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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
102/197

第51話

月曜投稿です。

 ゴウン。


 遺跡の扉が閉まりました。

 すると、女神を封印する役目を終えた遺跡は、人知れず朽ち果てていきます。

 内側から崩れていき、見る影も無くなりました。

 森の妖精族(フォレエルフ)のかけた魔法が解かれていくのが分かりました。


「状態劣化防止機能が無くなったな」


 封印されていました女神様が、数千年振りに解かれたと仰っていましたから、一気に時が流れたのでしょう。

 石造りの遺跡は、私達の目の前で砂埃を撒き散らし廃墟と化しました。

 何だか、アッという間の出来事になりました。

 時刻は夕方になろうとしています。

 異界化していました遺跡の時の流れは、そう過ぎ去ってはいませんでした。

 下手をしたら、何日も過ぎていた。

 何て事にならなくて良かったです。

 異界化の影響で、内側から転移魔法が使用出来ませんでしたから、時空の歪みが少ないカズバル村まで移動することになりました。


「トール。首尾はどうだったか?」

「おう、バッチし。記録魔法と映写魔法の複合魔法で、各国に生中継してやったぜ」


 トール君が、指を二本立てました。

 ピースと言うそうです。

 はて?

 それよりも、気になりましたのが、トール君が言った生中継です。


「トール先生、兄さん。生中継とは何ですか?」

「うん。勇者教の大事な勇者と聖女の、邪神討伐の映像を各国の上層部に披露してやった。勿論、生の映像を、な」

「上空で何かしていると、思った」

「リーゼちゃんは、トール君に気付いていましたか?」

「ん。何か小さな魔導具、翔んでた」


 ほえ。

 気付いていませんでした。

 魔力喰い(マナイーター)と、ある意味常識を覆る女神様方の登場で、細やかな警戒をしていませんでした。

 村まで歩きながら、トール君はネタをばらしてくれました。

 厚顔無恥な帝国は、邪神討伐の成否に関わらずに、トール君に無茶難題を吹っ掛ける気でいたそうです。

 勇者教の認めた勇者の実力を正確に把握していた皇帝は、邪神討伐の功績を私達ミラルカ組に奪われるのを自覚していました。

 そこで、皇帝は考えた訳です。

 どうせ、奪われるなら自分達の陣営に組み込んでしまえばいい。

 所詮は亜人。

 金銭や爵位等で飼殺しにすればいい。

 もし、失敗したとしても、魔族の妨害にあったと被害者の振りをして、周辺国家の同情を買い、魔族排斥の構えを見せる予定だったらしいです。

 二枚舌で優位に立とうと画策していた。


「馬鹿がいる」

「はい。大馬鹿さんです」

「馬鹿ですか」


 年少組の意見は一致しました。

 只でさえ、帝国には恨みが有りますのに、私達が阿ねる訳がありません。

 両親の仇を赦すはずは、ないのです。


「ああ、馬鹿だよな。だから、そんな帝国には愚者を演じて貰おうと決めたんだ」

「アッシュの使い魔と、協力して映像を記録したんだよ。見ていて笑えるぞ」


 何でも、私達の知らない処で、カズバル村から聖女さん側の映像を録り始めたトール君。

 大陸の各国に賢者の名で受信魔導具を送り、上層部にお知らせした。

 生中継で勇者と聖女さんの有りのままの姿を。

 帝国の帝都と勇者教の本拠地には、強制的に上空に映像を映して流したそうです。


「使い魔が、教えてくれたぞ。帝国は、阿鼻叫喚となっている。勇者教の認めた勇者が、無様ななりを露呈して邪神討伐を失敗し、左遷された帝国騎士が勇者代理になり、女神を封印から解き放つ。そして、聖者に選ばれた。極めつけは、妖精姫と神子が別人だった」

「今頃は、帝国の守護神も断罪されて、神格も落とされるだろうしな。俺達に関わる暇なんかなくなるな」

「それこそ、一大事ではありませんか」


 呑気に歩いている場合ではないのでは。

 ですが、アッシュ君とトール君は、何処吹く風の様子。

 神々が神格を落とされるのは、左遷よりも重たい罰です。

 守護神も剥奪されて、信仰心を糧に出来なくなります。

 悪く言えば、存在を消失するかも知れません。

 死活問題です。


「逆恨みされませんか?」

「そこのところは、神々も放置は出来ないさ。帝国は、神子を隷属しようとした。今回は、豊穣の女神様がじかにお出ましになり、矛をおさめてくれたが」

「神子を他神が拐かし、奴隷扱いした。本来ならあってはならない事だ。神々の(ことわり)に反する。セーラは、神殺しの名を喚ぶ権利がある。あれが、暴れたらおれでも制御はできないぞ」


 トール君もアッシュ君も、彼を気にしています。

 私と同じ神子。

 それも、世界神の神子にして、神殺しの断罪者。

 果ての荒野で一人眠る彼を、私は喚べてしまうのです。

 思わず、腰のチャームに触れました。

 災害級の実力を誇るアッシュ君でも、制止を出来ない彼はなるべくなら、静かに眠って欲しいです。


「セーラ、大丈夫」

「リーゼちゃん」

「彼、起きる前に、暴れる」

「リーゼが、本性で暴れたら帝国に一矢は報いますが、竜殺しが面倒ですよ」

「むう。返り討ち」

「止めなさい。人海戦術でこられたら、致命傷を受けて狂乱するだけです。その際にはセーラだけが無事に鎮めることが出来るのだから、セーラの負担を考えなさい」

「むう。分かった」


 リーゼちゃんはまだ未成年の竜です。

 成年の竜と比較しますと、鱗はまだ柔らかいです。

 逆鱗を容易く貫かれましたら、大狂乱に陥りますのは必定です。

 そんな姿は見たくはありません。


「リーゼちゃん。暴れるのはやめましょうね」

「ん。セーラが怯えるなら止める」

「リーゼ。たまには僕の言うことにも関心を、持ってください」

「兄より妹大事」


 他愛ない兄妹の会話に和みます。

 リーゼちゃんに、腕を組まれました。

 反対側にはラーズ君が、並びます。

 大切な私の家族。

 喪いたくはありません。

 ミラルカには家族を奪われたセイ少年が待っています。

 セイ少年は、帰還を望んでいました。

 無事に願いは叶うのでしょうか。

 こんなに、永くミラルカを離れていますのは、初めてです。

 温室の手間隙かかる、薬草の手入れが出来ないのは痛いです。

 帰宅しましたら、枯れているかもしれません。

 ああ。

 貴重な薬草が枯れはてていましたら、と思うと気が重くなりました。


「あーあ。あいつらやりやがったな」


 不意にトール君は足を止めて、嘆息しました。

 手元には四角い板のような物がありました。

 情報板ですか。

 熱心に見いっています。


「どうした?」

「アッシュの使い魔に仕込みを頼んだ帝国の謁見場で伯爵が、喉を潰され四肢を砕かれた。聖女と勇者は、ハーヴェイが庇い無事だ」

「邪神討伐の功績を得られなかった責任を被らされたのですか?」


 ラーズ君の問いに、トール君は頷きました。

 文不相応な野心を抱いていましたから、粛清されたのだと思います。


「後味悪いな、少し介入してくるわ」

「分かった。此方は、跡片付けの後にフランレティア王宮に戻る」


 トール君が、天翼を背中に展開して拡げます。

 鬱蒼と生い茂る木々の隙間を選んで、翔んでいきました。

 上空で転移魔法を使用して行くつもりですね。

 ぐんぐん上昇していかれました。


「結局は介入してしまうのですね」

「うん? 伯爵は自業自得だがな、聖女と勇者は巻き込まれた被害者でもある。流石に、保護はしないだろうが、セイの事もある。秘かに、召喚陣を探るつもりだろう」


 トール君には、拾い癖があります。

 難事に絡まれている他者を、手助けしたりしていますので、賢者と言われてしまうのです。

 まさか、ミラルカに聖女さんと勇者を、引き取らないと思われますが。

 適切な保護者を手配するでしょうね。


「セイの一件もある。座標が判明すれば、時空神に帰還を促せられる」

「時空神様も、後始末に駆り出されて大変ですね」

「時空の狭間に穴を開ける神力は、光と自称実りの二神に購いさせる手筈になっている。魔導神から、連絡が来た」


 魔導神様は、魔人族の守護神様です。

 実は、アッシュ君のお祖父様でもあります。

 アッシュ君は神族の混血でありますから、神族の知人も多いのです。

 神族関連の情報は、お祖父様辺りから得ています。


「帰れるのは喜ばしいですが、ギディオンさんが寂しがるでしょうね。随分とセイを気にしていましたから」

「ん。可愛がってる」

「そうですね。甲斐甲斐しくお世話してましたね」

「ギディオンも、帰せるなら帰したいと反論はなかったぞ。親の元へ帰せるなら、それがいい」


 そうですね。

 セイ少年には、帰れる場所があります。

 きっと、ご両親も探しておられるでしょう。

 心痛を察せられます。

 未成年者は親元に帰すのが、魔族の願いでもあります。

 ギディオンさんは、我が事の様に喜ぶでしょう。

 リック少年と仲良くしているでしょうか。

 気になりました。


「セイ少年と言えば、リック少年もどうしているか気になります。保護者がいない地で、孤軍奮闘しているでしょうか」

「あの坊主なら、ギディオンに矯正されているぞ。セイがいるからか、歳相応の振る舞いを見せ始めている」

「使い魔情報です?」

「そうだ。当初はセイが気配りしていたが、物知らずなセイを気にして立場が逆転して面倒を見ている」


 アッシュ君の表情は穏やかです。

 リック少年がセイ少年を受け入れて、頼りにされているのなら、良かったです。

 些少な諍いはあったかも知れませんが、お祖父さんの威が届かない見知らぬミラルカで、元気に成長できるなら、判断は間違ってはいなかったです。


「工房の職人の弟子入りもするかも知れん」

「どの方のです?」

「ヒューバートだ。ヒューなら、精霊術にも明るい。良い師に出会えた」

「よくヒューバートさんが、受け入れましたね。自分の技術は一代限りと公言していましたのに」


 ラーズ君が、驚いています。

 ヒューバートさんは普通の陶磁器の人形(ビスクドール)から、布製のぬいぐるみまで、幅広く製作しています。

 今回、豊穣のお母さまを降ろせる自動人形(オートマトン)は、門外不出の技術が詰まっているはずです。

 ヒューバートさんは、精霊術師の道を閉ざして、人形造りの技術を学ばざる負えませんでした。

 その過去を疎んで、工房に拾われる迄は、かなり悪どい環境に身を置いていました。

 人形造りを犯罪に使用していたのです。

 一時期は、かなり荒れていたそうです。

 今は、トール君に更正させられまして、犯罪組織とは手を切りました。


「ヒューも、いろいろと丸くなってきた証だろう。リックを一人前の精霊術師にして、自分の過去と訣別する気だろうさ」

「人形造りの弟子入りではなく、精霊術師の弟子入りなら、納得しました」

「まあ、今後はどうなるかリック次第だ」


 ヒューバートさんの人形造りの技術が、廃れるのは惜しまれます。

 是非、リック少年には頑張って貰いまして、ヒューバートさんの心変わりを期待したいです。




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