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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
110/197

第2話

お待たせ致しました。

月曜投稿です。


 その日の夕食時。

 トール君は、食堂に姿を見せました。


「アッシュと、子供たちには、済まない事をした。すまん」


 勢いよく頭を下げましたので、テーブルにぶつけたのはこ愛嬌です。

 アッシュ君大人組は泰然として、私達年少組と同席をしているセイ少年は呆けています。

 クッションの上のジェス君とエフィちゃんは、目を丸くしているのが、分かります。


「あー。ちょっと、加減が分からなさすぎて、介入し過ぎた。後味悪い結果になったが、あれには分からないように、今後も支援はすることにした」

「トールが決めたのなら、煩くは言わん」

「うん。トール個人が介入するのだろう。工房の非にならないなら、ぼくも非難はしないよ」


 さすがは、代表者。

 ギディオンさんは、にこやかな表情で工房重視の発言をしています。

 年少組も、兎や角言う積はありません。

 多少、腹立たしい感情が残るだけです。


「んでだな、セイの帰還についてだかな」

「はい。アッシュさんからも、提案されました。ぼくも、異存はありません」

「ん。神国側の召喚者と同時に、帰還してもらう手筈になった。時空神からは召喚された時間に戻すのは、確約してあるからな。観光気分でいてくれていいからな」

「はい。ありがとうございます」


 ちゃっかり、働いてもらっています。

 休日は、ギディオンさんにミラルカを案内されて、気分転換になっている様子です。

 お給金で買い求めた日用雑貨は、お土産として異界に持ち出ししても良いのでしょうか。


「ただ。セイが嫌なら、記憶も消去しても良いと、提案された。後は、手荷物は制限をさせて貰うのも、了承してくれ」

「……。記憶は辛いのも、あります。だけど、皆さんの事は、忘れたくはありません。手荷物の件は、元の世界にはない物を持ち出しては、駄目なのは分かります。配慮、ありがとうございます」


 辛い記憶より、楽しい記憶が優っているのは、良いことです。

 セイ少年を気にかけて、心尽くしたギディオンさんを忘れては欲しくはなかったです。

 今も、穏やかに笑っています。

 セイ少年も、よく笑えるようになって、何よりです。

 ギディオンさんと、兄貴分になりましたリック少年のお陰ですね。

 肝心のリック少年は、ヒューバートさんと森にて精霊術修行に邁進しています。

 溺愛していた祖父の束縛から解き放たれたリック少年は、心の澱が晴れて精霊と対話が出来るようになったそうです。

 此方も、これからの活躍に期待しています。


「少し、気になりましたが。省吾は一緒に帰れますか?」

「ぶっちゃけると、難しい。本人は帰還を望んでいるが、帝国の守護神に与えられた加護が帰還を阻んでいるんだ。ある意味、洗脳に近い状態で、帰還を望まない宣言をしている」

「確かに、はっきりと帰らない。勇者になって、無双するんだと言ってました」

「うん。それを名前に誓ってしまっている。撤回するには、代償が発生してしまう。神国側の召喚者も、名前で縛られてしまっている。神々も、救済措置をどうするかで、意見が分かれているんだ」

「そうですか」


 神々も一枚岩では、ありません。

 代理戦争時ほどではないですが、派閥といったモノがあります。

 世界神が定めた(ことわり)を、どう解釈するかで割れているのでしょうね。

 特に、真名で誓ってしまっていては、撤回が難しいです。


「省吾は、今どうしていますか?」

「聖者になった男に、聖女と共に保護されている。聖者の周囲には御使いが監視をしているから、利用してやろうと企む輩は排除されている」


 帝国の質問にはアッシュ君が答えます。

 使い魔も、動向を監視しているのでしょう。

 聖者になった死神さんは、アッシュ君と因縁がある人です。

 苦労人な方のようでしたし、聖女さんの魅了にかからず意見していましたから、最適な保護者と思われます。

 聖女さんにとっては、苦言ばかり言う人といった印象でしょうけど。

 彼の保護下を離れましたら、粛清が待っています。

 大人しくしていることを祈ります。


「だがなぁ。セイから聴いた話では、至高神だと言う神が虚言を呈した。ショウゴは、代償を支払えば帰還出来るだろう」

「そうなんですね。良かった」


 代償がどういったものか、喜ぶセイ少年には言えません。

 神々は、嘘を嫌います。

 いくら、洗脳されていましても、虚言には容赦なく罰を与えます。

 帝国の守護神は、虚言の代償に神格を落とされました。

 神々でさえ、きつい罰則があります。

 腕一本なくなる覚悟はした方が良いかと思います。

 私は嘘をつけませんので、沈黙するしかありませんが。


「んじゃあ、辛気臭い話は終わりだ。食事を堪能しよう」


 トール君も、その話題にはセイ少年を関わらせない方針のようです。

 大人組も、敢えて沈黙しています。


「セイに聴きたいのですが、いいですか?」

「はい?」


 ラーズ君が手を上げました。

 ギディオンさんの肩が動揺して、スプーンがお皿を鳴らしました。


「ごめん。手が滑ったよ」


 頻りに、ラーズ君の顔を伺っています。

 トール君も、質問の内容如何によっては、口を挟む気でいます。

 ラーズ君は、何を知りたいのでしょうか。


「すみません。疑問なんですが、セイは他の召喚者とは顔見知りなのですか?」

「あっ、はい。ええと、学校は分かりますか?」

「勉学を学ぶ学園が有るのは知っています」

「なら、同級生も分かりますね。省吾とぼくの他に三人が教室にいて、光に包まれました。と思ったら、ぼくと省吾、三人組に分かれて下に落ちて行きました。だから、他の三人組の名前は知っています」


 成る程。

 神国側の召喚者とは、面識があるのですね。

 同時期の召喚でしたけど、場所まで一緒であったのは、何らかの作為があっても良さそうです。


「多分、省吾以上にお人好しで面倒見が良い委員長が、纏めてると思いますが。一人、皆さんには厄介な相手がいると思います」

「因みに、どんな性格だ」

「有り体に言ってしまえば、英雄願望の強い偽善者です。両親がが悪人を取り締まる組織で働いていて、正義感が多少斜めに外れたトラブルメーカーなんです」


 セイ少年は、私達に理解しやすい言葉を選びならが話してくれます。

 街の自警団組織で働く両親がいて、正義感が斜めに外れたトラブルメーカー。

 何だか、話の通じない相手な様子です。

 魔族は悪と断定して、問答無用で襲いかかる性質かもしれません。

 会いたくはなくなってきました。


「ラーズさんとリーゼさんは、好みの範疇に入りますが、セーラさんだと暴走するのは確実です。下手したら、出会うなりダークエルフは奴隷に、何て言い出す奴です」

「ん。分かった。ぶん殴る」

「そうしてください」


 リーゼちゃんの問題発言を肯定されてしまいました。

 更に、出会いたくなくなります。


「委員長は、比較的話せば理解してくれます。

 もう一人は、あー。女の子なんですが、こっちも厄介と言えば厄介です。顔立ちが美人と評されますが、性格は腹黒です。何人もの異性にちやほやされて、自分が一番でないと気が済まない性格です」


 ああ。

 お花畑さんですか。

 縁がありますね。

 こういった人からは、逃れられないのでしょうか。

 トール君が渋い表情をしています。

 思わぬところから、情報を得ることができました。

 重畳なのでしょうか。

 私的には、出会いたくない人物と見ました。


「メルとジークの報告だと。三人がバラけて行動しているようだ。一人は、魔族退治。一人は慰問。一人はメルに張り付いている」


 アッシュ君の情報に当て嵌めていきますと、魔族退治は、正義感斜め。

 慰問はお花畑。

 メル先生には、委員長ですかね。

 何故にメル先生なのでしょうか。

 疑問です。


「あー。委員長。隠れオタクだから、錬金術師なんて、弟子入り強要していそう」


 オタクの意味が分かりませんが、興味を惹かれたと思えばいいですかね。

 セイ少年は項垂れています。


「駄目だ。勘違い野郎の手綱が、野放しだ。トールさん、放っておくと、被害が甚大になるかもしれません」

「其ほどまでに、警戒しておく必要があるのか」

「そうです。勘違い野郎の悪いところは、流され易い一面があります。可愛いいお姫様に、魔族は敵だ。退治してくれと、訴えられたら、マジにやり遂げようとします。そして、一旦邪悪だと判断したら、考えを改めさせることは難しいです」

「一応は。神国側にも、邪神討伐の全容は配信したのだがなぁ」

「無意味です。奴は、じぶんの持論は曲げません。都合の良い解釈して、攻めてきますよ」

「うん。分かった。子供たちは、ミラルカから出るのは厳禁な。周囲で我慢しておけ」

「「はい」」

「ん。了承」


 トール君が考え込み始めました。

 セイ少年から、もたらされた情報を精査して、私達や派遣したメル先生に害がないか思案しています。

 お料理、暖め直した方が良さそうかな。

 袖を引かれて見ますと、エフィちゃんが心配げに見上げていました。


 〔セーラしゃまぁ~。不届き者がおられましゅなら~。一刻も速い召喚契約を望みましゅの~〕

 〔ジェスも。セーラちゃんとの、絆を強くするの〕

「あっ? 何だ? 幼児の女の子の声がしたが」

 〔トールお兄しゃまには、お初にあいましゅの~。セーラしゃまの、召喚契約を望みましゅ~、エフェメラでしゅの~〕

 〔トール君。ジェスも。セーラちゃんとの、召喚契約をするの〕


 エフィちゃんの念話にきづいたトール君に、エフィちゃんとジェス君が突撃していきました。

 食事時にはクッションの上で、大人しくしている。

 約束をわすれています。

 エフィちゃんは宙を駆け、ジェス君はお皿の隙間をぬって駆けていきます。


「はあ? 水晶龍(クリスタルドラゴン)が何故にいる。それと、召喚契約を望むとは、アッシュの、提言だったか」

「水晶龍は、フランレティアの水竜から、託された。召喚契約を望んでいるのは、おれではなく、世界神だ」

「冷静な突っ込みはいらん。兎に角、このおちび達は、セーラと召喚契約をしたいのだな」

 〔うん〕

 〔はい、でしゅの~〕

「分かった。一日くれ。流石に、許容範囲を越えた」


 お疲れ様なトール君は額に手を当てつつ、答えてくれました。

 唐突だとは、理解しています。

 まだ、フランレティアの後始末が終わっていませんのに、次の課題が上がってしまっています。

 メル先生の安否も気になるところです。

 ジークさんがついていますから、安全は保証されてはいても、神王の容態によっては責任を被せられるのではないか、心配です。

 召喚者とは関わりたくはわりませんが、そうも言ってはいられないかと、愚考します。


ブックマーク登録ありがとうございます。


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