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超幸運スキル持ちだけど、俺は本当に運が良いのだろうか?  作者: ぬぬぬぬぬ
第一章 俺、自身の運の良さを再確認する
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冒険者の日常4 面倒事の押し付けといつもの買い物

「誰か~、字読める奴いない~? 内容読んで欲しいんだけど~」

「しょうがねぇなぁ。俺が読んでやるよ。ん? こりゃ護衛任務だな。内容は――」


「なぁ、その『シュウ』って奴誰? 俺知らねーんだけど、どっかの商人?」

「俺も知らねーな。ってーかよ、依頼主の名前をここに書くとか、頭おかしいのかコイツ。普通護衛依頼って、受注相手にしか依頼主知らせねーよな? 確か……アイツが言ってったけど、盗賊対策でよ」

「いやいや、それよりよぉ、何? この意味分からねー依頼内容。結局、どういう意味? わざわざレーナちゃんが貼りに来たから見に来たのに、俺、依頼内容が良く分かんねーんだけど」

「つか、何で護衛依頼受ける為に最初に金を払わなきゃいけないんだよ? むしろテメェが前金を寄越せ。護衛任務をするのにも、準備ってのがあるんだぞ。冒険者を舐めてんのかこの依頼主」

「この依頼ってさ、アレだろ。ジユーが言ってたえーっと、……ジライ! ジライって奴だろ!」

「だな。ジライクエストだ。というか、護衛依頼でギルドで責任を負わないって……どんだけジライなんだよ」

「ってかよー、こんな真昼間に新しい依頼を『掲示板』に貼りだすとか馬鹿なんじゃね? ここに居んのはもう今日の狩りを終えた奴らしかいねーだろ」

「いや、朝から貼ってあっても誰もこんな依頼受けねぇって」


 ……おぉう。

 おもいっきしやらかしてしまった。

 まさか、俺の名前がここまで覚えられてなかったとは……。


「仕事はしたぞ。早くそれを脱げ。シュウ」


 うん。

 なかなか過激な発言だねレーナ。

 そういうのはもっと人がいない時に言うようにしてね?

 他の冒険者達の眼が、本気の殺気を放ってくるようになっちゃうからさ。

 お前、一部の冒険者に人気あるんだから。


「ほれ、まだ何か頼むかもしれないからちゃんとカウンターに居ろよ? 俺、レーナじゃないと話聞いてもらえないんだから」

「自業自得だ。それと、ちゃんと収拾を付けろ。あまり騒がしいとギルマスが降りてくるぞ」

「そう、だな」


 正直、どう収拾つければいいのかわからん。

 エルさんの為に騒ぎの収拾をしようとしていたら、いつの間にか騒ぎを大きくしてしまっていた。

 何を言っているのか……。

 まぁ、これはもう良いな。


 と、くだらないことを考えていたら、この状況を打破してくれる男が来た。


「なんか騒がしいな。まーた、あのガキが冒険者にケンカ売ったのか?」

「……楽な仕事を、くれ」


 ドレアスのおっさんとクールぶってるオレンだ。

 どうやらドレアスの言っていた『賭けに参加しそうな知り合い』とは、オレンの事だったらしい。


 ちなみに、オレンは、パーティーでの役割として斥候を担当している冒険者で、基本戦闘は苦手である。

 ぶっちゃけ、全冒険者(教官)に教わった中で今の所、このオレンに教えて貰った技術が一番役に立っている。

 かなり尊敬している冒険者の一人だ。

 そして、俺の目標とすべき冒険者でもある。


 教えてもらった技術は主に、逃走方法とか、索敵の方法とか、潜伏の仕方とか、逃走の仕方とか、接敵の仕方とか、ダガーの振り方とか、弓の使い方とか、罠の仕掛け方とか、あと逃走方法とか、な。

 ……うん。

 逃走方法とかな!


『クールぶってるオレンは斥候のくせに、実は一人でドラゴンを倒せるぐらいに強い』

 と言うのは、この街の冒険者達にとって有名な話だ。

 罠を駆使してハメ殺したらしい。

 もっとも、一週間近くかけてようやく仕留めたらしいが。

 これがこの街で言うところの『戦闘は苦手』って分類なんだぜ?

 ホント頭おかしい。

 俺は完全に赤子か何かだな。


 ついでに、このオレンさんにはもう一つ有名な話が最近追加された。

『クールぶってるオレンさんは、実は結構簡単にキレる』というものだ。

 要するに、オレン=危険人物である。

 これに関しては、ぶっちゃけ俺のせいである。

 【何故かどこからか現れる、親切な冒険者さん同盟】に参加してないのに、俺の周りをウロチョロする人に制裁を加えたり、同盟参加者なのに俺が引き連れて来た魔物を倒すだけ倒して報酬を俺に払わない奴の制裁とかをやってもらった。


「オレンとドレアスってどういう知り合いなんだ?」

「昔パーティーを組んでたことがあってな」


 へぇ、知らんかったわ。

 もっと詳しく聞きたいが、「聞くな」という無言の圧力を二人から感じた気がするので追及はしない。


「……楽、依頼……」

「もちっと、話すようにしろよなオレン。それと、楽な依頼はあそこに貼ってあんぞ」


 何で尊敬しているのに、扱いがぞんざいなのかって?

 一回師匠扱いしたら、マジ殺されそうになったんだよ……。

 オレンはそういうのは嫌なんだとさ。


「楽、依頼……」

「ってぇなぁ! オイ。何足踏んでんだよおま……」

「楽、依頼……」

「オレンだぁぁあああ!! オレンが来たぞっ、逃げろー、死にたくない奴は逃げろー!!」

「ウソ……だろ……? 昨日ドラゴンを倒したから2、3日は休みだって、アレンが言ってたのに……ッツ。マジじゃねーか!」


 ちなみに、アレンってのは、オレンとパーティーを組んでいるおっさんで、大剣使いだ。

 俺にやたらと大剣を勧めてくる、ちょっと困ったおっさんである。


「うぁああああっ、嫌だーまだ死にたくねぇー!!」

「楽、依頼……? 楽? 依頼……? 楽?」

「やべぇ! 何か機嫌悪くなってんぞアイツ! し、死人が出るぞー!! 逃げろ、逃げろー!」


 うわぁ、更に騒がしくしてしまった。

 ま、これはこれでアリか。

 俺の第一目標がほぼ達成されたし。


 一瞬騒がしくなったけど、今ので冒険者ギルドは静かになったからな。

 主に、俺とオレンの様子を遠くから伺う的な意味で。


「どの辺が楽なのか説明しろシュウ。護衛依頼なんて面倒な依頼は受けんぞ」


 オレンの言っている事は、概ね正しい。らしい。

 らしい。というのは、俺が実際に護衛依頼をやったことがないからだ。

 が、確かに元職員だった時、護衛依頼でもめている冒険者をそこそこの頻度で見かけた。

 食事がどうとか、報酬が少ないとか、話が違う、とか。

 そういう依頼主は冒険者ギルドの方で調べられて、あんまり酷いと依頼主になる権利を剥奪されたりするんだけどな。

 最も、冒険者の側が粛清されたりもするんだが。


 通常、護衛依頼の報酬は大きく分けて2つある。

 1つ、冒険者への前金の支払い。

 これは一日で往復出来る距離の場合は発生しない。

 が、野営をする必要がある場合は、冒険者側にも準備が必要なので、そのための前金だ。

 この段階で、冒険者ギルドが間に介入していない場合、冒険者は前金だけ貰って雲隠れする可能性があったりなかったり。

 だが、まずこの段階でかなり揉める。らしい。

 この辺りの調整はそこそこ偉い役職のギルド職員でなければ出来ない仕事だったので、一般職員Aの俺は詳しく知らない。


 2つ、成功報酬。

 これが、護衛依頼の面倒なところである。

 例えば、商人の護衛中に荷馬車に乗っていた商品が壊れた場合などだ。

 こういう時、依頼主は結構無茶苦茶なことを言いやがる、らしい。


「商品が壊れたのは護衛に当たった冒険者の腕が悪いからだ!どうしてくれるんだ!」とか、

 護衛対象が複数いた場合では「護衛対象を守り切れなかったくせに報酬なんか払うわけないだろ!」

 という苦情が冒険者ギルドに数多く集まったので、現在の護衛任務は『依頼した段階で依頼主は報酬額を全て冒険者ギルドに預け、護衛対象を守り通した後に冒険者が依頼達成の札を持った状態で報酬を受け取りに来る。ただし、護衛対象が死んでしまった場合、報酬は一部しか支払われない』となっている。

 が、今度はこの『依頼達成の札』を依頼主が渡さないとかなんとか。

 冒険者が『依頼達成の札』を盗んで帰って来たとかなんとか。

 実に面倒な事である。

 結局、『依頼達成の札に依頼主が一筆書かなければ依頼を達成したことにならない』ってことに落ち着いた今でも、護衛任務ってのは面倒な物である。


 要するに、オレンが一番嫌いなクエストの1つが護衛任務な訳だ。

 金にはなるが、すさまじく面倒な依頼って事らしい。


 だが、今回俺の出した以来の場合、この2つは当てはまらない。


「なぁに言ってんだよオレン。良いか? この依頼の重量な点はな『護衛対象を守ることが依頼完遂の条件ではない』護衛依頼なんだぜ? 好き勝手してくれて構わねぇよ。あんたの好きな楽な仕事、だろ?」


 あと、急に饒舌になんのはヤメレ。

 それ、アンタがマジで怒ってる時のサインじゃねーか。


「……護衛依頼なのに、護衛をしなくて良い……?」

「そーじゃねーって、護衛はしてもらう。けど、無理して守る必要は無い。って言ってんだよ」

「? 意味が分からんぞ」


 うん。

 自分でも意味の分からん依頼を出したなー、と思ってるよ。

 だからレーナ。

 さっきからジト目で俺を見んのヤメロ。

 あと、サラッと受付カウンターに逃げてんじゃねーよ。

 こういう時に間に入って仲裁すんのも受付の仕事だろうが。

 今の俺とオレンの関係は、依頼主と冒険者なんだぞ。

 依頼主を守るってのも職員の仕事の1つだって知ってんだろ。

 おい、目を逸らしてんじゃねーよ。


 そしてドレアス、お前もか。


「この依頼で重要な点は3つだけだ。1つ、護衛対象を守る事が出来たら報酬が美味い。2つ、冒険者としての日常を過ごした場合、別途報酬が発生する。要するに、適当に護衛対象を連れて狩りに行ってくれって依頼だよ。そして3つ目、護衛対象が死ぬようなことになっても、冒険者としてのペナルティは発生しない。この依頼に関して、冒険者ギルドは責任を負わないってのはそういう意味だ」


 そう。

 今回の護衛任務で重要な点は『この依頼に関して、冒険者ギルドは責任を負わない』というこの一点だ。

 エルさんに面倒をかけない為に追加した一文が予想と違う形で役に立った。

 主にオレンを説得する材料として。


「……前金が無く、逆に金を払わされる理由は?」

「この依頼は、正確には依頼ではなく、俺と冒険者を対象にした賭けだからだ。今日の飲み会に護衛対象を連れて参加されたら、その時点で俺は得しないんだけどな。それに良く見ろ。この依頼はな、『参加報酬』なんだ。三日経ったら絶対に金は払ってやるよ。護衛対象の生死に関わらずな」


 あと冷やかし目的の冒険者には参加されたくないってのも一応の理由だ。 

 あくまでも今回の俺の目的は自己満足したいという我儘に尽きる。

 結果はともかく、俺は『俺と同じ境遇にいる人間を見捨てたくない』のである。

 が、三日以内に死ぬ奴が相手だと言うなら『少なくとも俺は見捨ててはいない』という言い訳だけ手に入ればそれで十分だ。

 したがって、この依頼を受けた冒険者に無理して怪我とかされても困る。


「……ますます意味がわからん。賭けなのに片方が損をするのは確定している賭けだと?」

「俺が変人なのは元々だろ?」

「……ふむ。言われてみれば……」


 おぉう。

 俺が変人であることが初めて役に立ったな。

 主にオレンが納得する材料として。


「……1つ、確認するが本当に護衛対象を守らなくても良いんだな?」

「あぁ、なんならイラッときたってのを理由に草原に置き去りにしても良いぞ」

「……お前は護衛対象を死なせたいのか? それとも守りたいのか?」

「正直、どちらも正しい。が、神様がそれを許さない」

「……依頼を受けよう。が、俺は本当に守らんぞ」


 アレ?

 神様の下りはスルーなの?

 そこをそのまま触れられないと、俺の変人度に磨きがかかっちゃうんだけど?

 レーナさんがジットリした目で俺を見てるんだけど!?

 ……あ、いつもの事だったわ。


「話は終わったか? あぁ、それと俺もこの依頼受けんぜシュウ」

「……いつから聞いてたんよアレン」


 お前、今日は休みだったんじゃねーのか。

 何でしっかり冒険者スタイルでここに来てるんだよ。


「いーや、今来たところだから依頼の内容は全然知らねぇぜ!」

「いや、それダメだろ」


 お前、そこそこの頻度で報酬額だけ見て選んだ依頼失敗してんだろ。

 俺、元ギルド職員だから知ってるんだぜ?


「あん? うちのオレンが依頼受けるつったら、なんも問題ねぇよ。オレンが受ける依頼ってのはハズレだったことがねぇからな! なぁオレン!」


 そう言って、オレンの背中をバンバン叩くアレン。

 この三年でパーティーを組む相手を見つけることが出来なかった俺にとって、若干羨ましい光景でもある。


「や…め、ろ……またっ、背骨、が折れるだろ、馬、鹿…力…」

「おぉ! そうだった。いやー、すまんすまん」


 ……若干羨ましい光景である。


「うし、じゃぁ後は任せたぜ。あそこでギレルに絡まれてんのが護衛対象だ」

「あん? 護衛依頼なのか?」

「おう、ま、参加しただけで報酬が出るアホみたいな依頼内容だけどな。詳しくはオレンに聞いてくれ」


 そう言って、俺はいつも通りの買い物を始めるべく、冒険者ギルドを後にした。


 ◆


「おっす。親方ーいつもの奴出来てるか?」

「あぁ、鉄、銀で作った弓矢をそれぞれ毎日30本だろ?用意出来てるから持ってけ」

「よしよし。じゃ、明日も来るからな」

「あいよ」


 俺は鉄と銀の弓矢をそれぞれ30本入手した。

 ここでの支払いは月初めに終えている。

 弓矢が無くなったら、接近戦をしなくちゃいけなくなるからな。

 弓矢だけは、絶対に切らしたくない。

 言うなればこれは必要経費である。


「おっちゃん。とりあえず全部の串を30本な」

「おう!今日も来やがったな大食い野郎め。ホラよ、用意できてんぜ!」

「サンキュ」

「おう、明日も来いよ!」


 俺は、いろんな種類の肉の串焼きをそれぞれ30本入手した。

 大銅貨6枚の消費だ。

 ドラゴンの串焼きは一本で銅貨4枚って言うぼったくり価格だけど、美味いからな。

 これは必要経費だ。


「オッサン。いつもの奴20個な」

「あぁ、今日も来たのかお前。ほら、そこにおいてあんのがお前の分だ」

「おー、ありがとよ。死んでなかったら明日も来るぜ」

「たくっ、言ってろ」


 俺は、高級弁当を20個入手した。

 大銅貨4枚を消費した。

 1つで銅貨2枚もするけど、ここの弁当が一番美味いからな。

 これも必要経費だ。


 …………

 ………

 ……

 …


 俺は結局この日、様々な食材と引き換えに銀貨2枚を消費した。

 日本に居た時には考えられない豪遊っぷりである。

 もっとも、すべて俺にとっては必要な物たちだ。

 金を惜しむ気は無い。


 アイテムボックスに食べ物を詰め込めるだけ物を詰め込む。

 そうしておけば、飢えて死ぬなんてことはなくなる。

 死にたくない俺にとっては、餓死ってのも一応恐れるべき対象だ。

 もしかしたら今日から数年間、急に干ばつになって、飢えて死ぬ未来が待ってるかもしれないだろ?

 だからこれは、俺が死なないようにする為の必要経費なのだ。

 決して金を無駄遣いしている訳ではない。


 ちなみに、弓矢に関しては毎月金貨一枚を払っている。

 弓矢は一本で大銅貨を一枚~二枚はかかる高額武器だ。

 ぶっちゃけ、弓で行う狩りはコスパが最悪だ。

 弓矢を6本消費して、やっと銅貨4枚になるモンスターを倒せるってぐらい効率が悪い。

 弓矢だって、毎回回収できるわけじゃないし、少しでも曲がってたらもう使えない。

 赤字になる未来しか見えないので、冒険者で弓矢を主に扱う人物は少ない。


 が、モンスターとの戦いにおいて遠くから一方的に攻撃出来るってのは金を払ってでも買いたいアドバンテージでもある。

 現に俺のような圧倒的弱者は大金をはたいて弓矢を買い込んでいる。

 それに、俺に関して言えば遭遇するのは大体レアモンスターだからな。

 よっぽどじゃない限り黒字になる。


 ホント、超幸運スキル持ちで良かったよ。

 接近戦とか怖すぎてやりたくねぇからな。



 よーっし。

 日も傾いて来たし、飲み会に行きますか。


 ◆


「おい。あのクソガキは一体何なんだ? お前の時よりも質が悪いぞ。報酬の値上げを要求する」


 冒険者ギルドに着いた途端、オレンに胸倉を掴まれた。

 オレンが饒舌であることから、これはマジでアカン奴だと俺は理解した。

 とりあえず、まだ死にたくは無いのでどうにかしてオレンを落ち着かせたい。


「護衛対象のアイツはどこ行ったんだ?」

「アレンが訓練場で稽古をつけている。俺には分からんが、剣の才能があるらしい」


 なるほど。

 確か剣スキルは9だったもんな。

 剣の腕は確かなんだろうさ。

 ただ……。


「それ、大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけない。あのクソガキは何であんなに体力が無いんだ? 最初に会った時のお前より酷いぞ。それより、報酬の値上げだ。金貨三枚払え」


 値上げし過ぎだろ……。

 というか、三十路のおっさんよりも体力で劣ってるってヤバくね?

 階段の昇り降りで息切れするおっさんにすら劣るってどういうことなの。

 あと、その力の入れ具合ヤバくね?

 息が苦しいんだけど。


「そんなに護衛対象が酷いのか?」

「あぁ酷い。アイツのせいで今日はモンスターと不利な戦闘をさせられた。最悪だ。モンスターの存在を教えれば突っ込む、モンスターの背後に回れば突っ込む、ブッラクボアから遠ざかろうとすれば突っ込む、大声を出すせいでモンスターには発見される。散々な一日だ。俺は楽な依頼だと聞いていたのにこれはどういう事だ?」


 ふむふむ。

 想像しただけで最悪な一日ってのが良く分かる。


 正面からの戦いを好む好戦的な冒険者も確かに存在する。

 命のやり取りを楽しむ戦闘狂な連中である。

 俺の身近で言うと、アレンとかがこっちだ。


 だが、基本的にモンスターには不意打ちを食らわせる方が楽に決まってる。

 背後に回って気が付かれる前に、武器を一振り。

 遠くに居るモンスターを狙い、弓矢でトスッ。

 そこまで上手くいかなくても、モンスターがくつろいでいる時に接近したり、自分が戦いやすいところに誘導するってのは冒険者の狩りでは基本的な行動である。

 俺やオレンのように戦闘狂ではない冒険者はこっちだ。

 というか、基本的に冒険者はこっちだ。

 戦闘狂(アレン)が頭オカシイだけである。


 一般職員時代には戦闘狂な一部の冒険者を除いて、俺はいかにモンスターとの最初の遭遇が大事なのかを冒険者たちに教わっている。

 一部の群れを成すモンスターは、素早く仕留めないと援軍を呼ばれる。

 だから狩るなら奇襲を仕掛けろ。必ず先手を取れ。

 これは俺の教官をしてくれたほぼすべての冒険者が教えてくれた事だ。

 ウルフ系の魔物は、大体これだ。

 そして俺の逃走技術に更なる磨きがかかったのは間違いなく、ウルフ系の魔物のおかげである。

 戦ってる最中に援軍が来るとかズルくないですか。


 ブラックボアを発見したら即逃げろ。

 だから、モンスターを見つける為に斥候技術を磨いておけ。

 これを、当日の朝まで両腕のあった男(・・・・)が言うのだから、説得力があるってレベルではない。


 それぐらい、この世界においてモンスターとの最初の遭遇というのは重要である。

 それと同じぐらい、狩りをする対象の情報というのは重要である。

 だって、蛇の毒で腕(噛まれた所)を切断しなきゃ死んじまうような世界なんだぜ?

 そんなヤバイ生き物はスルー安定だわ。

 地球でも蛇ってヤバイ生き物だろ、だって?

 でも、この世界の蛇って7メートルぐらいあるメッチャデカイ大蛇だぜ。

 しかも超速くて、超力が強い。

 その上、解毒薬を使っても嚙まれた所は切断しなきゃいけないって……。


 ただ、その醜悪な外見とは異なり、基本的におとなしい魔物でもある。

 こっちから不用意に近づいたりしなければ襲ってはこない。

 ちなみに、黒い服を作る場合に素材になる魔物の一種でもある。


 で、この街の屈強な冒険者達ですら逃げ出すブラックボアと戦ってきたってのか……。

 オレンがイライラしている理由は納得出来た。

 一緒に狩りに行く奴がアホだと自分の命が危ない。

 言葉通り、冒険者の狩りは命がけなのだから。

 そりゃ、怒るわな。


「んー。でも俺、守らなくても良いって言ったよな? 何できっちり護衛してくれちゃってんの? それとブラックボアどうしたん?」


 護衛対象の事はぶっちゃけさほど興味はないけど、ブラックボアの話は興味があるぞ。


「あの馬鹿力が見捨てる訳ないだろ。ブラックボアは殺さずに逃げて来た。あんなのに戦いを挑むのは命知らずの馬鹿だけだ。そして、俺のパーティーリーダーはすさまじく馬鹿だった。そのせいで苦労した……」

「……それ、俺のせいじゃなくてアレンのせいじゃん?」


 あと、どうやってアレから逃げて来たんだよ?

 今日の飲み会で詳しく聞かせろ。

 俺、いつかあの黒い鱗を回収したいんだ。


「…………いや、あんなアホの護衛を頼んだお前が悪い」

「それ、依頼を受けたオレンのせいじゃん?」

「……いや、しかし……」

「俺、今はギルド職員じゃないからな? それに、掲示板に貼ってある依頼に関しては自己責任だ。冒険者の基本だぜ?」

「……むぅ」


 むぅ。

 じゃねーよ。

 男がやっても可愛くねーよ?


「あと手、いい加減放してくれないか?苦しいんだが」

「……すまん。俺が冷静じゃなかったようだ……」


 うーん。

 普段面倒くさがりなあまり『クールぶってる』という評価を受けているオレンがこんだけキレるって……。

 変な義務感? で、あの依頼を出してしまったけど俺、余計な事をしたのかもなぁ。

食材の大量購入は、多分アイテムボックスのスキルとそこそこな金額の蓄えがあったら間違いなくこうするだろうなって思って書きました。

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