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第80話 だから僕は魔王に挑む~開幕! 南海のだいけっせん!!

 (かかと)を離すと、すかさずリナのハリセンが僕の後頭部めがけて飛んできた。僕はリナの手首を掴んで、やり過ごす。その間、現在進行形で床下から抜け出そうとしている()を視界から外すことはない。


「えっ!? 兄さん、真剣状態(マジモード)……」


 黄金のハリセンを止められたリナは(まばた)きを繰り返し思考整理。臨戦態勢にいる僕の様子に気付き、腕から力が抜けていく。襲われる心配もなくなり、僕も掴んだリナの腕を解放する。


「リナ、奴は人間じゃない(・・・・・・)

「う、うん。でも……」

 

 僕の呟きにリナは同意をする。冒険者(・・・)として活動している僕の一撃を受けて、意識も失わずジタバタするだけの頑丈(タフ)さを見せつけられれば、一目で人外だと気付く。それでも、リナは戸惑いの色を浮かべ異議を唱える。


「でもね。例え、人でないからって理由だけで、いきなり踵落としするのは絶対! おかしいよ!」

「そうか?」

「そうです! 大体、人間じゃないからって悪いとは限らないでしょ?」


 リナの言い分も一理ある。僕は首を軽く横に振って否定を示し、確信を口にする。


「悪いがリナ、こいつは悪者……だ!」


 もちろん、床から抜け出そうとしている偽物町長を踏みつけ再度、埋めることも忘れない。


「あーっ、もう! また、何やってるの!? ちゃんと説明してくれなきゃ、わからないって!! 悪者だっていう根拠は何!?」 

「根拠も何も、それが真実。僕がそう言うんだ。他の可能性なんか一つもない」

「うっわ、最悪……。何、その厨二的論理(ロジック)……」


 どうしてもリナが納得してくないので、僕自身の瞳を指差し、リナの視線を誘導。竜眼(ドラグ・アイ)の発動に気付き、リナはようやく語気を和らげる。


「でもでも、仮に本当にそうだとしても、もっとこう……そう! 情報や証拠を集めて白日の下にさらけ出す。そういう展開がお約束じゃないかな、って私は思うんだ」


 リナの言うお約束(・・・)とはゲームや漫画、アニメでよくあるお話のことだろう。だから、僕もまた決まり文句をもって応えることにする。そういえば、ここ最近は随分とご無沙汰にしていたような気もする。


「あ~、そういうのは物語の主人公……。要は勇者様のすることだろ? 生憎と僕は勇者じゃないからな。そんな筋書きに従う気なんかない。第一……、面倒だ!」


 またまた、偽村長を踏み抜く僕。リナは「あ~そうそう。はいはい。また始まった」と半眼で僕を睨む。リナのジト目に耐え兼ねた僕は、軽く息を吐き出して足元を指差す。リナは疑問に小首を傾げているが、要は切り札というやつだ。


「ガガ……」

「じゅ~べ~ちゃん?」


 つぶらな瞳を細め、低く唸る茶色の隊長どらごん。偽村長に向かって敵意をむき出しにしている。これでリナの心の天秤は傾いた。更に反対側から頼れる相棒の援護射撃。


「きゅー」

「ハクちゃん?」


 小さな手でリナの外套をクイクイと引き、ハクは上目遣いを浮かべる。

 

―リナはぼくたちのこと信じてくれないの?


 子竜の意図すること。リナの心に雷鳴となって響き渡る。しばしの硬直を経て振り向くリナ。満面の笑みが、かえって怖い。


「うん、わかったよ。ハクちゃん。アレ(・・)は敵なんだね?」

「キュィッ!」


 何の前ぶりもなくリナは、“てっぽう”を取り出し銃弾を三発発砲。同時に僕は、横にステップ。踏みつけから解放された偽村長は当然、床下からの脱出を試みる。情けも容赦も血も涙もないリナは、地につく両手を撃ち抜く。これで起き上がるのに失敗。残りの一発は、後頭部に螺旋軌道を描いて命中。流石に、これは効いたのかジタバタとしていた偽村長は急に大人しくなった。


「あ、あの……。村長が偽物って……」


 恐る恐る背中越しに尋ねてくるのは、案内の女性。踵落とし以降、口をあんぐりと開けたまま固まっていたのが、ようやく再起動といったところか。


「見ての通りだ」


 僕の指先の向かう先は、リナの銃弾を受けた偽村長の手の甲。ひび割れた皮膚の下から闇色の鱗が覗く。ゼリー状のぬめりけを帯び、見ていて気持ちのいいことなど一つもない。女性はすぐに悲鳴を上げ、その場で腰を抜かした。小刻みに震え、意識を辛うじて保っているのが、やっとといったところ。


「その反応。少しは正気に戻った(目が覚めた)って、ところだといいんだけどな」

「目が……覚める?」

「まあ、な。この辺り一帯、変な霧で酷いだろ? あれが、町の人を惑わせている元凶ってところかな。広範囲に渡って効き目がある分、一定の強さを持っていると効果がない……。だから僕達には効かずとも町の人達には十分作用したってことさ」


 女性を一瞥し、「この人も含めてな」と僕は付け加える。女性は震えたまま偽村長と僕達を交互にする。


「みんな、惑わされていたんだよ。大体、おかしいだろ? 町の皆が苦しんでいるのに一人、豪勢な家でくらして美味いものを食う。ここに来る途中の悪趣味な内装。これだけ、あからさまで誰一人として疑わなかったんだろう? 他にもおかしなところは、たくさんあった。そうだろう?」

「うん。そう……だね」


 リナは軽く頷き同意する。そう、全ては霧のせい。町の人が孤立し周辺に助けを求めることができないでいること。更にはこの町へと誰も人が来ることができないでいる―忘れ去られている節があることさえもあること。全ての原因はこの霧によってもたらされている。このことに気付けたのは竜眼(ドラグ・アイ)と疼く両腕の紋章のおかげと言えた。


(あとで猫缶(まぐろ)追加だな)


 胸中、足元のどらごん達に感謝の言葉を述べる。すると、それぞれ一鳴きして小さな尻尾を左右に揺らし始めた。喜んでいるようで僕も嬉しい。なら、とっとと片付けてて猫缶(まぐろ)タイムとしなくてはな!


「さて、種明かしは済んだところで、そろそろ寝たフリはやめたらどうだ?」

「……」


 偽村長は死んだふりを決め込んだのか、返事をする気配がない。


「あくまでシラを切るか……。なら!!」


 寝そべる偽物の腹を思いっきり蹴り上げる。「ゲブゥッ!」と潰れた声が上がる。ほら、やっぱり生きていた。めり込んでいた床が砕けボールのように宙へと浮く。文字通り化けの皮が半分ほど剥がれ魔物の姿が白日の下にさらされる。大きく見開いた血走る(まなこ)。粘液滴る尖った牙にヒレを思わせる刺々しい耳。アニメや漫画でよくありそうな凶悪な魚人顔をしている。


「トォリャッ!!」


 宙に浮いたところを渾身の回し蹴り。顔面に直撃を受けた偽町長は壁に激突。さらに、飛び蹴りを浴びせ、壁をぶち抜き外へと飛び出す。


アクセル・ウイング(加速翼)、展開!!」


 背部に広がるエネルギー状の翼。淡く輝く魔法の両翼から光の粒子が溢れる。ジェット噴射の如く放出する力。強烈な加速力を得た僕は、偽村長の鳩尾に拳を撃ち込み、肉だるまの巨体を無理やり、くの字に折り曲げる。そのまま突き上げ、宙に放り上げる。すかさず足を掴み取り、空中で回転。遠心力を加え、海面めがけて一気に放り投げた。


「ギィエャァアアアアアアッッ!!」


 ドップラー効果を伴う人ならざる者の悲鳴。その主は本性むき出しに、水かきのついた手足をバタつかせる。もっとも本場の水中のようにはいかない。抵抗虚しく強烈な横回転を加えられたその身は水切りよろしく、一回、二回、三回、四回と水面を飛び跳ね岩礁に頭から激突した。岩肌にクモの巣状の亀裂が走る。頭からめり込んだ偽物は手足を痙攣させている。


「随分と頑丈(タフ)だな。この程度じゃ、ダメってことか」


 舌打ちと同時に偽村長を見下ろす。既に回復したらしく頭を抜き出し、ぶるぶると横に振っていた。続けて海へ飛び込み天を見上げる。


―キシャァアアアッ!


 声を震わせ不気味な叫びが辺りに轟く。途端、影が落ちたように周囲は暗くなり、海は紫紺に……否、何処からか現れた魔物の集団一色に染められた。


「いいだろう……。そっちがその気なら、とことんやってやるまで!」


 決意を固め、剣を抜く。切っ先を向け偽町長だった(・・・)ものを一瞥する。


「それが本性か……。ったく、一体どんな体をして……いや、それとも魔法か? どちらにせよ随分とまあ、器用なことだな」


 僕の悪態の向かう先。その元凶は海中で自らの身体を肥大化させ、今や二十メートルを超す巨体へと膨れ上がっている。呆れ顔で見上げると、巨大半魚人は口端を吊り上げ、ギロリと僕を睨む。


「随分ト好キ勝手シテクレタナ。我ハ四魔将ガ一人……ゲフッ!」


 大層なご高説は終えること敵わず……。突如、中断となる。残念ながら僕の手によるものではない。殴ろうとしたのは確かだが先客がいた。


「魔力弾? 上か……」


 上空へと意識を向ける。すると、巨大な影が徐々に空から落ちてくることに気付く。


(この薄暗さ……。魔物達(こいつら)のせいではなかったか。だが、この感じ……)

 

 戦闘中の最中、不謹慎にも僕の頬は緩む。近づく気配の正体。察しのついた今、胸の内に密かな高揚を抱く。


「グルゥァァアアアアアアア!」

「じゅ~べ~! お前か!」


 天に轟く竜の咆哮。僕は相棒の名を叫ぶ。 と、同時に急降下してくる確かな存在感。星竜化したハクより一回りも二回りも大きいガッチリとした体躯。省エネ状態(どらごんモード)の時は茶色だったその身は黒く変質。つまりは黒竜と化している。かといって、邪悪な雰囲気は一切ない。全身を黄金の闘気で包み、聖なる輝きを放っている。魔力を可視化した粒子を張り巡らせ失った翼を再現し、健在の翼に至っても同様の輝きを纏わせ一層、神々しさを引き立てている。それにしてもハクと違って星竜化すると声がすっかりドラゴンらしくなるらしい。


「グルゥゥ……」


 僕と魔物の軍勢にじゅ~べ~は割って入る。巨体が沈み海を割る。溢れた海水が津波となって町を覆う勢いで押し寄せるも、魔力壁によって事なきを得る。


竜結界(ドラグ・フィールド)……。じゅ~べ~、ちゃんと考えてるな」


 僕は安堵の息を漏らす。剣を収めて辺りを見渡せば、こちらを伺う戸惑いの眼差しがちらほら映る。再び僕は息を吐き出す。僕の中の戦いの熱(戦意)は、すっかりと冷めてしまった。その理由は対照的に熱く明滅する両腕の紋章。ハクとじゅ~べ~(相棒ズ)の強い意志がひしひしと伝わる。


魔物達(こいつら)は、ぼくたちが叩き潰す!!


 溢れんばかりに迸る強い怒りの感情。僕の戦意など軽く凌駕し、吹き飛ばすのも頷ける。うっかっり手を出せば、僕までとばっちりを受けかねない。


「こりゃぁ。相当、怒ってるな……」


 頬を掻いて、静観を決め込む。


(さて、邪魔にならないようにしないと……)


 なんて考えていると空から何かが近づく気配に気づく。そう、丁度じゅ~べ~が降ってきた辺りのところ。天を仰いでみると、文字通りそこには天使がいた。


「にぃーーーさぁーーーーん!」


 竜魂天使ドラグ・ソウルエンジェル―眩いばかりに輝く翼を纏い、天からリナが舞い降りる。


「リナ! ここだ!」

「うん!!」


 僕はリナを努めて優しく受け止める。リナは僕の背へと腕を回し、笑みを浮かべる。長い黒髪がふわりと流れる。背にした翼をしまうと、キラキラと輝く天使の羽根が宙を舞った。 腕を始め、体全体に感じるリナの温かさやら柔らかさやらも合わさって、すっかり僕は見とれてしまった。絶対、今の僕は顔を赤く染めていることだろう。その証拠に、リナは悪戯っ子のようにクスリと微笑み僕をまっすぐと見つめている。何だか凄く、上機嫌にも見えた。


「ガーーーーーーーーーッ」

「うわっ!」 「ひゃぃっ!」


 空気を震わす竜の咆哮。まるで、『戦場でイチャイチャするんじゃねぇっ!』と怒られた気分になった僕とリナは、揃って小さな悲鳴を上げる。名残惜しい気もするが、互いに離れ、地に着地。僕達は恐る恐る振り向いた。


「グルゥァァアアアアアアアア!! ガッ!!」


 視界に映る光景に僕とリナは顔を引きつらせた。なんと巨大魚人化した偽町長の頭を片手で、むんずと鷲掴みにしているではないか。もちろん、それだけでは終わらない。


「ガッ! ガッ! ガーーーーーッ!」


 宙吊りにしただけでは飽き足らず、じゅ~べ~はデコピンを額、腹部、その他諸々に何度も打ち込む。周囲の魔物はというと、真なる竜の気にあてられ完全にすくみ上っている。それでも動こうとする者あれば、じゅ~べ~の一睨みによって途端に金縛りにあったかのように固まった。


「グルゥァァ! ガーーッ!」


 やがてしばらくすると、じゅ~べ~はデコピンを止め海面へと偽町長を叩き付けた。


「なぁ、なんであんなに怒っているんだ?」


 僕の指先が、じゅ~べ~とその頭上の白い米粒?に向かう。


「あの頭の白いのハクだろ? 理由は大体察しがつくけど僕がいなくなった後、一体何があったんだ?」

「あ~、えっと。実はね……」


 リナは苦笑を浮かべて原因となる出来事を語り始めた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお読みいただければ嬉しい限りです。

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