゃんが屋敷の空気を一掃しましたから、精霊がこぞって集まってきています。
精霊は、家令さんに向かって、皆一様に嘘付きであると、進言しているのです。
狡猾な一面を話してくれています。
「使用人の給金を横領している。屋敷の調度品を買い換える振りをして、業者と手を組み贋作に変えて、私腹を肥やしている。主のサインを偽造して、領地の税を上げている。数えたらキリがないですね」
「ワイズ。誠か」
「う、嘘に決まっております。獣人風情の、虚言を信じるのですか?」
「ああ、そうだ。ご当主。手渡される薬はお飲みにならない方が、身の為です。このままでは、毒殺されますよ」
「……そうか。残念だ」
思うことがあったのか、お爺さんが苦い息を吐き出されました。
家令さんは暴露されて、顔色を無くして身体を震わせています。
逃れる術を探しているのか、視線がうろうろしています。
行き当たったのが、私にです。
か弱い獣人の小娘。
人質には持ってこいな存在。
にたあっと、嫌な笑いが浮かびます。
老いているとはいえ、竜人族の全力な速度についてはこれまい。
そう考えたのか、一気に私に走りよります。
「リーナ」
「ワイズ。止すんだ」
喉元に手がかかろうとしています。
反対の手には、白銀の光が煌めきますから、ナイフでも忍ばせていたようです。
そうですか。
与しやすそうに、見えましたか。
ならば、その思い上がった矜持を折ってさしあげましょう。
ラーズ君が、やり過ぎを懸念して声をあげましたけど、手加減は無用です。
家令さんの速度は、ラーズ君に及びません。
難なく視認できます。
魔力を内側に巡らせます。
身体強化を施して、伸びてくる腕を払いました。
骨が折れる音が響きます。
竜人族にしましては、柔ですね。
「があっ‼」
続いてナイフを握る腕を蹴ります。
此方も、骨が折れました。
ナイフが床に落ちました。
「ぎやぁっ」
終いに、回転してお腹を横薙ぎに蹴り抜きます。
綺麗に壁に叩きつけました。
家令さんは、悲鳴もなく崩れ落ちていきました。
この方、弱いです。
正直、竜人族の種族性を侮っていました。
身体強化いりませんでした。
やり過ぎた感が半端ありません。
「我ら、竜人族が獣人族に力負けした」
ジェイナス氏が、目の前で起きたことについてはいけないでいます。
実際は、幻獣種と妖精種ですけどね。
「旦那様、如何致しました」
「敵襲ですか? 客人が狼藉を働きましたか?」
執務室で物音が発生しましたから、護衛やら使用人やらが雪崩込んできました。
少し、遅すぎではありませんか?
リーゼちゃんが風魔法を使用した時点で、駆け込むべきであったと思います。
人払いしてあったとしましても、隣室か隠し部屋にて待機しているのが常識ではありませんか?
「ヘインズ。ワイズを牢に入れて置け」
「旦那様?」
「客人の話によれば、儂に毒を盛っているそうだ」
「なっ‼ あれほど、用心してくださいと申し上げましたのに」
「分かった。お前の説教は後で聴く。客人の前だ。不忠義者を捕らえよ」
「はっ。失礼致しました。して、ジェイナス様は如何致しましたか?」
「ふむ。所詮は己の自己満足でしか、なかったのを知らされたのだろう。ベルナール殿の再来と敬われて、天狗になっておったのを、鼻っぱしらを折られたわ」
使用人の中から、お爺さんと同年代の執事さんが、気安く話し掛けてきました。
当主に毒を盛った家令さんの、首筋を抑えて離しません。
にこやかな笑顔が、寒々しいです。
屋敷内で帯剣している護衛は、私達に敵意を向けてきています。
私を狙った家令さんに対して、不機嫌真っ盛りのリーゼちゃんを警戒しています。
威圧していますし、睨んでいます。
まあ、護衛の方にしてみましたら、一見の客人より、家令さんの方に信はあります。
排除されるのは、私達の方です。
「して、お客人には報酬を渡してお帰り頂きますか。只今、ヴェルサス家には厄介な案件がございますので」
暗に、帰れと示唆されました。
リーゼちゃんの身内には、会えました。
ラーズ君が警告もしました。
リーゼちゃんが、どう対処するのか気になります。
「リーゼ」
「なに?」
「ヴェルサス家は、いらんか?」
「旦那様?」
「いらない」
「そうか。いらんか。なら、早々に、賢者殿の元に帰るがよい」
「家、いらない。困るなら、力、貸す」
「それは、願ってやまない申し出だ」
お爺さんが、重く息を吐き出されました。
賢者殿の元に。
リーゼちゃんがトール君の弟子であると、認識されています。
やっぱり、トール君と繋がりがある様子です。
「ヴェルサス家は、王国開闢以来の武門の一族。代々、竜騎士を輩出してきた。それが、儂の義兄ベルナール殿以降、竜騎士はおらん。理由は単純に、王家が竜から嫌われた。だのに、竜召の儀式に竜を喚べん責をヴェルサス家に、押し付けておる。リーゼ、そなたならどうする」
「竜王、喚ぶ。王家、潰す」
「そうだな。そなたなら、秘境の竜王を喚べるか」
「旦那様。何をお話になっておられます。秘境の竜王を喚ぶ等と、誇大妄想は大概になさってください」
「ヘインズ。信じがたい話だが、リーゼなら喚べるだろう。何しろ、竜王姫を従えたベルナール殿の遺児だ」
「ベルナール様の⁉ 誠にですか?」
「然り。形見の品もある。審判の魔導具にも反応した。今頃は、家系の魔石にも刻まれているだろう」
お爺さんが、暴露します。
リーゼちゃんを、家とは関わらせないのではなかったでしょうか。
いつ、方針を変えましたか。
リーゼちゃんが、力を貸すと宣言したからですか。
大人の考え方についてはいけない、私がいました。
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