『イモのソラニンで世界がやばい』 作者 空伏空人
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一言『とりあえず悪そうなやつから排除していこうぜ!』
世界が終わる。
地球が死ぬ。
そんなニュースが巷で流れ出してから半月が過ぎようとしていた!
世界では地球が死なないように、この世から毒を消すことに尽力していた!
地球が健康になれば滅亡を回避できるのだと、狂ってしまった頭で考えていた!
フグは滅ぼされた! トリカブトは獲りつくされた! 青酸カリはすべて宇宙へ飛ばされた!
この半月の間の科学力の成長は著しく、この世に存在する『毒』と定義できるものをすべてつぎ込んだ宇宙船『逆ノアの箱舟』の開発にも成功していた!
ぶっちゃけ、それに乗り込んで宇宙に逃げた方が生き延びれる確率は高い! この半月の間で、別の人類が生きることができる星も発見している! しかし! 人類は逃げることをしなかった!
地球大好き! 地球LOVE!
そんな戯言を合言葉に、ついに地球上の毒をすべて絶滅させた! しかし! 地球滅亡のカウントダウンが止まることはなかった!
人類は『毒』と形容できるものをすべて滅ぼすことにした!
まずは囚人を全て死刑にした!
死刑執行したものは銃で頭を撃ち、自殺させた!
野放しにされていた犯罪者を全て根絶やしにした!
その期間わずか三日間!
三日で社会にとってのゴミもすべて排除した!
すべてである!
生きているだけで幸福になり、健康になり、命の危険を感じる心配もない!
そんな理想郷がうまれた!
しかし!
それでも地球が健康になることはなかった! 足元には命の危険ばかりだった!
――うむ?
――足元?
そこでとある頭がいかれた研究者は気づいた!
まだ滅ぼしていない毒があることに気づいた!
ジャガイモだ!
ジャガイモの表皮や芽に含まれる毒!
ジャガイモは地面の中で育つ食べ物である!
地面の中! つまり地球にとっては表皮の中!
表皮にそんな毒があれば! それを吸収してしまい! 健康を阻害されてしまったとしてもおかしくない!
つまり! 地球は食中毒をおこしているのだ!!
いま! 世界中でジャガイモを掘り起こして足で砕く運動が開幕した!
人をひき殺す凶器! つまりは毒! ということで逆ノアの箱舟に乗せられて破棄されているから、トラクターは使えない!
「冗談じゃあねえぜ……」
日本のジャガイモ農園!
麦わら帽をかぶった老人が必至の形相で掘り起こしたジャガイモを踏み砕いている!
それをみながら、ジャガイモは呟いた!
芽が生えるくぼみが、えくぼのように見えるジャガイモである!
ジャガイモは少しだけ地面に顔をだしながら! 絶望を声にする!
こんなところで死んでたまるか! 俺は地球が滅ぶまで生き残ってやるぜ!!
ジャガイモは周りのジャガイモを芋づる方式に引っ張り上げながら、外へと飛び出した!
地球が滅亡するまで数時間もないだろう!
ジャガイモは地球が死に、強制的に寿命を達せられるまで生き延びることができるのか!
「見つけたぞこのイモ野郎めがああああああ!!」
「グギャアアアア!!」
じゃがいもの近くにいたイモが農家の無慈悲な足によって踏み潰された!
内側が外側へとはじき出され、あわれイモはマッシュにされた!!
「てめえ! 今のタイミングは章代わりだったろうが! 空気読みやがれ!!」
メタメタしい言葉である!
じゃがいもは叫びながら、マッシュになった仲間の亡骸から離れる!! 農家はじゃがいもを見た!
狂ってる!
ひと目でそれが分かるほど農家の目は狂ってる!!
毒を追い払おうとするあまり、自分自身が毒となってしまっている!
あわれだ!
彼を人間と呼ぶのは憚れる……!
「俺たちを潰す前に自分自身を叩き直すんだな農夫野郎!!」
じゃがいもは中指をたてながら逃走する。
じゃがいもだから手はない!!
けれども、これはじゃがいもの擬人化小説だから特に気にしない!
「んだとぉ! じゃがいも風情が言うじゃあねえか!!」
毒をこの世からなくすために銃はハンマーで叩き潰している! そうでなければショットガンをぶっ放しかねない喧噪だ!!
「ぶっ殺す!!」
農夫は長靴を履いた足で、よく耕された地面を! 踏む! 踏む! 踏む!!
寝心地のよかった地面は踏みしめられて、固まっていく!!
「ちくしょう! その地面は寝心地がよかったんだぞ!」
「知るか! お前らが地面で寝ているから地球は不健康になっていくんだ!!」
「おめえが踏んづけているから地球が不健康になっていると考えたことはないのかよ!!」
農夫は狂い狂ったように! 自ら丹精込めて耕した畑を! 長靴で破壊する!!
その踏みしめを、どうにか転がりながら回避する!!
じゃがいもはごつごつした楕円形だから、転がることは容易である!!
「きゃあっ!」
誰かの声だ! 高い声! 女の声!
声のした方を向く! イモがよく耕された畑の地面にひっかかり、転がることができなくなっていた! 周りの地面は踏んづけられて固まっているというのに、そこだけまだ柔らかい! ブービートラップだ!!
「ちくしょう、なんてことだ!」
じゃがいもは転がる体をとめ、女のイモ――メークインの元へと走りだす! ちなみにじゃがいもはキタアカリだ! 男爵いもではない!!
「掴まれ!」
じゃがいもは手を伸ばす! メークインはその手にしがみつくように掴み返した! 二人はもつれあうように転がる! 直後! メークインが捕まっていた地面が踏みしめられた! 間一髪! マッシュ回避だ!
畜生! 畜生! 野菜風情が!!
農夫は叫び狂う! 山彦のように響く狂気から遠ざかるようにじゃがいもとメークインは手をつかみ合いながら逃げる! 逃げる! 逃げる!!
地面が、ぐらりと揺れた!
地震だ! いや違う! 地面が震えているのではない! もっと奥! 奥! 地球の奥深くが震えているのだ! なにかを放出しようと! なにかを弾けだそうと! なんということだ! 地球はもうすぐ爆発しようとしているというのだ!!
「地球が死ぬ!」
「なんということ! 私たちはいったいどこに逃げればいいの!?」
「逃げ続けるんだ! 地球が死ぬまで! それか誰かにおいしく食べられるまで!!」
「ええ――」
メークインの言葉が途切れた!
引っ張っている手から伝わる重みが増したような気がする!
まさか!
まさか!
じゃがいもは現実を見たくなくなった!
しかし、振り返らざるを得ない! 振り返らなければ、話は進まない!!
振り返る!
メークインは、食われていた!
美味しそうな中身が空気にさらされながら! 身動き一つしない!
かじられている!
空からカラスの鳴き声だ!
地球が死にそうだということは人間しか知らない! 動物は変わらず生活している! だから、お腹が空いたからメークインをかじったのだ!
あいつめ! 食らいやがったな!
俺たちは食われることは構いはしないが、害獣に食われることだけは嫌だ! 俺たちの商品価値が下がってしまうじゃねえか! せめて全部食いやがれ!
食物として! 商品としての怒りが! じゃがいもの全身を包む!
それを聞いてか、カラスは再びやってきた!
カラスの特攻だ!
じゃがいもは拳を握る! 負けられない! 害獣なんかには負けられない!!
拳とくちばしが交差する!
瞬間!
爆発だ!
二人のせいではない! 地球が、爆発したのだ!!
じゃがいもの意識は途切れる!
吹っ飛んでいる!
それだけは分かった!
……。
…………。
………………。
意識が復活したのはいつだろうか、数秒も過ぎていないかもしれない。
周りの風景は真っ暗だった。
音がしない。耳がやられてしまったのだろうか。じゃがいもには耳なんてものはないのだけれども。
星がとても近くに見える。さっきまで昼だったのに。かなりの時間、意識を失っていたのかもしれない。
じゃがいもは体を持ち上げる。なんだか、体が軽かった。いや、軽いなんてものではない。浮き上がりそうになった。慌てて地面を掴んで、じゃがいもは地面にしがみつく。そうでもしないと夜の空へと飛んでいってしまいそうだった。
キレイだ。
そう思うと同時に恐ろしかった。
じゃがいもは地面にしがみつきながら視線をあげる。
とても大きな星が見えた。
青い星だ。とても美しい星。
地球だ。地球が見えた。
爆発によって、そこらかしこに穴ぼこが空いている。地球が砕けていく。
そうか。自分はすでに空に飛んでいっていたのか。
はは。
見ろよあの穴ぼこの地球。
まるでじゃがいもみてえじゃあねえか。
じゃがいもはニヒルに笑うと、ゆっくりと手を離した。
宇宙に身を任せてみるのも、悪くはない。
数日後、彼は火星に落ちて、そのままじゃがいもを繁殖させていくのだが、それはまた別の話。




