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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
115/197

第7話

金曜投稿です。

 昆虫避けのお香を焚き、接敵してきます蝙蝠を掻い潜りながら、漸くある場所に辿り着きました。

 何重にも輝く魔術言語は、守護といいますより、封印に近いかと思われました。


「なんだぁ? やけに、厳重だな」

「はい。内側には、危険人物がおります。竜族を守護する神に逆らった愚か者の末路です」

「……物かと思ったら、者かよ」

「ん。見れば分かる」


 リーゼちゃんが、魔術言語に触れました。

 途端に、魔術言語がほどけていきます。

 竜族に反応していますが、簡単に触ったりしてはいけないのでは。

 矜持が高そうな竜族が、度胸試しで洞窟内に突貫してこないとも限りがないかと、愚考します。

 ましてや、幼い子供の竜が遊び間隔で、やらかしそうなのですが。


「リーゼ。長さんの指示もないのに、触るのではありません。危険人物が飛び出ししでもしたら、セーラ達が危ないですよ」

「大丈夫。中の阿呆、拘束されてる」

「姪の言う通り、拘束されている人物は、赦しもなく動けませんから、安心してください。それに、魔術言語は、只の見かけ倒しです。結界よりも進入禁止の意味あいがあります」


 通りで色鮮やかな魔術言語が、宙に飛び交っているかと思いました。

 少し目に痛い色は、精神にくるものがあります。

 長時間見てしまうと、目眩を起こすどころではないですね。


「微かに状態異常を起こす魔術言語があるな」

 〔うにゃあ。お目々痛い〕

 〔くらくら、しましゅの~〕


 肩の上のジェス君とエフィちゃんが、経たり気味になりました。

 慌てて、ポーチの中に避難です。

 私も瞳がよいだけ、瞬きを繰り返しています。


「むう。これも、いらない」

「リーゼ、全体を解くといい。爺の血脈なら、これが解けるでしょう」

「ん。肯定。爺、役に立つ。不満」


 リーゼちゃんが剥れながらも、魔術言語を解いていきます。

 長さんの指示に従い、大元の魔術言語が消えていきました。

 すると、白一色の薄い膜が残りました。

 ここまできました、私にも内側の危険人物とやらが見えてきました。


「あ?」

「はあ?」

「あれ?」


 トール君、ラーズ君、私と疑問の声が上がりました。

 それほど、意外な人物が不貞腐れて、鎖に繋がれていたのです。

 リーゼちゃんは知っていたのか、沈黙しています。


「なんで、天人族が繋がれているんだ? まてよ、何処かで見た顔だな」


 そうなのですよね。

 金髪碧眼な、正に天人族の容姿をした方が、天翼を展開して座り込んでいました。

 蒼空を生きる天人族が、山の中の洞窟内にて拘束されている。

 中々に印象深げです。

 何が起きていたのでしょう。


「思い出した。アッシュを断罪しようとした奴だ。お前、こんな所で何をしてるんだ。親に連れて戻されたんだよな」

「……」


 トール君の問い掛けに、天人族さんは顔を横に向けます。

 答える気はない、と訴えています。

 それにしましても、天人族がアッシュ君を断罪ですか。

 それは、筋が通らないですね。

 アッシュ君は魔人族の見た目をしていますが、神族のお祖父様より神族の血もひいています。

 中々に複雑怪奇な血脈を有しています。

 出そうと思えば、天人族の天翼を出せてしまうのです。

 本人は、どっち付かずの半端者だと苦笑しています。

 だからか、天人族とは不仲なのですよね。

 まさか、それが原因ですか。

 天人族が神族の血脈を害するなんて、あり得ないことだと思います。

 ましてや、アッシュ君のお祖父様は魔導神様です。

 魔法や魔術を司る神に喧嘩を売りましたら、どうなるかは一目瞭然です。


「彼は謹慎中にドラグースにやって来ては、若い竜族の夫婦から卵を盗み出そうとしたのです。すぐに、発覚して捕らえて見ましたら、魔人族の誰それに罪を擦り付けようとしていました。当時の長が、天人族に殴り込みをかけまして、激怒された神族によって、ここに縛り付けられたのですが」

「竜族。いい迷惑」

「本当に、迷惑です。なので、番人になってもらいました。『パラグラフ。第36712番の宝物を出せ』」

「ちっ‼」


 長さんの指示に苛立ちを隠さず、天人族さんは虚空から何かを取り出しました。

 厳重に隔離されていたのは、宝物の番人をしていたからでしたか。

 態度が悪いままに、取り出しました宝物を長さん目掛けて投げて寄越します。


「この通り、反省する気概はありません。彼が、ドラグースから解放されることはないでしょう」

「あー。多分、一生ないだろうな。アッシュにも、随分と生意気な口の利き方をして、自分本意で語っていたしな」

「竜族に対してもそうです。使ってやるのだから、言うことを聴くのは当たり前。己が上位者であるのを、勘違いしている愚か者です」

「……黙って聴いていれば、馬鹿にするな。俺は、光を司る神の血脈だ。誰もがひれ伏すのが当然なのだぞ!」


 光の神。

 失脚しましたよ。

 本神といい、血脈の天人族さんといい、自分本位なのは変わらないのですね。

 ご両親は真面そうですが、他者を見下す性格は遺伝するのでしょうか。


「誰もがひれ伏すなら、何故に君は助け出されないのでしょうか。ご両親も、曲がりくねった精神がまともになるまでは、奉仕するのだと言っていましたよ」

「‼ そんなの知るか。大体、蒼空の支配者は俺達、天人族だ。蜥蜴に翼が生えた風情が、口答えするな」

「その、蜥蜴風情に頼らなければ生きていけないのでは」

「煩い、黙れ。おい、混じり者。俺を、ここから出せ」


 鉾先がトール君に回ってきました。

 トール君は黒髪黒眼ですから、異相の天人族なのですよね。

 金髪碧眼の天人族にしましたら、混じり物と揶揄されてしまいます。

 言われたトール君は、何処吹く風ですけども、聴かされた私達は憤怒間違いないです。

 ラーズ君、リーゼちゃんが怒りを露にして、天人族さんをねめつけます。


「やなこった。何で、俺が罰則喰らってる馬鹿に、尽力しなくちゃならないんだ。頭、おかしいいんじゃないか」

「助ける気はありません。ご自分で脱け出せばいいここです」

「縛るの、神の意志。心入れ替えないと、駄目」

「束縛の鎖は神族製みたいですから、私達には破壊不可能です。気ままな、束縛人生を歩んでください」

「……! 馬鹿にするな。親神様の神罰が落ちろ」


 四者四様の意見を言いますと、他力本願になりました。

 愚か者と言われてしまう所以です。

 助け手がないのも、人望がないからです。

 相手をするのも、馬鹿らしくなってきました。


「『パラグラフ、第91番と第5384番と第70237番の宝物を出せ』」


 長さんも、何気に無視を決め込んでいます。

 次々と指示を出していきます。

 条件反射で、天人族さんは宝物を取り出しました。

 言うことを聴かないと手段はしないのですね。

 しかし、出したはいいのでしょうが、中々手放しません。


「おい、宝物と引き換えに、俺を自由にしろ」

「お断りします」

「ぐぐぐっ。宝物がどうなってもいいのか」

「宝物をひとつでも無くせば、困るのはそちらです。ほら、渡さないから、そうなります」


 したり顔の天人族さんの、顔色が悪くなってきました。

 全身に痣が浮かび上がり、束縛の鎖が絞まっていきます。

 神罰の施行です。


「ぎゃあああ」


 天人族さんが、のたうち回り始めました。

 そうとうな、激痛が走っている模様です。


「毎回言いますが、竜族に期待されても困ります。その、神罰は神族が与えたものです。竜族がどうすることも出来ません。ましてや、迷惑を被る竜族が助命の嘆願をする訳もないです。楽になりたいなら、不満を訴えずに、役目をまっとうするだけです」


 淡々とお説教をする長さんですが、聴いてはいないと思います。

 七転八倒していますから。

 楽になりたいならば、宝物を寄越せばよいのです。

 思い至らないお馬鹿さんですね。

 そこまでして、矜持を保ちたいのでしょうか。

 嘆息した長さんが、膜の内側に入りました。

 そこかしこに、転がる宝物を拾い上げていきます。


「反骨精神は見事だと思いますが、逆らうだけ無駄です。刑期が延びるだけです」

「煩い煩い。お前らに従うのも、今の内だけだ。親神様が神族を統べる立場になれば、竜族など手始めに粛清してくれるわ」

「粋がっているとこ、悪いが。親神の光を司る神族は、失脚したからな」

「な? 嘘だ。出鱈目を言うな」

「嘘じゃ、ねえよ。フランレティアを巻き込んだ一件で、降格と神力の強制徴収喰らって、下級神並の扱いになったさ」

「……」


 トール君の説明に、嘘がないことを感じとりましたのか、天人族さんは顔色を無くしました。

 頼るべき拠りどころを喪ったのです。

 反抗する気力が無くなり、気絶をしました。

 長さんは気にする素振りを見せずに、放置をして私達のもとへ戻ってきました。

 目的を達しましたので、魔術言語が復活して幾重にも結界が展開していきます。


「これで、大人しくなればいいのですが。何時までもつことやら」

「あいつの性格上、また煩く喚き立てるのも、時間の問題だな。大変なお荷物を抱え込んだもんだ」

「なんとか、配置替えしてもらえないでしょうか。正直、此方も持て余しているのですが」

「あー。奏上してみるが、期待すんな。神族も、下界のあれこれには疎いからなぁ」


 そうですよね。

 神族の皆様方は、得てして下界に干渉するのはお役目だけな気質が多いのです。

 お母さまの姉妹もそう言った気質の方がいます。

 理由は教えてくださりませんでしたが、私と関わりたくないと、はっきりと明言されています。

 ですから、余りお母さまの神域にお邪魔するのは、止めています。


「竜族の迷惑に、なっているんなら本末転倒だな」

「迷惑以外の何物でもありません」


 長さんは、はっきりと断言されました。

 天人族さんへの神罰が、竜族の方にも悪影響を与えています。

 神罰を起こした神族の方も、ここまで忌み嫌われるのは見越せなかった様子です。


「結界内には時間停止の効果もあり、食事等の手配はいらないとは言え、秘匿されている洞窟内に入ろうとする幼い個体がいました。奥内まで入り込み、あれと接触してしまい、口八丁で騙され、親竜にも内緒にして仲間を集い、解放してやろうとしていました」

「序でに、幼い子供を手土産に誘拐しようとしていたか」

「まさに、その通りです」

「あれの、やりそうなこった。分かった。必ず、奏上する」

「お願いいたします」


 長さんは、頭を下げらるました。

 神罰を降されても、誘拐を試みた性根の持ち主でしたか。

 それは、持て余すはずです。

 反省する気は更々ないのですね。

 いっそのこと、時の牢獄に放り込みました方が有益だっかもしれません。

 トール君の奏上に、どれだけの反応があるかもわかりませんが。

 竜族の平穏がもたらされることを、期待したいです。

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