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超幸運スキル持ちだけど、俺は本当に運が良いのだろうか?  作者: ぬぬぬぬぬ
第一章 俺、自身の運の良さを再確認する
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クソガキと訳あり少女3 自己満足にそれっぽい理屈を添える男

「シノ、お前薬剤ギルドで働いてたりするのか? もし働いているなら休みはどの程度だ?」

「え?」


 なんだその意外そうな顔は?

 いやいや、この場は君の話を聞くための場なんだよ?

 まぁ、おっさん達が酒を飲み始めたせいで場が混沌としているのは確かだが、最初は話し合いの場だったはずだ。

 真面目な話なんだからビール飲むんなら違う席に移動しろ、とは言えない。

 どう考えてもこのおっさん達は俺の監視だ。

 酒を飲みつつ、耳はこちらに傾けている。

 その証拠に休み、という単語にオレンが反応していた。

 そうだな、今のアンタには休みが必要だ。

 面倒な仕事を押し付けちまったことも謝る。

 だから睨まないでくれ。

 アンタに睨まれるのはコエーんだよ。


「早く答えろ。俺の気が変わらんうちにな」


 これ以上脅す必要はないのだが、ここまで来たらいっそこのままの方が良い。

 さっきまで恐ろしいと感じていた男が急に優しくなる方が間違いなく、怖い。

 目の前の男が何を考えているのかがわからなくなるからな。

 

 だから、ここまで来たらこのまま傲慢な男を演じ続けた方が良い。

 その方がむしろ怖くないはずなんだ。

 矛盾しているようだが、割とマジな話だ。

 なんせ社畜生活での実体験だからな。


「あ、えっとっ、薬剤作りのお手伝いはしていますが、実際に働いている訳ではないです!」


 それってさ、店を経営している家の子供は無給の従業員扱いされるっていうアレじゃないの?


「一つ聞きたいんだけど、シノが作ったポーションを店で売るって事はあったりするのか?」

「はい! 最近は魔力ポーションも売り物に出来るようになりました!」


 マジか!?

 俺にとっては無縁の物だけど、魔力ポーションって確か一本で金貨一枚の高給品じゃねーか!


「それで、給料を貰ってないのか」

「はい。お手伝いですから!」


 いやいやいやいや、いい笑顔だけどもそれで良いの?

 シノがただのお手伝いだと思っていたのは、十分に仕事の域に達している。

 給料を要求して良いレベルだろ。

 ってかこんな子供に作らせたポーションを売り物として扱うって大丈夫なのかよ。

 日本でやったら多分問題になる案件だよなこれ。

 後でギルマスに聞いてみるか。


「ちなみに、魔力ポーションってのは一日にどれくらい作れるの?」

「素材の準備が出来ているなら一日に何本でも作れますよ?」

「素材ってのは?」

「干したデングダケとマジックソーンをすりつぶしたものを……あっ!」

「どうした?」

「今のは、聞かなかったことにしてください!」


 守秘義務とか、そういう奴か。

 ポーションの作り方を秘密にするのはわかる。

 そうしないと一般人でも魔力ポーションを作れちゃうもんな。

 ……いや、実際に可能かどうかは知らんけども。


 マジックソーンとやらは知らない素材名だが、デングダケは知っている。

 というか、普段あまり採取していなかった紫色の毒キノコじゃねーか。

 前々から何に使うのか疑問だったキノコだが、魔力ポーションの素材だったのか。

 道理で買い取り価格が高いわけだ。

 これからはもっと積極的に採取してもいいかもしれないな。

 薬草同様、ポーションの素材だと言う事は需要が途切れることがない素材だ。

 どれだけ採取しても無駄になることはない。

 でもなぁ……少し採取に手間がかかるんだよなぁ。

 肌に触るとマズイから慎重に採取しなきゃだし……っと、話の最中だったな。


「そんな顔をしないでも大丈夫だ。もう素材の事など忘れた」


 今日の俺は少女を絶望の淵に叩きつける呪いでもかかってるのか。


「さてシノ。俺に週休2日で雇われろ。そうだな……お前が15歳、成人を迎えるまで献身的に俺の為に働くと言うなら、ここにある白金貨6枚、借してやる」


 今のシノが9歳何か月目かは知らんが、明日がシノの誕生日だとしても最低5年、つまり60ヶ月の雇用だ。

 10ヶ月で白金貨一枚とか、高級取りも良いところだがまぁ良いだろ。


 これは俺が自分の人生に後悔をしないための自己満足だ。

 金がいくらあっても後悔する人生なんてクソだ。

 そのことを俺は良く知っている。



 この世界に来て異世界ヒャーッツハー! だった俺は、大した準備もせず調子に乗って魔物に戦いを挑んだ。

 ゴブリン如き楽勝だと思っていたのだ。

 だが――、俺の振るった太刀筋は素人同然。いや、実際に素人な訳だがあっさりとゴブリンに剣を弾かれ、俺は死の恐怖に直面した。

 武器を失い、怒り狂う魔物を見た時、俺は酷く後悔した。

 どうして俺はゴブリン如き、楽勝だと高をくくっていたのか、と。

 どうにかして冒険者に助けられた俺は、宿に辿り着くと同時に自分の愚かさを嘆いた。


 馬鹿か俺は……なんで人間よりも力の強い魔物を倒せると思っていたんだ。魔物が強いなんてこと、資料室で読んで知ってたじゃないか。

 馬鹿か俺は、この世界がどこぞの小説のように異世界人に優しいとは限らないじゃないか。

 馬鹿だなぁ俺……、ギルマスも止めてくれてたのに……。

 大馬鹿野郎だ俺。なんで一回死んでおきながらむざむざ死地に赴いてるんだ!本来死んでたはずなのに、ニューゲームが出来るってのがどんだけラッキーな事だと思ってんだよ! 

 次も神様が助けてくれるとは限らないじゃないか! アホか俺は! 馬鹿か! 馬鹿なのか! 大馬鹿野郎じゃねーか俺はよおおおお!! 大体自殺者にぶつかって死ぬとかどんな確率だよ!? しかも飛び降りたアホは生き残ってるだって!?

 ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなっ! 俺の今までの人生は何だ? 

 普通に就職して、普通に恋人がいて、まるで絵に描いたような出来レースのまま結婚してっ! その結果がアレなのかよ!? あんなクソつまんねえ人生なのかよ! あんなゴミみたいな最期なのかよ!?

 ふざけんな! ふざけんなよ! 俺は日本に居た時から大馬鹿野郎じゃないか!! なんなんだよあの金を運ぶだけのATMな人生はよぉ!? 俺の稼いだ金だろうが! 俺が働いて手に入れた金じゃねーか! 専業主婦とかナニソレ? ふざけてんのか! 文句ばっか言いやがるしよ、家事が大変? ふざけんな! 対人関係が一つも発生しない家の中の生活で何が大変だっつうんだアホ! 大体俺だって一人暮らしの時は家事ぐらい自分でやったことがあるわ! あんなの家と仕事場を往復をするだけの生活でもギリギリ何とかなんだよ! ってか何とかしないと仕事に行けねぇんだよ! そもそも家に帰れるだけマシだわアホ! そんな俺でもやった事のあることをさも大仕事のように言いやがって! ふざけんなクソ! 家事をするだけで生きていけるんなら俺だって専業主婦になりたかったわ! なんなんだよあの俺の自由がねぇゴミみてえな奴隷生活はよぉ!? 外では社畜で、家ではATMか!? なんなんだよこの後悔しかないクソみたいな人生はよおおおお!?



 ってな具合でな。

 正直、死んだ後で一番後悔したのは貯金してた金のほとんどを使わないで死んじまったことだ。

 あぁ、残してった家族の心配はそんなにしてない。保険金とか出るしなんとでもなるだろ。


 あんなクソみたいな思いをもう一度味わうぐらいなら、俺は喜んで大金を支払う。

 死ぬ前に大金を残して死ぬとかマジ勘弁。

 うん、だからこれは金を無駄遣いするわけじゃない。

 それに大金だとしてもちっとも惜しくなんてない。

 これは俺自身の自己満足であると同時に、エルさんを助ける為でもあるんだ。

 うん。大丈夫。

 俺はこの白金貨を支払うことに後悔なんてないぞ。

 それに、自暴自棄になりかけていた俺を救い出したエルさんの為にも、目の前の少女はどうにかしないといけないんだしな。

 うん、後悔とかない。ないよ。ないない。


「質問いいですか?」

「あぁ」


 どうしてそんな提案をするのか、働くといっても実際に何をさせられるのか。

 他にも質問したいことはあるだろう。

 むしろここで何も質問をしてこない奴が居たらそいつはきっとただのアホだ。

 しかし警戒されまくってるな。

 怯えたり、警戒したり、忙しい子だな。

 俺のせいなんだけど。


「実際にどんな仕事をすれば良いんですか?」

「冒険者ギルドで受付をしてくれ。俺の専属受付嬢としてな」


 レーナという受付嬢に不満は一切ない。

 だが、あの受付嬢は定時になればさっさと帰るし、そもそも毎日出勤している訳ではない。

 レーナが定時に帰る事は問題じゃないんだ。

 他にも受付嬢はいるんだし、わざわざ夜の時間帯を担当する受付嬢も居るしな。

 レーナに休日がある事も問題じゃないんだ。

 そもそも毎日働かせるなんてブラック企業ってレベルじゃねーよ。

 だから定時にさっさと帰ったり、休日出勤は意地でもしないって姿勢のレーナが悪いって訳じゃない。

 ただ、俺の事を他の受付嬢が担当してくれないからなぁ。


 まさか俺の後任として雇われた新人にすら断られるとは思わなかった。

 多分他の受付嬢からの同調圧力ってやつなんだろうな。

 女の世界って怖いわ。


 どうも、俺は彼女たちのヘイトを稼ぎ過ぎたらしい。

 俺はそこそこの頻度で高額納品をするんだし、彼女たちとしても給料があがってWin-Winのはずなのに な。

 自分が得をするんだから作り笑いしながら対応してくれても良いと思うんだよね。

 俺だったらどんなに嫌いな奴が相手でも自分が得をするなら取引するけどなぁ。

 ホント女ってイミワカンネ。

 ここら辺は男と女の違いって言うよりは性格の違いだからまた別の話なのかしれないけど。

 その証拠に、ってわけじゃないけどレーナは俺を罵倒しつつも対応してくれてるもんな。


 まぁ要するに俺が嫌われ過ぎているせいで、レーナがいない時にクエストを受けたり、素材を納品したりするのが困難なわけだ。

 これを前々から何とかしたいと思っていた俺にとって、目の前の少女を雇うというのは中々に良い案だと思えた。


 目の前の少女は少し考えた後、次の質問をして来た。

 良かった。引き受けてもらえそうだ。


「一日にどれくらい働けば良いんですか?」

「そこら辺はあとで考えよう。とりあえずシノの希望が極力通るようにはする。で、どうする?」


 目の前の少女はホッと一息つく。

 ってかさ、受付の仕事って聞いた時も明らかにホッとしてたよね?

 何を想像してたん?

 俺が24時間の労働を要求してくるとでも思ってんの?

 平気平気。

 もし仮に君の隣で俺の事を睨んでいるガキを雇うとしても、自由時間が6時間は確保出来るように酷使するだけだから。

 6時間も自分の時間があるなんて幸せだろ? 結婚とかしてたらその時間すらないんだぜ? 


「あの、そもそも受付として雇って貰えないのではないでしょうか?」

「それは大丈夫、俺が何とかするよ」

「はぁ……」


 信じてないなこの子。

 まぁ、エルさんならゴリ押せば何とかなるだろ。

 あの人は結構話の分かる上司だったし、目の前の子には甘い対応だったからな。


「他に聞きたいことあんのか?」

「あります。さっきシュウさんは私に『白金貨6枚を借す』と言いましたよね?」

「言ったな」

「その辺りのお話を詳しくお聞きしたいのですが」


 本当にしっかりしてんな。

 シノの隣に座るクソガキとは大違いだ。


「まず、シノには俺に借金をしているという状態でこれから生活をして貰う。ここまでは良いか」

「はい」

「さっきも言ったが、シノが成人になるまで、15歳になるまでで良い。ここまでの期間、お前が見事受付嬢として働き続けたならシノの借金は借金でなくなる。これも良いか」

「……15歳になるまで受付の仕事をきちんと出来ればお金を返さなくても良いという事ですか?」

「そうだ。だが、シノも冒険者ギルドで受付生活なんてしたくないだろう? 途中で白金貨6枚を集めることが出来たら俺に返済してくれても良い。そうすればシノは自由の身だ。あぁ、一応言っておくが受付の仕事をすることでシノが受け取った給料はシノの物だ。別に俺が横から取り上げたりはしない」

「……途中で辞める時は、借金の返済もしないといけないんですか?」

「そうだ。途中で受付を辞めたいならそうしろ。ただ、シノが白金貨6枚以上の金額を稼いだからといって、無理矢理俺が取り上げるような真似はしない。俺とシノがこれから交わす契約内容は『15歳になるまで冒険者ギルドで働いたら、借金はなくなる』という契約だ。契約を達成していない段階で借金が減るとか考えるなよ。仮にシノがこの冒険者ギルドで一年受付の仕事をしたとしても、シノの借金は変わらず白金貨6枚だ」


 目の前の少女が考え込む。

 きっと、この話に乗るべきかどうかを考えているのだろう。

 まぁ、どうせ受けるんだろうけどな。

 そもそも、この話を最初に断らなった時点で目の前の少女の要求は間違いなく『金』だ。

 『依頼の取り消すこと』が目的だとするなら、そもそもこの提案に質問なんてしなくていいのだから。

 理由は知らんがこの一点だけは間違いない。


 となればこの話には間違いなく乗ってくる。


「わかりました。そのお話お受けします」


 ほらな。

 よし、後はこの話をギルマスにしに行くだけだな。


「ちょっと、待てよ」


 待たねえよ。

 なんで邪魔してくるんだクソガキ。

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