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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
116/197

第8話

月曜投稿です。

「では、此方の宝物を対価に薬をいただけますか」


 洞窟内から最初に接待されました広間に戻りました。

 新たにお茶を提供されて、一息ついていましたところへ、長さんが切り出しました。

 テーブルに置かれましたのは、三個の宝物です。


「此方は、秘匿された錬金術のレシピ集です。此方は、携帯用の調薬釜です。何でも、聖霊が宿るそうです。最後のひとつは、最上級クラスの看破でも見破れない、擬装を施す神器です」


 差し出されましたのは、順に見事な装丁がされている革製の本。

 精霊銀(ミスリル)の地に大降りな精霊石が嵌められ、蔦の模様が装飾されている釜。

 三連の細い白金の鎖に親指の爪程の大きさな、紅玉(ルビー)蒼玉(サファイア)緑玉(エメラルド)が留められています腕輪。

 が、並んでいます。

 薬の対価にしては、釣り合いがとれてはいません。

 高価すぎています。

 あっ。

 もしかして、この三個の宝物から選べと言うことですかね。

 ならば、レシピ集をいただけますか。

 錬金術と調薬は似て非なる技術ですが、新しい発見があるかもしれません。


「いえ。宝物は三個とも納めてください。でなければ、竜族が罰せられてしまいます」

「ん? 何でだ?」

「詳しい理由は申し上げられませんが、親神さまの神託に依るものだと理解していただけますか」


 神託ですか。

 長さんの依頼の薬は、緊急を有する品ではありませんでした。

 ただ、素材の竜血草を扱いうには、骨がおれるのは確かです。

 竜と名がつくだけありまして、中々に魔力を吸いとられるのです。

 調薬の途中で魔力(マナ)回復ポーションを飲んでしまうと、極端に効果が落ちてしまいます。

 調薬師泣かせの薬です。


「神託ですか。最近は神託に悩ませられる案件が多いです」

「だな。神界も荒れていそうだ」

「親神様も、大変な騒動が起きやしないかと心配されていました」


 神界が揺れてしまえば、地界も荒れてしまいます。

 第二の代理戦争が勃発しないといいのですが。

 こればかりは、神のみぞ知るですね。

 光を司る神族が失脚し、実りを司る自称女神も神格を落とされたと聴きます。

 地上に生きる人族の行く末に、どれだけの悪影響が与えられるのか、全く予測がつきません。


「暫くは静観するしかないな。俺もフランレティアでやり過ぎた。今、アッシュが跡始末に追われてるのも、俺の責任だしなぁ」

「そうなのですか」

「ああ。じい様に呼び出されて、魔素の歪みを調律しに行っている」

「兄さんが、調律ですか。何だか、人材を間違えていませんか」

「ん。兄さん。細かいの苦手」

「歪みが大きなのは、帝国領土なんだと。天人族は目立つし、アッシュが適任なんだとさ」


 至高神を騙っていました神族の加護が失われた帝国領土ですから、魔素の歪みが出てきてしまうのも納得です。

 帝国の教義な唯一神ではありませんでしたが、悉く神格を落とされています。

 天人族を見かけようなら、すがり付く人族が殺到するのは目に見えています。

 その点、アッシュ君一人なら身軽に動けます。

 特徴的な魔角と色彩を隠してしまえばいいだけです。

 帝国には聖者さんがいるのですが、元騎士のあの人では魔素の調律は不向きですね。

 きっと、陰で暗躍していることでしょう。

 少々、アッシュ君の調律の仕方は荒っぽいものがありますけど。

 程ほどに、手を抜いてやりとげますね。


「ところで、話は変わります。皆様にある依頼をしたいのですが、冒険者ギルドを通せば良いのでしょうか」

「ん? 内容に依るけどな、ドラグースには冒険者ギルドなんてないだろう」

「この地のドラグースにはありませんが、竜人族の王国にはあります」

「あー。あっちのドラグースな」


 はて?

 ドラグースの地名が二つあるのでしょうか。

 初耳でした。

 リーゼちゃんが、眉根を寄せて頷いています。

 珍しくお怒りです。


「ラーズ君は、知っていますか」

「セーラが知らないのに、驚いています。以前に話したと思っていました。竜王が治める竜王国が神国の隣に興ったのは、僕達が誕生する以前にです」

「竜人族の王国は、竜族の預かり知らぬうちに興りました。そして、国王が竜王を名乗る。ドラグースの国名まで騙り、我々も遺憾に思いました。けれども、よい目眩ましになってくれているおかげで、竜族の被害が減りました」

「だがなぁ。竜人族の王国は、神国寄りの思想だ。神国が、対帝国の盟主になれているのも、竜人族の手助けがあるからだ」


 その割りには、ドラグースの名前に聞き覚えがないのですけど。

 私が世間に疎いからでしょうか。


「一度、竜王を詐称する何某と神国には、お灸を据えました。暫くは大人しくしていたのですが、近ごろ怪しげな儀式をして、竜族を使役しようとしはじめています。皆様方には、背景を調べて欲しいのです」


 竜人族が、竜族を使役しようとしている。

 その事実に唖然としてしまいます。

 竜人族は、謂わば竜族の眷族に近い種です。

 主従の越えられない壁が立ちはだかっています。

 無謀と言える行為に、頭が痛くなってきました。


「怪しげな儀式ねぇ。勇者召喚に関わりがありそうだな」

「セイの話には英雄願望の人間がいましたね。リーゼを好みの範疇だと言っていましたから、何かしら企てていそうです」

「もしくは、竜退治に発展するかもな」


 私を脆弱だと断言した竜族の矜持は、すこぶる高いです。

 人に使役されるのは、まずあり得ないことです。

 使役される位なら、狩られるのを選ぶ位です。


「生きるのに飽いた老竜が、希に人に関わりを持ち、使役の真似事をしているのは良いのです。しかし、年端もゆかぬ幼い子供を選んで、強制するのは長として赦せません。竜人族のドラグースを排除するかで、長老衆と揉めているのが現状です」


 幼い子供を狙うのは、悪意があると認識してよいかと思います。

 竜族の方が動けないのも、確証がないのと、未だ被害に遭っている訳ではありませんから、竜族が竜人族の王国を壊滅させては、非難の鉾先が向けられてしまいます。

 酷くなると、竜族の棲みかを暴かれ、虐殺に至るかも知れません。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の名声を欲しがる輩に、大義名分を与えるようなものです。

 私達に、依頼をするのも苦汁の選択であったかと。


「リーゼは、どうしますか? 同族の苦境に骨を折りますか?」

「ん。受けてもいい。ジーク叔父さんなら、受ける」

「私も、何処まで力になるか分かりませんけども、受けてもよいかと」

「なら、承諾しても良いですね」


 私達、年少組には異論は有りませんでした。

 私以上に世間に疎い、竜族の方が調査に乗り出しても、身バレしてしまうだけです。


「ありがとうございます。では、これが報酬になります」


 三個の宝物の隣に、卵程の宝石が置かれました。

 鑑定結果は、星蒼玉スターサファイアでした。

 かなりの、お値段になります。

 調査依頼にしては、破格な報酬になります。


「生憎と、人の世の金銭を渡せないのが、心苦しいです。それなら、対価に当てはまりますか?」

「充分どころか、可分な報酬になります」

「そうなのですか? ですが、受け取ってください。いずれ、必要になるはずです」


 きっぱりと、押し付けられました。

 こう確信を持って言われてしまうと、裏を読みたくなります。

 調査依頼の他に、何事か起きるやもしれないですね。

 長さんも、詳細な神託を受けていると思われます。

 私達には言えないのも、それが関係していそうです。


「まあ、リーゼの身内が関わっているから、無茶はするなよとしか言えん。が、セーラを神国所縁の国に派遣して良いものか、どうか」

「それは、その擬装の神器が早速役立てられますね」

「ん。渡りに舟」

「外見は擬装できたとしましても、身分証が偽称できませんよ」

「そこは、イザベラに交渉してみるか。ドラグースの冒険者ギルド長は誰だったかな」


 フランレティアでの映像が各国の上層部に出回りましたから、擬装していない私達の容姿は目立ちます。

 特に、私は霊薬関連で目をつけられてしまいました。

 なるべく、一般に溶け込まないと、調査は出来ません。

 長さんが依頼報酬に、擬装の神器を出してきたのも、目立つ容姿を隠す為かと思います。

 ラーズ君は自前の幻術で賄えるとして、リーゼちゃんはどうしますか。


「竜人族のドラグースには、当たり前に竜人族が棲んでいます。リーゼは、変に擬装しないほうが目立たないのでは?」

「ん。了承」

「なら、設定はリーゼの里帰りにしてだな。身内探しにするか」


 トール君が、次々に設定を決めていきます。

 嘘の中に、真実を織り混ぜます。

 竜人族の両親が亡くなり、遺言に依ってリーゼちゃんが遺品を持って身内探しをしに、竜人族の王国に里帰り。

 冒険者パーティを組んでいる幼馴染の私とラーズ君も、単身で里帰りするリーゼちゃんを案じて同行を申し出る。

 と、言った具合いです。

 パーティ名もクロス工房年少組ではなく、変更を余儀なくされました。

 ですので、蒼穹の豪嵐と改めることになりました。

 リーゼちゃんの二つ名を借りました。

 トール君の無茶振りに、イザベラさんが私情にギルドを使うなと、お小言が来そうな気配がします。

 盛りに盛った設定に、嘘がつけない私は戦々恐々しています。

 交渉は弁が立つラーズ君に任せて、背後に控えるのが良さそうです。


「良し。何とかなりそうだ。んじゃあ、一度ミラルカに戻り、手配をしよう」

「お手数をおかけします。よろしくお願いいたします」

「ん。叔父さんの分まで、頑張る」

「頼もしい限りですが、無茶は駄目ですよ。竜王国では、精霊の加護が発露しやすい。竜人族の様に振る舞うなら、注意しておきなさい」

「分かった」

「皆さんも、精霊には気をつけてください。竜人族の中には、精霊の扱いに長けた者がいます。竜族の姪が上位とは言え、精霊が看破しないともいいきれません。そうなりましたら、調査は打ち切っても構いません」


 精霊ですか。

 それは、厄介です。

 下級や中級の精霊は、リーゼちゃんの存在に恐れをなして、口をつぐみます。

 けれども、上級の精霊は自由奔放です。

 それに、悪戯好きな一面があります。

 秘匿している情報を暴かれるのは、ご免被ります。

 精霊対策もきっちりしないといけなくなりました。

 身分証を発行してもらう間に、ヒューバートさんに、教授してもらわなくてはなりません。

 お薬を長さんに渡して、ミラルカに戻りましょう。



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