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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
117/197

第9話

金曜投稿です。

 とことこ。

 長閑な草原の中を隊商の馬車が行き交います。

 私達クロス工房年少組改め、蒼穹の豪嵐パーティは、ミラルカから竜人族の王国ドラグースに向けて、隊商の護衛依頼を受けました。

 イザベラさんには冒険者ギルド証を偽造するのを反対されました。

 規約に反する行為であるのは重々理解しています。

 ですので、トール君と話し合い、私達のギルド証はそのままでパーティ名を変更し、履歴等を一部は秘匿することで落ち着きました。

 私の容姿は内陸部では目立ちます。

 擬装の神器の力を借りまして、ラーズ君と同じ獣人族の姿に偽りました。

 帝国に邪神の僕と狙われている私です。

 姿を偽ることに抵抗はありません。

 ラーズ君とは、兄妹と相成りました。

 擬装の神器はその名の通り、役目を発揮していまして、見事な狐耳と尻尾が生えてきました。

 触られると感触があるのです。

 ふわふわ、もこもこな耳と尻尾が、自分に有るのは感慨無量です。

 それはもう、届く範囲でもふりました。

 ラーズ君も、白銀色は隠して亜麻色の毛並みをしています。

 勿論、私も同系色をしています。

 リーゼちゃんは、変わりがありません。

 念の為に、ミラルカを出歩いてみましたら、誰にもバレませんでした。

 と、言いますより。

 未成年の身を案じて警ら隊に、補導されてしまいました。

 詰め所に連れていかれましたので、慌てて正体を明かしました。

 アッシュ君不在の警ら隊は、副隊長さんが守っていました。

 事情を話す前に、注視を浴びている私がお忍びをしていると、納得されました。

 呉々も、一人で行動しないことと注意されました。

 ミラルカでは警ら隊が巡回していますが、最近は他種族が奴隷狩りにあっているそうです。

 見目が整った他種族は、目を付けられている。

 特に、妖精種は危険だと、告げられました。

 リーゼちゃんの過保護に、重さが増していきそうです。

 そんなこんなで、準備を整え、ドラグース行きの隊商の護衛をすることになったのです。

 隊商の責任者は、私達の事情を話してあります。

 アッシュ君が、フランレティアに同行させた犬人族(コボルト)の商人さんです。

 快く承諾してくれました。

 ミラルカからドラグースまでの旅程も、僅かになってきました。

 襲いかかる魔物や野獣。

 隊商の護衛は、私達以外にもいます。

 他に三パーティが護衛していますから、難なく撃退しています。

 ドラグース王国にも、昨日入国しました。

 王都まで、後少し。

 果たして、王都では何事が待っているのか、気がせいています。


 〔セーラちゃん。わくわくしてる?〕

 〔セーラしゃま。油断大敵でしゅの~〕


 隠蔽に認識阻害を重ねたポーチから、ジェス君とエフィちゃんが、頭を覗かせました。

 本当はトール君にお願いして、お留守番の予定でしたが、泣きに泣かれてしまいました。

 途方に暮れて仕方なく連れて来てしまいました。

 急遽、トール君が隠蔽の魔導具を作製して、身につけさせました。


 〔ジェス君。エフィちゃん。まだ、安全地帯ではないですよ。静かにしている約束です〕

 〔むう。寝るのに飽きたよぅ〕

 〔セーラしゃまの近くには誰もいましぇんの~〕


 確かに、私の周りは静かです。

 今、私は荷馬車の幌の上にて警戒中です。

 弓を装備なのと、身軽差を考慮されての配置です。

 狐の獣人族に扮していますから、他者と交わらないのは、願ったり叶ったりなのです。


 〔王都に程近い距離ですから、魔物や野獣は出てきませんね〕

 〔流石に王国内は、自国の騎士に排除させているでしょう。敵性魔物がいないのは、良いことです〕

 〔ん。魔物気配なし〕


 ラーズ君とリーゼちゃんも、近くにはいます。

 ラーズ君は聴覚で、リーゼちゃんは風魔法で索敵しています。

 私達は年若いパーティと見られていますから、隊商の真中に配置されています。

 先頭と殿は、護衛のベテランパーティが護衛しています。

 姿を偽らないリーゼちゃんに、思うところがありそうでしたが、同行している私とラーズ君を認識出来ていないため、臨時のパーティだと思われている様子です。

 頻りに、クロス工房の内情を探ろうとしていました。

 まあ、リーゼちゃんは総無視を決め込んでいます。

 必然的に、私とラーズ君が標的になりました。

 しかし、隊商の責任者が、目を光らせてくれています。

 今のところ、無駄な話は避けられています。


 〔セーラ、最後の休憩場所に着きました。気を引き締めておいてください〕

 〔分かりました〕

 〔リーゼも、無闇にセーラの名を言わないこと〕

 〔了承〕

 〔ジェス、エフィも姿は見せては駄目ですからね〕

 〔はあい〕

 〔はい、でしゅの~〕


 隊商の荷馬車がゆっくりな速度になりました。

 ラーズ君の指摘がすかさず、入ります。

 ジェス君とエフィちゃんは、ポーチに潜ります。

 窮屈な思いをさせていますが、我慢して貰わないとなりません。

 本日中には王都に着きます。

 宿屋に入りましたら、出してあげますからね。


「嬢ちゃん。休憩だ。降りていいぞ」

「はい、分かりました」


 荷馬車が横道に逸れて、広場になっている休憩所に停止しました。

 すると、護衛のリーダー各のジョン氏に、声を掛けられます。

 ジョン氏は熊の獣人族で、護衛の中で唯一私達の事情を知る方です。

 リーゼちゃんが黙して語らない事情を、根掘り葉掘り聞き出そうとする外野を黙らせてくれています。

 しかし、王都に着こうとしていて、気が緩んできている漆黒の刃パーティは、しつこく粘着してきています。


「なあ、何でクロス工房の氷姫とパーティ組んでいるんだ」

「あんた等兄妹は、クロス工房の縁者なのか」

「話題の妖精姫と、顔馴染か?」


 幌から降りてラーズ君の元へ行きますと、早速囲まれました。

 皆さん、気を緩めすぎです。

 休憩所に着いたばかりで、これです。

 呆れてしまいます。


「おい。持ち場に戻れ。休憩所とはいっても、警戒を怠るな」

「何だよ。休憩なんだから、こっちの勝手だろう」

「あんただって、気になる案件だろうが」

「俺達の仕事は隊商の安全が最優先だ。ゴシップは仕事が終了してから、やれ」

「ジョンさんの、言う通りですな。いい大人がよってかかって未成年者に詰め寄る。仕事を疎かにするのであれば、依頼料を引かせてもらいますよ」


 ジョン氏と隊商の責任者に、追い払われる護衛のパーティ。

 渋々、持ち場に帰っていきます。

 護衛依頼に慣れていませんね。


「ふむ。今回、護衛依頼にギルドから紹介されてきた割りに、護衛のなんたるかは、理解していませんね」

「ああ。これが、護衛依頼は初めてなのだろう。個人の腕は良いが、口が緩い。守秘義務がある護衛の動向を洩らす行いをしている。ランク試験は、不合格だな」

「ギルドも、厄介なパーティを紹介したものです」


 ああ。

 ランク試験を兼ねていましたか。

 通りで、連係不足で魔物に突貫していくと思いました。

 パーティ全員が前衛職で、後方支援がいない危ないパーティです。

 回復職位、入れておきましょうよ。

 ポーションに頼りすぎです。

 イザベラさんも、何故に近場の護衛ではない遠方の隊商に、紹介したのでしょうか。

 もしかしたら、ベテランパーティに指導させる目的でしたか。

 そうだとしましたら、完全に裏目に出ています。

 知的好奇心を満たせない漆黒の刃パーティは、不平不満を声高に吹聴しています。


「あれでは、先が見えてるな」

「そうですな。なまじ、腕がいいのが偲ばれますなぁ」

「帰路にて、不幸な事案に巻き込まれないといいのだが」


 怖いことを話していますよ。

 身震いがおきました。

 何事も経験と突貫癖を矯正せずに、見過ごして大事に至るのを奨励しています。

 勿論、命に関わる大怪我はさせることなく、恐怖を教えるのでしょう。


「ああいった手合いは、一度痛い目にあわなければ態度は改めないだろうな」

「帰路は、護衛の人数が減りますからなぁ。索敵に関しては、敵なしの蒼穹メンバーがいません。多少の被害は出るでしょうな」


 隊商の荷物の被害ではなく、人的被害を想定しています。

 荒波に揉まれる漆黒の刃パーティの無事を祈ります。


「リーナ。お茶」

「ありがとうございます。リーゼさん」


 愛称をリーナと変更した私をリーゼちゃんが呼びます。

 私も普段とは違うさん呼びです。

 すると、リーゼちゃん表情が強張りました。

 慣れてない呼び方に、緊張が走る様です。

 ラーズ君の肩が微妙に揺れています。

 いつにない、リーゼちゃんの様子に笑えてしまうそうです。


 〔リーゼ。早く慣れなさい〕

 〔むう。ラーズの意地悪〕

 〔リオンです。間違えないように〕


 ラーズ君の愛称もリオンとなりました。

 セラフィリナ、ラゼリオンの後ろ側を愛称としたのです。

 ギルド証には、きちんとフルネームが記載されています。

 愛称変更ですから、ギルド証を偽っている訳ではありません。

 姿を偽らないリーゼちゃんはリーゼのままです。

 仲間外れだと訴えてきましたが、そこは納得して貰わないとなりませんでした。

 トール君に説得されて、渋々押し黙るリーゼちゃんでした。

 暫く振りに見るリーゼちゃんの、膨れっ面に感慨深さがありました。

 魔力制御が甘くなり、工房の外が暴風に見舞われたので、少しだけご近所さんに迷惑がかかってしまいました。


「リーゼさん」

「なっ、なに?」


 ラーズ君の問い掛けに、リーゼちゃんの肩が跳ね上がります。

 そんなに、驚かなくても良いのです。

 心なしか、涙目をしています。


「東側から、何か足音が聴こえてきます。索敵範囲を広めてみてください」

「ん。分かった」

「うん? 魔物か?」

「恐らくは、そうかと」


 ラーズ君の聴覚に何か引っ掛かった様子です。

 側にいてくれているジョン氏が、休憩中のパーティメンバーに合図を出します。

 皆さん、手際よく行動を開始しました。

 まず、隊商の商人に声を掛けて、安全な荷馬車に避難させます。

 荷馬車には魔物避けがなされています。

 生半可な魔物は近寄れません。

 次に、もう一組のベテランパーティが、荷馬車を護衛します。


「ん。魔物判明。東から二十。ワイルドウルフと、シルバーウルフの群れ」

「良し、聴いたな。迎撃するぞ。漆黒は天馬と荷馬車の護衛に回れ。俺達のパーティは蒼穹と遊撃だ」

「蒼穹の若さが気になるが大丈夫か?」


 荷馬車護衛チームの天馬の斧パーティに心配されました。

 漆黒の刃パーティは護衛に回されて不満な顔付きをしています。


「ああ。適材適所だ。心配いらない。下手したら、俺達の援護もいらないかもな」


 ジョン氏は、リーゼちゃんを見やります。

 竜人族のリーゼちゃんが最凶な英雄の、アッシュ君の武術訓練を受けているのは、周知の事実です。

 にわかパーティの私とラーズ君も、手解きを受けているので、足手まといにはならないと請けおってくれました。

 ならば、ジョン氏の期待に応えなくてはなりません。

 愛用の弓を構えて、頑張りますよ。

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