第1話
金曜投稿です。
ミラルカに帰宅した翌日。
私はお母さまの聖域に行くのは叶わず、調薬に精を出していました。
フランレティアで大量の魔霊草を入手しましたので、魔力回復ポーションの上級薬の改良に乗り出しました。
お母さまは、正規の手続きではない降臨をしたせいで、大きく体力を消耗されたのです。
聖域にお出ましになるのも無理だと、御使い様に苦言を呈されてしまいました。
直後にお母さまのお叱りが飛びましたが。
疲労回復に私のポーションが効くのか分かりませんが、御使い様に手渡して貰いますようお願いしました。
お叱りを受けた御使い様とは、別の方が承ってくださいました。
トール君はあれからお部屋に籠ってしまいましたので、この事は内緒にしたいと思いました。
ジェス君とエフィちゃんには、内緒と言い含めました。
〔セーラしゃまぁ~。お水はこれでいいでしゅか~〕
エフィちゃんの声に、途切れた集中力を奮い立たせます。
調薬の最中に物思いは駄目でした。
これでは、失敗してしまいます。
「エフィちゃん。ありがとうございます。これ位で良いですよ」
〔はあい、でしゅの~〕
〔薬草は、これでいいの?〕
「ジェス君も、ありがとうございます」
ジェス君とエフィちゃんは、率先してお手伝いを希望してくれました。
トール君があんな状態ですから、二人の召喚獣契約は保留になっています。
まだちびっ子なジェス君とエフィちゃんです。
私の役にたとうと頑張ってくれています。
「調薬をしますから、ジェス君とエフィちゃんは、離れて見ていてくださいね」
〔はあい〕
〔はい、でしゅの~〕
調薬器具が並ぶ机の反対側に、籐篭を置いておきました。
二人は素直に籐篭の中に入りました。
調薬室に入るには、私の言う事を聴かないと入室させないと、言ってあります。
調薬室には危険な器具や、種族差による危ない薬品が有ります。
もしも、怪我などしましたら、お怒りではなくなります。
根気よく説明しましたら、二人も分かってくれました。
良い子達です。
籐篭の端に頭を乗せて、此方を伺う姿に和みます。
さて、気を取り直して調薬です。
魔霊草に上級ポーションの素材となる薬草を混ぜ合わせて、調薬釜で煮込んでいきます。
上手く馴染んでくれるといいのですが。
こればかりは、調薬しないと分かりません。
むむ。
淡い色が、なんとも表現し難い色合いになってきています。
これは、失敗したかな。
ぼふん。
調薬釜が煙を吐き出しました。
〔セーラちゃん?〕
〔セーラしゃまぁ~〕
「大丈夫ですよ。配合率に失敗しただけです」
煙を吹いた調薬釜には、何故か紺碧の万能薬ができあがっていました。
粗熱を冷まして、瓶に淹れていきます。
魔霊草を基準にすると、万能薬が出来上がるのが分かりました。
ならば、霊薬エリキサークラスの万能薬を、目指して見ましょうか。
お母さまの神気で変質した神秘草と混ぜ合わせてみたら、出来そうな気配がしてきました。
神秘草は、生薬と乾燥薬を準備します。
先ずは、生薬をすり鉢で擂り潰していきます。
力仕事は、身体強化を使用すれば苦になりません。
葉脈ごと擂り潰していきます。
次に、練り上げる様に純水を足していきます。
充分に馴染んでいきましたら、濾過紙で濾していき、液体と個体に分けます。
では、魔霊草と液体を調薬釜に淹れて煮込みます。
配合率に気を付けて、混ぜ合わせていきます。
こんな時には、視る能力が有りますのに、助けられます。
紺碧、翡翠、深紅。
次々に名前が変わる薬品名。
私が欲しています名前に、中々辿りつきません。
水晶、黄金、白金。
慎重に液体を加えて煮込むこと二十分余り、漸く先が見えて来ました。
配合率を紙に書いておくのも、忘れてはいません。
何時、必要にかられるか分かりませんから。
ですが、白金から名前が変わる気配がしてこなくなりました。
手強いですよ。
私が目指していますのは、硬貨にもなっています虹晶です。
他にも、追加の薬品が必要ですかね。
アムリタに必須の仙桃でも、淹れてみましょうか。
それとも、別の何かでしょうか。
悩みますね。
ええい。
この際に気になるのを、淹れてみましょう。
〔セーラしゃまぁ~。何だか、煙さんがもくもくでしゅ~〕
〔セーラちゃん。避難して〕
あはは。
淹れ過ぎました。
調薬釜から、有り得ない色合いの煙が沸き出してきてしまいました。
どごっ、ごふん。
「やばやばです」
危機的感情に見舞われました。
素早くジェス君とエフィちゃんが入る籐篭を手に、調薬室を出ました。
〔ア、アッシュ君。助けてー〕
〔アッシュお兄しゃま~。助けてでしゅの~〕
腕の中の二人が、念話で叫びます。
ラーズ君とリーゼちゃんでは、ないところに危機感が現れています。
慌てて調薬室を出ましたので、扉を閉めるのを忘れていました。
リビングにまで、煙が入ってきてしまいました。
「どうした。何があった!」
きちんと、ちびっ子な二人組の叫びを拾いましたアッシュ君の登場です。
さあ、お説教時間の始まりです。
「何だ、この煙は。また、失敗したのか」
〔煙、もくもくなのぅ〕
〔ごふん、ていいましゅた~〕
「ごめんなさい。失敗したかも、です」
呆れた様子でアッシュ君は、窓を全開にしていきます。
私は、籐篭を抱えています。
机に置いたりしたら、二人が泣き出すのは必須ですね。
「まったく、何事かと焦ったぞ」
「うう。ごめんなさい」
「おれが見てくるから、ここにいろよ」
「はい」
アッシュ君が、風魔法を展開しながら、調薬室に入っていきます。
ごふん、ぼふん。
恐い音が響いてきています。
ああ。
白金で止まれば良かったです。
欲を出してしまいました。
白金でも、万能薬では特級クラスでした。
霊薬には一歩及びませんが、魔力過多症の停滞を促してくれます。
虹晶の万能薬は遠いです。
「セーラ」
「はい?」
「一体、何を作ろうとしていた」
「万能薬です」
「……何を淹れた」
「あはは。魔霊草に神秘草に仙桃に、適当に鉱石の粉もぶちこみました」
「本人も分かっていないな」
だって、自棄になっていたのですよ。
アッシュ君はこめかみに手を当てて、嘆息しました。
反対の手には調薬釜が、あります。
調薬釜は然程大きくはありません。
アッシュ君が片手で運べる大きさです。
「調薬で遊ぶな。メルにバレたら大目玉だぞ」
「……はい。ごめんなさい」
「それに、出来上がったモノは没収する」
「はい? 因みに、何が出来上がりましたか?」
問いますと、調薬釜を差し出されました。
からん、と軽い音がしました。
液体ではなく、個体になりましたか?
不思議に思い、釜を覗き込みました。
▽ 神の鉄槌
怒れる神の一撃
裁かれるのは何者か、どんな種族も一撃
死
ほわわ。
アッシュ君に没収される訳です。
危険な物質が出来上りました。
量産などしてしまいましたら、と考えてみるだくでも危険人物に指定されてしまいます。
「レシピは破棄しろ。忘れろよ」
「途中までは、白金の万能薬レシピですが、何を淹れたかは忘れました」
「良し。万能薬は広めていい。が、二度と作るなよ」
「はい。作りません」
何度も念押しして、アッシュ君は釜の中に残る危険物質を回収していきました。
亜空間にでも、しまうのでしょう。
メル先生に知られたらお説教間違いなしです。
暫く、調薬厳禁を言い渡されることでしょう。
どころか、基本の課程を一からやり直しです。
〔セーラちゃあん〕
〔セーラしゃまぁ~。大丈夫でしゅの~〕
〔ジェスとエフィちゃんとで、守るの〕
〔はい、でしゅの~〕
ああ。
ジェス君とエフィちゃんが、肩の上に移動してきました。
すぐに、身体を擦り付けてきてくれます。
慰めてくれるのですね。
身に染みます。
「ありがとうございます。ジェス君。エフィちゃん。さて、お掃除をしなくてはなりませんね」
〔お手伝いする〕
〔しましゅの~〕
「はい。お手伝いお願いします」
アッシュ君が置いていきました調薬釜を抱えて、裏庭に出ます。
水場にてエフィちゃんが、水を出してくれました。
柔らかタワシで内側を擦り、洗っていきます。
ジェス君は器用に前肢で、外側を拭いてくれています。
何度も繰り返して、綺麗になりました調薬釜を天日干しにしました。
今日の天気は快晴です。
すぐに、乾くでしょう。
ですが、もう調薬をする気分ではなくなりました。
お店に卸す分は確保してありますから、ジェス君とエフィちゃんと時間を潰しましょう。
お店番は、リーゼちゃんとラーズ君にセイ少年がいます。
免除されました。
まあ、ジェス君だけでなく、水晶龍のエフィちゃんをお披露目していません。
話題性が有りすぎて、お店に人が殺到してしまいます。
下手をしましたら、また譲れと押し掛けられますね。
入店を制限してありますが、許可証を保持している常連客の皆様にも、迷惑をかけてしまいがねません。
私がお店番をするときには、アッシュ君に預けたら良いのでしょうか。
二人とも、嫌がりそうです。
〔セーラしゃまぁ~。何かお悩みでしゅの~〕
〔お悩み、なあに?〕
私の機嫌の良し悪しに敏感な二人に、悟られました。
嘘を話しても看過されてしまいますね。
「ジェス君は、お店番をしたことありますよね。エフィちゃんをお披露目していませんから、また知らない人が殺到して、話題になってしまうかな、と思案したのですよ」
〔覚えてるよ、ジェス目当てで、お店人が一杯になったの〕
〔エフィ、隠れた方がよいでしゅの~。セーラしゃまと家族以外は嫌でしゅの~〕
エフィちゃんが、首に巻き付いてきました。
水晶龍だけあり、他者の好奇な視線は嫌っているようです。
基本はおおらかな気質な性格のエフィちゃんですが、人見知りは激しそうです。
工房の職人さんを紹介する時点で、多少警戒していましたしね。
水晶龍の素材を欲しがる職人さんがいまして、ジェス君が重力魔法をかましたのは、最近の事です。
恐い笑顔のアッシュ君とリーゼちゃんに、詰め寄られて謝罪していましたけど。
以来、職人さんとは距離をおいています。
「安心してください。エフィちゃんが嫌なら、無理にお披露目はしませんよ。それなら、お店に立つ時はジェス君とお留守番をしていてくださいね」
〔はい、でしゅの~〕
〔ジェス。エフィちゃんのお兄ちゃんだから、エフィちゃんと一緒にお留守番をする〕
ジェス君とエフィちゃんは、聞き分けがよく頷いてくれます。
ポーチにいてくれても良いのですが、トール君に改良をお願いするまでは、リビングにてお留守番です。
あっ、でも。
職人さんが出入りできるリビングだと、エフィちゃんが穏やかに過ごせませんか。
悩みどころですね。
最終的にはアッシュ君の亜空間に預けるか、責任者のトール君にお達しして貰うかですね。
トール君の、速やかな復帰が望ましいです。




