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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
106/197

第55話

水曜投稿です。

「リーゼちゃん。説明をお願いいたします」

「ん。見て、分かる通り」


 水竜は意気揚々と別れを惜しまずに、私をフランレティア王宮に戻しました。

 右肩にジェス君と、左肩にエフィちゃんを乗せた私は、リーゼちゃんを視線に映すやいな、詰め寄りました。

 が、安定なリーゼちゃんは、終始落ち着いています。

 その、冷静さが憎いです。


「ぐぬぬ。もっと、詳しくお願いします」

「ん。セーラの召喚獣、増えて、守りが厚くなる」

「リーゼちゃんは、エフィちゃんをいつ召喚獣となると、分かったのです?」

「? 兄さんが取り戻して、すぐ。エフィが叫んでいた」

 〔はい、でしゅの~。セーラしゃまと、すぐにわかりましゅたの~〕


 エフィちゃんが卵の状態から、私の召喚獣になると理解していたのですか。

 竜族ならではの、同調でしょうか。

 なら、水竜に卵を返す前に、相談してくれても良かったのではと、思いました。


「最初、空耳かと思った。卵を返してから、叫びが大きくなった。兄さんに、相談した。兄さん、放っておけ、言った」


 リーゼちゃんが、首を傾げて説明してくれます。

 犯人は、アッシュ君でしたか。

 きっと、面倒くさがりましたね。

 転移魔法を邪魔されるまで、忘れていたに違いがありません。

 このまま、男の子部屋に突撃していいですか。

 ラーズ君に問い合わせてみます。


 〔ラーズ君。ラーズ君。アッシュ君は、起きていますか〕

 〔……兄さんなら、仏頂面でお酒を嗜んでいますが。セーラ。押し掛け召喚獣とやらは、意思が通じるのですか?〕


 押し掛け召喚獣。

 むう。

 私の身に起きた出来事は把握していましたね。

 助け舟を出してくれても、良いではなかったかと。

 水竜は、我が子の呆気ない別れに、苦笑していましたよ。

 自立心が旺盛なエフィちゃんを、不安気に送り出していました。

 兄妹も、一人姿が違う末子を案じていました。

 けれども、エフィちゃんは、私と契約して巣を出ていく気が満載でした。


 〔水竜のお子様なエフィちゃんは、絶滅危惧種の水晶龍(クリスタルドラゴン)でした。水竜が言いますには、世界神の加護を有しているそうです。そして、ジェス君まで、契約すると言い出しています。どうしたら、良いのでしょうか〕

 〔はあ? ちょっと待っててください。兄さんを連れ出します〕


 慌てますよね。

 私にも、訳がわからない位なのですから。

 状況を把握しているリーゼちゃんは、説明を省いていますし、エフィちゃんが召喚獣になりますのを、歓迎しています。

 ジェス君まで契約をと言い出しているのは、理解していないと思います。

 今、ジェス君とエフィちゃんは、私から離れたがりません。

 もふもふとすべすべな感触が、頬に触れています。

 ラーズ君とアッシュ君の登場を切に願います。


「? ラーズと兄さん。レディの部屋に、何用?」

「何用も、ありません。セーラの押し掛け召喚獣の事です」


 ラーズ君とアッシュ君が、転移魔法で女の子部屋に現れました。

 あのう。

 扉の存在を忘れないでくださいな。


 〔うきゃ。魔人族でしゅの~。セーラしゃまから、エフィは離れません~〕


 何故か、アッシュ君を見たエフィちゃんは、私の首に巻き付きました。

 小さな爪が肌に当たります。


 〔いやぁでしゅの~。エフィは、セーラしゃまの、召喚獣になるでしゅの~〕

「兄さん。何故に、恐がられていませんか?」

「ああ。卵の状態の時に、少し威圧した。煩く、セーラを呼んでいたからな」

「では。兄さんは、この子がセーラの召喚獣になると理解していたのですか?」

「それは、私も気になります」


 片手を挙げて、ラーズ君に同意します。

 エフィちゃんは震えて、益々爪が肌に食い込みました。


「エフィ。セーラを傷つけてる」


 リーゼちゃんに指摘されたエフィちゃんは、首から離れて胸元に移動しました。

 震えは止まりません。

 水晶の鱗が、気分に併せて曇っていきます。

 アッシュ君に、どれだけ威圧されたのでしょうか。

 可哀想になってきました。

 ひんやりと冷たい鱗を撫でます。


 〔セーラしゃまあ~〕

 〔アッシュ君。弱いもの苛めは駄目〕


 エフィちゃんの恐がり具合に、張り合っていましたジェス君も嗜めます。

 アッシュ君は、肩を竦めて威圧を出さない様にしてくれました。


「あー。何を説明するかな。以前にだな、指摘をされたのが、最初か。セーラの召喚獣を増やして守護を厚めにせよと、じい様に言われた」

「神族のお祖父様がですか? 私を気にかける何事か、ありましたっけ」

「帝国の動向と、世界神の寝言がな。どうやら、神国の召喚者が、帝国の聖女以上にお花畑な思考をしているらしい。神国の悲願たる魔王討伐を示唆している」


 神国と魔王様の間には、非戦条約が交わされています。

 人族至情主義を貫く帝国とは、只今休戦状態です。

 魔王様は、人間同士の争いには加担しません。

 帝国と神国がどうなろうが、魔王領が平穏であろうと努めておいでです。

 ただし、差別され、排斥されています弱小種族を保護する場合には、その威を振り翳すのに躊躇いはありません。

 ここで、おさらいです。

 私達が暮らす大陸は、海側に人族の国々があり、内陸部に行くほど、人族が暮らしにくい土地があります。

 魔素溜りが発生しやすく、浄化が追い付かない土地は、敬遠されがちです。

 魔王領は、そうした土地を多く所有しています。

 種族に合った土地改造をして、保護区を作り出しています。

 それが、人族には魅力的な土地に早変りしているのです。

 人族が放棄した土地を、態々所有宣言して土地改造をしたのに、後から手を伸ばして来るのが人族の業です。

 二代前の魔王様の時代は、戦乱の嵐であったそうです。

 魔王様を邪悪と判断した神国の神王と、おこぼれを狙った帝国と戦火の灯火があがりました。

 人族の勇者に、魔王様は狙われる日々を送っておられました。

 勿論、人族が魔族に敵う訳がありませんでした。

 神の加護を受けているのは、人族だけではありません。

 魔王様とて、加護をお持ちでした。

 膠着状態に陥りました大陸は、荒れに荒れたのは言うまでもありません。

 そこで、神殺しと最凶な英雄様の名が大陸を席巻しました。

 トール君も合流して、争いは休戦となりました。

 また、その戦乱が起こると言うのでしょうか。

 世界神様は、私が巻き込まれると託宣されたのでしょうか。


「帝国は、新たな聖者の誕生で揺れている。元々、帝国に反抗して勇者召喚をやらかした神国だ。次は、自国の勇者を旗頭に帝国を出し抜く腹づもりだろうな」

「それで、魔王討伐ですか。神国の守護神と魔王領の守護神は同位の階級ですよね」

「ああ。神託は降りてはいない。勝手に捏造したようだ」


 神託の捏造してまで、強欲な人族は富を手に入れたがりますか。

 横暴さに憤りを感じます。


「召喚者は三人だ。其々、派閥の代表格に取り込まれかけている。当初は、警戒していたそうだがな。真名を知られて、良い操り人形になったと、ジークから情報が来た」

「メル先生とジークさんは、神国入りをしたのですか。僕達向けの、人質になり得ませんか」

「それは、ないな。お前達ならいざ知らず、メルとジークだ。魑魅魍魎相手に手はうってあるさ」

「ん。伯父さま、盗賊紛いな神兵、蹴散らしてる」


 あはは。

 ジークさんなら、やりそうです。

 メル先生も、錬金術で作製した爆弾を、ばらまいていそうです。

 でも、よく神国から情報が流出出来ましたね。

 アッシュ君の使い魔は、派遣してはいないです。

 神国では、使い魔は酷く目に付きやすい結界があります。

 単身では、情報を集めることは出来ないですよ。


「情報、精霊が運ぶ」


 悩んでいましたら、リーゼちゃんが答えを教えてくれました。

 成る程。

 精霊なら、結界は機能しないですね。

 神国の守護結界は、神力と精霊術の複雑は複合型です。

 精霊を排除してしまいますと、成り立たなくなります。

 それに、幻獣種最強な竜族は、上級な精霊術を行使できますから、風の精霊を使役するのは簡単です。


「神王は永くはもたない。宗教の頭がいなくなると、権力争いが勃発するのは間近だ。今回、妖精姫が神子ではないと払拭出来たが、疑いを完全には晴らせてはいないだろう。もしや、と考える馬鹿は何処にでもいる。守護を厚くと、訴える世界神とじい様には、賛同出来る。出来るが……」


 時期が速すぎた感が否めません。

 エフィちゃんは、孵ったばかりです。

 ジェス君とて、まだ幼い子です。


「はあ。ミラルカに戻ると、真っ先にトールに召喚具を新調して貰うか」

 〔エフィは、離れましぇんよ?〕

 〔ジェスも、一番はジェスだからね〕

「残念ですが、ジェスは六番目です。一番はリーゼですからね」


 はい、そうです。

 一柱目は、リーゼちゃん。

 二柱目が、ラーズ君。

 三柱目が、白い騎士。

 四柱目が、黒い騎士。

 五柱目が、一つ眼。

 と、言う順番で契約しました。

 忘れてはいけません。

 リーゼちゃんとラーズ君は召喚獣なのです。


 〔ほええ。ラーズ君とリーゼちゃんに負けたぁ。でも、エフィちゃんには負けない〕

 〔エフィは、順番はきにしましぇん~。セーラしゃまの、召喚獣になれれば、いいのでしゅ~〕


 幼い子供特有の対抗心に芽生えたジェス君ですが、エフィちゃんはリーゼちゃんと違ったマイペース振りです。

 召喚獣ではなく、またまた家族が増えた様ですね。

 ジェス君が、末子ではなくなりました。

 お兄ちゃんになったのです。

 そうしましたら、兄妹仲良しですよ。


「ジェス、エフィと仲良しする。出来ないと、セーラの召喚獣には、なれない」

 〔にゃんで?〕


 真剣な声音のリーゼちゃんに、ジェス君は差し出された掌に乗りました。

 目線を合わせたリーゼちゃんは、召喚獣の心得を説いています。


「ジェス。ただ、セーラに甘えたいなら、契約駄目。契約無くても、家族にはなれる」

 〔うー。駄目。ジェス、約束したの。セーラちゃんに甘えるだけは、駄目。幸で満たすの。邪魔するの、やっつける〕

「どうやって? ジェスは幼い。能力は未知数だけど、今は弱い。ジェスが戦闘したら、セーラに隙が生まれるのは、確実」

 〔うー。はい。リーゼちゃんの言う通り、ジェス弱い〕

「弱いと認めるのは、いい事。だから、ジェスはやっつけるではなく、守りを固めるのが、最適。違い、分かる?」

 〔にゃんとにゃく、分かる〕

 〔エフィも、分かるでしゅ~。切磋琢磨して、頑張るでしゅの~〕


 ふよふよと、エフィちゃんは、胸元を離れてジェス君と並びました。

 項垂れるジェス君を慰めるエフィちゃん。

 おおらかさがジェス君を宥めています。


 〔エフィちゃん。ごめんなさい〕

 〔はい、でしゅの~。仲直りでしゅの~〕


 後には引きづらないエフィちゃんが、前肢をジェス君に絡めます。

 その、仕草に何処か遠くの記憶が呼び覚まされそうです。

 私達も、よく喧嘩をしました。

 自分にはない長所を羨んだものです。

 黒歴史を思い出させるやり取りに、耳が痒いです。

 ラーズ君も、顰めっつらでした。

 取り敢えず、召喚獣の契約は保留になりました。

 トール君も交えて、今一度吟味したいと思います。


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