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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
109/197

第1話

金曜投稿です。

 ミラルカに帰宅した翌日。

 私はお母さまの聖域に行くのは叶わず、調薬に精を出していました。

 フランレティアで大量の魔霊草を入手しましたので、魔力(マナ)回復ポーションの上級薬の改良に乗り出しました。

 お母さまは、正規の手続きではない降臨をしたせいで、大きく体力を消耗されたのです。

 聖域にお出ましになるのも無理だと、御使い様に苦言を呈されてしまいました。

 直後にお母さまのお叱りが飛びましたが。

 疲労回復に私のポーションが効くのか分かりませんが、御使い様に手渡して貰いますようお願いしました。

 お叱りを受けた御使い様とは、別の方が承ってくださいました。

 トール君はあれからお部屋に籠ってしまいましたので、この事は内緒にしたいと思いました。

 ジェス君とエフィちゃんには、内緒と言い含めました。


 〔セーラしゃまぁ~。お水はこれでいいでしゅか~〕


 エフィちゃんの声に、途切れた集中力を奮い立たせます。

 調薬の最中に物思いは駄目でした。

 これでは、失敗してしまいます。


「エフィちゃん。ありがとうございます。これ位で良いですよ」

 〔はあい、でしゅの~〕

 〔薬草は、これでいいの?〕

「ジェス君も、ありがとうございます」


 ジェス君とエフィちゃんは、率先してお手伝いを希望してくれました。

 トール君があんな状態ですから、二人の召喚獣契約は保留になっています。

 まだちびっ子なジェス君とエフィちゃんです。

 私の役にたとうと頑張ってくれています。


「調薬をしますから、ジェス君とエフィちゃんは、離れて見ていてくださいね」

 〔はあい〕

 〔はい、でしゅの~〕


 調薬器具が並ぶ机の反対側に、籐篭を置いておきました。

 二人は素直に籐篭の中に入りました。

 調薬室に入るには、私の言う事を聴かないと入室させないと、言ってあります。

 調薬室には危険な器具や、種族差による危ない薬品が有ります。

 もしも、怪我などしましたら、お怒りではなくなります。

 根気よく説明しましたら、二人も分かってくれました。

 良い子達です。

 籐篭の端に頭を乗せて、此方を伺う姿に和みます。

 さて、気を取り直して調薬です。

 魔霊草に上級ポーションの素材となる薬草を混ぜ合わせて、調薬釜で煮込んでいきます。

 上手く馴染んでくれるといいのですが。

 こればかりは、調薬しないと分かりません。

 むむ。

 淡い色が、なんとも表現し難い色合いになってきています。

 これは、失敗したかな。


 ぼふん。


 調薬釜が煙を吐き出しました。


 〔セーラちゃん?〕

 〔セーラしゃまぁ~〕

「大丈夫ですよ。配合率に失敗しただけです」


 煙を吹いた調薬釜には、何故か紺碧の万能薬ができあがっていました。

 粗熱を冷まして、瓶に淹れていきます。

 魔霊草を基準にすると、万能薬が出来上がるのが分かりました。

 ならば、霊薬エリキサークラスの万能薬を、目指して見ましょうか。

 お母さまの神気で変質した神秘草と混ぜ合わせてみたら、出来そうな気配がしてきました。

 神秘草は、生薬と乾燥薬を準備します。

 先ずは、生薬をすり鉢で擂り潰していきます。

 力仕事は、身体強化を使用すれば苦になりません。

 葉脈ごと擂り潰していきます。

 次に、練り上げる様に純水を足していきます。

 充分に馴染んでいきましたら、濾過紙で濾していき、液体と個体に分けます。

 では、魔霊草と液体を調薬釜に淹れて煮込みます。

 配合率に気を付けて、混ぜ合わせていきます。

 こんな時には、視る能力が有りますのに、助けられます。

 紺碧、翡翠、深紅。

 次々に名前が変わる薬品名。

 私が欲しています名前に、中々辿りつきません。

 水晶、黄金、白金。

 慎重に液体を加えて煮込むこと二十分余り、漸く先が見えて来ました。

 配合率を紙に書いておくのも、忘れてはいません。

 何時、必要にかられるか分かりませんから。

 ですが、白金から名前が変わる気配がしてこなくなりました。

 手強いですよ。

 私が目指していますのは、硬貨にもなっています虹晶です。

 他にも、追加の薬品が必要ですかね。

 アムリタに必須の仙桃でも、淹れてみましょうか。

 それとも、別の何かでしょうか。

 悩みますね。

 ええい。

 この際に気になるのを、淹れてみましょう。


 〔セーラしゃまぁ~。何だか、煙さんがもくもくでしゅ~〕

 〔セーラちゃん。避難して〕


 あはは。

 淹れ過ぎました。

 調薬釜から、有り得ない色合いの煙が沸き出してきてしまいました。


 どごっ、ごふん。


「やばやばです」


 危機的感情に見舞われました。

 素早くジェス君とエフィちゃんが入る籐篭を手に、調薬室を出ました。


 〔ア、アッシュ君。助けてー〕

 〔アッシュお兄しゃま~。助けてでしゅの~〕


 腕の中の二人が、念話で叫びます。

 ラーズ君とリーゼちゃんでは、ないところに危機感が現れています。

 慌てて調薬室を出ましたので、扉を閉めるのを忘れていました。

 リビングにまで、煙が入ってきてしまいました。


「どうした。何があった!」


 きちんと、ちびっ子な二人組の叫びを拾いましたアッシュ君の登場です。

 さあ、お説教時間の始まりです。


「何だ、この煙は。また、失敗したのか」

 〔煙、もくもくなのぅ〕

 〔ごふん、ていいましゅた~〕

「ごめんなさい。失敗したかも、です」


 呆れた様子でアッシュ君は、窓を全開にしていきます。

 私は、籐篭を抱えています。

 机に置いたりしたら、二人が泣き出すのは必須ですね。


「まったく、何事かと焦ったぞ」

「うう。ごめんなさい」

「おれが見てくるから、ここにいろよ」

「はい」


 アッシュ君が、風魔法を展開しながら、調薬室に入っていきます。


 ごふん、ぼふん。


 恐い音が響いてきています。

 ああ。

 白金で止まれば良かったです。

 欲を出してしまいました。

 白金でも、万能薬では特級クラスでした。

 霊薬には一歩及びませんが、魔力過多症の停滞を促してくれます。

 虹晶の万能薬は遠いです。


「セーラ」

「はい?」

「一体、何を作ろうとしていた」

「万能薬です」

「……何を淹れた」

「あはは。魔霊草に神秘草に仙桃に、適当に鉱石の粉もぶちこみました」

「本人も分かっていないな」


 だって、自棄になっていたのですよ。

 アッシュ君はこめかみに手を当てて、嘆息しました。

 反対の手には調薬釜が、あります。

 調薬釜は然程大きくはありません。

 アッシュ君が片手で運べる大きさです。


「調薬で遊ぶな。メルにバレたら大目玉だぞ」

「……はい。ごめんなさい」

「それに、出来上がったモノは没収する」

「はい? 因みに、何が出来上がりましたか?」


 問いますと、調薬釜を差し出されました。

 からん、と軽い音がしました。

 液体ではなく、個体になりましたか?

 不思議に思い、釜を覗き込みました。


 ▽  神の鉄槌


 怒れる神の一撃

 裁かれるのは何者か、どんな種族も一撃

 死


 ほわわ。

 アッシュ君に没収される訳です。

 危険な物質が出来上りました。

 量産などしてしまいましたら、と考えてみるだくでも危険人物に指定されてしまいます。


「レシピは破棄しろ。忘れろよ」

「途中までは、白金の万能薬レシピですが、何を淹れたかは忘れました」

「良し。万能薬は広めていい。が、二度と作るなよ」

「はい。作りません」


 何度も念押しして、アッシュ君は釜の中に残る危険物質を回収していきました。

 亜空間にでも、しまうのでしょう。

 メル先生に知られたらお説教間違いなしです。

 暫く、調薬厳禁を言い渡されることでしょう。

 どころか、基本の課程を一からやり直しです。


 〔セーラちゃあん〕

 〔セーラしゃまぁ~。大丈夫でしゅの~〕

 〔ジェスとエフィちゃんとで、守るの〕

 〔はい、でしゅの~〕


 ああ。

 ジェス君とエフィちゃんが、肩の上に移動してきました。

 すぐに、身体を擦り付けてきてくれます。

 慰めてくれるのですね。

 身に染みます。


「ありがとうございます。ジェス君。エフィちゃん。さて、お掃除をしなくてはなりませんね」

 〔お手伝いする〕

 〔しましゅの~〕

「はい。お手伝いお願いします」


 アッシュ君が置いていきました調薬釜を抱えて、裏庭に出ます。

 水場にてエフィちゃんが、水を出してくれました。

 柔らかタワシで内側を擦り、洗っていきます。

 ジェス君は器用に前肢で、外側を拭いてくれています。

 何度も繰り返して、綺麗になりました調薬釜を天日干しにしました。

 今日の天気は快晴です。

 すぐに、乾くでしょう。

 ですが、もう調薬をする気分ではなくなりました。

 お店に卸す分は確保してありますから、ジェス君とエフィちゃんと時間を潰しましょう。

 お店番は、リーゼちゃんとラーズ君にセイ少年がいます。

 免除されました。

 まあ、ジェス君だけでなく、水晶龍(クリスタルドラゴン)のエフィちゃんをお披露目していません。

 話題性が有りすぎて、お店に人が殺到してしまいます。

 下手をしましたら、また譲れと押し掛けられますね。

 入店を制限してありますが、許可証を保持している常連客の皆様にも、迷惑をかけてしまいがねません。

 私がお店番をするときには、アッシュ君に預けたら良いのでしょうか。

 二人とも、嫌がりそうです。


 〔セーラしゃまぁ~。何かお悩みでしゅの~〕

 〔お悩み、なあに?〕


 私の機嫌の良し悪しに敏感な二人に、悟られました。

 嘘を話しても看過されてしまいますね。


「ジェス君は、お店番をしたことありますよね。エフィちゃんをお披露目していませんから、また知らない人が殺到して、話題になってしまうかな、と思案したのですよ」

 〔覚えてるよ、ジェス目当てで、お店人が一杯になったの〕

 〔エフィ、隠れた方がよいでしゅの~。セーラしゃまと家族以外は嫌でしゅの~〕


 エフィちゃんが、首に巻き付いてきました。

 水晶龍だけあり、他者の好奇な視線は嫌っているようです。

 基本はおおらかな気質な性格のエフィちゃんですが、人見知りは激しそうです。

 工房の職人さんを紹介する時点で、多少警戒していましたしね。

 水晶龍の素材を欲しがる職人さんがいまして、ジェス君が重力魔法をかましたのは、最近の事です。

 恐い笑顔のアッシュ君とリーゼちゃんに、詰め寄られて謝罪していましたけど。

 以来、職人さんとは距離をおいています。


「安心してください。エフィちゃんが嫌なら、無理にお披露目はしませんよ。それなら、お店に立つ時はジェス君とお留守番をしていてくださいね」

 〔はい、でしゅの~〕

 〔ジェス。エフィちゃんのお兄ちゃんだから、エフィちゃんと一緒にお留守番をする〕


 ジェス君とエフィちゃんは、聞き分けがよく頷いてくれます。

 ポーチにいてくれても良いのですが、トール君に改良をお願いするまでは、リビングにてお留守番です。

 あっ、でも。

 職人さんが出入りできるリビングだと、エフィちゃんが穏やかに過ごせませんか。

 悩みどころですね。

 最終的にはアッシュ君の亜空間に預けるか、責任者のトール君にお達しして貰うかですね。

 トール君の、速やかな復帰が望ましいです。


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