そのスキルは幸運を呼び寄せる2 希少種
さて、深夜の森で俺を見てる奴は誰だろうか?
1、冒険者。
2、ギルマスが俺の事を心配して俺の事を迎えに来てくれた。
3、魔物。
まぁ、深く考えるまでもなく、3番の魔物だろう。
1番は時間帯と場所的にありえないし、2番はただの俺の願望である。
ま、とりあえず相手の視線切りをしながら木登りでもしますかね。
この辺りの魔物は木の上で毒矢打ってれば楽勝だしな。
ん? 正面からのガチ戦闘だと思ったか? 残念だったな、俺はそんな危ないことはしないんだ。
ついでに捕捉しておくと、俺を見ている視線に気が付いたって言っても木登りをするぐらいの距離は余裕で離れてる。
更に言うなら、視線を感じるって言ってもどんな魔物に見られてるかなんてわからない。
ここ数年で俺を見ている何者かの視線を感じ取れるように鍛えられたってだけだ。
オレンに鍛えられた斥候能力は、我ながらかなり高いと自負しているよ。
日本に居る時に同じことが出来たら……、まぁどうもしないけど超能力みたいなもんだしな。
そう考えると俺凄いな。いや、教官が良かっただけか。
3年前までサラリーマンだった男に斥候技術を叩き込んだオレンさんマジパネェっす。
死角からひたすら攻撃を仕掛けてくるっていうスパルタ式の訓練内容には、未だに抗議したい気分ではあるが。
嗅覚を鍛える為に花の匂いだけを一生嗅いでいたいと思うぐらいあの訓練は過酷だった。
あれは死ねるよ。相手がどこから攻撃してくるかわからなと容赦なく頭を狙ってくるからなあの教官。そりゃ全力回避するために視線を感じとれるようにもなるわ。
そうしないと見えないところから殴られるんだもん。せめて腕で防げるようにならないとそのうち頭割られてただろうからな。普段の訓練中に骨折するなんて日常だったから、必死にもなる。
骨折は金を払えばすぐに治るっつっても痛いもんは痛い。流石は異世界。
ポーションを飲んでも骨折はすぐには治らないけど、回復魔法では一瞬で治る。回復魔法の治療には銀貨3枚とか取られるんだけどな。高いわ。
ま、ポーションに即効性がないっつっても骨折した日に飲んで寝たら治ってるんだけどな。っと。
さてさて、木登りも終わって少しヒマだから考え事でもしてみるか。
まず、なんの用事で俺を見ているのか?
1、俺に見惚れている(見た目だけは神様のおかげでかなり良い)。
2、俺に食べられたい草食系の魔物。
3、俺を食べたい。
これは3番の食べたいだろうなぁ。思いっきりこっちに向かって歩いて来てるし。
ちなみに1番の線は可能性的には結構高いぞ。街では残念イケメン呼ばわりされる程度の見た目を持ち合わせているし、実際『超幸運スキルwww』のおかげでやたらと魔物に絡まれる。
きっと俺は魔物から見ても魅力的な男なんだろうよ。獲物的な意味でな。
それに、草食系の魔物に何故か好かれる。この辺りだとウサギ系の魔物がそうだ。結構可愛い見た目をしている。
え? その魔物をどうするのかだって?
俺の糧になってもらうために容赦なく切り殺して皮を剥ぐよ。当然だろ。だってあいつら草食うんだぜ、草。
俺は草集めを本業にしてる冒険者だぞ。俺、あのウサギたちマジで嫌い。
でも毛皮は高く売れるからホントはちょっとだけ好き。
草の根をかき分けて殺しまわるぐらいには好き。
最近はウサギを根絶やしにする方法を本気で検討してるぐらい愛してる。
殺したいほど愛おしいって奴だな。
しかし参ったな。
浮かれ過ぎていたせいで見られるまで気が付かなかった。
普段だったら相手に気が付かれる前に逃げるか、毒矢で狙撃出来たはず。
まぁ、俺が浮かれる要素はばっちり揃ってたから仕方がない気もするけどな。
ストレスが溜まっていたし、魔物がいなかったから八つ当たり出来なかったことで更にストレス上昇。
所持金が少ない時に大金を得るチャンスに周囲に対する警戒を下げた。今日は魔物との戦闘が一度もなかったのも恐らく原因の一つ。
極めつけは、はしゃいで大声を出すという失態。
うん、反省しよう。
特に大声な。静かな森で大声をだすとか、そりゃ魔物にも見つかりますわ。
今回は運良く、接近前に気が付けたけど、気が付いたら死んでましたみたいになったら笑えない。
……ダメだな。
俺、今完全に気が抜けてるわ。
魔物に見つかってるのに考え事しだしたり、今回は運良くとか、我ながら馬鹿すぎるぞ。
まだ今回は終わってない。
それに、迎え撃つつもりでいるのに木に登っただけでなんの準備もしてねぇじゃないか。
とりあえず弓矢の準備ぐらいしないと――。
距離にして30メートル程の所で、ようやく魔物の正体を目視した俺はうろたえる。
上背2メートル強、筋骨隆々という言葉がこの上なく合うだろう丸太のような腕を持つ肉体。
俺の嗅覚を鍛えてくれた教官を恨みたくなるほどの悪臭。
絶望的に臭い腰巻と既に赤く汚れた棍棒を持つ、二足歩行の魔物。
オイ、ちょっと待ってくれ。
なんでこんなところにオークが居るんだよ。
完全にいつも通りウルフを相手にするつもりで準備してたわ。
マジで勘弁してくれ、オークとかガチのバケモノじゃねーか。
冒険者に浅い傷なら数秒で塞がる再生力を持つ、と聞いたことがある。
ギルドの資料室の情報では、その肉体は石のように硬く生半可な攻撃では傷すらつかないとあった。
討伐ランクC~Bの魔物。個体によってはその討伐ランクはAにすら届くと言われるマジモンのバケモノ。
冒険者のランクと討伐ランクは武器の相性などはある物の、そこそこ正確に測られている。
少なくとも、未だに冒険者のランクがDの俺が相手にして良い魔物では断じてない。
その上、希少種っぽい雰囲気なんだが。マジで勘弁してくれ。絶対勝てない、無理無理無理無理。
俺の安物の剣とへっぽこ技量じゃまずオークに傷をつける段階から無理っぽい。そもそも怖いし近づきたくない。あと臭い。
あのオーク棍棒とか持ってて強そうだし、あと絶望的に臭うから近寄りたくない。
ってか腰巻と棍棒を装備してる時点であのオーク強いのは確定だわ。資料室で見た。CランクのオークとBランクのオークの判別基準が確か装備品の有無だったはず。この時点であのオークがBランク以上のバケモノなのは確定。ランク二つ上の魔物に挑むとか無理。絶対無理。あの悪臭のもとに近寄るとか絶対無理。
ついでに俺のクソスキルと今までの経験から考えてあのオークはほぼ間違いなく希少種。なんかそういう雰囲気を醸し出してる。よって推定Aランク、ドラゴンと同等レベル、もしくはそれ以上のバケモノだと思われる。そして臭いから早く街に帰りたい。
結論、俺に勝ち目無し。早々に街に逃亡し、このバケモノの存在を街に知らせるのが俺の冒険者としての役割。
あと、マジであのオークは臭い!
という訳でそうそうに逃げ出したいのだが……。
逃亡が可能なのか? と聞かれれば恐らく不可能だ。
ひとまずの潜伏には成功して、現段階でのオークは「俺がこの近くに居る」という事は理解しているが「俺が木の上に居る」ってことにまでは気が付いていないという状態だ。
その証拠に、という訳ではないがオークはさっきまで俺が三日月草を採取していた場所をウロウロとしているが、俺の登った木には一瞥もくれていない。
だが、今ここから逃げ出そうとしたら間違いなくバレる自信がある。根拠があるわけではない。でも自然とそう思えるし、何故かその判断が正しいと考える俺がいる。
俺のこういう謎の感は結構当たる。具体的には、天気予報の晴れの確率ぐらい当たる。
時々は外れるって意味な。
さて、逃亡は不可能(な気がする)、戦闘すれば(確実に)勝ち目はない。
となると選択肢は1つだ。このままオーク立ち去るまでここで息を殺して待つしかない。
……嫌だなぁ。
俺の鼻が耐えられそうにない。早く新鮮な空気を吸いたい。本当に絶望的なまでに臭い。なんで空気が美味いはずの森にいるってのにこんな思いをしなきゃならんのだ。
というかなんなのこの悪臭? 今までに嗅いだことのない種類の悪臭だ。獣臭いとか、うん〇が絶望的に臭いとかって種類の匂いじゃないんだけど。何かが腐ってる匂い? ……いや、狩場で素材をはぎ取られた魔物の死体はまだマシな臭いだった、はず。やべぇ、なんて表現したらいいのかわからない。
なんだろう、生理的に受け付けないってこういう感じなのだろうか?
とりあえず鼻に手を当ててこの状況に耐えるしか――、オイオイ。
今のわずかな動きだけでこっちに振り向くとかオーク先輩の聴力マジパネェっす!
どうでも良いけど、オークはスキンヘッドな緑頭なんだなぁ。
顔の容姿は……、口から牙がはみ出てる悪人面って感じか?
うん、どう見てもバケモノだわ。こっわ、目が合った気がするけど気のせいか?
…………
………
どうやら気のせいだったらしい。
うんうん、俺はここにはいないんだから一生違う所探しててくれ。
そしてそのまま森におかえり。
はぁ~、溜息すら心の中で言わなきゃいけないとか緊張感やべ。
変な汗かいて来たし、さっさと宿に帰りたい。
まぁ、このまま大人しくしてたらオークもどっかに行ってくれるだろ。
あぁ、身動き取れないのツライ。
……暗殺者的な人たちがマフラー大好きっ子な理由って顔を隠す為じゃなくて、こういう時の悪臭に耐える為だったりするんだろうか? 毒ガス対策的な?
俺もこれからはそういうの装備しとこうかな。
地味にこの体制疲れる。あと、手のひらが湿ってきて気持ち悪くなってきた。
早くどっかいけ、オーク。
……
…
なぁなぁ、オーク先輩って諦め悪すぎないか?
俺の体感で3時間は経過してると思うんだが。
判断基準? 月の位置がいつも俺が寝る時の時間だ。
要するに酔っぱらいと酒を飲んで、森でウルフとキャッキャウフフな秘密の逢瀬を終えて、宿に帰るぐらいの時間が経ってる。
結構な時間経過だろ? あのオーク、まだこの辺りをウロウロしてるんだぜ。
しつこい男は嫌われんぞ。魔物ってだけでこの世界ではだいぶ嫌われてるし今更か。
あ、そう言えばあのクソガキはどうなったんだろうか? もう天罰とやらが下ったあとなのかな。
正直、あの年であの性格ってのは色々終わってる気もしないではないが、俺も昔は大人から見たらあんな感じだったんだろうな。
いずれにせよ神様の対応をミスって天罰を食らうとか、あのクソガキには同情しないでもない。
俺だって、もう少し図太い性格だったらチートの二つや三つは欲しがったと思う。
もしそうだったら、俺にも天罰とやらが下っていたかもしれん。
ま、死んだときは喪失感の方が大きくてそんなことを考えてる余裕がなかったんだけどな。
逆にそれが良かったのか。
頭が働いてなかったおかげで変な欲とか出なかったし、思考停止の社会人対応(敬語)で神様とは話をしていた。
変に冷静だったら「おい、神様なら俺を生き返らせてくれよ」とか普通に頼みそうだ。
そう考えると俺ってやっぱり運がよかったんだなぁ。
飛び降り自殺者にぶつかって死ぬ程度の幸運だけどさ。
やべぇ、トイレ行きたくなって来た。
早く宿に帰りたい。
じゃないと膀胱が破裂する。
あーもう!
流石に無理、そろそろ限界だわ!
寝る、お休み!
って感じで寝てしまいたい。
実際は緊張感がヤバ過ぎて寝られる気がしない。
それに木の上で寝た経験とか無いし、いびきをかいた瞬間オークに殺される気がするから大人しく起きてるよ。
あ、ちなみに小便は済ませた。
膀胱が耐えられそうにないって時に「あれ? これってアイテムボックス先輩に直で収納しちゃえばいいんじゃね?」って思ったら出来た。
俺のアイテムボックスのここが凄い! その3
俺のアイテムボックスは携帯トイレにもなる!
うん。普通こんなこと私生活では考えないじゃん?
こんな異常事態にならない限り絶対気が付かなかった機能でしょこれ。
アイテムボックス先輩マジパネェっす。
さて、そんなこんなでとりあえずの危機は脱した訳だが、何時になったらあのオークは森に帰るんだろうね?
ん~?
何でこのオークは諦めないんだ?
流石におかしくないか?
何か俺(獲物)がこの場にいる確信でも持ってんのか?
あ、俺魔物の鑑定スキル持ってんじゃん。
見てみるか。
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グレイオーク ♂ 107
スキル:怪力10 超再生10 索敵2
固有:強者の闘気
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怪力
読んで字のごとく、怪力になるスキル。
常時発動型。
掴まれたら最後、逃げ場はない。
脚力も強化されているので、逃走は無意味。
超再生
読んで字のごとく、超再生なスキル。
どんな傷も数分の内に塞がるチートなスキル。
慈悲は無い。
索敵
読んで字のごとく、索敵するスキル。
自身の第6感を覚醒させ、索敵行動に関する技術を向上させる。
索敵スキル2は正確な位置こそわからないものの、その場に獲物が居るかどうかの判断がつく。
隠れていてもここに居るってことはバレてるから、体力があるうちに戦闘に移るべし。
強者の闘気
自身より格下の相手のやる気を著しく奪うオーラのようなもの。
あなたが感じている謎の緊張感と異臭はこのスキルのせい。
ただし、このスキルがなくてもオークは臭い。絶望的なまでに臭い。例えようもなく臭い。
ぷくく、ていうか鑑定スキル使うの遅すぎ。
どんだけ緊張してたのよ、マジウケル。
まぁ、あんなバケモノと出会っちゃた時点でもう詰んでるんですけど。ねぇどんな気持ち? たった一人でグレイオークに挑むのはどんな気持ちなの? 助けが来ないような森奥で戦うのはどんな気持ちなの? NDK! NDK!
ねぇ、今どんな気持ちなの? その年でおもらししちゃうってどんな気持なの?
NDK! NDK!
……前から思っていたんだけど、このスキル説明文書いてる奴とは仲良く出来そうにないな。
性格酷過ぎんよ。
しかし、なるほど。
俺の謎の感が正しかったことが証明されてしまった。
そして、どうやら俺は詰んでしまったらしい。
あと、別に漏らしてないし、アイテムボックス先輩が全部綺麗に収納してくれたし。
え? アイテムボックス先輩が役に立たなかったらどうなってたのかだって?
……漏らした後位置バレして、オークに殺されてたんじゃないかな。




