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第77話 だから僕は魔王に挑む~面倒事の予感

 翌朝、部屋の鍵を早々に返却し人目を忍んで宿を後にする人影二つ―僕はじゅ~べ~を小脇に抱え、リナがハクを抱いている。視線をやや落とすと、どらごん達は腕の中で静かに寝息を立てていた。


「う~ん、人目を避けて、コソコソするのって、なんか悪いことしているみたい」

「今更、何言ってるんだ。大体、下手に人に見つからないように朝早くに出発しよう、って言ったのはリナじゃないか」

「そ、そうだけど……」


 リナは自分が言い出した手前、それ以上の句を告げることはしない。視線をさ迷わせ、気まずそうな表情を浮かべている。


「もう決めたことだろ?」


 と、肩を竦めてみせると、リナはようやく観念して溜息を一つつく。


「う~っ……」


 前言撤回。リナは不満の意をたっぷりと込めた抗議の上目遣いで僕を睨んでいた。僕はあえて気付かないふりをして、リナの悩みの元を呼び出した。


「来い! マッハ・ドラグーン!!」


―スパコーン!!


 腕を伸ばし、カッコよく超マシンを呼び出すとリナから早速、ハリセンの一撃をもらった。「朝っぱらから叫ぶなんて近所迷惑でしょ!! ポーズまでしてバカじゃないの!」とのことだ。この様式美を理解出来ぬとは我が義妹ながらひどく可哀想だ。憐れみを込めた眼差しを向けると、鬼の形相で睨まれた。凄く怖い。なんてことをしているうちに、鳥居の形をした転移門から『バルン、バルン!』とエンジン音を奏でて現れる愛機―マッハ・ドラグーン。


「調子良さそうだな!」


 僕が軽く撫でると、『バルン、バルン!』とエンジン音を響かせ絶好調をアピール。正直、一度リナにネジの一本になるまで分解された時は相当焦ったけど、こうして元の雄姿を再び見ることが出来て心底安堵した。


「キュ~」 「が~」

「あ~あ、兄さんが騒ぐからハクちゃん達、起きちゃったじゃない」

「うぐ、すまん。起こしちゃったか」


 どらごん達は目元を擦り、辺りをキョロキョロ始める。やがて、目の前の超マシンを視界に入れると、僕とリナそれぞれの腕から飛び出した。


「キュ! キュキュ!?」 「ガ、ガガッ!?」


 ハクとじゅ~べ~、揃って瞳を輝かせる。視線の先は当然、超マシン―マッハ・ドラグーンだ。


「これが僕の超マシン。マッハ・ドラグーンだ。どうだ、カッコイイだろ~」

「キュィッ!」 「ガガッ!」


 どらごん達は瞳を輝かせ、超マシンに喜々とした眼差しを向ける。周囲をぐるぐると回り、嬉しさの余り数回飛び跳ねる。


「え~……」


 リナは信じられない、と言いたげに微妙な表情を浮かべる。頬の辺りが若干、引きつっているのも気のせいではない。


「ハクとじゅ~べ~には、このカッコ良さが分かるみたいだな」

「う~っ。嘘、なんで……」


 この時の僕は、間違いなくドヤ顔だったことだろう。リナは現実が受け入れられず、悔しそうにしている。僕やマッハ・ドラグーンのことを厨二の塊、なんて小馬鹿に考えていたようなので、たまにはいい薬だ。


「さて、と……。やっぱり、乗ってみたいよな?」

「キュィッ!」 「が~!」


 視線を向けると、どらごん達は元気よく返事をした。この様子から考えて、僕の()に待機させることはできない。そんなことをすれば間違いなく機嫌を損ねてしまう。猫缶(まぐろ)の十や二十では済まされないだろう。とはいえ、マッハ・ドラグーンは僕を含めて最大二人乗り。どうしたものかと一計を案じていると、超マシンがライトをチカチカさせる。


「どうにか、できるのか?」


 マッハ・ドラグーンはエンジン音を鳴らして肯定の意を僕に伝える。その横でリナはどこか落ち着きない様子でそわそわしている。視線を泳がせ明らかに挙動不審。


「さてはリナ、何か知ってるな?」

「え、えっと……はい」


 半眼を向けると、リナは観念して口を開く。


「えっと、ね。この前、分解(バラ)した……じゃなかった。整備した時にね」


 何やら物騒な言葉が聞こえたが、話の腰を折るのでツッコミはしない。


「使えなくなっていた機能があったから修理()しておいたの」

「直した?」

「うん。ほら、見て」

「……、あれは!?」


 リナの促す先―マッハ・ドラグーンの丁度、左側面付近で空間に歪みが生じている。目を凝らしていると瞬く間に歪みは収束しサイドカーが出現していた。


「おぉっ! まさか!? 僕の知らない機能が内蔵されていたとでも……」


―スパコーン!


 両腕を水平に広げ、オーバーアクション気味に驚いてみせると条件反射の如くリナに(はた)かれた。


「うぐ、いきなり叩くとは酷いじゃないか」

「はい、はい。ふざけるのはそれくらいにしてね」


 後頭部の痛みをさすり、僕は非難の目を向ける。すると、リナは片目を閉じていつものハリセンを軽く横にふった。


「でもまあ、兄さんが知らないところを見る限り間違いでもないのかな」


 リナの言うところ、つまり本当に僕の知らない能力がマッハ・ドラグーンに備えられていた、ということだ。


「流石に僕も驚いた。でもこれで問題は解決かな?」


 僕は肩を竦めて軽く息を吐く。頭上に「?」を浮かべたリナは僕の視線の後を追う。そこには歓喜に震えるどらごん達がいた。


「キュー、キュー!」 「ガ、ガガー!」


 サイドカーを取り囲んで、つぶらな瞳を輝かせている。僕の眼差しに気付くと上目遣いに瞳を揺らして訴えてきた。その意味するところは『乗っていい?』だ。


「わかった、わかった、って」

「キュッ!」 「ガッ!」


 僕の了承を得て、どらごん達は意気揚々とサイドカーに乗り込む。スペースは広く二竜同時に座っても手狭感はない。


「さてと、あとは僕らが乗るだけだが……」

「な、なに……?」


 リナに向けて半眼を浮かべる。すると、リナは若干頬を引きつらせてたじろいだ。僕は頭を掻いて、溜め息を吐くとリナの肩にそっと手を置き一言添える。


「リナ、【指輪待機】」

『ちょっ、ちょっとぉぉおおおお!』



 【指輪待機】を発動したことで、リナの身体は指輪の中に吸い込まれる。今日もまた、見事なまでのドップラー効果(叫びっぷり)だった。心中、しみじみしていると抗議を上げるように指輪は明滅し僕の首にチェーンを伴ってかけられた。


『兄さんのバカ、兄さんのバカ、兄さんのバカ……』


 怨念じみた声が聞こえるが気にしない。後が怖いが、それも今は置いておく。


「それじゃ、行こうか」


 僕はサイドカーに座る二竜に話しかける。


「キュィッ!」

「ガ~!」


 相棒ズは片手を上げて、元気に返事。僕は一瞬、はっと息を飲み若干、頬を引きつらせた。


「そのヘルメットにゴーグル……、それとマフラーはどうした?」

「キュッ、キュー!」 「ガ~、ガガ~!」


 そうなのだ。僕がリナとあれこれしていたいつの間にかに、ハクとじゅ~べ~はどこかからか取り出したヘルメットにゴーグルを身に着けていた。束の間に吹きすさぶ、そよ風がマフラーをたなびかせる。心なしか二竜の口角がやや吊り上がっているようにも見える。よくぞ、気付いた、と言わんばかりだ。


「『どらごんのたしなみ(・・・・)』、って……。まあ、その何だ。似合っていてカッコイイと僕は思うぞ」

「キュー!」 「ガ~!」


 停止していた思考を何とか再稼働して僕は素直な感想を述べる。どらごん達は上機嫌に返事をする。僕は頬を掻いた後、収納空間からメットを取り出し、はしゃぐどらごん達の視界に入れる。


「これで、僕もお揃いだ」

「キュィッ!」 「ガー!」


 笑って見せると、どらごん達はより一層、元気になって喜んでいた。一方のリナはというと……。


『兄さんのアホ、兄さんのアホ、兄さんのアホ……』


 未だ僕の悪口を呪詛の如く呟いていた。僕は肩を竦めた後、マッハ・ドラグーンに跨ると、リナに「ごめん」と一言呟く。その後、リナの機嫌が直るのは、超マシンを走らせたしばらく後のことだった。



 人気の無い道のりを、しばらく進んだ頃のこと。サイドカーで、はしゃぐハクとじゅ~べ~を横にキョウマはメットの奥で顔を顰めた。


(この霧、やはり……)


 考えすぎならば、それに越したことはない。当初は(・・・)自らに、そう言い聞かせることで打ち消していた考えが確信へと移り変わっていく。


(あの時点で、おかしいとは思ったんだよなぁ……)


 キョウマの脳裏に浮かぶ光景。前日から依然として晴れぬままの霧―宿場町から、目的の場所へ向かう道筋を覆いつくすようにたちこめていた。それだけなら、気に留めなかったに違いない。疑念を抱いたのは、その後の出来事。エスリアースを出発した時と同様、道中における依頼(クエスト)を探したところ収穫はゼロ。そういう日もある、とキョウマとリナは互いを見合わせ、目的地の情報を集めたところで異変に気付く。皆一様に「知らない」、というより、その話題に触れる都度、会話が成立しないのであった。まるで、目的の場所がこの世界から切り離され、誰の記憶からも抜け落ちたかのように……。


(恐らく、結界のようなもの、といったところか。人の気配も全くない。人払いの効果もあるんだろうな)


 適度な落としどころで自身を納得させ、キョウマは隣のどらごん達に意識を向ける。先と変わらず、どらごん達は楽しそうにはしゃいでいる。


(ハク達の様子からして、この霧自体に害はないとして……)



キョウマは半ば諦めを込めて嘆息する。


(やっぱ、あるんだろうな。面倒事……)


 やれやれとばかりにキョウマは(かぶり)を振る。すると、胸元のリングが瞬きリナの声がキョウマに届く。


『兄さん、黄昏れているところ悪いけど敵……来たよ』

「お、おう……」


 リナの声に棘を感じたキョウマは、上ずらせて返事をする。前方に目を凝らすと少々、離れた場所に魔物の影が映る。マシンのスピードを考えると接触まで、そう時間はかからない。


(別に黄昏れていたわけでもないんだが……)


 と、思うところはあるものの、リナの機嫌が直っていないところを考慮し口にしないでおくことにした。

 一方、隣のどらごん達はお楽しみ中を邪魔する魔物の出現に少しばかりご立腹。


「キュー!」 「ガ~!」

「そう、怒るなって。すぐに、片付けるからさ」


 キョウマは二竜を諭し、一瞬にして星竜闘衣を身につける。すると、それまでの不満げな様子を一変させて、どらごん達は期待の眼差しをキョウマに向ける。


「行くぞ! ドラグゥッ! フィーーーーールドゥッ!」

『うっわ、出た厨二……』


 盛り上がるキョウマに対して、盛り下がるリナ。どらごん達が瞳を輝かせる中、光り瞬く銀色の粒子が障壁(バリア)となって、マッハ・ドラグーンを包む。


「これで決める!! ドラグゥッ! ストラーーーーーーイクゥッ!!!」


 超マシンのスピードを更に加速させ、障壁(バリア)を纏っての体当たり攻撃。ゴブリン、オーガ種の魔物達は成す術もなく吹き飛ばされ、絶叫を上げる間もなく木端微塵に吹き飛んでいく。これから待ち受けるだろう面倒事(うっぷん)を晴らすかの如きオーバーキル。


「どうだ、見たか!!」

「キュー、キューッ」 「ガ~、ガーー!」

『うっわ、最悪……』


 キョウマとどらごん達が勝利を噛みしめる横で、リナだけは頬を引きつらせているのであった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただければ嬉しい限りです。

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