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超幸運スキル持ちだけど、俺は本当に運が良いのだろうか?  作者: ぬぬぬぬぬ
第一章 俺、自身の運の良さを再確認する
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冒険者の日常2 神様に嫌われてる異世界人が来た

 周りにいるおっさん達の話を三行でまとめると、

 受付嬢に男が文句を言っていた。

 かなりしつこい様子だったので、男に声をかけたら殴られそうになった。

 ビックリするほど遅い攻撃だったので、逆にやり返した。今ココ。


 ついでに、絡まれていた受付嬢にも説明をしてもらった。

 金が無いくせに冒険者登録がしたいと喚き始めた。

 イライラと対応を続けていたら、心優しい冒険者さんたちが助けてくれた。

 現在進行形で変態ネズミに絡まれていて困っている。今ココ。


 で、少し、本当に少しだけ落ち込みながら、異世界人セットを持っている黒髪の男に話を聞こうと思ったんだが。


「な、なんなんだよこれ。意味分かんねぇ……俺はチートな異世界人なんだぞ……?」


 うん。

 このつぶやきとコイツを鑑定すれば、容易に想像がつく。


 俺と同じ、ってことだな。

 あの時の俺の思考に合せるなら……。

「ヒャッハー! 異世界ハーレム構築してやんぜー!」

「うはっ、俺のチート能力強すぎ!!」


 って思っていたが、現実は厳しかった。

 そんな、あの頃の俺と、な。


 まぁ、俺とコイツでは決定的に違う点が一つあるわけだが。


 あの時の俺は、あのクソみたいな状況からおっぱいエルお姉さんと、心優しい冒険者さんに助けてもらったわけだが……。

 目の前の男が同じ方法をとれる可能性はほぼゼロだ。


 冒険者たちにとって、受付嬢とは癒し要素である。

 更に付け加えて言うなら、コイツがしつこく話しかけていた受付嬢はこの冒険者ギルドで一番人気の受付嬢だ。

 しかも、この男。

 冒険者にケンカを売りやがった。

 血気盛んな冒険者に、である。


 となれば、ここに居る人たちがこの男を助けるはずがない。

 一部の冒険者たちは既に殺気立っている。

 当然だ。

 同業者である冒険者にケンカを売った男だ。

 そして何より、受付嬢に迷惑をかけた男を冒険者が許すわけがない。

 俺だって、おっぱいさんに迷惑をかける予定のこの男を許す気はない!


 要するに、コイツは最初のコンタクトで大失敗をしでかしやがった。

 初対面の印象の重要さを知らんのかコイツ?

 ……知らないんだろうなぁ。

 俺も高校生ぐらいの時は知らなかった気がする。


 さて。そうなると、だ。

 この男は無一文だし、確実に路頭に迷うわけだ。

 俺がこの世界に来たときのことを考えると少しは、助けてやりたいと、思うはずなんだが……。


 俺、こいつの事をすさまじく助けたくない。


 理由は3つある。

 1、コイツを助けるのは凄く面倒だ。それに俺にメリットが無い。むしろマイナスである。

 2、仮に助けた場合、俺はきっとここの冒険者たちを説得しなければならない。凄く、面倒です。

 3、そして、この男の称号……ムリゲーだ。


 ちなみに、鑑定した所、称号はこんな感じだった。

 剣スキルと異世界人セットは俺と同じだったので割愛。


 勘違いクズ

 あまりにもウザかったので追加。

 死ぬ寸前まで引きこもって生活していたくせに、ちょっと人を助けてトラックに撥ねられて死んだら異世界で物語の主人公になれると勘違いしているクズの証。

 称号効果:スキル習得が基本的に出来なくなる。


 セクハラ男

 全体的にキモイので追加。

 あまりの気持ち悪さに、全世界の女性から嫌悪感を抱かれるものの証。

 キモイ、〇ね。

 称号効果:女性と会話する際、キョドってまともに話が出来なくなる。


 身の程知らず 

 自信の身の程をわきまえず、神に文句を言ってきたので追加。

 神に逆らった愚か者の証。


 すぐに殺してやろうかと思ったが、すでに手続きが済んでいるので異世界に送るしかない。

 マジムカツク。

 そんな訳だから、超幸運君はこの男に係わらなくて良いよ。

 にしても、レア個体を湧かせて逃げるだけって。しかも、レア個体の1/10の値段を貰うだけの仕事が自由な冒険者。プクク。

 俺がこの異世界で求めるのはただひたすらに『自由』だ。キリッ。

 ぷっ。

 やってることは

 た だ 逃 げ 回 っ て る だ け な ん で す け ど?

 あ、それとこのクズが『チートが一つでは嫌だ。絶対にだ』ってうるさいから、隠しスキルで『愚者の魂』を追加してあげたのよ。

『愚者の魂』の称号効果は、3日以内に必ず天罰で死ぬ。って効果だからマジで関わらなくて良いんだよ? 時間の無駄だからね。

 プフー、異世界チートを貰ったら、自殺スキル持ちだったって、ねぇ、今どんな気持ち? NDK! NDK! って私の代わりに煽っても良いんだよ?

 称号効果:あらゆる者から嫌われる。




 ……うん。

 この男は死ぬ事が確定しているらしいので助けることは出来ない。

 しかも、えらく神様に嫌われている。

 その上、名指しで関わるなって言われてしまった。

 ここで下手にあの男を助けたりしちゃった日には、神様の天罰的な何かが俺に降り注ぐ可能性も無きにしも非ず。


 だがな――。


 俺はあの日、おっぱいさんに雇って貰えなかったら、既に死んでいたはずの男だ。

 俺はおっぱいさんの為なら神なんざ怖くねぇ。

 どうにかしよう。


 それとさ、何でしっかり俺の心をえぐっていくんだ神様!?

 俺に恨みでもあんのかクッソガァアアアア!!

 ……はぁ、何で他人を鑑定したら精神的に傷つかなきゃいけないんだよ。

 自分が外から見たら滑稽な真似をしてるって事は、俺自身が一番良く分かってるよ。

 でもな、今の状態が一番効率良いんだよね。

 俺、弱いまんまだもんなぁ……。



 気持ちを切り替え、大きめの声を出す準備をするべく、息を吸う。

 こういう時は、自分でもうるさいと思うぐらいに大きな声を出さなければならない。

 そうでないと上司に怒られるからな。

 長きにわたる社畜生活で、一番最初に覚えたことの1つだ。


「なぁ、お前ら。俺と賭けをしないか?」


 急に大声を出したせい、だろうか。

 さっきよりも冒険者達が殺気立つ。

 あ、ギャグじゃないよ?


「あぁん? どんな?」


 あんまり怒りっぽいとハゲるぞ?

 息を吸い、意識的にさらに大きい声を出す。

 勘違い男が自ら死地に向かってくれるように、この場に居る全員に聞こえるような大きい声で。


「あそこにいる男が、いつ死ぬかだ。ちなみに俺は三日以内に死ぬのに――」


 ワザとここで一度言葉を区切り、周りを見渡す。

 ふむ、なかなかの注目度だ。

 これなら予定通りことが運ぶ。


「銀貨5枚を賭ける。

 もしあの男が三日以上生き残ったりしたら、参加した全員に銀貨5枚を払う。

 ルールは主に3つだ。

 1つ、今から三日間。参加する人間はそこの男をあらゆる危険から守る。最後まで守り切ることが出来れば参加した奴には全員銀貨5枚やる。参加費は……一人銀貨一枚だ。

 2つ、今から三日間。仮にその男が初日に死ぬようなことがあったとしても、一日につき大銅貨1枚を俺が自腹で払う。

 3つ、必ず、その男の意志を尊重すること。例えばだが、その男が冒険者として狩りに行きたいと言ったら連れってってやってくれ。縛って宿に三日間監禁するってのは無しだ。


 この賭けは……そうだな、公平を期すために護衛依頼として俺がギルドに依頼する。不正行為を働いたらきちんと冒険者ギルドからペナルティが付くようにな」



 ……あれ?

 反応悪いな。

 何か間違えたか?


「……誰も参加しないのか?」


 流石にこれだけ注目させといて、1人も参加しないってのはキツイものがあるぞ。

 大声出し損じゃないか。


「いや、明日もお前は狩りに行くよな?」

「? 当たり前じゃないか。それがどうかしたか?」


 一日、もしくは数時間。狩場を歩いて、レア個体が出たら何故かいつもどこからか現れる冒険者達のもとに走って逃げ、討伐した魔物の素材金額の1/10を貰う。

 ってのが今の俺のお仕事だ。

 命がけの逃走だから『生きてる実感』ってのを毎日感じられる最高の仕事だ。

 きっと、明日魔物に殺されるようなことになっても、俺は自分の死に納得できるはずだ。

 まぁ、まだ死ぬ気は無いから、みっともなく逃げ回ってるんだけど。


 ついでに言うと、この仕事をしないと夜に飲む酒が美味くない。

 金はそれこそ腐る程持っているが、楽しい飲み会に参加する為には、働くべきだ。

 と先日の一日休みの日に参加した飲み会で実感した。


 信じられるか?

 今の俺は毎日、自主的に(・・・・)飲み会に参加している。

 それも、ただの飲み会じゃない。

 楽しい飲み会に(・・・・・・・)、だ。

 あまつさえ、楽しい飲み会に参加する為に労働に勤しむ毎日だ。

 俺は今、楽しい飲み会に参加する為に文字通り、命を賭けている。

 休日出勤も裸足で逃げ出す勤労っぷりだ。

 今日も夜は一狩行く予定だしな。


 日本に居た頃なら考えられないね。

 上司と飲むのは気を遣うのダルイ。結局最後は仕事の話になるし……。

 同僚と飲むのは愚痴を聞かされるのダルイ。何で会社の外に居んのに会社の話を……。

 部下と飲むのはおごらされる。財布がツライ。最近の若者は遠慮しないからな……。

 で、仕事を円滑に行うために嫌々飲み会に参加して、やっと家に帰ると、

「遅い。今何時だと思ってんの? 良いご身分ね。まったく……洗濯物、自分でやってよ」

 って妻に嫌味を言われていた。


 そんな、あの日本での辛いだけだった飲み会とは、全ッ然違う。


 何より、楽しいんだ。

 冒険者が酒の席に話す話題は、ドラゴンを倒した時の話とか、魔物の巣を潰した話とか、魔物の群れに追われた話とか、とにかく物騒なものが多い。

 それを体に残った傷跡付きで語られるもんだから、かなり怖い話もある。……片目を失明したときの話をする冒険者が多くて、最初の頃はかなりビビった。

 彼らとの酒の席は、俺にとって正しくファタジーだった。

 冒険者という仕事がいかに危険で、命懸けなのかを教えてくれる。

 ゲームを通して、小説を通して、俺が知っていたファンタジーなんかとは全然違う。

 本物のファンタジーな生活が、忘れていたワクワクが、そこにはあった。


 他の話題で言えば、武器がどうとか、防具がどうとか、……これを聞くのはとても楽しい。

 いずれ一人旅に出ようと思っている俺にとって、かなり有益な情報だ。

 おかげで、どのような装備で旅をするのかイメージが出来た。

 魔物の話? もっと、もーっと聞かせて欲しい。

 西に行くと、レッドゴブリンって魔物が居るらしいんだ。

 赤い色のゴブリン……いつか見てみたいな。

 ここ以外の街の話もある。

 今まで聞いた話の中で、特に気になっている街と言えば、氷上都市だな。

 氷の上に街があるそうだ。……その氷は解けたりしないのだろうか? 気になる。

 一度行ってみたいものだ。


 ただ、毎回、最終的には女の話になるのはどうなんだろうか?

 正直、どの街の女が良かったとか聞かされても困るんだよなぁ。

 俺、日本での教訓を生かして今度は一生独身を貫くつもりでいるし。


 まぁ、一応メモったりしてるんだけどね。

 どんな情報が役に立つかはわからないしな。

 ……うん。メモってるとみんなの機嫌も良くなるし、これは円滑なコミュニケーションの為なんだよ?


「おーい? 聞いてんのか?」

「すまん。聞いてなかった。もっかい言ってくれ」

「素直過ぎるだろ……」

「当然だろ? 俺は自分の欲望に正直に生きるって決めてるからな」


 逆に日本に居た頃の俺は素直じゃ無さすぎた。

 あんな風に感情を殺して生きる毎日に、一体何処に価値があったというのだろうか?

 毎日言いたい事は言わず、逆に心にもないことをペラペラと話すあの日々に……。

 っと、いかんな。

 この世界で俺は自由に生きると決めたんだ。

 一々過去回想とかしていたら、後悔のし過ぎでハゲあがる。


「あー、まぁ要するにだ。シュウについて行った方がおこぼれで身入りが良くなるだろ?そんなしょっぱい依頼を受けたがる奴はここにはいないと思うぜ?」


 計算してみる。

 今日の狩で例えると、4人パーティだったおっさんAがレア個体を倒した→金貨二枚の報酬。

 銀貨二枚を俺に渡す。残り銀貨で18枚→割る4=一人4枚、あまり2枚。

 ついでに言うと参加費で1人銀貨一枚払ってて、えーっと、他には……。

 うん。

 これが三日続くとしたら、確かに今回の賭けは参加しない方が身入りが良いのか。


 もし、運良く俺の連れて来た魔物を倒せなかった場合は、そのまま狩りを続けて銀貨1枚ぐらいなら余裕で稼いでくる連中だしな。

 機会損失的な意味でも、この依頼はしょっぱ過ぎる。


 でも――。


「お前らッツ、それで良いのかよ!? そんな、そんなのってッツ! 冒険者としてのプライドとか無いのかよ!! なんで冒険をしてこないんだよ! まるで、毎日酒を飲むために狩りをしているみたいじゃないかッ!? それで良いのか!? 冒険者ってのはもっと、それこそ、大冒険をしなきゃいけない職業じゃないのかよッツ!?」

「いや、お前にだけは言われたくない」(この場に居るほぼ全員)


 ですよねー。

 俺が冗談を言ったのが分かったのか皆、盛大に笑い始めた。


 おいおい、なにも地面に転げまわる必要は無いだろ?

 鎧、汚れんぞ?

 あと受付嬢達、ジト目向けんのヤメロ。

 俺にそういう趣味は無いぞ。



 予定とは少しずれたが、さっきまでの殺伐とした雰囲気は、もう無い。

 おっぱいさんの手を煩わせないで済みそうで安心だぜ!


 もしもここの冒険者ギルドの職員がケンカの仲裁に入ったら、死人が出ちゃうからなっ!!

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