第55話
水曜投稿です。
「リーゼちゃん。説明をお願いいたします」
「ん。見て、分かる通り」
水竜は意気揚々と別れを惜しまずに、私をフランレティア王宮に戻しました。
右肩にジェス君と、左肩にエフィちゃんを乗せた私は、リーゼちゃんを視線に映すやいな、詰め寄りました。
が、安定なリーゼちゃんは、終始落ち着いています。
その、冷静さが憎いです。
「ぐぬぬ。もっと、詳しくお願いします」
「ん。セーラの召喚獣、増えて、守りが厚くなる」
「リーゼちゃんは、エフィちゃんをいつ召喚獣となると、分かったのです?」
「? 兄さんが取り戻して、すぐ。エフィが叫んでいた」
〔はい、でしゅの~。セーラしゃまと、すぐにわかりましゅたの~〕
エフィちゃんが卵の状態から、私の召喚獣になると理解していたのですか。
竜族ならではの、同調でしょうか。
なら、水竜に卵を返す前に、相談してくれても良かったのではと、思いました。
「最初、空耳かと思った。卵を返してから、叫びが大きくなった。兄さんに、相談した。兄さん、放っておけ、言った」
リーゼちゃんが、首を傾げて説明してくれます。
犯人は、アッシュ君でしたか。
きっと、面倒くさがりましたね。
転移魔法を邪魔されるまで、忘れていたに違いがありません。
このまま、男の子部屋に突撃していいですか。
ラーズ君に問い合わせてみます。
〔ラーズ君。ラーズ君。アッシュ君は、起きていますか〕
〔……兄さんなら、仏頂面でお酒を嗜んでいますが。セーラ。押し掛け召喚獣とやらは、意思が通じるのですか?〕
押し掛け召喚獣。
むう。
私の身に起きた出来事は把握していましたね。
助け舟を出してくれても、良いではなかったかと。
水竜は、我が子の呆気ない別れに、苦笑していましたよ。
自立心が旺盛なエフィちゃんを、不安気に送り出していました。
兄妹も、一人姿が違う末子を案じていました。
けれども、エフィちゃんは、私と契約して巣を出ていく気が満載でした。
〔水竜のお子様なエフィちゃんは、絶滅危惧種の水晶龍でした。水竜が言いますには、世界神の加護を有しているそうです。そして、ジェス君まで、契約すると言い出しています。どうしたら、良いのでしょうか〕
〔はあ? ちょっと待っててください。兄さんを連れ出します〕
慌てますよね。
私にも、訳がわからない位なのですから。
状況を把握しているリーゼちゃんは、説明を省いていますし、エフィちゃんが召喚獣になりますのを、歓迎しています。
ジェス君まで契約をと言い出しているのは、理解していないと思います。
今、ジェス君とエフィちゃんは、私から離れたがりません。
もふもふとすべすべな感触が、頬に触れています。
ラーズ君とアッシュ君の登場を切に願います。
「? ラーズと兄さん。レディの部屋に、何用?」
「何用も、ありません。セーラの押し掛け召喚獣の事です」
ラーズ君とアッシュ君が、転移魔法で女の子部屋に現れました。
あのう。
扉の存在を忘れないでくださいな。
〔うきゃ。魔人族でしゅの~。セーラしゃまから、エフィは離れません~〕
何故か、アッシュ君を見たエフィちゃんは、私の首に巻き付きました。
小さな爪が肌に当たります。
〔いやぁでしゅの~。エフィは、セーラしゃまの、召喚獣になるでしゅの~〕
「兄さん。何故に、恐がられていませんか?」
「ああ。卵の状態の時に、少し威圧した。煩く、セーラを呼んでいたからな」
「では。兄さんは、この子がセーラの召喚獣になると理解していたのですか?」
「それは、私も気になります」
片手を挙げて、ラーズ君に同意します。
エフィちゃんは震えて、益々爪が肌に食い込みました。
「エフィ。セーラを傷つけてる」
リーゼちゃんに指摘されたエフィちゃんは、首から離れて胸元に移動しました。
震えは止まりません。
水晶の鱗が、気分に併せて曇っていきます。
アッシュ君に、どれだけ威圧されたのでしょうか。
可哀想になってきました。
ひんやりと冷たい鱗を撫でます。
〔セーラしゃまあ~〕
〔アッシュ君。弱いもの苛めは駄目〕
エフィちゃんの恐がり具合に、張り合っていましたジェス君も嗜めます。
アッシュ君は、肩を竦めて威圧を出さない様にしてくれました。
「あー。何を説明するかな。以前にだな、指摘をされたのが、最初か。セーラの召喚獣を増やして守護を厚めにせよと、じい様に言われた」
「神族のお祖父様がですか? 私を気にかける何事か、ありましたっけ」
「帝国の動向と、世界神の寝言がな。どうやら、神国の召喚者が、帝国の聖女以上にお花畑な思考をしているらしい。神国の悲願たる魔王討伐を示唆している」
神国と魔王様の間には、非戦条約が交わされています。
人族至情主義を貫く帝国とは、只今休戦状態です。
魔王様は、人間同士の争いには加担しません。
帝国と神国がどうなろうが、魔王領が平穏であろうと努めておいでです。
ただし、差別され、排斥されています弱小種族を保護する場合には、その威を振り翳すのに躊躇いはありません。
ここで、おさらいです。
私達が暮らす大陸は、海側に人族の国々があり、内陸部に行くほど、人族が暮らしにくい土地があります。
魔素溜りが発生しやすく、浄化が追い付かない土地は、敬遠されがちです。
魔王領は、そうした土地を多く所有しています。
種族に合った土地改造をして、保護区を作り出しています。
それが、人族には魅力的な土地に早変りしているのです。
人族が放棄した土地を、態々所有宣言して土地改造をしたのに、後から手を伸ばして来るのが人族の業です。
二代前の魔王様の時代は、戦乱の嵐であったそうです。
魔王様を邪悪と判断した神国の神王と、おこぼれを狙った帝国と戦火の灯火があがりました。
人族の勇者に、魔王様は狙われる日々を送っておられました。
勿論、人族が魔族に敵う訳がありませんでした。
神の加護を受けているのは、人族だけではありません。
魔王様とて、加護をお持ちでした。
膠着状態に陥りました大陸は、荒れに荒れたのは言うまでもありません。
そこで、神殺しと最凶な英雄様の名が大陸を席巻しました。
トール君も合流して、争いは休戦となりました。
また、その戦乱が起こると言うのでしょうか。
世界神様は、私が巻き込まれると託宣されたのでしょうか。
「帝国は、新たな聖者の誕生で揺れている。元々、帝国に反抗して勇者召喚をやらかした神国だ。次は、自国の勇者を旗頭に帝国を出し抜く腹づもりだろうな」
「それで、魔王討伐ですか。神国の守護神と魔王領の守護神は同位の階級ですよね」
「ああ。神託は降りてはいない。勝手に捏造したようだ」
神託の捏造してまで、強欲な人族は富を手に入れたがりますか。
横暴さに憤りを感じます。
「召喚者は三人だ。其々、派閥の代表格に取り込まれかけている。当初は、警戒していたそうだがな。真名を知られて、良い操り人形になったと、ジークから情報が来た」
「メル先生とジークさんは、神国入りをしたのですか。僕達向けの、人質になり得ませんか」
「それは、ないな。お前達ならいざ知らず、メルとジークだ。魑魅魍魎相手に手はうってあるさ」
「ん。伯父さま、盗賊紛いな神兵、蹴散らしてる」
あはは。
ジークさんなら、やりそうです。
メル先生も、錬金術で作製した爆弾を、ばらまいていそうです。
でも、よく神国から情報が流出出来ましたね。
アッシュ君の使い魔は、派遣してはいないです。
神国では、使い魔は酷く目に付きやすい結界があります。
単身では、情報を集めることは出来ないですよ。
「情報、精霊が運ぶ」
悩んでいましたら、リーゼちゃんが答えを教えてくれました。
成る程。
精霊なら、結界は機能しないですね。
神国の守護結界は、神力と精霊術の複雑は複合型です。
精霊を排除してしまいますと、成り立たなくなります。
それに、幻獣種最強な竜族は、上級な精霊術を行使できますから、風の精霊を使役するのは簡単です。
「神王は永くはもたない。宗教の頭がいなくなると、権力争いが勃発するのは間近だ。今回、妖精姫が神子ではないと払拭出来たが、疑いを完全には晴らせてはいないだろう。もしや、と考える馬鹿は何処にでもいる。守護を厚くと、訴える世界神とじい様には、賛同出来る。出来るが……」
時期が速すぎた感が否めません。
エフィちゃんは、孵ったばかりです。
ジェス君とて、まだ幼い子です。
「はあ。ミラルカに戻ると、真っ先にトールに召喚具を新調して貰うか」
〔エフィは、離れましぇんよ?〕
〔ジェスも、一番はジェスだからね〕
「残念ですが、ジェスは六番目です。一番はリーゼですからね」
はい、そうです。
一柱目は、リーゼちゃん。
二柱目が、ラーズ君。
三柱目が、白い騎士。
四柱目が、黒い騎士。
五柱目が、一つ眼。
と、言う順番で契約しました。
忘れてはいけません。
リーゼちゃんとラーズ君は召喚獣なのです。
〔ほええ。ラーズ君とリーゼちゃんに負けたぁ。でも、エフィちゃんには負けない〕
〔エフィは、順番はきにしましぇん~。セーラしゃまの、召喚獣になれれば、いいのでしゅ~〕
幼い子供特有の対抗心に芽生えたジェス君ですが、エフィちゃんはリーゼちゃんと違ったマイペース振りです。
召喚獣ではなく、またまた家族が増えた様ですね。
ジェス君が、末子ではなくなりました。
お兄ちゃんになったのです。
そうしましたら、兄妹仲良しですよ。
「ジェス、エフィと仲良しする。出来ないと、セーラの召喚獣には、なれない」
〔にゃんで?〕
真剣な声音のリーゼちゃんに、ジェス君は差し出された掌に乗りました。
目線を合わせたリーゼちゃんは、召喚獣の心得を説いています。
「ジェス。ただ、セーラに甘えたいなら、契約駄目。契約無くても、家族にはなれる」
〔うー。駄目。ジェス、約束したの。セーラちゃんに甘えるだけは、駄目。幸で満たすの。邪魔するの、やっつける〕
「どうやって? ジェスは幼い。能力は未知数だけど、今は弱い。ジェスが戦闘したら、セーラに隙が生まれるのは、確実」
〔うー。はい。リーゼちゃんの言う通り、ジェス弱い〕
「弱いと認めるのは、いい事。だから、ジェスはやっつけるではなく、守りを固めるのが、最適。違い、分かる?」
〔にゃんとにゃく、分かる〕
〔エフィも、分かるでしゅ~。切磋琢磨して、頑張るでしゅの~〕
ふよふよと、エフィちゃんは、胸元を離れてジェス君と並びました。
項垂れるジェス君を慰めるエフィちゃん。
おおらかさがジェス君を宥めています。
〔エフィちゃん。ごめんなさい〕
〔はい、でしゅの~。仲直りでしゅの~〕
後には引きづらないエフィちゃんが、前肢をジェス君に絡めます。
その、仕草に何処か遠くの記憶が呼び覚まされそうです。
私達も、よく喧嘩をしました。
自分にはない長所を羨んだものです。
黒歴史を思い出させるやり取りに、耳が痒いです。
ラーズ君も、顰めっつらでした。
取り敢えず、召喚獣の契約は保留になりました。
トール君も交えて、今一度吟味したいと思います。
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