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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
112/197

第4話

月曜投稿です。

 お座りしている仔猫。

 優雅に空駆ける龍。

 トール君が、ジェス君とエフィちゃんの召喚具を作成してくれました。

 魔晶石を加工して出来た召喚具に、ジェス君とエフィちゃんは大満足。

 さっそくの召喚契約を望みました。

 何事かに巻き込まれるのが確定しています私は、躊躇いつつも二柱と契約をしました。

 これで、チェーンベルトにつけられた召喚具は七個になりました。

 そして、大変遺憾なことながら、アッシュ君不在なままで、それはやってきました。

 思ってもない状態で、です。


「どうしますか?」

「こう、あらかさまだとなぁ」

「はっきりと言えば、邪魔の一言につきます」


 工房の居住区の廊下に鎮座します、曰くありそうな転移陣。

 強制召喚ではなくなりましたが、魔術言語を読んだリーゼちゃんが大不機嫌になっています。

 魔力を込めた脚で、陣が浮かび上がる事に割り消していきます。


「うざい」


 転移陣を消された相手は、諦める事なく次の転移陣を展開していくばかりです。

 無視してしまえば良いのですが、魔力に込められました相手側のひしひしと伝わる執念に、乾いた笑いしか出てきません。

 確かに、巻き込まれました。

 転移陣が指定していますのは私です。

 私が乗らない限りは、転移陣は起動しません。

 ですので、リーゼちゃんは次々と現れる陣を消しているのです。

 しかし、相手側の目的は私ではなく、躍起になっていますリーゼちゃんです。

 知られていないままに、目的は叶っていますよ。


「むう。うざいうざいうざいうざい」


 ああ。

 リーゼちゃんの堪忍袋が切れそうです。


「リーゼ。少しは落ち着け。んで、頭を冷やせ」

「む。否定。頭、冷静」

「どこがだ」


 廊下の真ん中に存在を主張します転移陣に、トール君は溜め息を吐き出しました。

 このままですと、リーゼちゃんに居住区ごと、消し飛ばされてしまいかねません。


「ジークがいないのに、厄介な所から来たもんだ。大方、エフィの件だろうな」

「やっぱり、そうですよね。竜族にしてみましたら、水晶龍(クリスタルドラゴン)は崇め奉る対象ですし。幼生体は、庇護されるべきですしね」

「それに、リーゼもお年頃だ。個体数が少ない竜族の許嫁が選ばれていそうだ」

「いらない。必要ない。知らない」


 ダンダンと地団駄を踏むリーゼちゃん。

 そうなのです。

 相手側と言いますか、転移先は竜族の都になっています。

 リーゼちゃんの両親は、選ばれた許嫁が気に入らず駆け落ちした仲です。

 帝国に狩られました責を、生き残った幼いリーゼちゃんに被せようとした身内に、嫌気が差したジークさんがトール君を頼りにして、私達は育ちました。

 リーゼちゃんは同族を嫌っています。

 私とラーズ君に執着するリーゼちゃんは、兄妹を餌呼ばわりした同族を赦してはいません。

 そんな不仲のリーゼちゃんは、竜族の都には脚を向けません。

 ましてや、保護者のジークさんがいませんのに、竜族の都に喜んで行く訳がありません。


「しゃあない。俺も行くか」

「行く、必要ない」

「竜族は、諦めることを知らんだろう。行って、こんなことを直に止めさせないと、何時までも続く。セーラが誤って独りで行くより、大勢で行く方がいいだろう」

「むう」


 リーゼちゃんが、抱き付いてきます。

 トール君の言葉に、渋々従う気配を見せました。

 幸いにも、工房は定休日です。

 トール君と言う、保護者様が付き添ってくれます。

 心強さがあります。


「ほら、行くぞ」


 軽く背中を押されました。

 家の中とは言え、何時巻き込まれても良いように、準備は万端にしています。

 ジェス君とエフィちゃんは、ポーチの中で待機してくれています。

 装備はしっかりと身に着けています。

 リーゼちゃんは腕を伸ばして、ラーズ君の服の裾を握りました。

 緊張しています?

 三人揃って、転移陣に脚を踏み入れました。

 強い光が瞬き、転移陣が起動します。

 すると、光の隙間から鎖が私目掛けて飛び出して来ました。


「ふざけるな!」

「セーラ‼」


 トール君の怒声と、リーゼちゃんの鋭い声が身近に聴こえます。


 〔だあめ〕

 〔駄目でしゅの~〕


 悪意の塊を感じとりましたジェス君とエフィちゃんが、ポーチ越しに鎖を弾いてくれました。

 遅効型の罠でした。

 直ぐ様、トール君が私達を抱き寄せます。


「ふざけるなよ。これが、竜族の礼儀か」

「何を言う。脆弱な妖精(エルフ)が、誇り高き我等に仕えるのだ。有り難く思え」


 其処には、多種多様な色合いな鱗を持つ、竜族が偉高気に待っていました。

 威嚇をしていますのか、口元には吐息(ブレス)の準備をしています。

 炎やら、氷やら、吐き出しかけています。


「脆弱で矮小な妖精。我等に従え。死ぬまで、我等に仕えるのを赦す」


 ぶちん。


 私を抱き締めるリーゼちゃんから、堪忍袋の緒が切れました。

 膨れ上がる魔力に、竜体に戻るのが分かりました。


「リーゼ。程々にしろよ」

「聴こえていないと思います」


 眼前にスカイブルーの鱗が、煌めきます。

 山肌をくりぬいて作られたであろう広間に、轟音が轟きます。

 リーゼちゃんの雷魔法です。

 ラーズ君と二人して、耳を押さえます。


 〔うにゃ〕

 〔うきゃあ、でしゅの~〕


 ジェス君とエフィちゃんも、音に驚いています。

 リーゼちゃんは、私達に少なからず被害をもたらすと気づいて、風魔法に切り替えて攻撃を続けます。


「こやつ、我等に刃向かうか」

「親も親なら、子も子か」

「構わぬ。これも、隷属させろ」


 好き勝手言い放題ですね。

 私も、カチンときています。

 弓を無限収納(インベントリ)から取り出します。

 ラーズ君も、無言で双剣を抜きました。


「あー。馬鹿な奴等は放っておいて、お茶でもしませんか」


 一触即発な私とラーズ君の背後から、呑気な声がかけられました。

 ラーズ君が、素早く振り返ります。

 リーゼちゃんに気をとられて、背後を警戒していませんでした。

 私達を庇うトール君も、虚をつかれています。


「あんた、何者だ」

「彼処で、姪っ子を激怒させた馬鹿どもの、親玉です」


 あっけらかんと親玉と称する方は、私達に合わせて人型をとっています。

 何処と無く、ジークさんの面影があります。

 手招きされて、広間の隅に設置されていました

 テーブルに案内されました。

 リーゼちゃんは、左手に尻尾を握りぶん回し、右手に逃げに走った個体の翼を掴み吐息(ブレス)を吐き出し、無双しています。

 実力的にリーゼちゃんの方が上ですね。

 人型での戦闘はアッシュ君仕込みで、竜体での戦闘はジークさんから習っています。

 危なげない姿に、トール君が肩の力を抜きました。


「改めまして、自己紹介致します。ジークの弟で竜族の長をしています、カラルと申します」

「ご丁寧にどうも。クロス工房の主、トールだ」

「ラーズです」

「セーラです」


 どたん、ばたん。

 物凄い音が響き渡る中での自己紹介は、場にそぐわないですね。

 たまに、悲鳴も聴こえてきます。

 リーゼちゃんの圧勝です。


「あれは、長として放っておいていいのか?」

「構いません。アプローチを間違えた馬鹿には、良い罰ですね」


 背中にブレスを喰らった個体が、リーゼちゃんに柱の間から宙に放り出されました。

 相変わらず左手は、尻尾を掴んだまま振り回しています。


「た、助けてー」

「うぎゃあー」

「こっち、来んな」


 なんとも情けない声が漏れだしています。

 最初の印象が砕けていきます。

 声を聴く限り若い個体ですね。


「お恥ずかしい事に、竜族は力が全てと解釈する若い個体が、のさばり始めています。井の中の蛙であることを、理解するいい機会です」

「うちのリーゼを怒らせて、半死半生がか? 親竜辺りに、報復されたりはしないのか」

「まさか。雌に木端微塵にされたと、言い触らす愚かな竜はいません。そんなことをしたら、雌一同に総すかんですよ」

「待ってください。と、すると、あれはリーゼの婿候補ですか?」

「あ?」


 ラーズ君の言葉に、長さんは頷きました。

 そう言いますと、出迎えた全員は雄でした。

 若い雄の個体に、トール君は額を押さえてしまいました。


「大分昔に、リーゼ目当てに幼い個体が、押し掛けた事があったと思います。その個体が、リーゼには執着する他種族の兄妹がいる。だから、同族には興味がない。アプローチするには、その兄妹を巻き込めばいい。そんな話題が雄の間に流行ました」


 長さんの説明に、ラーズ君も頭を押さえてしまいました。

 それは、アプローチを間違えています。

 私とラーズ君を卑下しましたら、リーゼちゃんは激怒です。

 話題にだすなら下手にでないと、会話にはなりません。

 現に、リーゼちゃんは聴く耳を持たずに、同族を半殺しにしていっています。

 確か、両親も扱き下ろしていましたね。

 暫くは、お怒りは鎮まらないと思います。


「どうぞ。変な薬は入っていませんから」


 長さん自ら、お茶を淹れて出されました。

 阿鼻叫喚な事態を背景に頂くお茶は、少し苦味が有りました。


「いやぁ、流石は長姉の娘です。あのお馬鹿どもは、若い個体の中でも強い個体になるのですが。手も足もでませんね」

「まあ、災害と暴風が師匠だしな」

「魔人族の災害殿と我が兄に鍛え上げられましたか。それでは、敵いませんね」

「鍛え上げすぎて、嫁の貰い手がなくなるのは、心配していたが。リーゼより弱い奴には、嫁に出さんぞ」

「それで、結構です。姉もその気でいたでしょう」

「なら、何でうちのセーラを呼んでいたんだ? リーゼが目的ではないんだろう?」


 和やかに話が進みます。

 リーゼちゃんの怒りが印象的で忘れていましたが、私が呼ばれていたのですよね。

 当初は私を餌にリーゼちゃんを釣るつもりかと、思っていました。

 しかし長さんの口振りは、そう見えませんでした。

 やはり、私に用があるみたいです。


「ああ、そうでした。姪の余りにも健やかな暴れっぷりに忘れていました。実は、ミラルカの妖精姫には、是非に調薬してもらいたい薬があるのです」

「お薬ですか?」

「はい。竜血草を用いた産後に良く効く薬です」

「それは、大事なのでは有りませんか。呑気にお茶をしている場合では有りませんよ」


 長さんの口から飛び出したお薬は、緊急を要する物です。

 お茶を楽しんでいる場合ではなくなりました。

 何故に、長さんはのんびりとしているのでしょうか。


「落ち着いて下さい。まだ、お産は始まってはいないのです。後、半月は要しますが。今回のお産は慎重を有しますので、早目にお出でを願いました次第です」


 なら、良いのですが。

 竜血草を用いたお薬を必要だと知れましたら、緊急を要するのかと思っていました。

 一安心です。




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