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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
108/197

第57話

月曜投稿です。

「おかえ、り?」

「お帰りな、さい?」


 あれ以上いましたら、フランレティア王宮はさぞや、混乱したでありましょう。

 王妃の立場を利用しての暴言に、トール君が暴れださないとも限りませんでした。

 フランレティア王宮にいた時期は、王妃からお茶会の招待がひっきり無しでした。

 国王陛下と宰相さんが、内政・外政に勤しんでいましたのに、優雅な生活をしていました。

 国民が飢えで苦しみぬいていた頃も、自分本位の生活をしていたのは、丸わかりです。

 離れられて済々しました。


「セーラとリーゼが着飾る。ラーズもだね。何があったんだい?」


 アッシュ君の転移魔法でミラルカの工房に帰宅したのですが、転移室ではなくリビングに直接転移してしまいました。

 丁度、開店前の時間帯でしたから、ギディオンさんとセイ少年がお茶をしていました。

 アッシュ君。

 また、横着しましたね。

 何の為の転移室ですか。

 急に人が現れて驚かせない様に作られました、転移室の意味が無くなります。


「アッシュ」

「悪い。素で間違えた」


 不機嫌なトール君に、アッシュ君は素直に謝ります。

 ギディオンさんが目を丸くして、トール君を伺います。


「どうしたんだい? フランレティアで何があったんだい?」

「う~。悪い、ちょっくら、頭を冷やしてくる」

「うん。それは、構わないけど」


 トール君は、頭を一掻きして出ていきました。

 理由が分からないギディオンさんは、疑問符だらけです。

 私も少なからず、立腹しています。

 嫌がらせに王妃が口を開かなければ、和やかに済みましたのに。

 国の為に発言したとは思えませんでした。

 真に思えば、賢者の後ろ楯が、どれだけ諸刃の剣になるかは分かりそうです。

 フランレティアは小国です。

 大国に抵抗出来る訳がありません。

 政だけではなく、軍事にも駆り出そうとしていたのでしょう。

 浅はかな考えです。


「王宮で、朝食を頂いたのですが。浅慮な方が、トール先生を怒らせたのです」

「それは、君達を侮辱でもされたのかな。それとも、帝国の様に駒扱いでもされたのかな」

「どちらかと言いますと、駒扱いですね。フランレティアの内政に尽力した先生に、更なる抑止力として働けと言われたのですから」


 ラーズ君が嘆息しました。

 トール君は、無償で食糧提供をし、属国解消まで導きました。

 いくら、お父様の恩返しであろうと、頼りすぎな感が否めませんでした。

 トール君も境界が分からずに、のめり込んでしまったのかもしれません。

 突然、仲違いしたフランレティアと賢者。

 どちらに非があるかは、歴然です。

 ですが、トール君は陰で暗躍するのでしょうね。

 見捨てることは出来ない性分ですから。


「セーラ、着替える。お店、開く」

「リーゼちゃんは、お店に出るつもりですか」

「ん。セイとリック。ギディオンも、休み、してもらう」

「そうですね。休日がなかったでしたね。今日は、僕達が店番をします」


 工房のお店は、七日に一度はお休みします。

 それに、交代で一日休みが振り分けられます。

 実質、週五日勤務です。

 私達がミラルカにいない間は、七日の一度のお休みしか、ギディオンさんにはなかった筈です。

 責任者のトール君とアッシュ君がいませんでしたから、お休みはとれていないと思います。

 そこで、本日は私達がお店番をして、気を休めて貰いましょう。

 ならば、さっさと着替えてしまいましょう。


「セイ。リックと君は本日はお休みです。ギディオンさんとミラルカの観光でもしてください」

「えっ? お休みですか?」

「はい。そうです。リックはどちらにいますか?」

「リックなら、ヒューの付き合いで昨日から出かけているよ。何でも、精霊との対話を教えると言ってた」


 あら。

 でしたら、コヨウの森ですね。

 あの森には精霊の休息場になっていますから、精霊修行には持って来いの場所です。

 きっと、お店の事情も省みずに行きましたね。

 後で、トール君に注意して貰います。

 工房の調薬室に移動して、リーゼちゃんにコルセットを緩めて貰います。

 女の子同士です。

 恥じらいは有りません。

 豪快にドレスを脱いでいきました。

 そういえば、このドレス。

 着用したまま帰宅してしまいした。

 報酬がわりに貰っても良いのでしょうか。

 お洗濯して、アッシュ君に返しに行って貰いましょうか。

 装飾品はリーゼちゃんの所有物ですから、リーゼちゃんに返します。

 何時もの服装に、装飾品をつけましたら、小走りでお店の開店準備をします。

 ラーズ君も、着替えてきていました。

 棚の中のポーション類を補充して、手早く掃除をしていきます。

 上級ポーションのへりが想定していた数を、越えていました。

 手持ちのポーションで代用です。

 後は、軟骨類と耐性薬が品切れ間近でした。

 また、新しい迷宮でも発見されましたかね。

 人食い迷宮は、入宮制限をされています。

 特化型ポーションの在庫は充分に有りました。


「開店しますよ」

「はーい」

「了承」


 ラーズ君の合図で、お店のブラインドが開けられていきます。

 扉の鍵を開けるやいな。

 お客様が雪崩込んできました。


「おおう。やっぱり、嬢ちゃん達のお戻りだ」

「新人の坊やには悪いけどなぁ」

「妖精姫のお出ましだ。ポーション、買いまくるぞ」


 いらっしゃいませ。

 を、言う暇もなく、常連のお客様がカウンターに金貨を置いて注文していきます。

 私が棚からポーションを取りだし、リーゼちゃんがお客様の対応をする。

 ラーズ君は、修理依頼の受け付けをしています。

 ああ。

 この混雑振りに、ミラルカに帰ってきたと実感が沸いてきます。


「上級ポーション品切れです」

「なら、中級でいいや」

「万能薬品切れです」

「耐性薬下さい」

魔力(マナ)ポーション品切れです」

「うわぁ。また、買えなかった」


 悲喜こもごもな悲鳴が沸くお店の賑わいに、セイ少年とリック少年は対応を出来たのか、少し心配しました。

 混雑が解消されましたのは、二時間後のことです。

 私達年少組がお店に復帰している。

 聞き付けたお客様が、後から後から訪れました。

 昼の休憩時間前に、一日の販売数量が終了してしまいました。

 冒険者用のポーション類は完売しましたので、看板を設置しました。

 残された薬品は、日常品の風邪薬等です。


「ん。セーラ、後はやる。浮島、戻って良し」


 はっ。

 リーゼちゃんに言われるまで、浮島の薬草園を思い出しもしませんでした。

 お馬鹿な私です。


「ジェス、エフィ、連れて、行く」


 あっ。

 あの子達もアッシュ君の亜空間に預けっぱなしでした。

 盛大に剥れていることでしょう。


「では、お店番お願いします」


 慌てて、奥の居住区を目指します。

 果たして、アッシュ君はリビングに居ました。

 ギディオンさんとセイ少年を交えて、お話をしていました。

 真面目そうな雰囲気でしたので、セイ少年の帰還のお話でしょうか。

 正直入りにくいです。


「セーラ? 何か用事か」

「お話し中にすみません」


 扉口から覗く私をアッシュ君が見つけました。

 ギディオンさんは笑顔を称えて、セイ少年の頭を撫でていました。

 セイ少年は、泣き出す一歩手前な表情。

 いたたまれません。

 用事は手早く済ませましょう。


「アッシュ君。ジェス君とエフィちゃんを引き取りに来ました」

「ああ。忘れていたな」


 アッシュ君が掌を上に向けます。

 時期に魔法陣が浮かび上がり、掌に向かって藍色の毛並みのジェス君と、光に乱反射する鱗のエフィちゃんが、落ちて来ました。


 〔セーラちゃあん〕

 〔セーラしゃまぁ〕

 〔〔ひどい、でしゅ~〕〕


 はい。

 ごめんなさい。

 謝りますから、静かにしましょう。

 空を翔べるエフィちゃんがジェス君を抱えて、私に向かって翔んできます。

 ジェス君の重力魔法で重さを軽くしている模様です。

 辿り着いたジェス君とエフィちゃんは、定位置に成りつつあります肩の上に収まります。


「お騒がせしました。では、失礼します」


 微妙な空気に包まれたリビングを出ます。

 アッシュ君は苦笑して頷いていました。

 セイ少年も私がいたら、泣けないですからね。

 退散です。


 〔セーラしゃまぁ~。何処にいかれるのでしゅか~〕

「転移室経由で浮島に行きます。薬草園の手入れをしないといけないのですよ」

 〔エフィちゃん。セーラちゃんは、調薬師なんだって、お薬の素材になる薬草を育てているんだよ〕

 〔ほえ~。しょうなのでしゅか~〕


 少しだけ先輩のジェス君が、エフィちゃんに説明しています。

 末子がエフィちゃんになりましたから、お兄ちゃんですね。

 最初の出会いこそ仲が悪かったですが、亜空間にて仲が良好になってくれていました。

 喧嘩三昧になってなくて良かったです。

 転移室に着きましたら、ヒップバッグから転移用の魔導具の鍵を取り出します。

 転移陣の上に乗りまして、鍵を掲げます。


「【転移、浮島エスト】」


 起動の言葉を発すると、鍵と転移陣が輝いて、転移が始まります。

 数回瞬きを繰り返しますと、浮島の転移室に移動していました。


「さあ、頑張りますよ」

 〔お手伝いしましゅ~〕

 〔ジェス、出来ない〕

「ジェス君とエフィちゃんは、遊んでいてくださいね。希少な薬草は、手入れが大変なのです。手順を間違えたしまいましたら、すぐに枯れてしまいのです」


 張り切るエフィちゃんには悪いですが、少し大袈裟に誇張してみました。

 エフィちゃんの属性は基本の四大属性と派生の二属性に聖属性です。

 水晶龍は属性を取得しやすい傾向にあります。

 孵ったばかりのエフィちゃんが、薬草園の手入れで樹属性を取得しないとも言えません。

 幼いうちの属性取得は、出来るだけ抑えて成長させて欲しいと水竜にお願いされています。

 親の願い事です。

 聴かない訳にはいきません。


 〔はあい、でしゅの~。セーラしゃまの、大事な薬草は触らないでしゅの~〕

 〔なら、日向ぼっこする〕

 〔はい、でしゅの~〕


 日当たりが良いベンチに、ジェス君用の籐篭が置いてあります。

 ジェス君とエフィちゃんは、篭の中で身を寄せあい、一眠りです。

 では、私は心置きなく、手入れに勤しみます。

 先ずは、上級ポーションの素材となる希少な薬草から始めましょう。

 温室に入りますと、僅かながら神気の気配がしました。

 お母さま?

 豊穣のお母さまの神気です。


「薬草、元気ですね」


 思わず一人言を呟いていました。

 一つ採取して、鑑定してみます。


 ▽  神秘草


 神気が、宿った薬草

 霊薬、アムリタの原材料


 お母さま。

 希少な薬草が変質してしまっているでは、ありませんか。

 上級ポーションの素材となる薬草が、霊薬アムリタの原材料に。

 浮島にあっては良い薬草ではありませんよ。

 一畝の薬草が変質して、残りの畝は大丈夫でした。

 この薬草は、どうしたら良いのでしょうか。

 素直に、喜べばいいのかわかりません。

 ならば、お母さまの元へ突撃です。




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