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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
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第6話

月曜投稿です。

 カツン。

 小石を蹴ってしまいました。

 只今、竜族の長さんに案内されて、リーゼちゃんが見せたがるある物が安置されている洞窟内を歩いています。

 等間隔に灯りの魔導具が配置されていまして、灯りには不自由しません。

 けれども、死角となる足元は舗装されてはいませんので、小石や砂利に足をとられてしまいがちです。

 竜族の身体に合わせてくりぬいてある洞窟です。

 人型の私達は、さしずめ蟻でしょうか。


「申し訳ありません。盗難防止用の魔法がありますので、転移魔法が使えません。皆様方には不便を強いてしまいました」

「いや。竜族も、まさか人型種を案内することになるとは、思ってもいなかっただろう。謝る必要はないさ」

「ですが、人型の足ではかなりの距離があります。洞窟内には魔物は出ませんが、野生の昆虫や蝙蝠等が棲息しています。気が休まらないのでは?」


 ぎゃっ。

 昆虫ですか。

 どうか、あれは出ませんように。

 祈ります。

 ラーズ君とリーゼちゃんが、索敵を開始しました。

 私が気付く前に、やっつけてください。

 フランレティアの遺跡の様に、半狂乱にはなりたくありません。

 アッシュ君がいませんし、大丈夫だと思いますが。

 念の為にも、接触しないことにしたいです。


 〔ジェスも、頑張るの〕

 〔はい、でしゅの~。結界、展開でしゅの~〕


 私の感情に敏感なポーチの中のジェス君とエフィちゃんが、二重結界を展開しました。

 神獣種のジェス君とエフィちゃんには、竜族の魔法の影響は見えません。

 いきいきと魔法を展開しています。


「こら、ちびっ子達。二重結界は止めろ。すぐに、草臥れるだけだぞ」


 影響はないとはいえ、幼いジェス君とエフィちゃんに、無制限に結界を維持させるのは駄目ですよね。

 ましてや、洞窟内は竜族の聖域みたいな場所です。

 長さんに断りない魔法は、自粛しないといけません。


「ジェス君。エフィちゃん。結界、ありがとうございます。だけど、安心してください。昆虫避けのお香を焚きますから、昆虫は近寄りません」

「ん。近寄る虫は、撃退」

「トール先生の言う通り、君達は幼児と同じです。無理は厳禁ですよ」

「そうだ。ちびっ子組は、直ちに二重結界を解除して休むこと」

 〔はあい〕

 〔はい、でしゅの~〕


 二重結界が解除しました。

 悄気込むジェス君とエフィちゃん。

 良かれとした行いにけちがついてしまい、ポーチの中で、小さく丸まってしまいました。

 皆、怒っている訳ではないのですよ。

 幾ら、神獣種で魔力が豊富に有るとは分かりますが、エフィちゃんは卵から孵ったばかりです。

 ジェス君も元神域の要になり、魔力を吸われていたのです。

 過保護になるのは、しょうがありません。

 思わず、ポーチの中のジェス君とエフィちゃんを撫でました。


「単発な魔力放出は許せるが、常時放出はちびっ子の身体に障る。洞窟内には、ラーズとリーゼがいるからな。兄貴、姉貴に任せておけ」

「肯定。ジェスとエフィは、最後の砦」

「僕とリーゼが、セーラの側にいられない事態に備えて、魔力は温存しておいてください」

「怒ってるのでは、ないですよ。ジェス君とエフィちゃんが、魔力涸渇で倒れないか心配しているのです」

「ん。ジェスとエフィは小さい。守られる側」

「君達は、甘える側です。無理して役に立とうとしなくても、良いのだと分かってください」


 口々に慰めていきますが、ジェス君とエフィちゃんは、ポーチの中に引き籠ったままです。

 世界神様も、幼いジェス君とエフィちゃんに役目を与えるのが早すぎだと思います。

 張り切りすぎて、自分が幼く守られる側だとの自覚がないではありませんか。

 アッシュ君がいてくれれば、また違ったかもしれません。

 災害級の最凶様は、その存在感だけで安心させてくれます。

 ジェス君とエフィちゃんも、素直に甘えられる対象です。


「幼子は、守られ、甘やかされる。どの種も、当たり前ですよ」


 万感を込めた長さんも、加わりました。


 〔でも、セーラちゃん守るの〕

 〔お務めしないと、いけましぇんの~〕


 むむ。

 やはり、世界神様の神託に拘りをみせています。

 神託がなくても、ジェス君とエフィちゃんを見放したりしませんよ。

 もう、我が家の末っ子達ですからね。


「ジェスも、エフィも、役目に拘りすぎだ。こりゃあ、アッシュに説教させるかな」

 〔にゃっ〕

 〔きゅう〕


 トール君。

 益々、身体がこう張りましたよ。

 隅っこで、身体を寄せあい始めています。

 あれれ?

 末っ子達が、アッシュ君に怒られたことありましたっけ。

 ないと思います。


 〔アッシュ兄しゃま、恐いでしゅの~〕

 〔うん。怒られるのいやぁ〕


 ぷるぷる震えています。

 隅っこに耐えきれなくなり、撫でる手を介して、表に出てきました。

 両肩によじ登るジェス君とエフィちゃんは、爪を立てています。

 痛くはないのですが、トラウマ気味な様子に疑問が沸きます。


「あ? 何で震えてるんだ」


 私にも、分かりません。

 何ででしょう。

 リーゼちゃんも、首を傾げています。


「あれですかね。セーラが店番していた時に、兄さんにお叱りを受けていたのですが。そう言えば、泣いていましたね」


 ラーズ君には、心当たりがあったようです。

 霊薬絡みで、お店が忙しくなった時のことですか。

 言われてみましたら、アッシュ君とお留守番してもらいましたね。

 そして、店番を終えましたら、いつになく甘えてきました。

 それ、ですか。

 アッシュ君に、何を怒られたのか気になります。

 容赦なく本気で怒られたのなら、トラウマになりますか。

 幼い子供には、本気のお怒りは怖かったですよ。

 私達も、経験しています。


 〔セーラちゃん。ジェス、役に立たなくても、側にいてもいいの?〕

 〔セーラしゃま~。エフィも、甘えん坊しゃんでもいいでしゅか~〕

「勿論です。役に立つとか、甘えたら駄目とか、考えたら悲しいです。ジェス君とエフィちゃんは、我が家の末っ子達なのですよ。存分に甘えてください」


 私が声をかけると、ジェス君とエフィちゃんは、安心したのか身体の力を抜いて、爪を立てるのも止めました。

 ゴロゴロとジェス君の、喉が鳴ります。

 エフィちゃんは、私の首に巻き付くかの様に、甘えてきました。

 ジェス君もエフィちゃんも、実年齢は低いのですから、年相応に振る舞えばいいのです。

 誰も、非難しまませんよ。

 お役目は、時折思い出して活躍すれば良いと思います。


「可愛らしい神獣様方には癒されますね。我が種の幼生体はコロコロしていて、よく転がしたものです。成長すると、途端に可愛いげがなくなりますが」


 爺の呪ですかね。

 長さんが、心底嫌そうに顔をしかめます。

 ドラグースの竜族は、成長と共に属性魔法を行使できる身体になり、個体差がでてくる模様です。

 その際に、能力の有無で序列が決定してしまう。

 非道な親だと、育児放棄をしてしまうのだとか。

 竜族の闇がここに有りました。


「爺が現役時代にて、どれだけの特化型の竜族が命を喪ったことか。伴い、竜王に認定されない竜族がドラグースに蔓延り始めました」

「叔父さん、長。竜王、違う?」


 歩きを再開した私達に、長さんは竜族の現状を話してくれます。

 ドラグースを離れているジークさんに、訴えているのかも知れません。

 竜の都と言われていますが、実際は竜族が群れている土地になります。

 ミラルカのように、貨幣経済が発達している訳でもなく。

 基本は気のむくままの、狩猟あるのみ。

 農耕は、したことがないのでしょう。

 あっ、でも。

 趣味程度ですが、お酒の蒸留には煩い竜族がいると、ジークさんが話していたような。


「残念ながら、ぼくは竜王の地位に一片も興味ありません。判定する竜の宝珠(ドラゴンオーブ)も、相応しい竜を選定しています。本人はドラグースに、近寄ることないですが」

「あー。それで、誰だが分かった」


 トール君が頭を掻きました。

 ここまで、言われて鈍くはありません。

 ジークさんですね。


 〔ジークさんですか〕

 〔叔父さん。爺、嫌い。増長させるの拒否。いなくなるまで、ドラグース、距離おく〕

 〔残られた長さんが、可哀想な気がするのですが〕

 〔肯定。ジーク叔父さん。カラル叔父さん、自由にしたい〕

 〔ですが。長さんがいなくなりますと、纏め役不在になりませんか?〕

 〔基本、竜族は孤高。成人したら、ドラグース出る。独り立ち出来ない竜族は、井の中の蛙。世界を知らない、甘ったれ〕


 リーゼちゃんが辛辣に吐き出します。

 そうなのですよね。

 なまじ、ドラグースといった土地がありますので、竜族が纏まり棲息しています。

 当初は、安全に育児をする避難場所だったのです。

 人族の台頭にて、大陸では棲息しにくいかと思いますが。

 幻獣種最強の生き物なのですから、片手で捻る位はやらないと。

 一ヶ所に固まり、能力がどうの、血統がどうのと、何を甘えているのか。

 問い詰めたくなります。

 だから、リーゼちゃんに撃退される雄がいるのです。

 立派な、蛙さんです。


「昨今は、ドラグースを巣立つ若者がおらず。狭い世界しか知らない阿呆が増えるばかりです。苦言をしたくても、ぼくも世界を知らないので、強くは言えないですね」

「守護者だったか、若い時分からなったのか。なら、ジークをなんとか、説得してドラグースに帰郷させるかな」

「有り難いお話ですが。兄が準じますかね」

「酒飲みになると、二回に一回はドラグースの話になる。気にはしているだろうな。リーゼも立派に成長しているから、目を離してもいい時期になっているさ」

「ん。豪嵐の名を貰った。半人前になった」

「それは、頼もしい限りです。竜族の二つ名を名乗れるなら、独り立ちも間近ですか」


 竜族の二つ名には、成人の意味あいがあります。

 ジークさんは、リーゼちゃんが準成人だと認めてくれたのです。

 リーゼちゃんが大っぴらに名乗らないのは、誕生して百年未満の年齢だからです。

 未成年で二つ名を許されるのは、滅多にありません。

 リーゼちゃんは、竜族の中でも優秀な竜材なのです。

 純粋に誇らしいです。

 自慢な姉です。

 ですが、難点がひとつあります。

 ラーズ君は伴侶を選んでいますから、独り立ちはしそうです。

 そうなりましたら、召喚契約は解除する予定でいます。

 しかし、リーゼちゃんが私達から、独り立ち出来るかが問題です。

 こればかりは、時間がかかりそうな気配がしてなりません。

 お婿さん候補を文字通りぶん投げしたのは、つい先刻です。

 果たしまして、何方か私とラーズ君や、クロス工房の保護者様方のお眼鏡に適う、竜族はいるのでしょうか。

 案外、リーゼちゃんが強引にお婿さんを連れて来そうです。

 遠くはない未来で出会いますお義兄さん。

 ご愁傷さまです。


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