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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
100/197

第49話

水曜投稿です。

 魔核を喪った魔力喰い(マナイーター)は、その体躯を維持できずに、魔素へと分解されていきます。

 アッシュ君の一撃に沈んだ魔力喰いは、断末魔をあげながら消滅していきました。

 そして、残されたのは数メートルある水晶体の塊です。

 祭壇に置かれていたはずの水晶体だと思われます。

 魔力喰いとは、違う禍々しい靄が漂いはじめています。

 第二戦目の気配が濃厚になってきました。

 悪魔とやらの登場ですかね。


「一度、下がるぞ」

「「はい」」

「了承」


 アッシュ君の指示に、帝国騎士が警戒している扉口に下がります。

 いつ、背後から強襲されてもよいように、水晶体を警戒しながら、帝国騎士と合流します。

 殿はアッシュ君が務めます。


「魔人、あれは何だ?」

「知らん。が、大方封じられている邪神とやらだろう」

「まて、先程のデカブツが、邪神ではないのか」


 朱の死神さんが、問い質します。

 やはり、皆さんは魔力喰いを邪神だと思っていたご様子。

 数年放置された魔力溜りには、発生率が高い魔物なのですが、初見であったみたいです。


「あれは、魔力喰いだ。永年の魔素をたらふく喰らって、あんなにデカブツになったと推測する」

「あれが、魔力喰いだと?」

「ああ、情報収集を怠り、威力偵察をしなかった帝国の失態だな」

「貴様は、初めから知っていたのか?」

「まさか、おれとて万能ではない。八つ当たりは、やめろ」


 今にもアッシュ君の胸倉を、掴もうとする死神さんを制します。

 確認を怠りましたのは勇者一行です。

 八つ当たりは、其方にお願いします。

 相変わらず、勇者は気絶したままで、聖女さんがとりすがっています。

 聖女さんのお兄さんは、拘束を解こうともがいています。

 聖女騎士団は、力無く戦意は喪失しています。

 これ、確実に詰んでいますね。

 邪神、又は悪魔との戦闘は、私達に掛かっていそうです。

 やだなぁ。

 帝国の尻ぬぐいを、しないといけないなんて。

 幾ら意趣返しでも、私達が戦闘する意義が見いだせません。


「兄さん、実体化します」


 アッシュ君にかわり、警戒していましたラーズ君が警告を発します。

 水晶体のほうを見やりますと、禍々しい靄がひとつの塊になりつつあります。

 悪魔の出現です。


「魔人、あれは何だ」

「遺跡の碑文にあった悪魔だな。邪神の門番だな」

「碑文? そんなものが何処にあった」

「遺跡の入り口だ」

「‼ その秘密主義はやめろ。遺跡に関して黙秘しているのを吐け」


 激昂する死神さんですが、情報収集を怠りましたのは其方です。

 カズバル村の村長さんは、離宮にいました。

 フランレティアに駐留していた時間は、死神さんの方が永いです。

 情報を集めるのは、帝国騎士として当たり前ではないかと。

 フランレティアは、帝国の属国です。

 アドバンテージは、帝国にありました。

 みっともない八つ当たりは止めて欲しいですね。


「何年、フランレティアに駐留していた。左遷の衝撃で自慢の頭脳が腐ったか。邪神がフランレティアに封じられていると、神託が降りたのだから、調査するのは当然だろうが」

「ぐっ。だが、敢えて話さない事実もあっただろう」

「何故に、話さないといけない。忘れるな。帝国と仲良しこよしと、手を取り合い邪神を討伐するほど、仲は良くないだろう」

「兄さん。魔法が来ます」


 悪魔が実体化を、終えました。

 山羊の魔角。

 硬質な体躯。

 俊敏に動く尾。

 蝙蝠の羽根。

 両手足には鋭利な鉤爪。

 典型的な悪魔の姿です。

 悪魔が咆哮します。

 私達を敵だと認識した様子です。

 手始めに、【火の玉(ファイヤーボール)】の魔法で、狙われました。


「煩い。暫く黙っていろ」


 一直線に飛来する魔法を、アッシュ君は大剣で薙ぎ払いました。

 そして、大剣を悪魔に向けてぶん投げました。

 大剣は、見事に悪魔の腹に突き刺さりました。

 悲鳴があがります。

 実体化してすぐには弱体化しているとはいえ、呆気ありません。

 悪魔を滅ぼすには、神炎が必要とありましたが、なくても充分ではないかと思います。


「それで、他に言いたいことは何だ」

「……あれが、邪神か?」

「いや、単なる悪魔だな」

「では、何処に邪神はいる」

「何を定義に邪神と断ずるかは、知りたくもないが。この遺跡に封じられているのは、大昔に代理戦争で罠に嵌められた女神がいるだけだ」

「女神。では、邪神と関係がないのか」

「然り。其に封じられしは、実りの女神」


 はっ?

 アッシュ君と死神さんの会話に、涼やかな声が割り込んで来ました。

 この声には、とっても聞き覚えがあるのですが。


「なっ? 誰だ」

(わたくし)か?」

「そ、そうだ」


 あー。

 見覚えのある装束に包まれています。

 リーゼちゃんに持っていかれたままの、神子装束です。


「笑止。妾に会いたいと願うは、其方であろう。煩わしい輩に、問われるとは。甚だ、遺憾である」


 全身を覆うローブと、口もとまで隠すベール。

 神々しいまでの神気。

 神秘性を演出するその姿に、私も疑問符が飛び交います。


「……神、子」

「然り。妾は、豊穣の化身。地においての代弁者」


 帝国の方々は、皆さんが呆けて口を開けています。

 聖女さんのお兄さんは、私と突然現れた神子を見比べています。


 〔セーラ、誰?〕

 〔頭が痛くなる答えだと思いますが。僕も知りたいです〕

 〔人物鑑定するまでもありません。だって、お母さまなんですよ。私も、疑問だらけです〕


 この神気を見誤る訳がありません。

 豊穣のお母さま、その人です。

 神族が直に地上に降りた様子ではないですが、間違いなくお母さまです。

 神々は地上の出来事に不干渉を貫き、滅多に降臨はしません。

 現身では顕現出来ない(ことわり)になっています。

 ましてや、お母さまは神子だと偽り顕現しています。

 罰せられるのではないでしょうか。


「神子が二人? いや、妖精姫は神子ではないのか」

「嘘だ。妖精姫を連れ帰れば、わたしが選ばれるのだ」


 死神さんとお兄さんは、現状を把握出来ない様子です。

 帝国騎士も、口々に神子登場の衝撃を語っています。

 私達も衝撃を受けていますが、比ではないでしょう。

 帝国側は、私が神子だと断定していました。

 お兄さんに至りましては、わたしを帝国に頻りに勧誘していました。

 お得意の話術で言質を取ろうとしていました。

 無視していましたが。

 正直煩わしかったです。

 聖女の妹と勇者を捨て駒にしてまで、手に入れたがる神子が別人だった。

 理解するまで、時間がかかりそうです。


「まて、少し待て。神子が本物だとは、俄に信じられん」

「其方に認めて貰わんでも、良い。妾は、神命に沿うだけのこと」

「神命とは、何だ」

「人族は、(かしま)しい。何故に、神の御言葉を話さねばならぬ」


 ベール越しに、威圧が放たれます。

 たおやかな指先が、死神さんに向けられます。

 その肌は真白く、さながら陶磁器の様です。

 えっ?

 陶磁器?

 思考した瞬間に、鑑定がお仕事しました。


 ▽  改造自動人形(オートマトン)依り代


 人形師ヒューバートの逸品

 現在、神降し中


 はあ。

 トール君が画策していたのは、これでしょうか。

 お母さまに繋ぎをつけましたのは、お出ましを願ったのですね。

 お母さまも現身で顕現していませんし、依り代を使用していますから、罰にはなりません。

 理の抜け穴をつきましたね。

 私を守る事案に、お母さまが否やを言う訳がありません。

 トール君も、無茶をしました。

 帝国を騙す為に、豊穣のお母さま自身を利用するなんて、涙が出てきそうです。


「退きや。神の御言葉に逆らう輩には、神罰を下す。妾は、実りの女神を救わねばならぬ」

「待ってくれ。何故に実りの女神が封じられているんだ。それに、実りの聖女は、そこにいるんだ。可笑しいだろう」

「神の意ぞ。妾が否やを問うわなし。退きや。神の御技を披露しやる」


 死神さんの疑問は分かります。

 私も事情を知らなければ、ちんぷんかんぷんですから。

 死神さんへの興味を喪ったお母さまは、悶える悪魔を見据えます。

 アッシュ君の横を抜け、前に出ます。

 掌を上にしたかと思いましたら、蒼白い炎が出現しました。


「其方の役目は終わりじゃ。魔界に帰るが良し」


 何の気なしに掌が、振るわれました。

 炎が悪魔に迎い、全身を覆いました。

 神炎に焼かれた悪魔は、呻き声を発する間もなく焼失していきます。

 本当に呆気ありませんでした。


「さて、妾の役目は終わりじゃ。其処の男。聖女と勇者を此れに連れて参れ」


 指名されたアッシュ君が、眉をしかめます。

 お母さまの口元は、笑みを浮かべています。

 ちょっとした、悪戯ですね。


「待て。勇者は、怪我をしている。何かをするなら、責任は自分に」

「阿呆。女神を、解放するには聖女と勇者の協力がいる。其方では、役不足じゃ」


 見よ。

 告げられた言葉の先に、靄が薄れた水晶体があります。

 晴れていく際に、人の姿が見えてきました。

 実りの女神様です。

 幾重にも鎖が巻き付かれています。

 簡単には目覚めさせない、悪意が伝わります。


「待って、勇者様は怪我をしているのよ」

「見た処、完治しているが。何時まで、気絶した振りをしている。ご指名だぞ」

「ひいっ。嫌だぁ。痛いのは、もう嫌だ。勇者なんて辞める。辞めるから、助けて」

「勇者様?」

「アンジェ、助けて」


 見苦しく看破された勇者は、アッシュ君から逃げ延びる様に聖女さんを盾にします。

 お兄さんにも見放され、勇者にも盾にされた聖女さんが哀れです。

 勇者の大言壮語は何処かに行ってしまいました。

 初の実戦で死にかけたのが、恐怖を呼び覚ましたのでしょう。

 業を煮やしたアッシュ君は、無情に二人をお母さまの元に引き釣りだしました。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない」

「勇者様。しっかりしてください。もう、魔物はいません」

「勇者なんて辞めるんだ。俺は、家に帰る。帰るんだ」

「勇者は帰れぬぞ」

「何で?」

「其方は、勇者になると宣言した。至高とやらの神に了承され、この世界に魂が定着した。元の世界にて、存在を抹消されたわ」


 お母さまの説明に、セイ少年を思い出します。

 少年は、帰還を望んでいます。

 帰れないのでしょうか。


「何でだよ。邪神を倒したら帰れるって言ったのに」

「偽証であろう。それに、其方は邪神を討伐できなんだであろうに」

「邪神? ……うわぁ。死にたくない死にたくないよ」

「勇者様」


 怪我を負った経緯を思い出したのか、再び錯乱する勇者。

 お母さま、容赦なしですね。

 トラウマを抉ります。

 聖女さんが沈静を促す声も聴こえてはいないです。

 お母さまが、嘆息します。


「もうよい。其方の名は?」

「る、ルーカス=ハーヴェイだ」

「宜しい。ハーヴェイ、其方に一時的な勇者の加護を与えん。其方が、女神を封ずる水晶体を壊すがよい」

「はあ? 何故に自分が、適任者は他にいるだろう」


 お母さまの爆弾発言には、驚かせられます。

 ですが、お母さまは異論を受け付けずに、死神さんの身体に光球をぶつけます。

 勇者の加護とは、大盤振る舞いです。

 何か、私達では無くてはならない、理由がありそうです。


「神子、その役目を是非にわたしに」


 丸く収まりそうな雰囲気を、ぶち壊す発言があがりました。

 見なくても分かります。

 拘束を解こうとする聖女さんのお兄さんです。

 汚名返上を狙っているのでしょうか。

 お母さまは、沈黙しています。

 何やら、画策していそうなお兄さんの笑みに、鳥肌がたってきました。

 本当に、どう結末に向かっているのでしょうか。


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