第54話
月曜投稿です。
結局、フランレティアにもう一泊することになりました。
ただいま、湯浴みを終えて就寝時間となりました。
以前にお世話になりました離宮の部屋でまったりとしています。
宿泊します経緯はこうです。
何故か、ミラルカに帰還出来なくなったのです。
そして、翡翠の万能薬が効果を発揮して、病に倒れていました王太子殿下が回復の兆しをみせました。
霊薬のエリキサーを使うまでもなくなりましたが、万が一に備えて秘蔵するそうです。
対価を支払われた薬品が、どの様に使用されますかは、多少は気になりますけども、細工はされない仕組みにはなっています。
一度封を開けてしまいますと、効果は半減してなくなると伝えておきました。
案の定、薬師の皆様が大挙してレシピの呈示を求めてきました。
にこやかな笑顔を崩さないラーズ君と、不機嫌丸出しな威圧感を醸し出すリーゼちゃんに、皆様は撃退されました。
レシピが欲しければ、ギルドに適正な金額を支払い、開示を求めれば良いのです。
楽して恩恵にあやかろうとする薬師の皆様に、フランレティアの医術の底を見たかもしれません。
帰ろうと訴えるリーゼちゃんを、押し留めたのはアッシュ君です。
転移魔法を展開して帰還しようとした矢先に、魔法は霧散しました。
ある方向を不快に満ちて睨みつけていました。
「邪魔された」
一言呟き、おもむろに大剣を肩に担ぎます。
宰相さんが戻られませんでしたら、私達を王宮において何処かに殴り込みに行きかねませんでした。
かなり、ご立腹でした。
本気でお怒りでした。
私達は訳が分からずに、宰相さんと呆けていました。
「フランレティアから、出られん」
「それは、誰かに転移魔法を邪魔されている。と、解釈していいのですか?」
「ああ」
ラーズ君の質問に、言葉少く答えるアッシュ君です。
アッシュ君の魔法を邪魔される程の魔力を持つ何方かに、思い至りませんでした。
顔を見合わせる私達に、アッシュ君は大剣を仕舞い、溜め息を吐き出します。
それは、対抗するのを止めた合図でした。
「それならば、是非にご宿泊くださいませ。国王陛下も晩餐を供にと、仰っておられます」
帰れない以上、宰相さんのご厚意に預かるしか余地はなさそうでした。
こうして、アッシュ君も同意して宿泊が決まりました。
晩餐は、終始ご機嫌な国王陛下と、対称的に不機嫌なアッシュ君と挟まれて、味が分かりませんでした。
料理に舌つづみをうつ間もありません。
お腹を満たす義務感で、食事をしたのは初めてのことでした。
料理人の皆様には悪いことをしたなぁ、とおもいました。
アッシュ君と同部屋のラーズ君は、さぞ居心地が悪いかと。
「セーラ、どうしたの」
「いえ、アッシュ君を邪魔した相手に、思い悩んでいました」
「ん。仕方ない。兄さんを邪魔した相手、兄さんより上」
「リーゼちゃんには、心当たりがあるのですか?」
枕を抱えている私に、リーゼちゃんは淡々と頷きました。
アッシュ君より、上位な方ですか。
もしや、豊穣のお母さまか、大地の御方ではないですかね。
首を傾げて思案します。
「セーラ。そろそろ呼ばれる。ジェスは留守番する」
湯浴みを終えて寝巻きに着替えた私を、リーゼちゃんに何時もの服に着替える様に指示されていました。
てっきり、深夜のお客様対抗かと思っていました。
用事がありますのは、私です?
私にべったりなジェス君は、渋々離れて行きました。
ジェス君も分かっているのですか。
にゃあ。
〔ジェス、お留守番。いやあ〕
「駄目」
甘えるジェス君に、一刀両断なリーゼちゃん。
容赦なく捕まえて、身動きを封じています。
〔ふえーん。セーラちゃんはジェスのーーなのにぃ〕
一部聞き取り辛い単語が紛れました。
聞き直そうとした私が、枕を離してリーゼちゃんに近付いた時です。
私の周りに光が集いました。
「えっ?」
「大丈夫。敵意ない。行ってらっしゃい」
光は見覚えある魔法陣を展開して、私を包みます。
転移させられる。
認識した私は、抵抗するか迷いましたが、リーゼちゃんの呑気な声に、身を委ねることにしました。
過保護なリーゼちゃんが、慌てていない。
処か、手を振っています。
私に、害がないのだと判断しました。
それに、魔力の気配は穏やかに澄んでいます。
女は度胸です。
転移魔法は完成して、私を呼んだ場所に導きます。
一瞬、光が強くなり目が眩みました。
輝きが薄れて行く頃には、私は広大な暗い湖の上にいました。
爪先が水上に付きます。
素足が水に浸かりました。
そのまま、膝まで浸かると、不意に身体が持ち上がり、水上に立っていました。
〔済みません。貴女を呼んだのは、私です〕
直接脳裏に届く念話の主は、優美な白銀に輝く鱗の持ち主の水竜でした。
合点がいきました。
古代竜の水竜ならば、アッシュ君の転移魔法を邪魔し、リーゼちゃんのお墨付きを頂くはずです。
リーゼちゃんは、他竜が私に近付くのは嫌います。
それは、私の魔力を美味しそうだと、爆弾発言した同族がいたからです。
以来、同族を毛嫌いしています。
ですが、古代竜は竜族の祖とも言われています。
力の優位は古代竜に歩があります。
竜族は古代竜の命に従う。
リーゼちゃんは、私が古代竜に会うのは良しとしました。
〔竜族の娘には、同意してもらいました。が、魔人族の災害は私が、貴女に頼み事をするのを嫌がっています〕
リーゼちゃんとは、何時お話をされたのですか。
気になります。
ラーズ君は知らないのだろうと思いました。
それにしましても、古代竜にまで災害と呼ばれるアッシュ君です。
一体、何を仕出かしているのでしょう。
〔森と海の娘。豊穣神の愛し子。貴女に頼みがあります〕
「はい。何でしょうか」
〔先頃、私の不手際で愛しい吾子が拐われました。混血の天人族と貴女が、取り戻してくれましたが、一向に孵ろうとはしません〕
アッシュ君が対価にしたとは言いにくく、トール君が取り戻したことにしました。
まあ、真実は理解しておられると思います。
が、水竜は何も言わず、卵を受けとりました。
大事に大事に、卵を抱えました水竜にとりましては、経緯はどうでも良かったみたいでした。
その大事な卵が、私と水竜の間に浮かびます。
〔貴女の瞳で、卵を視て下さい〕
態々、瞳でと注釈をつけましたのは、固有技能を指していますか。
【理の瞳】。
森羅万象を見透すことのできる技能です。
この場には保護者様がいませんが、アッシュ君が干渉して来ないのを見ますと、私の思う通りにしてもいいのでしょう。
左右色違いの瞳が、卵を見据えます。
水竜の幼体は、聖属性の能力を有しています。
孵るには何ら瑕疵が有るようには、見えません。
首を傾げてしまいます。
何ら異常は見当たりません。
「水竜様。触れて見ても宜しいでしょうか」
〔構いません。兄妹達が小突いたりしていましたが、転がるだけで、何も反応を返さないのです〕
瞳には、聖属性の幼体が眠っているのは、確認できます。
と、すると。
あれですかね。
聖女さんの、魅了魔法に囚われかけたのが、外に出るのを怖がっているのかもです。
【理の瞳】を解除して、【翠の浄化】に固有技能を変えてみます。
微かに粘りついている聖女さんの、魔力を払拭していきます。
【翠の浄化】と聖属性のは相性が良いです。
丁寧に魅了魔法の残滓を浄化していきます。
最後の残滓をぬぐいさると、卵は見違えた様に輝きました。
〔なんと、まあ。そういうことでありましたか。この子は、愛しい吾子でありますが、その身は世界神の加護を有しておりましたか〕
はい?
少しやらかした感が半端なくあります。
水竜の大事な卵は乳白色の堅い殻に覆われていたはずでしたが。
なんと、その殻が融けてなくなったのです。
今は、金剛石の塊に見えて仕方がなくなりました。
大きさも、二周り小さくなりました。
水竜に怒られるかもしれないです。
大事な卵を変質させてしまいました。
「あの。水竜様、事情が全く分かりません。私は失敗してしまったのでしょうか」
〔いいえ。どうやら、私の最後の吾子は、世界神より役務を仰せ付かったと、見てとれます〕
「世界神様の役務ですか」
〔そうです。豊穣神の愛し子。卵に触れなさい〕
「あっ、はい」
目上の方に意見は言えません。
素直に、卵に両手で触れて見ました。
すると、卵は両手の中にすっぽりと入ります。
とくん。
鼓動が波打ちます。
〔セーラしゃまあ~〕
幼い女児の声が脳裏に響きます。
両手な中の卵から念話が聞こえてきました。
〔ようやく、であえましたの~。ただいま、はせさんじましゅ~〕
卵が一気に熱を帯びました。
手を焼くかと思われた熱は、上に上昇していきます。
赤から紫、虹の七色の焔の色が宙空を舞っています。
綺麗。
思わず見惚れました。
卵を覆われていた焔は、熱くはありませんでした。
心地好いぬるま湯位の温度です。
〔なんと、まあ。見事な水晶龍の誕生か。世界神様も、森と海の娘を溺愛しておられることよ〕
〔セーラしゃまあ~。エフェメラ。ただいま、はせさんじましゅた~〕
水竜の卵から、水晶龍が孵りました。
その事実に唖然としていましたら、竜体とは違う、細長の体躯を器用に翼もなく宙に浮いている水晶龍が、私の胸元に抱き付いてきました。
全長は三十センチもない小さな体躯です。
名前の由来の水晶色で光を乱反射します鱗の持ち主は、甘えて慕ってきてくれています。
「ど、どうしたら、良いのでしょうか」
不遜にも水竜に尋ねてしまいました。
水竜の卵から、絶滅危惧種の水晶龍が、孵りました。
しかも、刷り込み前に、私を認識しています。
馳せ参じるとまで言っています。
動揺が隠せません。
〔どうも、こうも、ありません。私の最後の吾子は時空神の神獣と同じく、貴女と契約する召喚獣と選ばれました。世界神様の采配に否やは申せません〕
「あう」
衝撃的なお言葉に、声がでてきません。
重力魔法を行使する幸運猫。
聖属性も含めた七属性の魔法を行使する水晶龍。
どちらも、絶滅危惧種の幻獣です。
一介の調薬師には、荷が重すぎです。
リーゼちゃんには、わかっていて私を送り出したのでしょうか。
帰りましたら、膝詰めで問い質してみせます。
〔セーラしゃまあ~。けいやくしてくださいませ~〕
〔だあめ。一番はジェスなのう〕
〔ねこ、ずるい~。いつも、いちばんしゃき~〕
〔いいの。ジェスが先に出会ったの。二番がエフィちゃんなの。決まり事〕
〔う~。なら、はやくけいやくしゅるでしゅ〕
リーゼちゃんの拘束は解かれましたのか、ジェス君が跳び込んで来ました。
転移魔法覚えたのですね。
慣れた様子で、口喧嘩しています。
契約、契約と言っていますが、オチビちゃん達とは、召喚契約は出来ないですよ。
トール君が赦さないと思います。
これ、どう収集つけたらよいのか、途方に暮れています。
アッシュ君、ラーズ君、リーゼちゃん。
どうしたら、良いか教えてください。
ブックマーク登録ありがとうございます。




