そのスキルは幸運を呼び寄せる5 帰還
頭がまともに働いていないことを嘆きながら、ウルフを撃退する為に新しい武器を取り出す必要があるなぁ。と漠然と思い、弓をアイテムボックスにしまう。
という訳で、いつもは使ってない武器シリーズを取り出そう。
じゃん! 今回取り出したのは長さ50センチほどの投槍である。読んで字のごとく、投げて使う槍な。
買ってからの数日間は使っていたが、対して有用ではないと気付いてからは使う機会に恵まれなかった武器である。
射程が弓よりもはるかに短いから使いにくいってのが、一番の理由な。
これの射程だが、大体20メートルあるかないかだ。それ以上距離が離れてると魔物に刺さってくれない。
街のおっさん基準だと200メートルとか離れてても魔物を殺傷出来る威力を持ってたりするけど、俺の腕ではそれは無理。
ま、この距離なら余裕で届く。しかも木の上とかいう圧倒的に有利な立ち位置。
足を滑らせて木の上から落ちるなんてことさえなければ、負けることはない。……フラグじゃないぞ?
という訳でまずは一投目。
「ギャンッ」
続いて二投目。
「キャウン」
はい、三投目。
……お前はなんも言わんのかいっ。
さて、周りに居た奴らは……いなくなってる。
逃げられたのか? おかしいな、情け容赦なく複数で袋叩きにするのがウルフさんの狩りじゃないか。
うーん。仲間でも呼びに行ったんだろうか? もしそうだったら困るな。このまま待つか?
いや、このまま待ってたら森の中で寝ちまいそうだし、さっさと街に向かうとしよう。
◆
それから体感で30分ほど経ったころに、ようやく街の入り口にたどり着いた。
魔物を警戒してゆっくり歩いていたせいか、思ったより時間がかかった。
さて、すさまじく眠いが流石にベットにたどり着くまでは眠るわけにもいかない。
今日門番をしていた奴は居眠りをしているようなので、面倒な手続きもなくすんなりと街に入れた。
いくら夜番が大変だとは言え、居眠りをするのはどうかと思うぞ。まぁ、俺にとっては幸運なことだ。
今は一刻も早く宿に帰りたいからありがたい。
これも俺の幸運のなせる業だというのならあの神様に感謝しておくべきなのだろうか。
「おい、どうしたんだよおっさん。そんなボロボロになって、チンピラにでも絡まれたのかよ」
「なんでこんなところでクソガキに会わなきゃいけないんだよ。感謝してやろうと思ったらすぐこれだ。人に会うことが幸運だって言うならそこはせめてギルマスにしとけよ」
やっぱり神様ってクソだわ。
そもそもこんなボロボロになってんのはあの神様の押し付けた超幸運スキルのせいだった。
感謝なんかしてやんねぇ。俺が感謝する相手は常にギルマスだけだ!
「なに言ってんのかわかんねぇけど、病院に連れってってやろうか?」
「うっせ、馬鹿。大体病院の場所お前知ってんのかよ? それと、この世界の病院の呼び方は治療院って言うんだぞ」
ってか、天罰とやらはまだ下ってなかったのか?
今更だけど、どういう風に数えて三日後なんだろうか。
このガキに出会った日をカウントするなら今日で四日目、いや五日目か?
それに三日目の朝死ぬのか。三日目の夜に死ぬのかでは実質一日違うよな。
それでも、俺がこのガキに出会ってからって意味での三日なら、今がまさに三日目なはず。
そのつもりで護衛の任務は昨日で終わりにしたんだ。
あれ、今日はもう四日目になるんじゃないか?
遅くとも今日の夜までには死んでるってことは確定だよな。
まさか、神様の感覚で三日とかじゃないだろうな。
あ。一応言っとくと、今の時間帯は深夜4時頃だと宣言しておく。
日付がどうなってるのか混乱してるのはそのせいな、別に俺の頭がアホになってるわけじゃない。
「本当に大丈夫かよおっさん。ちっと待ってろ人呼んでくるから」
「はぁ? お前こそ頭大丈夫かよ。ポーション効果で元気いっぱいだっつうの。後は寝てれば治――、って何処行くんだクソガキ! せめて誰か呼ぶならギルマスにしとけよ! こんな夜中になってまでおっさんの顔を見るのは嫌だぞ俺!」
行っちまった。
てか、俺若いよな?
あぁ、いや。30歳はまだ若いよな? って質問じゃなくてな。
確か神様の『その顔は好みじゃなから変えてあげる』発言のせいで、今の俺は若々しいイケメンになっているはずなんだ。
なのに何であのクソガキは俺のことをおっさん呼びしていたんだろうか? 馬鹿なのかな。
◆
何とか宿にたどり着いた。
あとは寝るだけだ。
っつ、仰向けだとまだ少し背中が痛いな。
うつ伏せで寝よ。
あと左腕はベットのわきからプラーンってしとこう。
痛みとか以前に、もう感触すらないけど、なんとなくそうしといた良い気がしたからな。
それにしても、色々あったけど何だかんだで生き残れてるし、俺ってマジで超幸運だわ。
◆
で、目が覚めたら知らない天井だった。
真っ白な天井だ。
ってか、そもそもうつ伏せの状態で寝ていたのに天井が見えるってどういう事なの。
とりあえず起きよう。
起きた。で、やっと気が付いた。
俺、スーツ着てる。黒ローブ装備してないし、怪我とかしてない。
つまり――。
「夢だな」
「その反応は初めて会った時にして欲しかったわね。テンプレ的に!」
このやかましい、キンキンした声は間違いなく神様だろう。
という事は――。
「死んだのか」
「えぇ~。なんか普通の反応過ぎてつ ま ん な い~」
「一々一言ずつ区切って言わなくて良いですから。あと死因とか教えて貰っても良いですかね? 流石に宿に戻って寝たら死んでたとか笑えないんですけど。そんな理由で死んじゃうなら世の中の人間はみんな死んじゃうんですけど」
言いながら俺が振り返ると、そこには偉そうに椅子に座って踏ん反り返ってるいる金髪のちゃんねーが居た。いや、神様だし偉いのか。
俺に幸運スキルをくれた女である。胸はデカイが人としては色々と残念な人だ。あ、人じゃなくて神様だから、残念な神か。
「プフ、途中からそうじゃないかと思ってみてたんだけど、あなたもしかして自分の死因がわかってないの?」
「わかってたら聞かないと思いません?」
「アーッツハッハハハハ。傑作! あんなに血をだらだら流し続けて街まで歩いて帰って? それに気が付かないとか傑作なんですけど!」
血をだらだら流してて? 街まで歩いて帰って?
うーん、ポーションで傷は塞がってるはずだよな?
……いや、それまでに血を流し過ぎてたってことか。
「つまり死因は出血多量のショック死とかですか?」
「ぷっ、つまり死因は出血多量のショック死ですか? キリッ。アッハッハッハ。ダ、ダメ笑い死ぬ」
? 出血多量が死因ではない? では毒か? いやいやいや、毒消しの為に三日月草をもしゃってる。
世界一良く効く毒消し草だぞ。それはないわ。
「ダメだ。わからん教えてくれ」
「ダメだ。わからん教えてくれ。 キリッ。プクク」
いや、さっさと教えてくれよ。
あと何でも後ろにキリッってつければ面白いとでも思ってんの? キリッ。
うーん、面白いかこれ? キリッ。
……なんか面白くなって来たかもしれん。
「体内レベルの急上昇によるショック死」
「体内レベルの急上昇によるショック死。キリッ」
「ぷっ、まぁ要するにオークを倒しちゃったせいであんたは死んだのよ」
「オークを頑張って倒したのに死んじゃうとか、今どんな気持ち? ねぇ、今どんな気持なの? NDK! NDK!」
「アッハッハッハ、何やってんの? それはあたしのセリフよ! ねぇ今どんな気持ち? ねぇ、今どんな気持ち? NDK! NDK!」
「うーん、どんな気持ちとか聞かれてもなぁ。死んじゃったもんはどうしようもないというか。あと肉体レベルの急上昇によるショック死? とか言われてもいまいちピンとこないというか。まぁ、言葉から推察するに、あの世界には『肉体レベル』と呼ばれる何かがあって、それが上昇すると強くなるみたいな感じですかね? ゲームの経験値システム的な感じですか? で、オークを倒しちゃったせいで俺の肉体レベルってのが急に上がったもんだからショック死したんですね? 強い奴を倒した方がその肉体レベルってのは上がりやすいってことならますますゲームみたいですね。まぁ、そう考えたら俺、基本的に逃げてばっかりだったんでその辺が関係してるなら周りのおっさん達と比べて俺が弱かったのも納得できるというか。あぁ! あの街の人たちがメチャクチャ強いのってドラゴン倒しまくってるのとか考えても、やっぱりそういうことだったんですね! ん? でも、俺も結構ウルフとかは倒してるはずだし、塵も積もれば山となるはずなんじゃ。……いや、もしかして『自分の手で魔物を倒す』ってことが肉体レベルの上昇に関係してたりしますか? 基本的に毒殺とか、遠くから弓矢でシュパって感じだったんで。普段森でウルフ狩りするときも、避ける練習と剣を振る練習はしてますけど、剣でトドメを刺すのはなるべく毒が回り切って死んだあとにしてるんですよね、その方が練習になると思って。アレってもしかして毒殺扱いになってて、直接俺が倒したってカウントに含まれてなかったりするんですか? それと、鑑定スキルのレベルが上がったら肉体レベルって見えるようになったんですか? アレスとかいう筋肉バカのレベルがすごく気になるんですけど」
何か一気に色々と理解出来たわ。
なるほどそういうことだったのか。
おかしいと思ってたんだよね、俺がメッチャ頑張ってギリッギリの死闘でようやく倒せる希少種を剣の一振りでシュパッと切っちゃう冒険者のおっさん達ってレベルが違いすぎると思ってたんだ。
なるほどなるほど。言葉通りレベルが違ったって訳か。
「そこはちゃんと答えるんかいっ。しかも長い、一回の発言が長いよ!? くっふふ、やっぱり面白いわねあなた。死なすには惜しい観察対象だわ」
笑って流された。
肯定も否定もなし、か。
あの世界にいる人達も肉体レベルなんて話はしてなかったし、もしかしてあまり触れてはいけない話題なのだろうか。
まぁ、疑問は解消されたし、これ以上しつこく聞くのは止めとこ。
それに、もう死んでるんだからこれ以上聞いてもどうしようもない。
ってか、なんで俺はここに呼ばれたんだろ?
NDK! をする為かな。だとしたら目的は達成したはずなんだが――。
神様メッチャ笑ってるし、もうちょっとお話を続けますかね。
何だかんだで二度目の人生は楽しめた。
その証拠って訳ではないけど、今冷静で居られるのはきっと心のどこかで『もう死んでも良い』って思えてるからだろう。
第二の人生をくれた神様に対する恩返しが笑わせてあげることだというのなら、笑わせてあげようじゃないか。
「じゃぁ、あの世界に生き返らせたりしてくれませんかね? きっと、これからも三十路ダンスにつぐ笑いを提供できると思いますし、損はさせませんよ?」キリッ。
「出た、三十路ダンス。あ、録画してあるんだけど見る? それと、同じ世界に生き返らせるとか無理だから。別の異世界、ってしてあげても良いんだけど、それをしたら多分あなたの魂の方が砕けるから駄目ね。それでも良いなら考えるけど」
「見ます。うわぁ、自分のことながらこれは見てられない。わ、この人踊りながら気持ち悪いこと言ってますね。『うっは、俺スキル取得早過ぎなんだが!!』うーん、これは酷い。で、魂が砕けるって言うのは要するにどうなるんです?」キリッ。ん? 流石にしつこいって? わかったよ。やめるやめる。
「うーん、自我の崩壊とあとは「あ、記憶持ち越せないんなら生き返らせなくていいです」だよね~」
自我の崩壊って自分が自分じゃなくなるみたいな意味だろ?
記憶を持ち越せないでニューゲームとか、犯人を知っている推理小説並みに価値がない。
そんなん、なんも面白くないわ。
……ゴメン、ウソついたわ。犯人知ったうえで推理小説呼んでも普通に面白い気がする。
例えが良くなかった。
えっと、えーっと、自分の過去を録画で見返すぐらい面白くないわ。
なんつーか、そとから見ると俺ってこんな感じなんだね。うん、今は少女イジメをしていたシーンを見ているわけだけど、うん、これはないわ。
俺、第三者視点で見たら最低過ぎんよ。傍から見てるとこれは気分悪い。
あ、映像の中の俺がクソガキに殴られた。
「そういえば、あのクソガキの天罰はいつ下されるんです?」
「あぁ、アレはもう元の世界に送り返したわよ」
「どういう意味ですか?」
「もといた世界で意識を取り戻したのよ。だから異世界にいたアレは消滅してるわ」
神様にすらアレ扱いってどういうことなの。
本当に何をやったんだクソガキ君。
ってか生き返ったとかマジか。
俺も生き返りたかったわ。
日本で今までため込んだ金を全部使い込んでやりたかったわ!
今回の俺は金をほとんどギルマスにあげてから死んでるわ! 満足! 思い残すことマジでなんもない!
「そういう事って結構あったりするんですか? ってか生き返るってどんな感じなんです?」
「それは自分の体で体験すれば良いと思うわ。ほら、帰れるみたいよ。後でアレにも感謝しときなさい。あなたも私もアレのおかげでこれからも笑えるんだから。じゃ、三十路ダンスにつぐ笑いをみせて頂戴。あ、あと三日月草が生えまくってた場所で――」
◆
「三日月草が生えまくってた場所に何があんだよ。気になるから最後まで言ってけや」
俺は生き返って早々に神様のことを罵った。
知ってるか? こいつ、数秒前までは敬意を持って神様と対話してた男なんだぜ。
いや、敬ってたっつても所々敬語じゃなかったし、日本語がおかしかったって? 敬意を払って接してたからセーフだよセーフ。
ま、こんなことを誰かに言ったところで変人扱いされるだけだろう。
「目が覚めた最初の一声からして意味がわからないぞ変態め。ふむ、その驚異的な生命力を評して『黒くて逃げ足の速いカサカサと動く虫のような変態』の称号を授けよう。良かったな、二つ名がまた増えたんだぞ。シュウ」
こんな感じでな。
あとあだ名つける辺りで泣き始めるのやめーや。
お前を泣かしたのをギルマスに知られたら嫌われちまう。
だから泣くなよ。
………………………………オイ、泣き止まないと頭ナデナデすんぞオラ!
あ、違う。これギルド職員を泣かせるときの方法だった。
えーっと、どうすりゃ良いんだろうか? わからん。
ってかコイツが泣いてる理由からしてわからん。
なんで泣いてんのコイツ。
こういう時はアレだ。寝よう。
うん、寝て起きたらあとはいつも通りだ。うんうん。
俺は寝た。




