第74.5話 ② ハクがつきじゅ~べ~こねし無双の?
文字通りボロぞうきん同然となったゴロツキ達を冒険者組合に、突き出しキョウマ達は拠点へと戻る。到着早々、リナは恒例の入浴タイムとしゃれこみ一方のキョウマはテーブルの上に突っ伏した。
「登録しておけば無闇に襲われたりしない、って話はどこ行ったんだ……」
受付嬢に勧められるまま、どらごん達を冒険者組合に登録したが、まるで効果がない。もっとも、今日の一件で自分達に手を出すとどうなるのか―リナの“オシオキの惨状”は広く知れ渡ったはず。それならば今後は襲われる機会も減るかもしれない。気休めかもしれないが、気が楽になったキョウマは顔を上げ足元のどらごん達の頭の上に手の平を重ね優しく一撫でする。
「キュー」 「が~」
どらごん達は気持ちよさそうに目を細め、やがてキョウマに飛びついた。じゃれつくようにどらごん達はしがみつき、まんまるな瞳を震わせ上目遣いに見上げている。
「キュキュッキュ!」 「が~、がが~!」
「何! それは本当か!?」
「キュィ!」 「が!」
左右からどらごん達に引かれキョウマと二竜はその場を後にする。そして、小一時間が経過した後、入浴タイムを満喫したリナはレストルームに顔を出す。まだ、僅かばかりに湿り気の帯びた黒髪を揺らし辺りを見回す。
「誰もいない……。兄さんたち、どこに行ったんだろう?」
静寂の中、疑問に小首を傾げていると通路の奥から微かに感じる人の気配。異世界に来て経験を積んだリナの五感は既に、下手な冒険者など足元にも及ばぬ域にまで達している。気配の元を探り、キョウマ達のいる場所へと向かう。
「こっちの方は確か……、工作室?」
扉の隙間から零れる光に誘われて、リナは中の様子を伺おうと少しずつ歩み寄る。すると、中から何かの音が聞こえてくる。
―ピコッ!
何の音だろう、と耳を澄ませてみると先ほどと同じ音が何度も聞こえてくる。
―ピコッ、ピコピコ!
幼き頃、聞いたようなどこか懐かしい玩具じみた音色。
「みんな~、こんなところで何しているの?」
扉の前で考えあぐねていても仕方がない。意を決したリナは勢いよくドアを開け飛び込む景色に絶句する。
「何……これ?」
リナが驚くのも無理はない。広々と広げた新聞紙。円状に並べられる鉱石群。よく見ると“孤独の回廊”で採取した希少な素材の数々だ。一体、どうするつもりなのか、と事の成り行きを見守ると、茶色の隊長どらごんがそれらの鉱石を「が~」と魔力を込めて両手でおにぎりを作るように握り始めた。どらごんの手の中でグニグニと変形を始める鉱石だった何か。そう、最早、何かとしか形容する以外他はない。なぜなら、両端を手で掴み引き伸ばすと餅のように伸び縮みを始める始末。誰がどう見ても鉱石とは到底思えないからだ。伸ばしては丸め、また丸めては伸ばす。その作業を数回にわたって繰り返すと、今度は腕を伸ばして高く掲げた。
「が~、が!」
(投げた……)
なんと手の中で、こねた鉱石を床の新聞紙の上へと隊長どらごんが投げつけた。勢いよく叩きつけられた鉱石?は、おそらくは先に同様の手順で打ち付けられたであろう鉱石?達と重なり合う。平らに伸びる哀れ?な素材達を今度は白銀の子竜が「キュー」と見据える。その小さな手に握られるは、どこをどう見ても“ピコピコハンマー”だ。
「キュキュッ!」
「ががっ!」
子竜が「ピコッ!」と玩具の槌を振るう。叩き付けた素材を今度は隊長どらごんが、こねては平らに伸ばし、細長く形を整えていく。
この場面だけを見れば、素材を玩具にした“餅つきあそび?”だろう、と誰もが思うだろう。が、その考えを即座に打ち消す存在が、そこにはいた。
(何やってんの、兄さん……)
そう、キョウマだ。どらごん達が作業している素材に向かって、これまた玩具の釣り竿から糸を垂らしているのだった。座禅を組み、両の瞳を閉じた真剣な面持ちは瞑想をしているようにも映る。兎も角、場違いなキョウマの存在が場の空気を著しく異質なものとし且つ、謎を深める大元となっていた。
(何、この悪魔召喚的な儀式……)
口に出す言葉を見失ったままリナはただ、茫然と立ち尽くした。
◆
ハクとじゅ~べ~に誘われるがまま随分と没頭してたらしい。すぐ近くに感じるリナの気配。入浴を済ませてここにいる。その事実が、それなりの時間が過ぎ去ったことの証明となる。僕は片目だけ開けてリナへ視線を向けた。
「ゴメン、ちょっと今立て込んでいるところでな。少し待っててくれないか?」
「う、うん……」
歯切れの悪い返事だけを返すリナからは戸惑いが感じられる。と、言っても原因に心当たりのない僕はどうすることも出来ずにいると、じゅ~べ~が「が~」と休憩の合図をかけた。リナのことを気にかけての行動、という一面もあるが小休止を入れるには丁度良い頃合いでもあった。
「が~」
両手に込めた魔力を床に並べた素材へ向け、じゅ~べ~は丹念に流し込む。おかげで、一時作業を中断しても、すぐに同じ状況から再開することが可能となる。
「キュー」 「が~」
どらごん達は僕の側に近づきペタリと座った。リナを見上げて『座らないの?』と視線を送っている。
「みんな、お疲れ様」
笑みを浮かべてリナはどらごん達の頭をそっと撫でる。
「ねぇ、今度は何して遊んでいたの?」
笑いかけるリナに対してどらごん達は顔を見合わせ、小首を傾げる。想定外の反対だったのかリナは「あれ?」と目を丸くした。
「“遊び”って言ったよな。リナには僕達のしていたことが“遊び”に見えたのか?」
「えっ! 違うの?」
少々と棘を含ませた僕の問いに、リナは「まるでわからない」といった様子で質問に質問を返す。
「一体、どこをどう見たら遊んでいるように見えるんだ? どんな遊びに見えたんだ、まったく……」
「えっと……、“悪魔召喚ごっこ”……とか?」
言葉を選ぶようにしてリナは遠慮がちに答える。後ろに「最初は“餅つきごっこ”かとも思ったけど」と付け加えた。
「ふぅ……」
僕は、大いに呆れを込めた視線をリナへと向け静かに一つ息を吐き出す。
「やれやれ、おバカな妹を持つと兄は苦労す……」
―スパコーーーーーン!!
その瞬間、後頭部に衝撃を覚えると同時に視界が暗転。先程の子気味良い音はハリセンによるもの。僕はリナに叩き伏せられたのだ、と今現在冷たい床に口づけしている状況下で気付いた時、耳元で死の宣告が囁かれる。
「オ・ニ・イ・サ・マ……」
クスリ、と死神さんは笑みを浮かべる。
「あんまし調子乗ってると、ぶっ飛ばす……、よ?」
(もう、ぶっ飛ばされています!!)
「な~に? 何かイイタイコトある……、の?」
うつ伏せのまま後頭部にグリグリとハリセンの先端が押し付けられる。痛い。本当に痛い。主に心が。叶うことなら世に名を馳せし芸人たちよ、誰か一人でいい。ウチの妹にどうか教えてやってくれないだろうか。ハリセンはグリグリするものではない、と……。
「いや、何も……。それより、調子に乗ってごめんなさい」
「そう……、なら許します」
リナのハリセンから、ようやく解放された僕は座り直して、仁王立ちしているリナを伺う。笑みを浮かべているが、背に立ち上る黒いオーラが機嫌の悪さを物語っていた。
「キュー」 「が~」
これは助け舟か。それまで静かにしていたどらごん達が声を上げリナを見上げている。その瞳の色は心配や不安はどこにもなく、キラキラと輝いていた。
「どうしたの? ハクちゃん、じゅ~べ~ちゃん」
どらごんのつぶらな瞳からなる眼差しがリナの怒りを霧散させていく。リナは正真正銘の柔らかな笑みを浮かべてどらごん達の頭を撫でる。
「キュィッ! キュィッ!」
手にしたピコピコハンマーを二、三振るってハクはリナを見上げている。間違いない。あれは、尊敬の眼差し、というやつだ。
「あら、そう。ハクちゃん、頑張ったんだね!」
「キュー、キュッ!」
リナは壮絶な勘違いをしている。ハクはリナに褒めて欲しいわけではない。僕は知っている。昼間、ゴロツキ連中を打ちのめした時、リナの“はんまー捌き”にどらごん達は魅了された。即ち、今この場におけるハクとじゅ~べ~望みは、リナの“はんまー捌き”を再び目に焼き付けること―イコール、僕がリナのオシオキの餌食になることだ。それだけは避けなければならない。
「ハク、じゅ~べ~。おやつにどうだ?」
適当な猫缶を取り出し、どらごん達に見せる。
「キューッ!」 「がが!」
案の定、ハクとじゅ~べ~は飛びつき一心不乱に食べ始めた。どらごんの食事姿を満喫しつつリナが僕に尋ねてくる。
「結局のところ兄さん達は何をしていたの?」
「ああ、そのことか」
リナの目が僅かに細くなる。「勿体ぶらずに早く教えて」と不満の色が見て取れる。
「これはな……、武器を作っていたところだったんだ」
「え、えーーーーっ! 武器ぃーーーーっ!?」
「そう、武器だ」
驚き固まったままのリナを横に、収納空間から木刀を一振り取り出した。
「昼間のいざこざで木刀がダメになっただろ? それを見たじゅ~べ~が気を利かせてくれてな。武器を作ってくれる、って言うんだ」
「う、うん……」
「ただでさえここ最近すぐに壊れる、なんてことが続いて実はもう木刀の在庫が心もとなくなっていたんだ。だから僕としても、じゅ~べ~の申し出は凄く有難いというわけさ」
腕を組んでウンウン頷いていると、リナが「でも……」と続けてきた。
「武器、って言ってもこの前、立派な剣を貰ったじゃない。別に作る必要はないんじゃないの?」
「あ~、“ドラグ・ソウル・キャリバー”な」
「そうそう、それ」
木刀をしまい、竜魂の剣を取り出すとリナが指を指す。
「いや、流石にこれは目立つだろ。それに、強力すぎるからな。滅多なことでは使わないほうがいい」
「それも、そうだね」
光り輝く竜魂の剣をしまい込むと、猫缶を食べ終えたハクとじゅ~べ~が寄ってきた。内心、おかわりを欲しそうにしていたけど今は我慢して武器づくりを優先してくれた。元の位置に戻り、再開の準備を始める。
「それにしても、ピコピコハンマーで本当に武器なんて作れるのかなぁ?」
興味本位でリナが【情報解析】のスキルを使う。と、同時に驚きの悲鳴を上げた。
「うそーーっ! “解析不能”、って……、分かるのは名前だけなんて!?」
リナの【情報解析】のスキルレベルは上限に到達している。それで解析不能となると、どう逆立ちしたって解明することは不可能だろう。ピコピコと小さなハクの手の中で揺れる未知のアイテム。名前は“真竜の槌”と判明した。
「ま、まあ。世の中には解けない謎なんていくらでもあるだろ?」
「う、うん。まあ、兄さんだし……今更驚いていも仕方ないよね」
さらりと今、酷いことを言ったな。それにこの件に関しては、僕は関係ないというのにこの扱いは何なのだろう。落ち込むのは後回しにして僕達は武器の製作を再開した。
―ピコッ!
―ピココッ!
それからしばらくして、並べていた全ての鉱石を使い終えた。横でリナが「何も全部、使うことはないんじゃない」、と言っているが『妥協しないのが、竜の誇り』、とじゅ~べ~は「が~」と声を上げて答える。それにまだ……。
「リナ、何か勘違いしているようだが、これで全部ではない。まだ、肝心要の素材が残っている」
「そ、そうなんだ……」
高揚する僕とは対照的にリナは盛り下がっている。まあ、リナには男のロマンがわからないのだから仕方がない。
「よし、最後の仕上げだ。例のモノを出すぞ!」
「キュキュッ!」 「ががっ!」
僕とどらごん達は顔を見合わせ頷き合う。怪訝な表情を浮かべるリナはさて置き、とっておきの素材を収納空間から取り出した。
「うそーーっ!? やだ、なんでまだそんなもの持ってるの!!」
その正体に触れた時、いの一番にリナが悲鳴を上げる。取り出した“とっておき”の正体。それは今、僕達の目の前でプカプカと宙に浮かんでいる。
~~~~~~~~~~
・だ~く・また~
行き過ぎた「愛」の成れの果て
「愛に勝るモノなし」、それを体現するかのように見た目に反した高エネルギーを内包している。
~~~~~~~~~~
それはまだ、じゅ~べ~が仲間に加わる少し前のこと。
ある日、何気なくハクに『リナの作る料理の中で何が一番、美味しいか?』、と尋ねたところ迷いなき眼を輝かせ『ねこまんま』との答えが返ってきた。ショックを受けたリナは厨房に籠り『すんごく美味しいもの、今からつくってあげる!』、と息巻いて鼻歌交じりに調理へと没頭した。
―どか~~~~ん!
料理の完成をハクと一緒に心待ちにしていると、何かが爆発する音と同時に黒い煙が厨房から溢れてきた。
『失敗しちゃった……』
頬を煤で黒くしたリナが涙目で、こちらにやってくる。手に持つお皿の上には黒い拳大の球体がプカプカと宙を漂っていた。
『それ……、なんだ?』 『きゅー?』
『う~っ……』
唸ったままリナは何も答えない。そういえばリナのスキル【料理は愛情!】の解説欄に『極稀に大失敗することがある』なんて書いてあったことを密かに思い起こした。それはさておき。
『これはいくら何でも食べられないだろ』
『う~っ。でもでも、一応アイテムランクはオーバー“S”だもん。 見た目は兎も角、きっと美味しい……よ?』
最後に疑問符がついたな。目を泳がせるリナに『味見をしたか』、と問うと更に視線は宙をさ迷った。
『これは食べない方がいいな。ん?』
処分の方法を考え始めていると、ハクがテーブルの上の暗黒物質を見つめているのに気が付いた。
『ハク?』 『ハクちゃん?』
『キュッ、キュキュ!』
ハクはリナの作った謎物質を食べる気でいた。『リナがぼくのために作ってくれたから!』、と強い覚悟と決意を以て暗黒物質へとトコトコ歩いていく。
『キュ!』
小さな舌をチョロリと出して一舐め。ハクは微動だにしない。その勇敢な背を僕とリナは静かに見つめる。どれだけそうしていたかは分からない。やがて事態は動き出す。
―ぽて……
何の前触れもなくハクはぬいぐるみのように倒れてしまった。よく見ると白目を剥いて泡まで吹いている。
『うわぁぁああああ、ハクーーーーーーーッ!』
『いやぁぁああああ、ハクちゃーーーーーん!』
『解毒だ解毒! ありったけの薬草にそれから何でもいい!! 回復魔法だ!!』
『うわーーーん! ハクちゃぁぁぁん!』
『死ぬなぁぁあああ、ハク! リナのあほーーーー!』
ということがあった。ちなみに悪食で名高いじゅ~べ~ですら、“だ~く・また~”は食べることのできない存在だという。
「よし、やるぞ! じゅ~べ~、頼む!!」
「が~、がが!」
「いやぁぁ、そんなの使わないでよぉ……」
暗黒物質をじゅ~べ~に預け武器製作は大詰めを迎える。横でリナが悶えているが相手にする時間は欠片もない。
「が~」
刀身部分に“だ~く・また~”が吸い込まれていく。
「キュッ!」
最後の仕上げにハクが槌を振り下ろす。
―ピコッ!
真竜の槌が打ち下ろした箇所を中心に、波紋が広がり全てが漆黒に染まっていく。
「が~!」
「これは……?」
じゅ~べ~の掛け声に合わせて武器となる予定の黒い物体は宙を舞い、僕の目の前に止まると、白い輝きを放ち始めた。
「が~!」
「握れ、ってことか?」
「キュィッ!」
左手を伸ばし、そっと手を触れると一振りの刀が握られていた。柄はよくある刀と代わり映えしないシンプルなデザイン。そして肝心の刀身は“だ~く・また~”が強く影響を与えたのか闇色に彩られていた。
「キュッ!」
「こう……か?」
子竜に促されるまま、刀身の背を撫で魔力を込める。すると、刃のあちこちに白く輝く光点がいくつも浮かび出した。
「兄さん?」
何も言わない僕にリナが心配して尋ねてくる。
「大丈夫だ」
僕はそう答えて言葉を続ける。
「この刀はそう……宇宙だ」
漆黒の闇の中に浮かぶ光は無数の星達。込める魔力を強めると点在していた輝きは幾重にも重なり天の川を彷彿させる。いつしか、刀身は全て白く輝く光の刃と化した。軽く横に振るうと、銀閃の影から蒼の木の葉が舞い落ちる。初めて掴んだはずなのに、何年も共に過ごしてきた相棒のように、よく手に馴染む。間違いない。この刀は僕だけの……僕専用のこの世に二つとない剣だ。
「キュッ!」 「が~!」
ハクとじゅ~べ~が僕と手にした剣を見つめている。僕は腰を落とし二竜と視線を合わせる。
「ありがとう。この刀、有り難く使わせてもらうよ」
「キュィッ!」 「が~!」
目を細めて喜びを示すどらごん達。僕は二竜を抱きしめ、共に喜ぶことにした。
―あたたかい
どらごん達から僕を想う優しくてあたたかい感情が溢れてくる。満月の日は着実に近づいている。決戦の日はそう遠くない未来の事。絶対に生き抜こう。誰も死なせはしない。僕達の未来はこれからだ。僕は密かに決意を固めていた。
お読みいただきありがとうございました。
リアルの都合で更新が伸びたことが悔やまれるばかりです。
まだ、リアルの方がバタバタしているので更新ペースが上がらないかもしれませんが、完結に向けて書き上げたいと思います。
それでは、次話もお読みいただければ嬉しい限りです。よろしくお願い致します。




