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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
118/197

第10話

月曜投稿です。

 リーゼちゃんが鬱憤を晴らすか如く、ウルフの群れはあっという間に殲滅してしまいました。

 風魔法で一発でした。

 出番がなくなりました護衛チームは、楽が出来たと笑って許してくれました。

 私も弓を構えただけで終わりました。

 念話では、ラーズ君のお小言が飛び交っています。


「これだけ、綺麗な皮ですから、買い取りますよ」


 ウルフの皮は致命傷となる傷が最小限に等しいでしたから、隊商の商人さんに喜ばれて買い取られました。

 シルバーウルフの皮は、上流貴族に好まれる素材です。

 きっと、立派なコートになるのでしょう。

 ですが、リーゼちゃんはやり過ぎてしまいました。

 活躍の場を奪われたと、漆黒の刃パーティに抗議されてしまったのです。

 その妬みには、臨時の報酬に目が眩んだのが、ありありとわかります。

 リーゼちゃんは、いつもの癖で報酬をラーズ君に手渡してきました。

 ラーズ君はやんわりと断りを入れて、リーゼちゃん個人の報酬にしたらと、進言しました。


「リーゼさん一人で殲滅したのですから、リーゼさん個人の報酬でいいと思います」

「あぅ」

「そうだな。嬢ちゃんが、ウルフの群れを殲滅した訳だ。嬢ちゃんが、総取りでいいんじゃねぇか?」

「うぅ」


 ジョン氏も、賛成してくれました。

 隊商の商人さんも、同様に頷いています。

 リーゼちゃんは、既に涙目をしています。

 普段とは違うやり取りに、お手上げ状態みたいです。

 頻りに念話で、助けてと訴えています。


「リーゼさん……」

「いらないなら、危険手当としてくれよ」


 ラーズ君が助け舟を出そうとした折り、漆黒の刃パーティが口を出してきました。

 私達蒼穹のパーティが、年若と見て等々喧嘩を吹っ掛けてきました。

 困り顔なリーゼちゃんが、一瞬で無表情に変わり剣呑な空気を醸し出します。

 ラーズ君が、私を背に庇います。


「何だよ。いらないと言うから、くれと言ったんじゃないか」

「そうだぞ。必要ないなら、俺達が貰ってやるよ」

「そう。危険手当てだな」

「お前たち……」

「それは、道理が通じませんよ」


 身勝手な言い分にジョン氏が前にでかかりますのを、隊商の責任者であるヴァレリー氏が止めました。

 犬人族コボルトのヴァレリー氏は、にこやかながら有無を言わさない面持ちでいます。


「勿論、荷馬車を護衛してくださったパーティには、危険手当てをだします。金額は、魔物を討伐したパーティと変わりがありません。道中におきましては、そうしてきました。今回、リーゼさんの活躍で無傷の素材が手に入りましたので、妥当な金額をお支払いしました。それに、不満がおありなら、直接自分に言ってください」

「不満だらけだ。そいつ等を贔屓にしてるじゃないか」

「そうだ。俺達のパーティは毎回荷馬車の護衛に回されて、魔物を討伐出来やしない」

「危険手当てなんて微々たるものじゃないか」

「力量は俺達の方が上だ。何で、そいつ等の下に評価されないといけないんだ」


 何か履き違えていませんか。

 私達の任務は隊商の護衛依頼です。

 決して、魔物討伐ではありません。

 ましてや、臨時の報酬欲しさに、魔物に突貫していくお馬鹿さんではありません。

 これには、ジョン氏のパーティも護衛専門の天馬の斧パーティも、怒りを覚えてなりません。

 確実に、ランク試験は不合格ですね。

 護衛依頼なのですよ。

 荷馬車を優先して守るのは当然ではありませんか。

 ジョン氏が私達クロス工房年少組であるのを知り、優先的に迎撃に回したのも荷馬車を守るからです。

 果たして、リーゼちゃんがやや暴走して魔物は殲滅してしまいましたが、荷馬車は無事に荷ひとつ喪っていません。

 血気盛んなのは、分かります。

 けれども、魔物に固執してどうしますか。


「あのなぁ。お前たちは、何か勘違いしてやしないか」

「そうだな。ちょっと、お兄さん達と話し合おうか」


 厳つい腕が漆黒の刃パーティに回されました。

 護衛のなん足るかを、教え込んであげてください。

 索敵は、きっちりと請け負います。

 哀れにも引き摺られて行く漆黒の刃パーティ。

 休憩時間みっちりと、お叱りを受けていました。

 こうして、多少は矯正されたパーティを同行して、竜人族の王国の王都に辿り着きました。

 まあ、恨みは買ってしまいましたね。

 ですが、帰路は私達は同行しませんので、ものともしていませんが。

 それよりも、辿り着いた王都です。

 中々に、活気がありますよ。

 気になるお店が多々あります。

 調薬の素材がありそうです。


「リーナ。落ち着きなさい。それでは、完全に田舎から都会に出てきた田舎者です」

「だって、お兄さま。ドラグースは、初めて来た都会です。おのぼりさんですよ」

「リーナ、可愛い」


 ええ。

 田舎者を演出してみました。

 フランレティアの王都に出ましたが、食糧事情で活気がありませんでした。

 それに、人族以外の種族がいませんでした。

 違って、様々な種族が行き交っています。

 賑やかな掛け声等が響いてきます。


「おやおや。リーナ嬢は、待ちきれない様子ですね」

「お恥ずかしながら、その様です」

「では、これが依頼の完遂証です。リーゼ嬢の、お身内が見つかるのを祈ります」

「ありがとうございます」


 リーゼちゃんの、身内捜しの設定は忘れていませんよ。

 ヴァレリーさんの定宿を前に、完遂証の銅鈑をラーズ君が受けとります。


「本音は、帰路も護衛依頼をしたいのですが。そう無理は言えませんね」

「有り難いお話です。僕達も、楽に旅が出来ました。帰路に間に合う様に、リーゼさんの身内が早く見つかれば、その時はお願いします」

「はい。畏まりました」

「では、お暇します」


 ラーズ君が会釈するのに、合わせます。

 ここから、私達は別行動になります。

 先ずは、冒険者ギルドにて、依頼完遂の報告をしないとです。

 教えて頂いた道を歩きます。

 大体、冒険者ギルドは大通りに面しています。

 それほど、迷わずに着きました。

 時刻は夕方です。

 ギルドは、私達の様に依頼を完遂した報告をする冒険者の方々で、賑わいを見せていました。

 竜人族に、獣人族。

 見慣れない私達に、好奇な視線が向けられています。

 しばし、受付に並んで時を待ちます。

 テンプレ要素のからかいの揶揄は飛んではきません。

 何故なら、竜人族のリーゼちゃんが威圧を放っているからです。

 竜人族も、能力重視な気質があります。

 リーゼちゃんは嘗められない為に、周囲を圧倒しているのです。


「はい、お待たせしました。新人さんね。出来れば、威嚇を止めて欲しいわ」

「竜人族の流儀は僕には分かりません。周りが静まれば良いだけです」

「あら、言うわね。依頼を完遂ね。ギルド証を出して頂戴」

「はい。リーナ、リーゼさん。ギルド証を」


 受付嬢は、竜人族の方でした。

 和やかに笑顔でいますが、釘を刺されてきました。

 ラーズ君は、竜人族の流儀だと交わしています。

 交渉が始まっています。

 ラーズ君の差し出す掌に、ギルド証を乗せます。

 街中で金銭の授受は、スリに狙われるだけです。

 依頼金はギルドにて受け取る仕組みになっています。


「蒼穹の豪嵐パーティに、間違いなしね。依頼金はどうする? 手渡し? ギルド貯金に回すかしら」

「手渡しで、お願いします」

「あら、やだ。年の割に冷静ね。お姉さん、ショックだわ」

「まさか、僕も初対面で誘惑されるとは思いませんでした。いつから、冒険者ギルドは美人局になりました?」

「んぐ。言ってくれるわね」


 これ。

 怖い笑顔で言い合っています。

 受付けのお姉さんは受付嬢なだけあり、容姿は美女の部類に入ると思います。

 と、言いますのも、竜人族の美醜には私が疎いからです。

 柔和な英雄は、異性を虜にするのではないかと。

 まあ、ラーズ君は異種族ですし、伴侶を決めていますから、無駄に終わっていますけど。

 ドラグースのギルドで、ラーズ君が誘惑されるとは思いませんでした。

 ギルド員規約に反するどころではないのでは?


「フラン。貴女、またやっているの? ギルドマスターに報告するわよ」

「待って、謝るから、待って」

「いいから、退きなさい。貴女は、裏に回りなさい」

「はぁい」


 同僚の受付け嬢が、見かねて忠告を発しました。

 同じく竜人族の女性です。

 立場的に上司さんですかね。


「当方のギルド員が失礼を致しました」

「いえ。お構いなく」

「依頼完遂の報告でしたね。依頼金は手渡しで。ただ今、準備致します」


 新たな受付け嬢さんは、異議を唱えることなく処理をしてくれます。

 ギルド証を専用の魔導具に翳して、記録を読み取りします。

 ギルド証事態も一種の魔導具になります。

 討伐した魔物の情報が記載されています。


「魔物の討伐情報がございます。清算されますか?」

「お願いします」

「畏まりました」


 慇懃に対応されますと、こちらが萎縮してしまうのは、何故でしょう。

 ミラルカの冒険者ギルドは、和気あいあいとしています。

 私達を見定める視線は、外れてはいません。

 何方かは、人物鑑定をしていますね。

 礼儀に反しています。

 まあ、鑑定をしても、私達の情報は見えてはいないでしょうが。

 嫌な気分にはなります。


「お待たせ致しました。依頼料と清算金になります。左から、リオン様、リーナ様、リーゼ様となります」

「リーナ、リーゼさん。受け取ってくださいね」

「はい。お兄さま」

「ん。了承」

「依頼料は、パーティ貯蓄に回します」


 各自の清算金は各自で受け取ります。

 ちょっとした、お小遣いになりました。

 結局、パーティの交渉と所持金はラーズ君が管理することになりました。

 リーゼちゃんは、こういったことには不慣れですからね。

 いつか、ボロを出してしまうか不安が付きまといます。


「処で皆様」

「はい、何でしょうか」

「討伐した魔物の素材はお売り頂けますか?」

「ああ。シルバーウルフの素材は、既に商人に売りました」

「いえ。リーナ様の討伐した魔物の情報に、レッドリザードの情報が記載されています。出来れば、舌をお売り頂きたいのです」


 レッドリザードの舌は、調薬の素材になりますから保持しています。

 すばしっこく、逃げやすい魔物ですから、依頼期限が間近に迫っているのでしょうか。

 リーナは調薬師ではない設定なので、固執して身バレするのは避けたいです。

 孤立無援なドラグースで、揉め事はしたくはありません。

 さっさと、提出して宿屋に行きましょう。

 ヴァレリーさんから、獣人族でも心地好く過ごせる宿屋を紹介して貰っています。

 何でも、お魚料理が絶品だとか。

 待ち遠しいです。



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