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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
103/197

第52話

水曜投稿です。

 森を抜けまして、カズバル村に戻って来ました。

 そうしましたら、忘れていたことを思いだしました。


「何か忘れていると思いましたら、これをどうします?」

「あー。放置は、駄目か。建物を壊されたりしていたから、迷惑料がわりに貰ったらいいんじゃないか」


 目の前には鎮座する、帝国の物資の山です。

 聖女さん一行が持ちこみました大量な荷物が、消費されることなく残されていました。

 けれども、人の気配が全くありません。

 専属料理人や身の回りを世話する侍女さんや、非戦闘員を警護していたはずの帝国騎士が見当たりません。

 何処にいかれたのでしょう。


「神気が残されているな。実りが連れて行ったかな」

「それならば、良いのですが。不測な事態に陥っていましたら、捜索しないといけなくなります」

「それか、トールが連れて行ったかな」

「そちらな方が、有り得るかも知れませんね」

「ん。先生なら考える」


 厄介な人員をフランレティアに残されても、私達では対処が出来ません。

 トール君が配慮して、連れて行きましたのに期待したいです。


「リーゼちゃんは、人の気配が近くにあるのが分かりますか?」

「否定。近くに、人いない」

「リーゼの感知にいないのならば、一安心ですね。取り敢えずは、この物資を集合小屋にでも仕舞って起きましょう」


 そうですね。

 野晒しは、食糧が腐って仕舞います。

 一旦、無限収納(インベントリ)に収納しまして、集合小屋に置き直しましょう。

 他者がいませんから、気にせずに使用が出来ます。


「セーラ」

「はい? 何でしょうか」


 みゃあ。


 呼び止められまして振り返ると、アッシュ君の掌にジェス君が掴まれていました。


 〔セーラちゃあん。ジェス、お利口にしていたよ〕


 遺跡が廃墟と化し魔素溜りがなくなり、瘴気が薄れて来ていますからか、ジェス君を自由にしても良くなりました。

 ジェス君を狙っていました聖女さんも、いなくなりましたしね。


「ジェス君。お利口さんでしたね」

 〔にゃん。ジェス、お利口さんだから、セーラちゃんに、甘えるの〕


 軽やかにジェス君が、私の肩に飛び乗りました。

 頬に、暖かな毛並みが擦り付けられました。

 身体を撫でると、ごろごろ喉を鳴らします。

 癒されます。

 遺跡では、苦手な昆虫と遭遇してしまいました。

 瘴気がなければ、もっと早くにジェス君に癒されていましたね。

 恨めしいです。


「セーラ、物資をお願いします」

「あっ、はい」


 ラーズ君に促されませんでしたら、何時までもジェス君を堪能していました。

 いけません。

 邪神討伐が終了したとは言え、まだ後始末が残されています。

 ミラルカに戻るまでは、緩めてはいけないですね。

 物資を無限収納に収納して、集合小屋の扉を開けました。


「あら」

「これは、掃除しないと駄目ですね」


 小屋内は嵐にあったかの様に騒然としていました。

 帝国騎士が寝泊まりした痕が処狭しとあり、策戦を練っていた折り畳み式の机と椅子がありました。

 机上には紙やインク壷が、そのままになっています。


「簡単に帰還を、という訳にはいかなくなりましたね」

「ん。面倒。物資、持って帰る」

「そうした方が、良くなりましたね」

「日保ちがしない食糧は持って帰り、生活雑貨は置いて行け」


 そうしたいのは山々ですが、寝泊まりした痕に直接物資を置いて行くのは、如何なものかと思案します。

 ある程度は掃除をしないと、住居を壊された住人が生活しないといけないですよ。

 宿屋も、同様に改築しないといけない筈です。

 帝国の方々は後の事を考えずに、行動していましたから。


「少し時間をください」

 〔ジェス、お手伝いする〕


 ジェス君が、前足をあげました。

 と、寝具が片隅に積み上げられていきます。

 ジェス君の重力魔法です。

 随分と扱いが上手くなりました。

 少々、雑になりますが。

 見事に寝具を集めています。


「ジェス、上手」

「はい。重力魔法は便利なのですね。聖女さんが、欲しがる筈です」

「本当です。だけど、率先して魔法を使用するのと、強制して魔法を使用するのとは違います。僕達も、便利だからと頻繁に利用するのは、やめましょう」

「はい、分かっています。ジェス君は、便利アイテムではありません。うちの、末っ子です」

「ん。アイテム扱い、聖女と一緒」

 〔ジェス、お手伝いするの、駄目?〕


 重力魔法に感嘆していましたら、上目遣いでうるうるお目々のジェス君がいました。

 ジェス君が悪いのではなく、聖女さんのアイテム扱いに言及していたのですよ。


「お手伝いは、有り難いのですが。頼り過ぎなのは駄目だと、話しているのですよ。ジェスは、悪くないです」

 〔ジェス、役に立つ。ラーズ君、リーゼちゃん、セーラちゃん。喜ぶ〕

「ん。ジェス、可愛い」

「ジェス君は、側にいてくださるだけでも、嬉しいですよ。でも、お手伝いは、程々にしましょうね」

 〔……はあい〕


 ジェス君は、納得がいかない様子です。

 ですが、私達が気をつけていないと、お手伝いに頑張り過ぎて、当たり前になってしまいます。

 これは、幼い私達にも、言いくるめられていました。

 保護者様の役に立てば、捨てられないだろうと、考えたのです。

 杞憂に終わりましたが、いつ見捨てられるか怯えた日々を過ごしていたのです。

 頑張り過ぎて、熱を出すのが日常になってしまい、何度もお説教されたものです。

 苦い思い出です。

 ジェス君には、そんな思いを味あわせたくはありません。

 幼いジェス君には、分かり辛いかも知れませんが、経験者は語るです。


「はは。まるで、幼い頃のお前達を見ているようだ」


 むう。

 アッシュ君に、笑われました。

 此方にも経験者がいました。

 毎回、お説教をした人を忘れていました。

 私達は思わず顔を見合せ、ばつが悪い思いで肩を竦めました。


「さあ、物資を片付けて帰りましょう」

「はい、です」

「ん。ジェスのお陰で、掃除、しなくて済んだ」


 無限収納から生活雑貨を選び、置いていきました。

 持ち込まれた物資の大半が、生活雑貨でした。

 寝台に、お布団。

 猫脚のバスタブが出てきて、驚きました。

 引っ越し荷物ですか、と疑いたくなります。

 衣服も何十着とあります。

 果てには、お化粧道具に宝飾品まで。

 一体、何をしに来たのか分からなくなりました。

 邪神討伐ですよね。


「アッシュ君。泥棒さんに、注意しなくてはいけなくなりました」

「だな。全く、頭が痛い」

「貴重品は、フランレティア王宮に託した方が良さそうです」

「いや。おれが預かる」

「助かります」


 魔素溜りが無くなりましたけれども、急激には環境が元に戻りはしません。

 無人の村を狙う、夜盗や山賊の出現には注意を払わなくてはならなくなりました。

 貴重品は、アッシュ君が預かってくれました。

 亜空間に仕舞っていきます。

 残りの食糧はフランレティア王宮に、捌いてもらいましょう。

 どうせ、人気取りで運んで来ました食糧です。

 フランレティアの住人のお腹を満たせるのですから、本望ですよね。


「では、兄さん。転移をお願いします」


 小屋を施錠して、ラーズ君が頼みます。

 念の為に、施錠の魔導具を所持していて良かったです。

 小屋を魔法が包みます。


「なら、フランレティア王宮に戻るぞ」


 アッシュ君の転移魔法が展開します。

 直ぐに、フランレティア王宮に到着しました。

 場所は会議室です。

 いきなり現れた私達に、会議室は緊張の糸が張り詰めました。


「魔人殿? ああ、転移魔法ですか」


 剣を抜きかけた副団長さんが、息を吐き出しました。

 不審者丸出しの私達を、警戒した騎士が取り囲みます。

 会議室には、国王陛下と宰相さんがおられました。

 トール君が各国上層部に配置した、受信機型の魔導具が役目を終えて転がっていました。


「その魔導具なのだか、触っても大丈夫かな」

「? 大丈夫ですよ」


 騎士の囲みを抜けて、ラーズ君が魔導具を拾います。

 特別に細工はされていません。

 只の受信機です。


「賢者殿が置いて行った魔導具を、触っても良いか判断をつけれなくてな、正直困っていた」

「それは、トールの説明不足だな。只の映像を受信する機能しかない」


 あら。

 トール君にしては、お粗末なやり方です。

 他国も、どうして良いか悩ましていませんか。

 分解されても知りませんよ。


「使い魔に、回収を命じる」


 遺失技術は使われていませんが、アッシュ君は回収を望みました。

 影や亜空間から、使い魔が飛び立ちます。

 私達には慣れた行為でしたが、再び緊張の空気に包まれました。


「魔人殿。出来れば、陛下や宰相閣下のいない場所で、お願いしたい」

「ああ、配慮に至らなかったな。すまん」


 副団長さんのお小言に、素直に謝罪するアッシュ君。

 国王陛下と宰相さんが、苦笑しています。

 狙ってやりましたか。


「先ずは、報告しておく。邪神討伐は恙無く終了した」

「存じております。賢者殿が置いていかれた魔導具が、一切を写し出しておりました」

「なら、詳しい事は言わん。あれが、真実だ」

「誠に、信じがたい出来事でございました。まさか、神子様が我が地にお出でなさったとは」


 宰相さんの言葉に皆さんの視線が、私に集まります。

 フランレティア王宮でも、私が神子だと信じられていたのですね。

 トール君の策略と豊穣のお母さまの機転で、それが払拭されたかと思います。


「これで、うちの娘が間違われることは無くなった。それは、重畳だった」

「帝国は妖精姫殿が神子様だと、信じられておられました。我々も、危うく盲信する処でありました」

「トールは、それが世間に流された辺りから、神子に苦言していてな。それが、叶い、此方は大助かりだ」


 大人な会話が続きます。

 うっかり、話に乗りまして、ミバレするのは駄目です。

 肩の上のジェス君の温もりに、集中しておきます。


 にゃん。


 ジェス君も、甘えて喉を鳴らします。


「処で、肝心の神子様と賢者殿は、どうされました」

「神子は箱庭に、帰還した。トールは、帝国に最終通告をしに行った」

「最終通告、ですか」

「そうだ。前々から、うちの娘を狙う勢力を支持してきたのは、帝国だ。神子とは別人だと分かる結末になったが、別の意味で狙われたら困るからな」


 肌色の有無で闇の妖精族(ダークエルフ)と断じて、一族郎党皆殺しにした帝国です。

 神子とは別人だから、勧誘した事実も無くし、邪神の信者だと排斥するのが分かります。

 アッシュ君も、暗殺を危惧しています。

 箍が外れた帝国が、何をしてくるか。

 これからは、今まで以上に帝国の動向に注視していかないとです。




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