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第7話 イナカモノは・・・

元ネタ、バレバレですね。

 タスンを倒し、周囲に敵の気配がないことを確認する。安堵した僕達は警戒を解いた。

 僕は変身(・・)を解き、リナも指輪待機を解除している。


「何かあの変身(・・)、兄さんらしいね」

「そうか!カッコイイだろう!!」

「……」


 半眼で睨まれてしまった。何か言いたげな視線が突き刺さる。いつの間にか二人の中で“白銀の星竜モード”のことを“変身”で統一することになった。もっとも僕の場合は昔からそのつもりだったことは言うまでもない。


「そっ、それよりこれからどうしようか。まずは人が住んでる町を探すところからかな?魔物なんてものがいるところで野宿するのも危険だしな……」

「賛成、それにできればお風呂にも入りたい」


 最初の心配が“お風呂”というのもアレだが当面の目標は決まった。問題はどうやって行くかにある。周りを見る限り、それらしきものは見当たらない。どうしたものかと首を捻っていると、リナは指輪を起動し何かに気付いた様子だった。


「えっとね。あの森が“(ため)しの森”という場所で、それを背にまっすぐ行けば“エスリアース”っていう町があるみたい。今から歩いて夜までにつければいいけど……」

「そうか、なら僕に任せてくれ。リナ、ちょっと失礼……」

「ちょっと兄さん!いきなり何するの!」


 ひょいっとリナをお姫様抱っこすると上目使いで抗議を上げる。両手の人差し指を手前でツンツンしているところから文句よりも恥ずかしさの方が勝るようだ。そんな仕草に可愛いなあ、と思ってしまう。


「しっかり掴まっていてくれ。いくぞ~、アクセル・ウイング!」

「ちょっと兄さん!大丈夫なの!?」

「大丈夫だ。変身した時、体力、魔力ともに回復したしな。それに戦闘では数分しか使えないけど、出力を抑えて高度を低くすれば結構長い時間飛べる」


 心配させないように「休憩もとるつもりだ」とも伝えて安心させる。


「そうなんだ。そうしたらお願いね、兄さん。それと、次は前もって言ってよね」

「前もって、って何を?」

「お姫様抱っこ……」


 あ~、確かにそうだ。気を付けよう。


「それじゃ、気を取り直していくぞ!人の反応があったら教えてくれ。人には見られたくない」

「あっ、うん。そうだね……」


 “翼の勇者”と間違われたくない意味で言ったつもりだったけど、リナは恥ずかしいからという意味で受け止めていた。顔がトマトのように赤くなっている。その様子を見て僕も気付き同じく赤くなってしまった。視線を逸らし誤魔化すように飛行を始めた。

 背の翼から光が立ち上り徐々にスピードは上がっていく。


「速~い!」

「だろ?」


 自動車の安全運転位の速さを維持して真っ直ぐに進んでいった。




 休憩を間に入れ、約二時間移動したところで城壁らしきものが見えてきた。今日はもう戦闘はお腹いっぱいだったので、道中見かけた魔物については戦闘を極力避けた。といっても、アクセル・ウイング状態で跳ね飛ばした魔物も何匹かはいた。当然、人は轢いていない。兎も角、人目を避けた分、時間が倍近くかかったものの、日が落ちる前には町に入れそうだ。



「近くで見ると随分、頑丈そうだなあ」

「きっと、魔物に備えているんだよ」


 今、僕達二人の前には十メートル程の高さの強固な石から作られた城壁が見えている。よくよく見ると魔力が通っているようで、魔法による強化もされていた。城塞都市の言葉がよく似合う。そんな印象を覚えた。

 町の入り口を探して壁伝いを歩いていると、ようやく門を一つ見つけた。鉄製の軽鎧で身を固め槍を携えた門番が二人いる。一人は髭を生やした丸刈りの頑固そうな男、もう一方は金髪で目つきの悪い若い男だった。

 

「僕達二人を町に入れて欲しいのですが……」


 面倒事が起こりそうな予感をひたすら無視し、意を決して話しかけた。目立ちたくはないので、僕とリナは革の外套を羽織っている。特にリナのメイド服姿は目立つので念を入れてフード付きのものを渡していた。どうして、そんなものを持っているのか、って言うと転生前に色々あって収納空間に入れていたからだ。


「ならば、通行証を見せてみろ」

 髭の男が答える。


「通行証って何ですか?よくわからないのですが……」


 髭の男の口が微かに動いたが、言葉に発しているわけではなく何を言ったのかはわからない。


「はん!通行証も知らないとは、どこの“イナカモノ”だ?」


 金髪の男の嘲笑に耐え兼ね思わず木刀に手が伸びる。「兄さん、我慢して」とリナに窘められた。


「まあ、そう言うな。“イナカモノ”なら知らないのも無理はない。通行証とは町に出入りするために必要な許可証のことだ。お金を払って手に入れるか、町を出るときに門で手渡されるかのどちらかだ。もっとも後者の場合は期限付きだ。一定期間を過ぎれば使えなくなる代物だ」


 髭の方からも“イナカモノ”認定されてしまった。頬が自然に引きつる。


「通行証がなければどうやっても町には入れないと?」

「はん!これだから“イナカモノ”は無知で困る」

「そうだな。説明はまだ終わっていないというのに、“イナカモノ”はホント困る」


(こいつら~っ!)

(兄さん、抑えて!)


「通行証がなければ一人当たり銀貨五枚だ。金を払えば通してやる」


(リナ……)

(兄さん……)

「「そういえばお金……、持ってないな(ね)」」


「はん!金がないなら帰って出直してきな!」

「くっ!」


 悔しくもあるが、金策をしていなかった僕達にも落ち度はある。道中、倒した(轢いた)魔物の戦利品(ドロップアイテム)も回収していなかった。門番二人の態度は気に入らないがグウの音もでない。


 ここでとるべき選択肢は……。


1 斬る

2 蹴とばす

3 門番だけでは気が済まない。いっそ町ごと破壊する

4 ここは大人しく引き下がる

5 き〇さり〇〇を使う


 素直に「4」を選ぼう。一度「1」を選択しかけたのは内緒だ。


「リナ、ここは一旦引こう」

「待って!兄さん」


 フードを脱ぎ、リナが門番の前に歩み寄る。長い黒髪がサラリと揺れた。上目遣いで、すがるように訴えかける。


「どうしてもダメですか?」

「ダメだ。これは規則だ」


 髭の男がぶっきらぼうに答える。リナの上目遣いが効いていないとは……。


「だったら、情報ではダメでしょうか?」

「情報?」

「わたし達は“試しの森”で魔族を見かけました。ここから、そう遠くはありません。通していただけるなら知る限りの情報を提供します。二人分の通行料を払ってもお釣りが来るくらい価値があると思います。どうでしょうか?」


 門番二人は考え込む表情を浮かべた。リナが何だか頼もしい。


「くっ、くくく……」

「ふっ、ははは……」

「えっ?」


 門番二人は突如笑い出した。


「はん!魔族ってそいつはどんな“ゴブリン”だ?」

「お嬢ちゃんは大げさだな~。まあ、無理もないか。子供にはどんな魔物でも恐ろしく見えるからなあ」


 そう解釈したか。ダメだな、こいつら。これで町の見張りとは、大事が起きた時に報告を怠って大惨事を招くタイプだ。リナに「あきらめよう」と合図するが振り切って尚も食い下がる。


「そんな!わたしは!」

「わかった、わかった。もういいだろ。子供はさっさとおうちに帰んな!」

「せめて、冒険者組合に伝えてください。そうしたらわかるはずです。わたし達の見た魔族はいなくなりましたけど、別の魔族が来る可能性だってあるんですから!」


 瞳を潤ませ必死に訴えかけるリナを心底、面倒くさそうに金髪の男が一蹴する。


「俺たちは忙しいんだ。さっさと帰れ“イナカモノ”!黙っていれば、さっきから上目遣いして色仕掛けのつもりか?子供(ガキ)が十年早いんだよ!はん!」

「そうだな。誘惑するにはお嬢ちゃんはちょっとな~。もう少し大人になったらな。フハハハハッ」


(チッ、二人とも称号に【熟女好き】……)

 二人を解析したのだろう。らしくない舌打ちとともにリナから黒いオーラが立ち上った。これ以上ここにいては危険だ。(主に門番二人が)


「リナ!もう行こう」

「ちょっと兄さん!引っ張らないで!」


 駄目門番二人を背にしてリナを引きずりながら立ち去った。その手には“てっぽう”が握られている。紅の魔力は装填済みで今にも発砲しかねなかった。


「髭の人が“ジンベ”で、そっちのチャライ方が“ベアード”、二人の顔、覚えたから……クスクス」

(怖い!怖いって、リナ!)


 冷めた視線で黒リナの捨て台詞が門番二人に注がれる。その声音に大気は震え辺りの熱が徐々に奪われていった



「なっ、何であのガキ、俺たちの名前を知っていたんだ?」

「さあ?それよりも何か急に冷え込んできたな」

「ああ、何だか凄く寒い……」


 寒さの原因に気付かず身震いする門番二人、外套を羽織り仕事に戻る。次に訪れた集団に先ほどのキョウマ達同様のやり取りを行う。


「入りたければ、通行証を見せてみろ」

「これでいいだろう」


 集団のリーダーと思われる男が腕を差し出した。その仕草にジンベは腰の道具袋から丸い水晶を取り出し男の腕に近づける。水晶が一瞬、赤く輝くと文字らしきものが浮かび上がった。


「ナビゲーション・リング、確かに確認しました。冒険者の皆さま、お疲れ様です。どうぞお通りください。

「おう!お前たちもな!」


 リーダ格の男は門番二人をねぎらい。仲間二人を連れて門の向こうへ消えていった。



 キョウマとリナはナビゲーション・リングが通行証の役目を果たすことを知らなかった。それは冒険者であれば誰もが知る当然の常識。通行証、と聞かれてリングを見せないキョウマ達を見て、門番二人は冒険者の線を完全に捨て去った。故の“イナカモノ”であった。


 この門前払いがもたらす運命を誰も知らない。

お読みいただきありがとうございます。

主人公視点はここで一度、中断します。

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