第7話
金曜投稿です。
昆虫避けのお香を焚き、接敵してきます蝙蝠を掻い潜りながら、漸くある場所に辿り着きました。
何重にも輝く魔術言語は、守護といいますより、封印に近いかと思われました。
「なんだぁ? やけに、厳重だな」
「はい。内側には、危険人物がおります。竜族を守護する神に逆らった愚か者の末路です」
「……物かと思ったら、者かよ」
「ん。見れば分かる」
リーゼちゃんが、魔術言語に触れました。
途端に、魔術言語がほどけていきます。
竜族に反応していますが、簡単に触ったりしてはいけないのでは。
矜持が高そうな竜族が、度胸試しで洞窟内に突貫してこないとも限りがないかと、愚考します。
ましてや、幼い子供の竜が遊び間隔で、やらかしそうなのですが。
「リーゼ。長さんの指示もないのに、触るのではありません。危険人物が飛び出ししでもしたら、セーラ達が危ないですよ」
「大丈夫。中の阿呆、拘束されてる」
「姪の言う通り、拘束されている人物は、赦しもなく動けませんから、安心してください。それに、魔術言語は、只の見かけ倒しです。結界よりも進入禁止の意味あいがあります」
通りで色鮮やかな魔術言語が、宙に飛び交っているかと思いました。
少し目に痛い色は、精神にくるものがあります。
長時間見てしまうと、目眩を起こすどころではないですね。
「微かに状態異常を起こす魔術言語があるな」
〔うにゃあ。お目々痛い〕
〔くらくら、しましゅの~〕
肩の上のジェス君とエフィちゃんが、経たり気味になりました。
慌てて、ポーチの中に避難です。
私も瞳がよいだけ、瞬きを繰り返しています。
「むう。これも、いらない」
「リーゼ、全体を解くといい。爺の血脈なら、これが解けるでしょう」
「ん。肯定。爺、役に立つ。不満」
リーゼちゃんが剥れながらも、魔術言語を解いていきます。
長さんの指示に従い、大元の魔術言語が消えていきました。
すると、白一色の薄い膜が残りました。
ここまできました、私にも内側の危険人物とやらが見えてきました。
「あ?」
「はあ?」
「あれ?」
トール君、ラーズ君、私と疑問の声が上がりました。
それほど、意外な人物が不貞腐れて、鎖に繋がれていたのです。
リーゼちゃんは知っていたのか、沈黙しています。
「なんで、天人族が繋がれているんだ? まてよ、何処かで見た顔だな」
そうなのですよね。
金髪碧眼な、正に天人族の容姿をした方が、天翼を展開して座り込んでいました。
蒼空を生きる天人族が、山の中の洞窟内にて拘束されている。
中々に印象深げです。
何が起きていたのでしょう。
「思い出した。アッシュを断罪しようとした奴だ。お前、こんな所で何をしてるんだ。親に連れて戻されたんだよな」
「……」
トール君の問い掛けに、天人族さんは顔を横に向けます。
答える気はない、と訴えています。
それにしましても、天人族がアッシュ君を断罪ですか。
それは、筋が通らないですね。
アッシュ君は魔人族の見た目をしていますが、神族のお祖父様より神族の血もひいています。
中々に複雑怪奇な血脈を有しています。
出そうと思えば、天人族の天翼を出せてしまうのです。
本人は、どっち付かずの半端者だと苦笑しています。
だからか、天人族とは不仲なのですよね。
まさか、それが原因ですか。
天人族が神族の血脈を害するなんて、あり得ないことだと思います。
ましてや、アッシュ君のお祖父様は魔導神様です。
魔法や魔術を司る神に喧嘩を売りましたら、どうなるかは一目瞭然です。
「彼は謹慎中にドラグースにやって来ては、若い竜族の夫婦から卵を盗み出そうとしたのです。すぐに、発覚して捕らえて見ましたら、魔人族の誰それに罪を擦り付けようとしていました。当時の長が、天人族に殴り込みをかけまして、激怒された神族によって、ここに縛り付けられたのですが」
「竜族。いい迷惑」
「本当に、迷惑です。なので、番人になってもらいました。『パラグラフ。第36712番の宝物を出せ』」
「ちっ‼」
長さんの指示に苛立ちを隠さず、天人族さんは虚空から何かを取り出しました。
厳重に隔離されていたのは、宝物の番人をしていたからでしたか。
態度が悪いままに、取り出しました宝物を長さん目掛けて投げて寄越します。
「この通り、反省する気概はありません。彼が、ドラグースから解放されることはないでしょう」
「あー。多分、一生ないだろうな。アッシュにも、随分と生意気な口の利き方をして、自分本意で語っていたしな」
「竜族に対してもそうです。使ってやるのだから、言うことを聴くのは当たり前。己が上位者であるのを、勘違いしている愚か者です」
「……黙って聴いていれば、馬鹿にするな。俺は、光を司る神の血脈だ。誰もがひれ伏すのが当然なのだぞ!」
光の神。
失脚しましたよ。
本神といい、血脈の天人族さんといい、自分本位なのは変わらないのですね。
ご両親は真面そうですが、他者を見下す性格は遺伝するのでしょうか。
「誰もがひれ伏すなら、何故に君は助け出されないのでしょうか。ご両親も、曲がりくねった精神がまともになるまでは、奉仕するのだと言っていましたよ」
「‼ そんなの知るか。大体、蒼空の支配者は俺達、天人族だ。蜥蜴に翼が生えた風情が、口答えするな」
「その、蜥蜴風情に頼らなければ生きていけないのでは」
「煩い、黙れ。おい、混じり者。俺を、ここから出せ」
鉾先がトール君に回ってきました。
トール君は黒髪黒眼ですから、異相の天人族なのですよね。
金髪碧眼の天人族にしましたら、混じり物と揶揄されてしまいます。
言われたトール君は、何処吹く風ですけども、聴かされた私達は憤怒間違いないです。
ラーズ君、リーゼちゃんが怒りを露にして、天人族さんをねめつけます。
「やなこった。何で、俺が罰則喰らってる馬鹿に、尽力しなくちゃならないんだ。頭、おかしいいんじゃないか」
「助ける気はありません。ご自分で脱け出せばいいここです」
「縛るの、神の意志。心入れ替えないと、駄目」
「束縛の鎖は神族製みたいですから、私達には破壊不可能です。気ままな、束縛人生を歩んでください」
「……! 馬鹿にするな。親神様の神罰が落ちろ」
四者四様の意見を言いますと、他力本願になりました。
愚か者と言われてしまう所以です。
助け手がないのも、人望がないからです。
相手をするのも、馬鹿らしくなってきました。
「『パラグラフ、第91番と第5384番と第70237番の宝物を出せ』」
長さんも、何気に無視を決め込んでいます。
次々と指示を出していきます。
条件反射で、天人族さんは宝物を取り出しました。
言うことを聴かないと手段はしないのですね。
しかし、出したはいいのでしょうが、中々手放しません。
「おい、宝物と引き換えに、俺を自由にしろ」
「お断りします」
「ぐぐぐっ。宝物がどうなってもいいのか」
「宝物をひとつでも無くせば、困るのはそちらです。ほら、渡さないから、そうなります」
したり顔の天人族さんの、顔色が悪くなってきました。
全身に痣が浮かび上がり、束縛の鎖が絞まっていきます。
神罰の施行です。
「ぎゃあああ」
天人族さんが、のたうち回り始めました。
そうとうな、激痛が走っている模様です。
「毎回言いますが、竜族に期待されても困ります。その、神罰は神族が与えたものです。竜族がどうすることも出来ません。ましてや、迷惑を被る竜族が助命の嘆願をする訳もないです。楽になりたいなら、不満を訴えずに、役目をまっとうするだけです」
淡々とお説教をする長さんですが、聴いてはいないと思います。
七転八倒していますから。
楽になりたいならば、宝物を寄越せばよいのです。
思い至らないお馬鹿さんですね。
そこまでして、矜持を保ちたいのでしょうか。
嘆息した長さんが、膜の内側に入りました。
そこかしこに、転がる宝物を拾い上げていきます。
「反骨精神は見事だと思いますが、逆らうだけ無駄です。刑期が延びるだけです」
「煩い煩い。お前らに従うのも、今の内だけだ。親神様が神族を統べる立場になれば、竜族など手始めに粛清してくれるわ」
「粋がっているとこ、悪いが。親神の光を司る神族は、失脚したからな」
「な? 嘘だ。出鱈目を言うな」
「嘘じゃ、ねえよ。フランレティアを巻き込んだ一件で、降格と神力の強制徴収喰らって、下級神並の扱いになったさ」
「……」
トール君の説明に、嘘がないことを感じとりましたのか、天人族さんは顔色を無くしました。
頼るべき拠りどころを喪ったのです。
反抗する気力が無くなり、気絶をしました。
長さんは気にする素振りを見せずに、放置をして私達のもとへ戻ってきました。
目的を達しましたので、魔術言語が復活して幾重にも結界が展開していきます。
「これで、大人しくなればいいのですが。何時までもつことやら」
「あいつの性格上、また煩く喚き立てるのも、時間の問題だな。大変なお荷物を抱え込んだもんだ」
「なんとか、配置替えしてもらえないでしょうか。正直、此方も持て余しているのですが」
「あー。奏上してみるが、期待すんな。神族も、下界のあれこれには疎いからなぁ」
そうですよね。
神族の皆様方は、得てして下界に干渉するのはお役目だけな気質が多いのです。
お母さまの姉妹もそう言った気質の方がいます。
理由は教えてくださりませんでしたが、私と関わりたくないと、はっきりと明言されています。
ですから、余りお母さまの神域にお邪魔するのは、止めています。
「竜族の迷惑に、なっているんなら本末転倒だな」
「迷惑以外の何物でもありません」
長さんは、はっきりと断言されました。
天人族さんへの神罰が、竜族の方にも悪影響を与えています。
神罰を起こした神族の方も、ここまで忌み嫌われるのは見越せなかった様子です。
「結界内には時間停止の効果もあり、食事等の手配はいらないとは言え、秘匿されている洞窟内に入ろうとする幼い個体がいました。奥内まで入り込み、あれと接触してしまい、口八丁で騙され、親竜にも内緒にして仲間を集い、解放してやろうとしていました」
「序でに、幼い子供を手土産に誘拐しようとしていたか」
「まさに、その通りです」
「あれの、やりそうなこった。分かった。必ず、奏上する」
「お願いいたします」
長さんは、頭を下げらるました。
神罰を降されても、誘拐を試みた性根の持ち主でしたか。
それは、持て余すはずです。
反省する気は更々ないのですね。
いっそのこと、時の牢獄に放り込みました方が有益だっかもしれません。
トール君の奏上に、どれだけの反応があるかもわかりませんが。
竜族の平穏がもたらされることを、期待したいです。
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