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超幸運スキル持ちだけど、俺は本当に運が良いのだろうか?  作者: ぬぬぬぬぬ
第一章 俺、自身の運の良さを再確認する
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そのスキルは幸運を呼び寄せる1 月草種

「というわけで、銀貨一枚やるから模擬戦の相手になってくれ」

「は? 何言ってんの? ほっといてくれよ……」


 冒険者ギルドに戻ってくるなり、俺はクソガキにケンカを吹っ掛けた。だが、どうも反応が悪い。

 おかしいな、俺の予想なら嬉々としてこの提案に乗ってくると思ったんだが。

 てかコイツ酒くせぇんだけど。

 俺がギルマスに叱られたり、ジトーっと睨まれたり、トボトボ歩いてた頃にコイツはのんきに酒を飲んでたって事だよなぁ?

 益々腹が立って来た。

 これは天罰とやらが下る前になんとしてでも八つ当たりせねば。


「良いから立て。金払うっていってんだろ。銀貨一枚つったら節約すれば半月は生きてける額だぞ」


 金が無いのに銀貨一枚を支払うなんて、自分でも馬鹿なんじゃないかと思う。

 ただ、いつも金を払って模擬戦を申し込んでいた俺としては、模擬戦と対戦相手に金を払うという行為はセットの行いだ。

 例え目の前のガキにどんなに金を払いたくなくても、今日中に天罰が下って死ぬ事が決まっているとしても、俺は金を払う。

 俺にとって模擬戦ってのはそういうものだ。


「あー、なんつうかアレだ。そんなに模擬戦がしたいってんなら俺が――」

「アレン、お前が相手だったら俺が勝てないだろ? 俺はな、今ものすごく八つ当たりをしたい気分なんだ。わかる? 目の前で酒飲んでるクソガキをボッコボコにしてストレス発散したいってことなの。邪魔しないでくんない?」

「……最低だなお前」


 うっせ、仕事から帰って来てずーっと、ここで酒飲んでるお前よりはマシだ。

 一体何杯の酒を頼んだ? 言え! 言ってみろこの飲んだくれ! クソッ、楽しそうにしやがって俺も混ぜろ!! 俺が今ハブられてんのも目の前のクソガキのせいかよ、マジでクソだな! 八つ当たりしてやる!


「その褒め言葉流行ってんのか? 少し前にギルマスとレーナにも言われたわ。ギルマスに言われんのは良いんだけど、レーナが俺に怒るのはなんか違くないか? なんであいつにまで怒られなきゃいけないん? 理不尽だ。凄くイライラする。だから俺はこの酔っぱらったクソガキを理不尽な大人の暴力でボコボコにしてやりたい。邪魔しないでくれ」

「おい、こいつマジで最低なんだけど」

「ゴミだな」

「清々しいほどクズだな」

「流石自由な冒険者。行動が自由過ぎる」

「ジユーさん流石ッス! マジパネェッス!」

「うわぁ、これが無ければホントに良い奴なのになぁ……」

「失礼な奴らだな。俺はただ素直に生きたいだけだ。そもそも、元はと言えばこのクソガキが全部悪い。俺は悪くねぇ。俺はコイツを物凄く殴りたい、だから殴る、それだけだ。オラ立てよクソガキ、ぶっ飛ばしてやる」

「……なぁ、ジユウってこういう奴なの? 俺夜にここ来ることほとんど無いから知らなかったんだけど」

「? ジユウはいつも大体こんな感じだぜ。今日は特別機嫌が悪いみてぇだけどな。誰か知ってる奴入るか~?」

「アイツ今日ギルマスに叱られたから、多分そのせいだ」

「あぁ、なるほど」

「最低だな」

「ゴミだな」

「クズ野郎だな」

「なんでレーナちゃんはこんな奴に……」

「まぁまぁ、飲め、飲んで忘れろ」

「うぅ……レーナちゃん……」


 冒険者ギルド(酒場)に居た顔見知りのほぼ全員に文句を言われてしまった。

 何でこんなにボロッカスに言われなきゃならんのだ。 

 それとレーナが俺の担当をしてくれてんのは、間違いなく俺の金払い、もとい納品する品物の質目当てだぞ。

 俺の担当をすれば必然的に上薬草とか、上毒草とかのちょいレアアイテムが納品されるからな。あと、そこそこの頻度でキノコな。鑑定スキルがないと集めるのが大変な高額納品アイテム。

 俺としては、これだけ受付嬢の給料に貢献している冒険者が受付嬢に嫌われてる理由がわかんねぇよ。

 いや、俺が悪いってのはわかってるけど、あそこまで嫌われる理由がわかんないっていうか。

 人生ってそういうことってあるよな。


「ほら、お前をサンドバックにしてやるからさっさと立てよ」

「そんな気分じゃない……」


 おいおい、どうしたんだよ。

 ってかそういう態度も出来るなら最初から大人しくしててくれよ。

 そうすれば俺がギルマスに怒られなくて済んだんだぞ。


「なぁアレン、なんでこのクソガキはこれだけ言われてんのに立ち上がろうとしないんだ? 俺が居ない間になんかあったのか? 完全に別人じゃねぇか」

「んぁ? お前が連れて来たあのちみっこに怒られてからずっとあんな感じだよ」

「ふ~ん。そのちみっこはどうなったん?」

「泣きながら帰ってったよ。ま、お前が責任を感じることはねぇさ」


 俺の予想通りになったってことか。

 きっとあのちみっこに泣きながら「アンタが余計なこと言うから!!」みたいなこと言われて落ち込んでるって事だろうな。

 想像してみようか、9歳の子供がガチ泣きしながら自分を責めてくる姿を――。

 うん、これはキツイ。

 間違いなく、俺に暴力でボロボロにされるよりツライ。

 なんせ逆恨みをする相手が自分以外に見つからないんだからな、俺にボコボコにされただけなら俺を恨むことも出来る。

 でもちみっこ怒られた原因は、自分がちみっこを助けようとしたせいだもんな。

 流石にこれでも逆恨み出来るとしたら、そいつはまともな思考回路をしていない。

 少なくとも目の前のクソガキは、ここで俺に八つ当たりをしてこない程度にはまともだったらしい。


「仕方ねぇ。俺は何もしないで許してやるか。それとアレン、俺はそんなことで一々責任を感じて飲んだくれるような男じゃねぇよ」

「ま、お前がそういうタイプじゃねぇのは確かだな。責任を感じるかは別としてな。飲んでかないのか?」

「八つ当たりする相手が居なくなったからな。少し早いけど森に行って魔物相手にストレス発散してくる」

「そうか、ヘマすんなよ」

「しねぇよ、俺、長生きするのが人生の目標だかんな」

「長生きするだけだったら冒険者なんて止めちまえばいいだろ」

「そうしたら俺はいつまでたっても弱いまんまじゃねぇか。この世で一番の冒険者になるってのも俺の目標なんだぜ?」


 ◆


 八つ当たりの相手を求めて、森にやってきた。

 夜中に森をキノコ集めをしながらウロウロと歩き回って、夜中に回るべきポイントを全て回り終わった。


「魔物に一回も会わなかったんだが……」


 いつもはこっちから探しに行かなくても、向こうから寄ってくるというのに、今日は一向に魔物達が仕掛けてこない。

 昼間、キノコ狩りに来た冒険者たちに狩り尽されてしまったのだろうか?

 ……あり得る。あのおっさん達の短気さなら十分あり得る。

 地味なキノコ狩りに飽きて、体を動かす魔物狩りに途中で切り替えたのじゃなかろうか。

 それと、昼間に冒険者たちが暴れ回ったから一時的にこの辺りの森から避難したって可能性もあるな。

 

 こうなると困る。ストレス発散の相手が居ない。

 しかしだからと言って、自分から森の奥に侵入するのは、俺の実力からいって自殺行為以外の何物でもない。

 毎夜、森に挑むといってもウルフしか出ないような場所で、俺なりに安全を確保した上での行動だった。


「帰ろう」


 不完全燃焼なところはあるが、キノコ集めはそこそこうまくいった。 

 安全第一、生きて帰ることが何よりも大事だ。


「……やっぱり、少し遠回りしてから帰るか」


 いつもより早く森に入ったということと、魔物に邪魔されなかったことで時間的余裕がある。

 あと、予想を上回る額で罰金を請求されたから金稼ぎしたいってのもある。

 いや、罰金以外の理由でも金を払ってきたから金が無いんだけどね。


 そんな訳で、少しくらい遠回りしても良いだろう。

 運が良ければ月草種を見つけられるかもしれない。どうせなら一獲千金狙いで行こう。

 毒キノコをもう一度食わせてやりたい相手もいることだしな。

 

 ◆


「ヒャーッホウ!!」


 思わず奇声を上げてしまうような光景が俺の目の前に広がっていた。


 三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草 三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草、三日月草…………。


「取り放題じゃねーか! 最高かよ!」


 辺り一面が淡く光っている場所を発見し、近くで確認してみたらこれだ。


「フゥ~!! 月草種の群生地とかマジかよ! ヒャーッツハー! 全部回収したら、言葉通りの億万長者だぜぇ! とりあえずアレだ、ドラゴン串をまた買える!」


 俺は、目の前の光景に浮かれて、森の中で大声を出しながら三日月草を回収し始めた。



 俺に向けられた視線に気がついたのは、最後の一本を回収し終えたあとだった。

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