第56話
金曜投稿です。
翌朝。
またしても、フランレティア国王との朝餐が、セッティングされました。
迷惑料がわりに、またもやドレスに着替える羽目になりました。
目覚めたら、にこやかな女官長さんと女官さんが、ずらりと並んでいて、逃れられないのを悟りました。
今回は、男の子側も衣装が間に合いまして、絶賛お着替え中とのことでした。
ラーズ君の念話では、我慢の極致に至ると、諦めた言葉が届きました。
ですが、私とリーゼちゃんが、コルセットに苦しめられていますのに、アッシュ君だけは自前の衣装で免れた様子だとのことでした。
なんですと。
大人は狡い。
盛大に念話で愚痴りました。
そうしましたら、手持ちの衣装が一級品の衣装で、逆に用意された衣装が霞んでしまった。
ラーズ君は疲れた様子で、実況中継をしてくれました。
あちらも、大変賑やかにお着替えをしているみたいです。
対して私は、ドレスに着せられた感がなきにしもあらず。
私は、翡翠のグラデーションが見事なドレス。
リーゼちゃんは、青銀の生地に右腰に純白な薔薇が装飾されたドレス。
抜群なスタイルのリーゼちゃんには、似合っていました。
さて、お飾りには、リーゼちゃんが張り切りました。
自分の空間収納から、装飾品を取り出して、私を飾ります。
常時着けている髪飾りを外して、大粒なピンクサファイヤを嵌め込んだ、サークレットを装着されました。
国王陛下に合うのに、サークレットはドレスコードに引っ掛りませんか?
髪を複雑に結い上げられます。
前回、女官さんにされるがままでしたが、今回はリーゼちゃんが私を着飾るお手伝いをしてくれています。
腕輪と指輪はそのまま外しはしません。
この対の二品は万が一にも、盗まれたりした場合、リーゼちゃんが大暴れすること間違いなしです。
「出来た」
「リーゼちゃん、ありがとうございます。でも、リーゼちゃんが着飾る時間がなさそうですよ」
「わたしは、これがある」
リーゼちゃんが取り出したのは、竜鱗で出来た髪飾りと、腕輪。
リーゼちゃん自身の鱗ではないですね。
淡い水色と深い翠色の装飾品。
「両親の形見」
ああ。
成る程、分かりました。
トール君が形見で何かを作製したのは知っていました。
この二品がそうでしたか。
では、嵌め込まれている虹色に輝く宝石は竜心玉でしたか。
リーゼちゃんが、この二品で着飾るのは、初めて見ます。
リーゼちゃんを守るご両親の魔力が、暖かく包んでいました。
「あの、勘違い王妃に対抗」
「王妃様の対抗ですか?」
「そう、朝餐に出てくる。自分の依頼を放棄した罰で、嫌味位ならいい。装飾品、寄越せと言わせる」
女官長さんの表情を伺いますと、しっかりと頷いていました。
「妃殿下は、美容には煩い方です。あてにしていました希少な薬剤を、手に入らないでいたのを、大変悔しがっておられました」
希少な薬剤ですか。
それは、エルフの生き血ですとは、言えませんね。
発覚したら、王妃の資質に問題が有りと判断されて、離縁もあり得るのではないかと。
「朝食の席に同席をされるのですか?」
「はい。表向きは、皆さま方を労うと仰っておられますが。宰相閣下も同席致しますから、面と向かって取り沙汰はしないと思われます」
「でも、嫌味は有りそう」
「……かと」
何だか、王妃様は面倒くさい性格をされていますね。
お子様思考の私には、理解不能です。
他者の生き血を糧に美醜を保ちましても、一時凌ぎにしかならないと思いますよ。
「セーラは、まだお化粧には興味ない。でも、年頃になったら、分かるかも」
「ですが、人様に迷惑を掛けないやり方で、自作しそうです」
「ん。セーラの作るハンドクリームは、手放せない」
リーゼちゃん愛用のハンドクリームを、王妃様の美容液と置き換えてみます。
うん。
多少は理解できたかなあ。
でも、リーゼちゃんは対価を支払ってくれますし、素材収集にも付き合ってくれます。
王妃様は、ただ座して待っているだけ。
放置一択です。
今日が終われば、フランレティアともお付き合いがなくなります。
最後に、王妃様の嫌味があろうが、縁は消えます。
何とか、耐えて見せましょう。
「男性側のお仕度が終わりました」
「では、此方にご案内を」
「畏まりました」
意気込んでみましたら、彼方も準備が終わったようです。
男性人が現れました。
「おっ。美人さんになったな」
「トール君? 何時の間にフランレティアに来ていました」
「つい、さっき。アッシュに呼ばれた」
白を基調とした天人族の盛装に着替えたトール君がいました。
アッシュ君は、相変わらずに黒と紫紺を基調とした衣装。
ラーズ君は、藍色の上着とスラックス。
まったく、色の統一感がありません。
でも、看過できないのが一点あります。
「ラーズ君。誰にブラッシングをされたのですか」
「合うなり、それですか」
「だって、最近はブラッシングさせてくれないではないですか」
ラーズ君の魅惑な尻尾が、ふかふかです。
自分では届かない場所もありますから、ラーズ君が自分でしたとは思いません。
悔しいです。
最近は、ジェス君しかブラッシンク出来ていません。
むう。
膨れていますと、トール君に頬を潰されました。
「安心しろ。俺がやった」
「先生に、強制的にされました」
それぞれ、教えてくれました。
トール君は、握り拳の親指を立て、ラーズ君は肩を落としています。
さぞや、楽しかったことでしょう。
癒しの時間が、奪われたことには違いがありません。
「では、朝餐の間にご案内を致します」
和やかではない雰囲気に、女官長さんが助け舟を出しました。
そうですね。
国王ご一家をお待たせしたら駄目ですよね。
身分で言いますと、私達は平民ですから、先に着席をしないといけません。
国王陛下は差別意識が薄い方でしたが、王妃様は依頼を放棄した件で恨まれていそうです。
話題を提供するのは、止めた方が良さそうです。
案内された食堂は、前回王妃様に招待された食堂とは違っていました。
落ち着いた暖色系の壁紙と、豪華過ぎない調度品が配置されていました。
席には宰相さんが、既に着いていました。
「お待たせして、申し訳ない」
私達を代表してトール君が、宰相さんに声をかけます。
カーテーシーでしたでしょうか。
貴族令嬢がするお辞儀を期待しないで頂きます。
無難に頭を下げました。
「いえ。お嬢様方の身形が整うのに、時間はかかります。本日も、可愛いらしい出で立ちで、賢者殿も鼻が高いことでしょう」
席に着くなり、宰相さんは私とリーゼちゃんを、誉めてくれました。
私はリーゼちゃんに着飾られました。
リーゼちゃんに、後でお礼を言わなければ。
「確かに、女の子は飾りがいがあるな。だが、今日は一段と美人さんになっていて、驚いた」
「そうでしょうな。女の子の成長はあっと言う間で、綺麗になっていきます」
「つい、この前まではやんちゃなお子様だったが。月日の流れは早いもんだ」
トール君は、和やかに宰相さんと会話しています。
アッシュ君とリーゼちゃんは、我れ関せずに飲み物に手をつけています。
ラーズ君は、耳が動いています。
外の音を拾っていますね。
私は、上座に近いので緊張しています。
「申し訳ない。待たせたな」
国王陛下の登場に、全員が席を立ちました。
これ位の礼儀作法は習っています。
陛下と王妃様が着席を促し、席に腰をおろします。
「本来なら、昨夜に晩餐を設けるべきであったが、赦されよ。数年振りに、王太子の病が癒えた。これも、妖精姫殿のお陰である。感謝する」
「勿体無いお言葉、有り難く受け止めます」
一礼します。
ああ。
王妃様に、睨まれています。
国王の依頼は完遂したのに、何故自分の依頼を放棄したのか、根に持っていますね。
国王陛下は、華麗に無視を決め込んでいます。
食事の配膳が始まりました。
給仕の人員のなかに、女官長さんが混じっていました。
主に、私とアッシュ君を担当しています。
何かを、警戒している様子です。
王妃様の、悪戯かな。
他愛ない会話が進んでいきます。
遺跡での、やり取りや豊穣の神子の話。
適度に相槌を挟み、食事も終わろうかという時に、トール君が切り出しました。
「帝国と勇者教は、聖女と勇者の認定が誤りであったと、近々宣言する様子だ。邪神が実りの女神であった事態を収拾する為の、生け贄に選ばれたな」
「それは、少し時期尚早な気が致します」
「実際に、帝国騎士のルーカス=ハーヴェイが、封印されていた実りの女神の聖者に選ばれた。聖女から聖者に乗り換えるのだろう。今回の後始末に、聖女の兄であった伯爵を見せしめに処断した。宗教裁判に掛けられて、処刑が待っている」
神子を手にいれて、皇帝になると高らかに宣言していましたし、皇位簒奪を狙っていましたから、当然の成り行きです。
トール君は続けます。
帝国の守護神ニ柱が神格を剥奪された。
これは、上位神によって定められました。
消滅寸前まで、神力を奪い、召喚された勇者の送還に尽力を尽くすと言質を頂きました。
但し、勇者の魂は此方の世界に定着してしまっているので、暫くは送還出来ないそうです。
セイ少年の事は秘密ですから、彼も待機をしないといけないのでしょうか。
その、地位を剥奪されました勇者と聖女な身柄を廻り、実りの女神が神罰を下して聖者預かりになったそうです。
死神さんは気に掛けていましたので、丁度よい処に収まった気がします。
そして、本題なのが、フランレティアの属国解消です。
邪神の民だと蔑み、食糧の輸出を止めた帝国。
蓋を開けて見ましたら、封印されていたのは、実りの女神。
帝国の自称実りの女神は、神格を落とされ守護神になれなくなりました。
帝国としましても、実りの女神に見放される訳にはいきません。
苦渋の決断で、フランレティアの属国扱いはなくなり、対等な国としてバカ高い関税も撤廃して輸出を再開するとの事です。
これに、喜びました国王陛下と宰相さんは、朝食後に会議を開く旨を通達しました。
良かったです。
トール君のお父様も、心残りがなくなりましたので、安らかにお眠りになると思います。
「まあ、まだまだ霊鋼を狙っているだろうが。当代皇帝の代は大人しくするだろう」
「それでは、困ります。悠久な平穏が望めません」
「王妃、止めよ」
やっと、王妃様が口を挟んできました。
国王陛下が止めましたが、鬱憤を晴らすかの様に言葉を重ねます。
「陛下は、これで安心ですか? 賢者が去れば、帝国はまた無茶を呈して来るだけでは、有りませんか。賢者には、後ろ楯になってもらい、帝国への抑止力に尽力をして頂かねばなりません」
「黙れ、勘違いするんじゃねぇぞ」
「黙りません。もう一度、神子を招聘して、我が国の……」
「黙れ‼ 誰ぞ、王妃を連れ去れ。自室に監禁しろ」
国王陛下の命令に、護衛の騎士が動きました。
煩く喚く王妃を連れ出して行きます。
「王妃が申し訳ない。これ以上は王妃に賛同する輩も出てこよう。食事の途中であるが、お帰り頂いた方が良さそうだ」
「そうだな。俺も、深入りし過ぎた。謝罪する。だが、相談は受け付ける。ミラルカに連絡してくれ」
「はい。霊鋼の一件は、誤報であったとして、鉱山は閉ざします」
「賢者殿を政に関わらせた。我等の無知をお許し下さい」
国王陛下と宰相さんが、頭を下げられます。
最後の最後で、問題が発覚してしまいました。
賢者が政に関わると、内情に問題が起こる。
リスク無くしては、関わらない。
と、世間に広まれば、賢者の招聘が鳴り止むかもしれません。
暫くは、煩く言われるかもですが、トール君も平穏を望みます。
これで、良かったと思いましょう。
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