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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
105/197

第54話

月曜投稿です。

 結局、フランレティアにもう一泊することになりました。

 ただいま、湯浴みを終えて就寝時間となりました。

 以前にお世話になりました離宮の部屋でまったりとしています。

 宿泊します経緯はこうです。

 何故か、ミラルカに帰還出来なくなったのです。

 そして、翡翠の万能薬が効果を発揮して、病に倒れていました王太子殿下が回復の兆しをみせました。

 霊薬のエリキサーを使うまでもなくなりましたが、万が一に備えて秘蔵するそうです。

 対価を支払われた薬品が、どの様に使用されますかは、多少は気になりますけども、細工はされない仕組みにはなっています。

 一度封を開けてしまいますと、効果は半減してなくなると伝えておきました。

 案の定、薬師の皆様が大挙してレシピの呈示を求めてきました。

 にこやかな笑顔を崩さないラーズ君と、不機嫌丸出しな威圧感を醸し出すリーゼちゃんに、皆様は撃退されました。

 レシピが欲しければ、ギルドに適正な金額を支払い、開示を求めれば良いのです。

 楽して恩恵にあやかろうとする薬師の皆様に、フランレティアの医術の底を見たかもしれません。

 帰ろうと訴えるリーゼちゃんを、押し留めたのはアッシュ君です。

 転移魔法を展開して帰還しようとした矢先に、魔法は霧散しました。

 ある方向を不快に満ちて睨みつけていました。


「邪魔された」


 一言呟き、おもむろに大剣を肩に担ぎます。

 宰相さんが戻られませんでしたら、私達を王宮において何処かに殴り込みに行きかねませんでした。

 かなり、ご立腹でした。

 本気でお怒りでした。

 私達は訳が分からずに、宰相さんと呆けていました。


「フランレティアから、出られん」

「それは、誰かに転移魔法を邪魔されている。と、解釈していいのですか?」

「ああ」


 ラーズ君の質問に、言葉少く答えるアッシュ君です。

 アッシュ君の魔法を邪魔される程の魔力を持つ何方かに、思い至りませんでした。

 顔を見合わせる私達に、アッシュ君は大剣を仕舞い、溜め息を吐き出します。

 それは、対抗するのを止めた合図でした。


「それならば、是非にご宿泊くださいませ。国王陛下も晩餐を供にと、仰っておられます」


 帰れない以上、宰相さんのご厚意に預かるしか余地はなさそうでした。

 こうして、アッシュ君も同意して宿泊が決まりました。

 晩餐は、終始ご機嫌な国王陛下と、対称的に不機嫌なアッシュ君と挟まれて、味が分かりませんでした。

 料理に舌つづみをうつ間もありません。

 お腹を満たす義務感で、食事をしたのは初めてのことでした。

 料理人の皆様には悪いことをしたなぁ、とおもいました。

 アッシュ君と同部屋のラーズ君は、さぞ居心地が悪いかと。


「セーラ、どうしたの」

「いえ、アッシュ君を邪魔した相手に、思い悩んでいました」

「ん。仕方ない。兄さんを邪魔した相手、兄さんより上」

「リーゼちゃんには、心当たりがあるのですか?」


 枕を抱えている私に、リーゼちゃんは淡々と頷きました。

 アッシュ君より、上位な方ですか。

 もしや、豊穣のお母さまか、大地の御方ではないですかね。

 首を傾げて思案します。


「セーラ。そろそろ呼ばれる。ジェスは留守番する」


 湯浴みを終えて寝巻きに着替えた私を、リーゼちゃんに何時もの服に着替える様に指示されていました。

 てっきり、深夜のお客様対抗かと思っていました。

 用事がありますのは、私です?

 私にべったりなジェス君は、渋々離れて行きました。

 ジェス君も分かっているのですか。


 にゃあ。


 〔ジェス、お留守番。いやあ〕

「駄目」


 甘えるジェス君に、一刀両断なリーゼちゃん。

 容赦なく捕まえて、身動きを封じています。


 〔ふえーん。セーラちゃんはジェスのーーなのにぃ〕


 一部聞き取り辛い単語が紛れました。

 聞き直そうとした私が、枕を離してリーゼちゃんに近付いた時です。

 私の周りに光が集いました。


「えっ?」

「大丈夫。敵意ない。行ってらっしゃい」


 光は見覚えある魔法陣を展開して、私を包みます。

 転移させられる。

 認識した私は、抵抗するか迷いましたが、リーゼちゃんの呑気な声に、身を委ねることにしました。

 過保護なリーゼちゃんが、慌てていない。

 処か、手を振っています。

 私に、害がないのだと判断しました。

 それに、魔力の気配は穏やかに澄んでいます。

 女は度胸です。

 転移魔法は完成して、私を呼んだ場所に導きます。

 一瞬、光が強くなり目が眩みました。

 輝きが薄れて行く頃には、私は広大な暗い湖の上にいました。

 爪先が水上に付きます。

 素足が水に浸かりました。

 そのまま、膝まで浸かると、不意に身体が持ち上がり、水上に立っていました。


 〔済みません。貴女を呼んだのは、私です〕


 直接脳裏に届く念話の主は、優美な白銀に輝く鱗の持ち主の水竜でした。

 合点がいきました。

 古代竜(エンシェントドラゴン)の水竜ならば、アッシュ君の転移魔法を邪魔し、リーゼちゃんのお墨付きを頂くはずです。

 リーゼちゃんは、他竜が私に近付くのは嫌います。

 それは、私の魔力を美味しそうだと、爆弾発言した同族がいたからです。

 以来、同族を毛嫌いしています。

 ですが、古代竜は竜族の祖とも言われています。

 力の優位は古代竜に歩があります。

 竜族は古代竜の命に従う。

 リーゼちゃんは、私が古代竜に会うのは良しとしました。


 〔竜族の娘には、同意してもらいました。が、魔人族の災害は私が、貴女に頼み事をするのを嫌がっています〕


 リーゼちゃんとは、何時お話をされたのですか。

 気になります。

 ラーズ君は知らないのだろうと思いました。

 それにしましても、古代竜にまで災害と呼ばれるアッシュ君です。

 一体、何を仕出かしているのでしょう。


 〔森と海の娘。豊穣神の愛し子。貴女に頼みがあります〕

「はい。何でしょうか」

 〔先頃、私の不手際で愛しい吾子が拐われました。混血の天人族と貴女が、取り戻してくれましたが、一向に孵ろうとはしません〕


 アッシュ君が対価にしたとは言いにくく、トール君が取り戻したことにしました。

 まあ、真実は理解しておられると思います。

 が、水竜は何も言わず、卵を受けとりました。

 大事に大事に、卵を抱えました水竜にとりましては、経緯はどうでも良かったみたいでした。

 その大事な卵が、私と水竜の間に浮かびます。


 〔貴女の瞳で、卵を視て下さい〕


 態々、瞳でと注釈をつけましたのは、固有技能(ユニークスキル)を指していますか。

(ことわり)の瞳】。

 森羅万象を見透すことのできる技能です。

 この場には保護者様がいませんが、アッシュ君が干渉して来ないのを見ますと、私の思う通りにしてもいいのでしょう。

 左右色違いの瞳が、卵を見据えます。

 水竜の幼体は、聖属性の能力を有しています。

 孵るには何ら瑕疵が有るようには、見えません。

 首を傾げてしまいます。

 何ら異常は見当たりません。


「水竜様。触れて見ても宜しいでしょうか」

 〔構いません。兄妹達が小突いたりしていましたが、転がるだけで、何も反応を返さないのです〕


 瞳には、聖属性の幼体が眠っているのは、確認できます。

 と、すると。

 あれですかね。

 聖女さんの、魅了魔法に囚われかけたのが、外に出るのを怖がっているのかもです。

【理の瞳】を解除して、【翠の浄化】に固有技能を変えてみます。

 微かに粘りついている聖女さんの、魔力を払拭していきます。

【翠の浄化】と聖属性のは相性が良いです。

 丁寧に魅了魔法の残滓を浄化していきます。

 最後の残滓をぬぐいさると、卵は見違えた様に輝きました。


 〔なんと、まあ。そういうことでありましたか。この子は、愛しい吾子でありますが、その身は世界神の加護を有しておりましたか〕


 はい?

 少しやらかした感が半端なくあります。

 水竜の大事な卵は乳白色の堅い殻に覆われていたはずでしたが。

 なんと、その殻が融けてなくなったのです。

 今は、金剛石の塊に見えて仕方がなくなりました。

 大きさも、二周り小さくなりました。

 水竜に怒られるかもしれないです。

 大事な卵を変質させてしまいました。


「あの。水竜様、事情が全く分かりません。私は失敗してしまったのでしょうか」

 〔いいえ。どうやら、私の最後の吾子は、世界神より役務を仰せ付かったと、見てとれます〕

「世界神様の役務ですか」

 〔そうです。豊穣神の愛し子。卵に触れなさい〕

「あっ、はい」


 目上の方に意見は言えません。

 素直に、卵に両手で触れて見ました。

 すると、卵は両手の中にすっぽりと入ります。


 とくん。


 鼓動が波打ちます。


 〔セーラしゃまあ~〕


 幼い女児の声が脳裏に響きます。

 両手な中の卵から念話が聞こえてきました。


 〔ようやく、であえましたの~。ただいま、はせさんじましゅ~〕


 卵が一気に熱を帯びました。

 手を焼くかと思われた熱は、上に上昇していきます。

 赤から紫、虹の七色の焔の色が宙空を舞っています。

 綺麗。

 思わず見惚れました。

 卵を覆われていた焔は、熱くはありませんでした。

 心地好いぬるま湯位の温度です。


 〔なんと、まあ。見事な水晶龍の誕生か。世界神様も、森と海の娘を溺愛しておられることよ〕

 〔セーラしゃまあ~。エフェメラ。ただいま、はせさんじましゅた~〕


 水竜の卵から、水晶龍が孵りました。

 その事実に唖然としていましたら、竜体とは違う、細長の体躯を器用に翼もなく宙に浮いている水晶龍が、私の胸元に抱き付いてきました。

 全長は三十センチもない小さな体躯です。

 名前の由来の水晶色で光を乱反射します鱗の持ち主は、甘えて慕ってきてくれています。


「ど、どうしたら、良いのでしょうか」


 不遜にも水竜に尋ねてしまいました。

 水竜の卵から、絶滅危惧種の水晶龍が、孵りました。

 しかも、刷り込み前に、私を認識しています。

 馳せ参じるとまで言っています。

 動揺が隠せません。


 〔どうも、こうも、ありません。私の最後の吾子は時空神の神獣と同じく、貴女と契約する召喚獣と選ばれました。世界神様の采配に否やは申せません〕

「あう」


 衝撃的なお言葉に、声がでてきません。

 重力魔法を行使する幸運猫(フォーチュンキャット)

 聖属性も含めた七属性の魔法を行使する水晶龍(クリスタルドラゴン)

 どちらも、絶滅危惧種の幻獣です。

 一介の調薬師には、荷が重すぎです。

 リーゼちゃんには、わかっていて私を送り出したのでしょうか。

 帰りましたら、膝詰めで問い質してみせます。


 〔セーラしゃまあ~。けいやくしてくださいませ~〕

 〔だあめ。一番はジェスなのう〕

 〔ねこ、ずるい~。いつも、いちばんしゃき~〕

 〔いいの。ジェスが先に出会ったの。二番がエフィちゃんなの。決まり事〕

 〔う~。なら、はやくけいやくしゅるでしゅ〕


 リーゼちゃんの拘束は解かれましたのか、ジェス君が跳び込んで来ました。

 転移魔法覚えたのですね。

 慣れた様子で、口喧嘩しています。

 契約、契約と言っていますが、オチビちゃん達とは、召喚契約は出来ないですよ。

 トール君が赦さないと思います。

 これ、どう収集つけたらよいのか、途方に暮れています。

 アッシュ君、ラーズ君、リーゼちゃん。

 どうしたら、良いか教えてください。


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