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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
11/197

第11話

金曜投稿です。


「さて、他に質問はあるかな」

「報酬はどうなりますか」


 ギルド長さんの指摘にラーズ君が答えます。

 曲がりなりにも冒険者として、また調薬師として商売人の端くれですから、成功報酬は大切でした。

 トール君からも無償行為は止めるよう咎められています。


「ランク不足の処があるが竜討伐だ。Aランククラスと同額の報酬を出そう。大金貨2枚で200万ジルだ」


 ジルは大陸共通の通貨単位です。

 鉄 貨1枚=1ジル

 銅 貨1枚=10ジル

 大銅貨1枚=100ジル

 銀 貨1枚=1000ジル

 大銀貨1枚=1万ジル

 金 貨1枚=10万ジル

 大金貨1枚=100万ジル

 白金貨1枚=1000万ジル

 虹晶貨1枚=1億ジル

 と、なっています。

 平民ならば大体大銀貨2枚で一月優に暮らせます。

 破格の報酬です。

 財政難ではありませんでしたか。


「まあ、口止め料込みの値だ。後は、依頼の重複によりプール金が積み重なっていてなぁ」

 主に商店街の主人から門の閉鎖と転移門の規制による、物価高騰と物資不足を危惧されての、細かな依頼金が膨れ上がる一方だそうです。

 日に日に新鮮な農作物や精肉類が、入荷困難になってきているとは、市場で働く人々の間で話題にあがっていましたね。


「金銭はその半額で構いませんから、転移門の早期利用許可を下さいませんか」

「……難しいな。転移門の規制は宰相命令でトリシアだけの問題ではなくて、国中に出ている。魔導具の返還問題だけではなく、他国のギルド長からの情報だが、うちの国王がさる高貴な身分の令嬢を誘拐紛いの手段で招聘したらしい」

「誘拐とは穏やかではなくなりましたね」

「そうだ、賢者殿のお弟子さんならば、拝謁の機会に恵まれたことがあるかも知れんな。神国の神子様だそうだ」


 あらら、もう情報が出回っています。

 提供者が気になります。


「その情報確かなのですか。聖女以上に警護が厳しく、神国の大神官か聖王しか、直にお会いしたことがないとお聴きします」


 言外に会った事がないと主張するラーズ君です。

 嘘が付けない私と話題に関心がないリーゼちゃんは、猫君にご執心です。

 躯を拭かれ藍色の毛並みに艶が出てきた猫君は、落ち着きを取り戻し私の膝の上で、冷めてしまいました食事に夢中です。

 リーゼちゃんが魔法で温め直そうか、と問いかけてきましたので、少しだけとお願いしました。

 ほんのりと暖かくなりましたが、猫君の食欲は落ちません。

 絶食歴が長かったですので、栄養価が高い食材をペースト状にしたものを与えています。


「エルフの嬢ちゃんもか? 神子様はハーフエルフだろう?」

「私ですか? お話したことすらありません」


 これは嘘ではありません。

 生憎、鏡越しに自分と会話する癖は持ち合わせていませんから。

 ラーズ君リーゼちゃんも首を横に振ります。

 神子衣装の時には、金髪碧眼のきらびやかな格好をした、トール君の変装天人族さんとしか会話していませんしね。

 神殿では無口な神子を演じ、基本身振りで会話でしたから、声を知る神官は少ないと思われます。


「もし、拝謁の機会に恵まれていたとしたら、何をお聴きになりたかったのですか?」

「あぁ。神子様はシルヴィータ国内の何処かに姿を隠されたようで、騎士団が捜索に駆り出される始末だ。ハーフエルフの少女だと言う情報だけの捜索は難航を極めているらしい」

「つまりは、似顔絵の製作ですか? それこそ畏れ多い行為です。神国の許可なく絵姿を公表すれば、天人族の怒りに触れますよ。ギルド長は、以前の惨劇をご存じないのですか」


 聖女対策に神子の存在を公表した件ですね。

 トール君とアッシュ君に神殿が文字通り潰され、神国の聖王以下聖王候補が軒並み神罰を受けました。

 以降神子の扱いは慎重を期した重要事項になりました。



「だが、神子様を安全に保護できないと騎士が捜索に人手を取られ、街の治安維持に不安が募り、君達も転移門の使用許可が下りないぞ」

「そうなりましたら、地道に歩いて国境を越えるだけです。帰りが遅くなってしまい連絡が途絶えたら、先生が何か手を打ってくれますし」


 過保護気味なトール君の事ですから、後見人様方総出で障害を排除して迎えに来てくださいますね。

 恐らくアッシュ君も監視役の使い魔辺りを潜ませていそうですし。

 それに、幻獣最強種たるリーゼちゃんがいますから、そうそう危機的状況下に陥るとは思われません。

 油断は厳禁ですが、悲観する事案ではないです。


「賢者殿や英雄殿が、暴れないように努めるしか我々にはないか。神子様捜索は騎士団に任せるしかなく、冒険者ギルドは異変解決に重視を置くことになるな」

「その方が良いと思われます。言葉は悪いですが、冒険者ギルドは民間組織です。協力はあっても国の政治には不干渉が理念の筈です。万が一神子様を冒険者ギルドが保護したとしましても、速やかに神国に御帰還頂いた方が、シルヴィータ国の安寧に繋がると思いませんか」

「そうだな」


 誘拐紛いの手段だと市井に情報が、出回ってしまった以上、最善の策はラーズ君の言う通りだと思います。

 本日は豊穣神様へ捧げる儀式を中断されたのですから、彼の女神様はご立腹なわけです。

 シルヴィータの農作物は、不作処か壊滅的な大打撃の未来が、待ち構えていることでしょう。

 それとも、女神様の神罰に触れ、作物の育たない不毛の土地として荒野化してしまいましたら、一体どれ程の死者がでるかわかりません。

 問題はシルヴィータ一国だけでは済まされないです。

 なんだか身震いが出始めてきました。


 みゃーう。


 猫君が慰める様に指先を舐めてくれます。

 リーゼちゃんも抱き寄せてくれました。

 温もりに包まれながら思いますのは、無性に家に帰りたい、そればかりです。


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