第9話
金曜投稿です。
とことこ。
長閑な草原の中を隊商の馬車が行き交います。
私達クロス工房年少組改め、蒼穹の豪嵐パーティは、ミラルカから竜人族の王国ドラグースに向けて、隊商の護衛依頼を受けました。
イザベラさんには冒険者ギルド証を偽造するのを反対されました。
規約に反する行為であるのは重々理解しています。
ですので、トール君と話し合い、私達のギルド証はそのままでパーティ名を変更し、履歴等を一部は秘匿することで落ち着きました。
私の容姿は内陸部では目立ちます。
擬装の神器の力を借りまして、ラーズ君と同じ獣人族の姿に偽りました。
帝国に邪神の僕と狙われている私です。
姿を偽ることに抵抗はありません。
ラーズ君とは、兄妹と相成りました。
擬装の神器はその名の通り、役目を発揮していまして、見事な狐耳と尻尾が生えてきました。
触られると感触があるのです。
ふわふわ、もこもこな耳と尻尾が、自分に有るのは感慨無量です。
それはもう、届く範囲でもふりました。
ラーズ君も、白銀色は隠して亜麻色の毛並みをしています。
勿論、私も同系色をしています。
リーゼちゃんは、変わりがありません。
念の為に、ミラルカを出歩いてみましたら、誰にもバレませんでした。
と、言いますより。
未成年の身を案じて警ら隊に、補導されてしまいました。
詰め所に連れていかれましたので、慌てて正体を明かしました。
アッシュ君不在の警ら隊は、副隊長さんが守っていました。
事情を話す前に、注視を浴びている私がお忍びをしていると、納得されました。
呉々も、一人で行動しないことと注意されました。
ミラルカでは警ら隊が巡回していますが、最近は他種族が奴隷狩りにあっているそうです。
見目が整った他種族は、目を付けられている。
特に、妖精種は危険だと、告げられました。
リーゼちゃんの過保護に、重さが増していきそうです。
そんなこんなで、準備を整え、ドラグース行きの隊商の護衛をすることになったのです。
隊商の責任者は、私達の事情を話してあります。
アッシュ君が、フランレティアに同行させた犬人族の商人さんです。
快く承諾してくれました。
ミラルカからドラグースまでの旅程も、僅かになってきました。
襲いかかる魔物や野獣。
隊商の護衛は、私達以外にもいます。
他に三パーティが護衛していますから、難なく撃退しています。
ドラグース王国にも、昨日入国しました。
王都まで、後少し。
果たして、王都では何事が待っているのか、気がせいています。
〔セーラちゃん。わくわくしてる?〕
〔セーラしゃま。油断大敵でしゅの~〕
隠蔽に認識阻害を重ねたポーチから、ジェス君とエフィちゃんが、頭を覗かせました。
本当はトール君にお願いして、お留守番の予定でしたが、泣きに泣かれてしまいました。
途方に暮れて仕方なく連れて来てしまいました。
急遽、トール君が隠蔽の魔導具を作製して、身につけさせました。
〔ジェス君。エフィちゃん。まだ、安全地帯ではないですよ。静かにしている約束です〕
〔むう。寝るのに飽きたよぅ〕
〔セーラしゃまの近くには誰もいましぇんの~〕
確かに、私の周りは静かです。
今、私は荷馬車の幌の上にて警戒中です。
弓を装備なのと、身軽差を考慮されての配置です。
狐の獣人族に扮していますから、他者と交わらないのは、願ったり叶ったりなのです。
〔王都に程近い距離ですから、魔物や野獣は出てきませんね〕
〔流石に王国内は、自国の騎士に排除させているでしょう。敵性魔物がいないのは、良いことです〕
〔ん。魔物気配なし〕
ラーズ君とリーゼちゃんも、近くにはいます。
ラーズ君は聴覚で、リーゼちゃんは風魔法で索敵しています。
私達は年若いパーティと見られていますから、隊商の真中に配置されています。
先頭と殿は、護衛のベテランパーティが護衛しています。
姿を偽らないリーゼちゃんに、思うところがありそうでしたが、同行している私とラーズ君を認識出来ていないため、臨時のパーティだと思われている様子です。
頻りに、クロス工房の内情を探ろうとしていました。
まあ、リーゼちゃんは総無視を決め込んでいます。
必然的に、私とラーズ君が標的になりました。
しかし、隊商の責任者が、目を光らせてくれています。
今のところ、無駄な話は避けられています。
〔セーラ、最後の休憩場所に着きました。気を引き締めておいてください〕
〔分かりました〕
〔リーゼも、無闇にセーラの名を言わないこと〕
〔了承〕
〔ジェス、エフィも姿は見せては駄目ですからね〕
〔はあい〕
〔はい、でしゅの~〕
隊商の荷馬車がゆっくりな速度になりました。
ラーズ君の指摘がすかさず、入ります。
ジェス君とエフィちゃんは、ポーチに潜ります。
窮屈な思いをさせていますが、我慢して貰わないとなりません。
本日中には王都に着きます。
宿屋に入りましたら、出してあげますからね。
「嬢ちゃん。休憩だ。降りていいぞ」
「はい、分かりました」
荷馬車が横道に逸れて、広場になっている休憩所に停止しました。
すると、護衛のリーダー各のジョン氏に、声を掛けられます。
ジョン氏は熊の獣人族で、護衛の中で唯一私達の事情を知る方です。
リーゼちゃんが黙して語らない事情を、根掘り葉掘り聞き出そうとする外野を黙らせてくれています。
しかし、王都に着こうとしていて、気が緩んできている漆黒の刃パーティは、しつこく粘着してきています。
「なあ、何でクロス工房の氷姫とパーティ組んでいるんだ」
「あんた等兄妹は、クロス工房の縁者なのか」
「話題の妖精姫と、顔馴染か?」
幌から降りてラーズ君の元へ行きますと、早速囲まれました。
皆さん、気を緩めすぎです。
休憩所に着いたばかりで、これです。
呆れてしまいます。
「おい。持ち場に戻れ。休憩所とはいっても、警戒を怠るな」
「何だよ。休憩なんだから、こっちの勝手だろう」
「あんただって、気になる案件だろうが」
「俺達の仕事は隊商の安全が最優先だ。ゴシップは仕事が終了してから、やれ」
「ジョンさんの、言う通りですな。いい大人がよってかかって未成年者に詰め寄る。仕事を疎かにするのであれば、依頼料を引かせてもらいますよ」
ジョン氏と隊商の責任者に、追い払われる護衛のパーティ。
渋々、持ち場に帰っていきます。
護衛依頼に慣れていませんね。
「ふむ。今回、護衛依頼にギルドから紹介されてきた割りに、護衛のなんたるかは、理解していませんね」
「ああ。これが、護衛依頼は初めてなのだろう。個人の腕は良いが、口が緩い。守秘義務がある護衛の動向を洩らす行いをしている。ランク試験は、不合格だな」
「ギルドも、厄介なパーティを紹介したものです」
ああ。
ランク試験を兼ねていましたか。
通りで、連係不足で魔物に突貫していくと思いました。
パーティ全員が前衛職で、後方支援がいない危ないパーティです。
回復職位、入れておきましょうよ。
ポーションに頼りすぎです。
イザベラさんも、何故に近場の護衛ではない遠方の隊商に、紹介したのでしょうか。
もしかしたら、ベテランパーティに指導させる目的でしたか。
そうだとしましたら、完全に裏目に出ています。
知的好奇心を満たせない漆黒の刃パーティは、不平不満を声高に吹聴しています。
「あれでは、先が見えてるな」
「そうですな。なまじ、腕がいいのが偲ばれますなぁ」
「帰路にて、不幸な事案に巻き込まれないといいのだが」
怖いことを話していますよ。
身震いがおきました。
何事も経験と突貫癖を矯正せずに、見過ごして大事に至るのを奨励しています。
勿論、命に関わる大怪我はさせることなく、恐怖を教えるのでしょう。
「ああいった手合いは、一度痛い目にあわなければ態度は改めないだろうな」
「帰路は、護衛の人数が減りますからなぁ。索敵に関しては、敵なしの蒼穹メンバーがいません。多少の被害は出るでしょうな」
隊商の荷物の被害ではなく、人的被害を想定しています。
荒波に揉まれる漆黒の刃パーティの無事を祈ります。
「リーナ。お茶」
「ありがとうございます。リーゼさん」
愛称をリーナと変更した私をリーゼちゃんが呼びます。
私も普段とは違うさん呼びです。
すると、リーゼちゃん表情が強張りました。
慣れてない呼び方に、緊張が走る様です。
ラーズ君の肩が微妙に揺れています。
いつにない、リーゼちゃんの様子に笑えてしまうそうです。
〔リーゼ。早く慣れなさい〕
〔むう。ラーズの意地悪〕
〔リオンです。間違えないように〕
ラーズ君の愛称もリオンとなりました。
セラフィリナ、ラゼリオンの後ろ側を愛称としたのです。
ギルド証には、きちんとフルネームが記載されています。
愛称変更ですから、ギルド証を偽っている訳ではありません。
姿を偽らないリーゼちゃんはリーゼのままです。
仲間外れだと訴えてきましたが、そこは納得して貰わないとなりませんでした。
トール君に説得されて、渋々押し黙るリーゼちゃんでした。
暫く振りに見るリーゼちゃんの、膨れっ面に感慨深さがありました。
魔力制御が甘くなり、工房の外が暴風に見舞われたので、少しだけご近所さんに迷惑がかかってしまいました。
「リーゼさん」
「なっ、なに?」
ラーズ君の問い掛けに、リーゼちゃんの肩が跳ね上がります。
そんなに、驚かなくても良いのです。
心なしか、涙目をしています。
「東側から、何か足音が聴こえてきます。索敵範囲を広めてみてください」
「ん。分かった」
「うん? 魔物か?」
「恐らくは、そうかと」
ラーズ君の聴覚に何か引っ掛かった様子です。
側にいてくれているジョン氏が、休憩中のパーティメンバーに合図を出します。
皆さん、手際よく行動を開始しました。
まず、隊商の商人に声を掛けて、安全な荷馬車に避難させます。
荷馬車には魔物避けがなされています。
生半可な魔物は近寄れません。
次に、もう一組のベテランパーティが、荷馬車を護衛します。
「ん。魔物判明。東から二十。ワイルドウルフと、シルバーウルフの群れ」
「良し、聴いたな。迎撃するぞ。漆黒は天馬と荷馬車の護衛に回れ。俺達のパーティは蒼穹と遊撃だ」
「蒼穹の若さが気になるが大丈夫か?」
荷馬車護衛チームの天馬の斧パーティに心配されました。
漆黒の刃パーティは護衛に回されて不満な顔付きをしています。
「ああ。適材適所だ。心配いらない。下手したら、俺達の援護もいらないかもな」
ジョン氏は、リーゼちゃんを見やります。
竜人族のリーゼちゃんが最凶な英雄の、アッシュ君の武術訓練を受けているのは、周知の事実です。
にわかパーティの私とラーズ君も、手解きを受けているので、足手まといにはならないと請けおってくれました。
ならば、ジョン氏の期待に応えなくてはなりません。
愛用の弓を構えて、頑張りますよ。
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