冒険者の日常7 キノコ狩りとエルフな少女
狩りを終えた冒険者たちが冒険者ギルドに集まって来た。
クエストの報酬を受け取りに、そして酒を煽る為に。
今日も楽しい飲み会の始まる――はずだった。
おかしいな。
この時間帯に来れば、冒険者ギルドのカウンターは閉まっているはずなんだが。
「なぁ、何でまだこんなに混んでんの。何かあったん?」
他の受付嬢達が忙しそうにしている中、一人だけヒマそうにしているレーナに声をかける。
「迷惑な客が一人居ただけだ。ギルマスはちょうど出かけていてな。相手が相手だったので追い返すことも出来ず、職員が対応に追われていたぶん就業時間が伸びたのだ。連帯責任とやらで私まで帰れん。まったく迷惑な奴だ」
そう言って、俺を睨んでくるレーナ。
……俺、今の話に関係無いよね?
八つ当たりするの止めて。
◆
俺は今、キノコを求めて森の中をてくてくと歩いていた。
飲み会の席で昼間キノコを食った冒険者達が騒ぎ、『「俺もキノコを食いたい!」「俺も!」「俺も!」「俺も!俺も!」「オイオイヨ!」』
と、『俺も』という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしかけているレベルで騒がしくなってきたところで『じゃぁ、明日は全員でキノコ狩りでもすっか!』というおっさんの一声により、明日の予定が決まってしまったからである。
「冗談じゃねーぞ。このままじゃ俺のせいで死人が出ちまう」
言いながら、目に着いたキノコを片っ端から採取していく。
このままじゃうっかり毒キノコを食った冒険者が続出してしまう。
俺は内心かなり焦りながらキノコの採取を続けた。
◆◇◆
「テメェラァ! キノコ狩りの準備は良いかァ!! 白いキノコは見かけたら採取しまくれ。食えるキノコもあるが大抵毒キノコだ! 絶対に勝手に食うなよ! 採取したら俺に一度見せろ! 紫のキノコは全部毒キノコだ! 触っただけで病気になるぞ! 絶対に素手で触んな! でも高く売れるから採取はしとけ!手袋必須だ! 防具付けたまんま触んなよ! 防具が危険物になるぞ! 赤いキノコは基本的に使い道はねぇ! 捨て置け!! 青いキノコは――」
変態ミドリが冒険者ギルドで冒険者達を前に『キノコ演説』を行っている。
あの男にしては珍しく大声を出しながらである。
一体何があったのだろう。
「テメェラァ! 復唱しろぉ! 白は採取! 素手OK!」
「「「「白は採取!! 素手OK!」」」」
「紫も採取!! 素手NG!」
「「「「紫も採取!! 素手NG!」」」」
「赤はゴミ屑! スルー安定!!」
「「「「赤はゴミ屑! スルー安定!!」」」
「青いキノコは――」
あの男の行動は本当に理解できん。
絶対に死にたくないとか言うくせに、冒険者になり。
自由、自由と宣うくせに、毎日毎日採取クエストを受けに来る。
どちらの条件もここで受付をしていた方が良かったはずだ。
街の外と違い、モンスターが襲い掛かってくるようなことはないし、5日に1度は必ず休めるのだから。
街中で死ぬ可能性は……あの男の場合はそれなりにあるのか。
あの男は何故か無駄に運が良い。
あそこまでいくともはや『幸運』なんて生易しいものではない。
恐らくあの男の異常性を一番に理解している私が断言しよう。
あの男はきっと神に呪われているのだ。
『狩りに出かけると必ずレアモンスターに遭遇する男がいるらしい』
一時期、冒険者ギルドで騒ぎになった噂話だ。
当然の話だ。
そんな男がもし本当に居るのなら、十日に一度狩りに出かけるだけで冒険者は生計が立ってしまう。
だが、冒険者にはあまり儲けられると困るのだ。
街の発展と安全の為には、外に出て魔物を狩り続けて貰わなければならない。
金に余裕が出来た冒険者がサボりだせば、それは魔物の繁栄を意味する。
その男の存在は『冒険者』という職業のあり方を壊しかねない。
だからこそ、この噂話は騒ぎになった。
為政者の立場からすれば迷惑な話でしかないからだ。
すぐさまその噂は広がり、この街を治める領主がこの冒険者ギルドまで確認に来たことまであった。
噂の中心である男が狩りに出かけるとなれば、誰もがその後を付け、獲物を横取りした。
初めはその男を羨ましがる冒険者が大半であった。
やはり当然の話だ。
レアモンスターと言うのは通常個体より戦闘力が高く厄介な存在ではあるが、その分その素材の価値は高い。
毛皮であればその防寒性は増し、爪や牙と言った素材はその鋭さを何倍にも増す。
肉は今まで味わったことのない極上の食材になり、その骨は下手な金属よりも硬い。
その素材は通常個体の10倍~20倍の値が付く。
冒険者であれば、そんな効率の良い狩りが出来るというだけで羨み、妬むには十分すぎる話だ。
そして、この街の冒険者は皆強い。
なんせワイバーンを日常的に狩り、その上位種であるドラゴンですら易々と倒してみせる連中なのだ。
レアモンスターが多少手ごわいからと言って、困るような冒険者は居ない。
が、その男は、想像を絶する程に弱かった。
剣を構えてもまともに振れず、鎧を着込めば走る事すらままならない。
武器を木刀に変えてもへっぴり腰は治らず、鎧を脱いでも体力面の問題からまともに走れなかった。
冒険者達は考えた。
この歩くだけで自分たちに幸運を分け与える存在を鍛える術を。
為政者達は考えた。
この存在するだけでこの街の冒険者を堕落させかねない男を始末する術を。
今から約三年前の話である。
「行くぞテメェラァ! キノコ狩りの時間だああぁ!!」
「「「「「うおぉおおおおおおおおおお!!!」」」」」
雄叫びを上げ、冒険者達がギルドを出ていく。
その先頭を歩くのは、死にたがりの変態である。
わざわざ死地に赴く変態男である。
……今日はあの男、採取依頼を受けないのか。
今日は7つほど用意していたのだがな……。
「やっと出て行ったわね。あーうるさかった」
「そうね。本当に迷惑な奴だわ。冒険者達は今日もクエストを受けてかなかったわね……どうしてやろうかしら」
「ねー、このままじゃまた給料が下がっちゃうよー。あーあ、本当にアイツとっとと死なないかな~」
「そのうちあっさり死ぬと思うけどね。今日は森から朝帰りだったみたいだし」
「げっ。アイツまだ夜の森に通ってるの?なにそれこわい」
「ねー、死に場所を求めてる的なー?」
そんな会話が隣から聞こえてくる。
そういえば、最近まで受付嬢達は考えたのだ。
あの男に受付業務を辞めさせる術を。
現在であればどうやってあの男に冒険者を辞めさせるのかを、今まさに話合っている。
いや、早く死んでくれと願っている。の方が正しいか。
本当にあの男は呪われているとしか思えん。
ただ冒険に出る、という理由だけで馬鹿な奴らから恨まれる。
ただ幸運である、という理由だけで凶悪な魔物に遭遇する。
ただ冒険者を堕落させかねん、という理由だけで為政者に命を狙われることになる。
これが呪いでなく、なんであるというのだ。
私は馬鹿な同僚達の会話に巻き込まれる前に、資料室に向かった。
あの男が居ない時間帯であの席に座っている理由が、私にはないのだから。
◆◇◆
「ジユウ~なんか黄色いキノコあったんだけどこれ何ー?」
「さっき説明しただろマヒダケだ。売れるからとっとけ」「ヤター」
「おーい、この赤い奴って食えるんだっけー?」
「ゴミだ! 捨て置け!」「あいー」
「あのーこの白いのは――」
だーっつ。
このおっさん達ホントに話聞いてたのかよ!?
さっきまでの俺の恥を忍んだ『キノコ演説』まったく意味なかったじゃねーか!
「あのー」
「あぁん!? 今度はなんだぁ!」
声が聞こえた方を振り向く。
が、誰も居ない。
気のせいか?
「こっちです。シュウさん」
気のせいじゃなかった。
声の聞こえた方に、少し下に視線を下げる。
いつぞやの魔法使い(見習い)の少女が居た。
身長は120センチあるかどうかって所だ。
相変わらず小さくて可愛い子だ。
あぁ、改めて言っておくけど俺はロリコンではない。
誤解すんなよ神様。
「どした」
「白いキノコ採取して来たので鑑定してください!」
そう言って、背負い篭の中身を見せてくる少女。
多いな。
中身を確認したが、毒キノコが一切ない。
え、普通に凄い。
俺の幸運を持ってしても、ここまで見事に毒キノコをスルー出来た事は無いぞ。
「凄いね。毒キノコは1つもないよ。全部食用だ」
「ホントですか!?」
「うん」そんなに驚くことかね?
「やったっ」
そう言って、その場でぴょんぴょんする少女。
少女が1ぴょんすれば、その金髪が踊り、少女が2ぴょんすれば俺の心がぴょんぴょんした。
見た目の可愛さと相まって色々とヤバイ。
というか、この子って……。
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エリー 女 15 魔法使い
スキル:風魔法1
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うん。
魔法使いになってるってことと、年齢が15歳になったって事はこの場に居るって事から判断出来ていたことだ。
別に驚いたりはしない。
ぴょんぴょん。
この子は、ギルマスの暇つぶし兼、人材育成の場で『冒険者』になることを認められた少女だ。
が、15歳なのにこの身長。
そして、ぴょんぴょん。
日本で考えるなら、中学三年生。
もしくは、高校一年生の年齢でコレ?
……もしかしなくともこの子。
「ところで、エリーはエルフだったりする?」
「え?」
俺が質問すると同時に、ピタッとエリーが固まる。
あぁ、ぴょんぴょんが終わってしまった。
ぴょんぴょん。
「私、名前言いましたっけ?」
「いや。ギルド職員だったこともあるからね。知ってただけだよ。えと、最初に対応したのは多分俺だと思うんだけど」
言いながらかぶっていたフードを外す。
う、寝てないから太陽の日差しキツイ。
今日は早めに寝たいな。
「あの時の受付さんですか?」
「そそ、でさ、エルフだったりするのかい?」
「あ、えっと……キュウヨウヲオイダシマシタ。イソイデオウチニカエラナイト」
わ、すっげー棒読み。
なるほど。
エリーはエルフ少女なのか。
ぴょんぴょん。
道理で俺の心のぴょんぴょんが収まらないわけだ。
でもアレな。
エルフってもっと耳が尖がってるイメージだったけど普通に人間の耳なんだな。
資料室で見たエルフの記述だと、エルフってのは100歳を超えてからが成人扱いらしいからな。
目の前の少女は冒険者になれる15歳(この世界での成人年齢)を超えてはいるけど、エルフ的に考えればまだまだ子供ってことだな。
えっと、人間で考えるなら何歳になるんだ?
エルフってのは寿命約3百年だ。で、人間の寿命は……。
ってか、こういう時って、何を基準に計算すれば良いんだ?
よく、犬の年齢を人で考えるなら~。ってのを聞くけどさ。
どうやって計算したんだアレ。
確か犬の1年6ヶ月が人間の20歳に相当するんだよな。
昔犬を飼ってたから覚えてる。
良く分かんないけど、目の前の少女はマジで少女な訳だよな?
いや、年齢的には成人扱いで良いんだろうけど、彼女はエルフな訳だし。
……なんか混乱してきた。
なんだか、そう考えるとこのまま一人で街まで帰らせるのは罪悪感がヤバイな。
行きはおっさん達の強行軍だったから、魔物が襲ってきても瞬殺されて安全だったけど、1人でここから街までってなると結構危険がいっぱいだよな。
彼女が急用を思い出してしまったのは間違いなく俺のせいだし。
「失礼します!」
「ちょっと待って。俺も急用を思い出したから一緒に帰ろう」
明らかに挙動不審になった少女の腕を掴む。
うわ、ほっそ。
あとわけわかんないぐらいやわらけぇ。
あ、何度でもいうけど、別に俺はロリータなコンプレックスじゃないよ。
それに彼女は年齢的には成人な訳だし?
けど、エルフだから年齢の割に子供っぽいわけだ。
子供が1人で森の中とか危ないじゃん?
大人としては放っておけないじゃん。
子供を守るのは大人の義務だからな。
「え、あ、あの……」
いやいや。
泣きそうな顔で俺を見るのは止めてね?
絵面が完全に誘拐犯のソレだから。
大丈夫だよ。
別に家に連れて帰ったりはしないから。
「1人で帰るのは危ないからさ。一緒に行こうよ」
「……はい」
何故落ち込む。
ちょっとだけ傷つくから止めて。
……ちょっとだけな。
さて、誰かに帰ることを言っとかないと……アレンで良いか。
あいつは面倒見が良いからな。
……いた。
ちっと遠いけこの距離なら大丈夫だな。
「おーい、アレンー!」
「なんだー!」
「俺、急用が出来たから帰る!後は適当に任せたー!」
「おー!他の奴らにも言っとくわー!」
「悪いなー!」
「あとで酒奢れー!」
「わかったー!」
そういや、あの護衛対象と飲み会で会ったこと無いな。
なんか知らんけど、アレンが張り切って鍛えてるからな。
昨日も夜まで訓練してたみたいだし。
ちっと話してみたかったんだが……ま、いっか。
今日が護衛最終日だし、来るようには言っておこ。
「よし。行こうか」
「は、い……」
いやいやいや。
何でこの世の終わりみたいな顔をしてるの?
ヤメテ!
絵面がマジでヤバイからヤメテ!
ここから街まで2時間は二人っきりなんだよ?
ちょっとが積み重なったらいっぱいになるんだよ。
既に結構積み重なって来てるんだから。
こんな空気のままじゃ俺の心が二度とぴょんぴょん出来なくなっちゃう!
「あっ、とりあえずコレ着てくれる?」
そう言って、俺は緑色のローブを取り出す。
「え? あの……」
「良いから。全身をローブで隠す感じで着てね」
さぁ、かくれんぼの時間だ。
これだけはマジで得意だからな。
子供一人ぐらいなら街まで安全に送り届ける自信がある。
「着ました……」
うん。
可愛いな。
金髪エルフに緑のローブって最高の組み合わせだな。
心なしか落ち込んでいるように見えるが、きっと気のせいだ。
俺の心の傷が結構ヤバイことになっているのもきっと気のせいだ。
「よし、行こうか」
すたすたと街に向かって歩き出す。
「あ、あの!」
呼び止められてしまった。
「何?」
「籠は、どうすれば良い……ですか?普通に背負っても大丈夫ですか?」
…………あー、うん。
「アレンー!」
「今度はなんだー!」
「街まで護衛してー!」
うん。
子供を守るのは大人の義務だよな!




