第3話
金曜投稿です。
ジェス君とエフィちゃんの、召喚契約を前に難題が持ち上がりました。
トール君が各国上層部に配信しました邪神討伐の映像を見て、勇者に使用した霊薬エリキサーの存在を知られてしまった訳です。
ミラルカの商業ギルド、ならびに薬師ギルドに各国からの問い合わせが頻りに来るようになったそうです。
それに併せて、クロス工房への入店許可証を求める商人の数が、三倍にはねあがりました。
勿論、利に聡い商業ギルドが、幾ばくかの仲介料と引き換えに許可証を発行したのは言うまでもなく。
連日連夜、各国からの商人が工房に押し掛ける結果になってしまいました。
「霊薬エリキサーの価格は、虹晶貨一枚です。分割払いは却下しております」
一介の商人にはおいそれと手が出ない価格設定は、商売と職業を司る神々が提言し、トール君が設定しました。
一見のお客は皆さん、価格の高さに値切りを提案しますが、ラーズ君とリーゼちゃんはものともしません。
分割払いも、常連客ではない限りは、致しません。
商品を手に入れたら、持ち逃げされますのは、目に見えています。
何とか、手に入れて儲けようとします商人は、脅し、宥め、あの手この手で懐柔しようとしています。
ですので、海千山千の商人相手には慣れていない、セイ少年とリック少年は其々の保護者がわりのギディオンさんとヒューバートさんの、工房の奥にて助手を勤めて貰っています。
商人の中には、お店のポーションを買い占める動きを見せていますが、それこそ虹晶貨一枚ではすみません。
ラーズ君のにこやかな笑顔と、リーゼちゃんの威圧とで退場を願いました。
クロス工房は、開店以来冒険者相手に商売をしてきています。
日に販売の制限はありますが、必要な時に薬品が売り切れていますのは、本末転倒です。
急患以外には、薬品類は販売しないことにしています。
裏側で転売されてはいても、譲れない矜持があります。
「あー。うっせいなぁ。本日はこれで閉店する。出ていってくれないか」
「で、では、売り上げの四割では、いかがですか」
「あー。ないない。うちは、細々とやっていけたら、いいんだ。代理販売はしない」
ひっきり無しに訪れます商人相手に、トール君は些かげんなりとしています。
相手側の商人は、色好い返事を頂こうと必死です。
何組目か分からない商人を、トール君は追い出し始めました。
「では、調薬師の方にじかにお相手して、頂きたく……」
「引き抜きは勘弁な。まだ、未成年なんで。それに、霊薬エリキサーのレシピは公開されている。自分の専属調薬師や薬師に調薬して貰ってくれ」
トール君は商人の背中を押して外に追いやり、閉店の札をかけます。
密やかに防音と物理無効の結界が張られました。
開店時間を待てずに早朝から、扉を叩く商人を排除したのです。
「ラーズ、リーゼ。一見の客は排除な。常連客以外は入店禁止だ」
「はい、分かりました」
「了承」
序でに、目眩ましの結界を重ねがけされます。
これで、一見のお客は入店禁止になりました。
「トール君。私のせいで、迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」
私が勇者に霊薬を使用しなければ、ここまで酷くはならなかったでしょう。
落ち込みます。
「気にすんな。俺も、映像を配信した責任がある。重病人がいるなら兎も角、儲けようとする商人相手は、任せておけばいい」
「そうです。セーラは人助けをしたのですから、気に病む必要はありません」
「ん。よしよし」
閉店準備で窓のブラインドを閉めていく、ラーズ君とリーゼちゃんに慰められます。
頭を撫でられ、気分が幾らかは回復していきます。
〔セーラちゃん〕
〔セーラしゃまぁ~〕
少し、傲っていたのかもしれません。
他者より調薬の環境が整えられ、師匠にも恵まれ、霊薬エリキサーを調薬出来る。
クロス工房製のブランド力に助けて貰い、調薬したポーションは即日完売の勢い。
こうして、煩わしい相手も、周りが排除してくれる。
これが、傲りと言わざるとならないでしょう。
反省頻りです。
「そう、落ち込むな。セーラは、今まで通りでいいんだ。失敗したと思うなら、二度としない。だがなぁ、勇者を見捨てなかったことには、俺は誉められる行為をしたと思うぞ」
「トール君」
「ん。セーラ、いい子いい子」
「悪い言い方になりますが。例えば、メル先生が霊薬を使用して、工房に迷惑をかけてしまったら、どうします?」
「……皆で追い返します」
「それと、同じです。クロス工房には、優秀な錬金術師と調薬師に賢者様がいます。薬品に拘らなければ、狙われる職人は他にいますから。そう、落ち込まないでいいですよ」
ラーズ君の説明が身に染み渡ります。
両肩の温もりにも、癒されます。
確かに、私よりメル先生の独占技術は秘匿されていますのは、多いです。
他の職人さんにも言えます。
矢面に立つトール君は、気苦労が多くとも見捨てはしません。
私も悲観してばかりいてはいられませんね。
「さて、んじゃあ、後回しにしていたおちびさんを、どうするか。話し合おうか」
〔はぁい〕
〔はい、でしゅの~〕
トール君の唐突とも言えます話題転換に、ジェス君とエフィちゃんがお返事をします。
閉店準備を終えた店内から、リビングに移動します。
お茶はリーゼちゃんが淹れると、キッチンに行かれました。
「取り敢えず、召喚具はこれから作るとして。ジェスとエフィは、セーラの召喚獣になるのは、決定なんだな?」
〔そうだよ。アッシュ君には、お願いしてた。ジェス、小さいからまだ駄目だって、言われたの〕
〔エフィは、でしゅね~。卵の時に、世界神様から、お願いされましゅたの~〕
〔ジェスも、エフィちゃんが孵った日に、お願いされたの。セーラちゃんが、大変なことに巻き込まれるの〕
〔内容は教えてはくれましぇんでした~。でも、孤独にしましゅたら、駄目なのでしゅ~〕
「アッシュも、何か一枚噛んでいそうなんだが、教えちゃくれないんだよなぁ」
ソファに座るなりジェス君とエフィちゃんは、ベッタリと私に張り付いてきます。
私には、五柱の召喚獣がいます。
それでも、足りない何かに巻き込まれるのは必須なのかと、思い至ります。
もしくは、彼を呼んでしまう何事かを、忌避しているのかもです。
トール君は、ソファの背凭れに背中を預けて、考え込み始めました。
ラーズ君も渋い表情で、トール君を見ています。
「セーラを巻き込む事件か。しかも、世界神の神託込み」
「僕やリーゼが、常に側にいた方が良さそうですね」
「特に、リーゼだな。神国がやらかした強制召喚が、再びあるとも限らん。他大陸に行かれたら、半狂乱になってまで探すだろう」
リーゼちゃんは、兄妹がいなくなるのを酷く嫌います。
トール君が示唆した通りに、他大陸だろうと草の根を掻き分けて探しだしてくれるでしょう。
もし、私が不当に拘束でもされていましたら、竜体になってまで、取り返すのは必定です。
ラーズ君も冷静ですが、リーゼちゃんと共に暴れださないとは、言い切れません。
「ん。お茶入った」
「おう。ありがとな」
「ありがとうございます。リーゼちゃん」
「ありがとうございます」
「ん。セーラ、孤独にしない」
隣に腰掛けたリーゼちゃんに、腕を絡められます。
話が聴こえていましたね。
過保護で、心配性なお姉さんです。
「そうだな。女の子同士だし、暫くは引っ付いていろな」
「ん。了承」
〔ジェスもう〕
〔エフィもでしゅの~〕
何事か起きるまでは、一人での行動は厳禁です。
私も、最低限の準備はしておきましょう。
ポーション類はフランレティアの一件以来、充分な量は確保してあります。
野営には、コテージが使用不可な場合を見繕いまして、テントや寝袋に非常食等準備しておいても、損にはなりません。
幸いにも、時間停止型の無限収納があります。
新鮮なお野菜や果物にお肉類、飲料水を持ち運べます。
後は、適宜対応していけばいいですよね。
「ラーズ君にお願いします。巻き込まれるのが不可避になりますので、お買い物を頼みます」
「分かっています。二月分の食糧は確保してきます。後は、寮の料理長に予め料理を頼んで起きます」
「私も、料理はストックして起きます」
「ん。手伝う」
「もし、引き離されても良いように、荷物は三分割にして所持していましょう」
「そうですね。まあ、ラーズ君とリーゼちゃんなら、すぐに合流出来ると思いますが。万が一があってもおかしくはありませんし」
予定を積み上げていきます。
巻き込まれるのが、最初から分かっていますので、悲壮感はありません。
ただ、リーゼちゃんが大暴れしないことを願うのみです。
「うちの子達は、逞しいな。少しぐらいは、保護者を頼ってもいいんだぞ」
「トール先生には、召喚具の速い作成をお願いします。準備万端で迎えたいと思います」
「そだな。セーラ、前に渡したジェスのチャームをくれ」
「はい、どうぞ」
ジェス君の居場所が分かるチャームを外します。
トール君は、そのチャームを基本にして召喚具を作成してくれるのでしょう。
「じゃあ、工房に籠る。各自は気を緩める事なく、警戒していろよ。序でに、アッシュは不在だ。ミラルカには、いないようだからな」
「分かりました。外出する僕は街の中を観察して起きます」
「セーラと、料理作る」
「リーゼちゃんと、料理を作ります」
〔ジェスは、ラーズ君と外に行く。キッチンに入れないもん〕
〔エフィは、入れましゅの~。だから、ジェスお兄しゃまの分まで、まもりましゅの~〕
ジェス君と違いまして、エフィちゃんは滑らかな鱗を持っています。
ですが、僅かながら鬣がありますよ。
離れた位置で宙に浮いて、料理に支障がなければキッチンに入っても可にしてあります。
ジェス君は拗ねてしまい、配慮したエフィちゃんは一度も入ったことはありません。
今日が初入室になります。
こうして、適材適所の役割分担をするようになっつきています。
甘える愛玩動物から、出来る事は率先してやる事はやる。
考えて行動するのが、増えてきています。
成長の証ですね。
切磋琢磨を地でいっています。
喜ばしい限りです。
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