第4話
月曜投稿です。
お座りしている仔猫。
優雅に空駆ける龍。
トール君が、ジェス君とエフィちゃんの召喚具を作成してくれました。
魔晶石を加工して出来た召喚具に、ジェス君とエフィちゃんは大満足。
さっそくの召喚契約を望みました。
何事かに巻き込まれるのが確定しています私は、躊躇いつつも二柱と契約をしました。
これで、チェーンベルトにつけられた召喚具は七個になりました。
そして、大変遺憾なことながら、アッシュ君不在なままで、それはやってきました。
思ってもない状態で、です。
「どうしますか?」
「こう、あらかさまだとなぁ」
「はっきりと言えば、邪魔の一言につきます」
工房の居住区の廊下に鎮座します、曰くありそうな転移陣。
強制召喚ではなくなりましたが、魔術言語を読んだリーゼちゃんが大不機嫌になっています。
魔力を込めた脚で、陣が浮かび上がる事に割り消していきます。
「うざい」
転移陣を消された相手は、諦める事なく次の転移陣を展開していくばかりです。
無視してしまえば良いのですが、魔力に込められました相手側のひしひしと伝わる執念に、乾いた笑いしか出てきません。
確かに、巻き込まれました。
転移陣が指定していますのは私です。
私が乗らない限りは、転移陣は起動しません。
ですので、リーゼちゃんは次々と現れる陣を消しているのです。
しかし、相手側の目的は私ではなく、躍起になっていますリーゼちゃんです。
知られていないままに、目的は叶っていますよ。
「むう。うざいうざいうざいうざい」
ああ。
リーゼちゃんの堪忍袋が切れそうです。
「リーゼ。少しは落ち着け。んで、頭を冷やせ」
「む。否定。頭、冷静」
「どこがだ」
廊下の真ん中に存在を主張します転移陣に、トール君は溜め息を吐き出しました。
このままですと、リーゼちゃんに居住区ごと、消し飛ばされてしまいかねません。
「ジークがいないのに、厄介な所から来たもんだ。大方、エフィの件だろうな」
「やっぱり、そうですよね。竜族にしてみましたら、水晶龍は崇め奉る対象ですし。幼生体は、庇護されるべきですしね」
「それに、リーゼもお年頃だ。個体数が少ない竜族の許嫁が選ばれていそうだ」
「いらない。必要ない。知らない」
ダンダンと地団駄を踏むリーゼちゃん。
そうなのです。
相手側と言いますか、転移先は竜族の都になっています。
リーゼちゃんの両親は、選ばれた許嫁が気に入らず駆け落ちした仲です。
帝国に狩られました責を、生き残った幼いリーゼちゃんに被せようとした身内に、嫌気が差したジークさんがトール君を頼りにして、私達は育ちました。
リーゼちゃんは同族を嫌っています。
私とラーズ君に執着するリーゼちゃんは、兄妹を餌呼ばわりした同族を赦してはいません。
そんな不仲のリーゼちゃんは、竜族の都には脚を向けません。
ましてや、保護者のジークさんがいませんのに、竜族の都に喜んで行く訳がありません。
「しゃあない。俺も行くか」
「行く、必要ない」
「竜族は、諦めることを知らんだろう。行って、こんなことを直に止めさせないと、何時までも続く。セーラが誤って独りで行くより、大勢で行く方がいいだろう」
「むう」
リーゼちゃんが、抱き付いてきます。
トール君の言葉に、渋々従う気配を見せました。
幸いにも、工房は定休日です。
トール君と言う、保護者様が付き添ってくれます。
心強さがあります。
「ほら、行くぞ」
軽く背中を押されました。
家の中とは言え、何時巻き込まれても良いように、準備は万端にしています。
ジェス君とエフィちゃんは、ポーチの中で待機してくれています。
装備はしっかりと身に着けています。
リーゼちゃんは腕を伸ばして、ラーズ君の服の裾を握りました。
緊張しています?
三人揃って、転移陣に脚を踏み入れました。
強い光が瞬き、転移陣が起動します。
すると、光の隙間から鎖が私目掛けて飛び出して来ました。
「ふざけるな!」
「セーラ‼」
トール君の怒声と、リーゼちゃんの鋭い声が身近に聴こえます。
〔だあめ〕
〔駄目でしゅの~〕
悪意の塊を感じとりましたジェス君とエフィちゃんが、ポーチ越しに鎖を弾いてくれました。
遅効型の罠でした。
直ぐ様、トール君が私達を抱き寄せます。
「ふざけるなよ。これが、竜族の礼儀か」
「何を言う。脆弱な妖精が、誇り高き我等に仕えるのだ。有り難く思え」
其処には、多種多様な色合いな鱗を持つ、竜族が偉高気に待っていました。
威嚇をしていますのか、口元には吐息の準備をしています。
炎やら、氷やら、吐き出しかけています。
「脆弱で矮小な妖精。我等に従え。死ぬまで、我等に仕えるのを赦す」
ぶちん。
私を抱き締めるリーゼちゃんから、堪忍袋の緒が切れました。
膨れ上がる魔力に、竜体に戻るのが分かりました。
「リーゼ。程々にしろよ」
「聴こえていないと思います」
眼前にスカイブルーの鱗が、煌めきます。
山肌をくりぬいて作られたであろう広間に、轟音が轟きます。
リーゼちゃんの雷魔法です。
ラーズ君と二人して、耳を押さえます。
〔うにゃ〕
〔うきゃあ、でしゅの~〕
ジェス君とエフィちゃんも、音に驚いています。
リーゼちゃんは、私達に少なからず被害をもたらすと気づいて、風魔法に切り替えて攻撃を続けます。
「こやつ、我等に刃向かうか」
「親も親なら、子も子か」
「構わぬ。これも、隷属させろ」
好き勝手言い放題ですね。
私も、カチンときています。
弓を無限収納から取り出します。
ラーズ君も、無言で双剣を抜きました。
「あー。馬鹿な奴等は放っておいて、お茶でもしませんか」
一触即発な私とラーズ君の背後から、呑気な声がかけられました。
ラーズ君が、素早く振り返ります。
リーゼちゃんに気をとられて、背後を警戒していませんでした。
私達を庇うトール君も、虚をつかれています。
「あんた、何者だ」
「彼処で、姪っ子を激怒させた馬鹿どもの、親玉です」
あっけらかんと親玉と称する方は、私達に合わせて人型をとっています。
何処と無く、ジークさんの面影があります。
手招きされて、広間の隅に設置されていました
テーブルに案内されました。
リーゼちゃんは、左手に尻尾を握りぶん回し、右手に逃げに走った個体の翼を掴み吐息を吐き出し、無双しています。
実力的にリーゼちゃんの方が上ですね。
人型での戦闘はアッシュ君仕込みで、竜体での戦闘はジークさんから習っています。
危なげない姿に、トール君が肩の力を抜きました。
「改めまして、自己紹介致します。ジークの弟で竜族の長をしています、カラルと申します」
「ご丁寧にどうも。クロス工房の主、トールだ」
「ラーズです」
「セーラです」
どたん、ばたん。
物凄い音が響き渡る中での自己紹介は、場にそぐわないですね。
たまに、悲鳴も聴こえてきます。
リーゼちゃんの圧勝です。
「あれは、長として放っておいていいのか?」
「構いません。アプローチを間違えた馬鹿には、良い罰ですね」
背中にブレスを喰らった個体が、リーゼちゃんに柱の間から宙に放り出されました。
相変わらず左手は、尻尾を掴んだまま振り回しています。
「た、助けてー」
「うぎゃあー」
「こっち、来んな」
なんとも情けない声が漏れだしています。
最初の印象が砕けていきます。
声を聴く限り若い個体ですね。
「お恥ずかしい事に、竜族は力が全てと解釈する若い個体が、のさばり始めています。井の中の蛙であることを、理解するいい機会です」
「うちのリーゼを怒らせて、半死半生がか? 親竜辺りに、報復されたりはしないのか」
「まさか。雌に木端微塵にされたと、言い触らす愚かな竜はいません。そんなことをしたら、雌一同に総すかんですよ」
「待ってください。と、すると、あれはリーゼの婿候補ですか?」
「あ?」
ラーズ君の言葉に、長さんは頷きました。
そう言いますと、出迎えた全員は雄でした。
若い雄の個体に、トール君は額を押さえてしまいました。
「大分昔に、リーゼ目当てに幼い個体が、押し掛けた事があったと思います。その個体が、リーゼには執着する他種族の兄妹がいる。だから、同族には興味がない。アプローチするには、その兄妹を巻き込めばいい。そんな話題が雄の間に流行ました」
長さんの説明に、ラーズ君も頭を押さえてしまいました。
それは、アプローチを間違えています。
私とラーズ君を卑下しましたら、リーゼちゃんは激怒です。
話題にだすなら下手にでないと、会話にはなりません。
現に、リーゼちゃんは聴く耳を持たずに、同族を半殺しにしていっています。
確か、両親も扱き下ろしていましたね。
暫くは、お怒りは鎮まらないと思います。
「どうぞ。変な薬は入っていませんから」
長さん自ら、お茶を淹れて出されました。
阿鼻叫喚な事態を背景に頂くお茶は、少し苦味が有りました。
「いやぁ、流石は長姉の娘です。あのお馬鹿どもは、若い個体の中でも強い個体になるのですが。手も足もでませんね」
「まあ、災害と暴風が師匠だしな」
「魔人族の災害殿と我が兄に鍛え上げられましたか。それでは、敵いませんね」
「鍛え上げすぎて、嫁の貰い手がなくなるのは、心配していたが。リーゼより弱い奴には、嫁に出さんぞ」
「それで、結構です。姉もその気でいたでしょう」
「なら、何でうちのセーラを呼んでいたんだ? リーゼが目的ではないんだろう?」
和やかに話が進みます。
リーゼちゃんの怒りが印象的で忘れていましたが、私が呼ばれていたのですよね。
当初は私を餌にリーゼちゃんを釣るつもりかと、思っていました。
しかし長さんの口振りは、そう見えませんでした。
やはり、私に用があるみたいです。
「ああ、そうでした。姪の余りにも健やかな暴れっぷりに忘れていました。実は、ミラルカの妖精姫には、是非に調薬してもらいたい薬があるのです」
「お薬ですか?」
「はい。竜血草を用いた産後に良く効く薬です」
「それは、大事なのでは有りませんか。呑気にお茶をしている場合では有りませんよ」
長さんの口から飛び出したお薬は、緊急を要する物です。
お茶を楽しんでいる場合ではなくなりました。
何故に、長さんはのんびりとしているのでしょうか。
「落ち着いて下さい。まだ、お産は始まってはいないのです。後、半月は要しますが。今回のお産は慎重を有しますので、早目にお出でを願いました次第です」
なら、良いのですが。
竜血草を用いたお薬を必要だと知れましたら、緊急を要するのかと思っていました。
一安心です。
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