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第60話 レアアイテムGET!? ~リナ、覚醒の時!

やっとプロローグに追いつきました。

 腹に顔を持つ醜悪な双頭竜——ツインヘッド・ドラゴンを倒してから既に五日が経過した。その間、僕達は迷路と化した“孤独の回廊”にて探索&レベル上げに没頭した。


 それにしてもこのダンジョン、(トラップ)がこれまた多い。定番の落とし穴に転がる棘付きの鉄球。今も(トラップ)に引っかかり転げ落ちている最中。現実逃避の意味も多少込め、異世界(オキエス)に来てから今日までの回想にふけっていたりもする。まあ、それでも今日のはまだマシな方(・・・・)。ここで一番厄介な罠は迷路化初日に遭遇した“強制退去(ふりだしにもどる)”だ。それに比べれば長い下り坂なんて可愛いものだ。うん、まったく。だからこれは負け惜しみじゃないさ、きっと。


 終着点に針の山、といった(トラップ)が無いことを祈りつつ落ち続けること十数秒、斜面の終わりと同時に空中へ投げ出されるも体を捻り見事に着地した。目を回しているのは少々内緒だったりする。


 「やっと、止まった。それにしても……」


 何もない。そのダンジョンの一室には宝や魔物どころか通路も何も無い。ただの正方形の形をした空間だった。つまりは閉じ込められた、というやつだ。

 辺りを見回すも更なる(トラップ)、別の隠し部屋に至る仕掛け等は到底見当たらない。このまま、ここで朽ち果てる気など欠片なく、来た坂道を駆け昇ろうかと転げ落ちてきた方向へと視線を向ける。


 「それにしてもただの罠なら、ここもハズレか……、でも何かこの部屋、気になるんだよな~」


 瞬間、そっと背後で魔力がざわめくのを感じた。嫌な予感を覚え、振り返ると床一面に赤く光る魔法陣が浮かび上がっている。


 「げっ、強制退去(例のやつ)か!?」

 (けど、あれは……)


 ダンジョンからまもなく排除されることを悟り、諦めの言葉をもらす。と、同時に魔法陣の中心が青白く光っていることに気付く。これは何かある。それもいい意味で。己の直感に従い本能のままに駆け出した。自分で言うのもなんだが、僕はこの手の“感”は実に良く働く方だ。


 (間に合え!)


 光の中心に木刀を突き立てた瞬間、魔力が弾け体にまとわりつく。全身をくまなく暴れ回る力の奔流。抵抗することなく僕は、じっとしたまま体を動かさず受け入れることにした。


『キュイッ!』

(!?)


 ハクが何かに反応している。が、今はそれどころではない。全身を埋め尽くす輝きは最高潮を迎え、すぐに霧散する。


(くっ!)


 ダンジョンの入り口まで戻される。僕の確信を裏付けるように視野が暗転すると同時、体中の全感覚が曖昧になっていく。これまで既に何度か実体験済み、あと瞬き数回もすれば僕は外の空気を吸うことができるだろう。それにしても上下左右、ハッキリとせず宙を漂うよなこの感触はどうも好きになることができない。まあ、でもあと少しの辛抱だ。だってほら、瞼に太陽の光の熱を感じるのだから……。



 「ふぅ~、疲れた」


 強制退去された僕はダンジョンの入り口で大の字に寝転がり天を仰いだ。そよ風に木々が揺れる。生い茂る葉の隙間から差し込む陽光、そして新鮮な空気、どれもが懐かしく感じられていた。何だか最後の方で気になることもあったが、今は一息つける安堵感が勝り、疑問は意識の奥底へと追いやられていく。


 「そうだ、もう出てきても大丈夫だ」


  思いだしたように、懐からナビゲーション・リングを取り出し、そっと告げる。指輪は答えるように淡く明滅すると、チェーンより外れ宙に浮かぶ。輝く光は次第に広がり人間サイズまで膨れ上がった。中から現れたのは一人の少女の姿。リングは彼女の左手の薬指に収まっている。

 腰までかかる艶やかな黒髪に透き通るような瞳。若干、幼さを感じさせる顔立ち、華奢なようで出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるスタイル。この世界(オキエス)に来て以来、常に一緒に行動をともにした僕にとって大切な人——リナがメイド服姿で佇んでいた。


「お疲れ様。最後は残念だったね」


 ねぎらいと励ましの言葉が柔らかな唇から零れる。


「キュィッ!」


 忘れないで、とばかりに顕現したハクが続く。サッカーボールくらいの大きさで全体的に丸っこい。小さな翼をパタパタと動かし足元まで近づくと、つぶらな瞳で僕を見上げる恰好となった。忘れるわけがないだろう、とばかりに僕はしゃがみ小さな頭に手の平を乗せ一撫でする。目を細めて「キュィー」と上げる声を聞くと、いつもながら心が安らいでいく。


 孤独の回廊に初挑戦した頃は外に出ていたハクも今では探索中、僕の()にいることが定着している。戦闘の際、邪魔をしないためなのか、それとも数回、(トラップ)に引っかかったことに負い目を感じたためからなのか……否、どちらも違う。まだ、その時(・・・)ではないからだ、と何となくそんな気がしていた。


「ありがとう、リナ。もちろん、ハクもな。それと実はなんだが、結果も悪くはないよ」


 礼を述べると満足げな笑みを浮かべて、リナに本日、最大の戦果を差し出して見せる。


「この腕輪、ちょっと見てくれないか?」

「これって! 調べてみるね」


 取りだした腕輪は中心に丸く紅い宝石を宿した黄金の腕輪。高価な素材から成り立つことは、その手に疎い僕でも理解するのは容易い。加えると、煌びやかな素材ながらも誇張することなく落ち着いたデザインで作られていることに何よりも好感が持てた。実はこの腕輪は(くだん)の魔法陣に木刀を突き刺した際、溢れた魔力が固形化したものだったりする。


 リナは恐る恐る受け取ると、目を閉じ左手薬指のリングに意識を集中させる。数秒、そのままの姿勢でじっとしていると解析結果が目の前に浮かびあがった。


~~~~~~~~~~


【???の証】

 ・該当データなし

 ・特殊戦闘職への転職可能

 ・女性専用


~~~~~~~~~~


「“女性専用”か……、それで弾かれたのか」

「どういうこと?」


 一人納得するキョウマに対して、少し不満げにリナが問いかける。その目は勿体ぶらずに話しなさい、と言っているようでもある。


「実は腕輪を手に入れた時、もう一つ丸い宝石もあったけど、手にした瞬間に右腕の中に吸い込まれた」

「えっ!? なら、この腕輪も……」


 リナが解を導き出すも時既に遅く、腕輪は白く輝くとその華奢な腕に吸い込まれ消失した。ジト目で「言うのが遅い」と訴える視線が少し痛い。


「その……、ゴメン。体に痛みも異変も無かったから完全に忘れてた。あははは……」

「『あははは……』、じゃないでしょー! いつもいつも! 兄さんはいい加減なんだから!」

「ほ、ほんとゴメン! 僕が悪かったって! だからその物騒な物(ハリセン)を早くしまってくれ!!」


僕の視線の先にはリナの手にした黄金に光輝くハリセンが映っていた。空高く振り上げ、僕の頭部にロックオンされているのがよくわかる。僕の後頭部が何度、ハリセン(アレ)の餌食にあったことか正直、(かぞ)えたくはない。地味に痛いんだあのハリセン。聞けば例の女神から貰った品とのこと。


(全く……。渡すなら、もっと別なのがあるだろ!)


 脳内で女神にツッコミを入れること数秒。その間、ゆったりとした足取りで僕の目の前まで近づいたリナが、上目遣いで僕を覗き込むとニッコリと笑みを浮かべる。ヤバイ、コノパターンは絶対に叩かれる。どうにかして、その結末を回避したい僕はしどろもどろになりながらも辛うじて言葉を紡ぎ始める。


「お、落ち着くんだ、リナ! もしかしたら、今ので 例の問題(・・・・)が解決したかもしれないじゃないか!」


 僕の言葉に一瞬、リナの耳がピクリと微かな反応を示す。

 例の問題——それはリナのレベルが五十でカンストしたことにある。この単独行動(ソロ)限定ダンジョン、【孤独の回廊】に籠ること数日。星竜闘衣(へんしん)なしでも魔物達を屠ることが可能なまでにレベルの上がった僕は、更なる精進のため闘衣に頼らず戦闘をこなすようになった。その途端、指輪の中で待機状態にあったリナのレベルはモリモリと上昇。五十になった時点で上限を迎えてしまった。リナ曰く「今より強くなるためには【上級職】にならないといけないみたい……」とのこと。


(そりゃそうだ、見ているだけでレベルをここまで上げたんだ。そう簡単に強くなられたら、僕の立場がまるでない……)


 僕の言葉にリナは「誤魔化そうとしてもダメなんだから!」と頬を膨らませている。ここはハクに頼んでリナを和ませるべきだ。頼みの綱の相棒子竜へ視線を向けると草原で体を丸め、スヤスヤと寝息をたてている。どうやら僕一人で、この状況を打破しなければならないようだ。


「い、一応、ステータスを見てみろって……。それにほら! 何か光りはじめているじゃないか!?」


 リナを指差し口にする僕の言葉は間違ってはいない。現にリナのメイド服は全身を覆う様に淡い光を発している。断っておくが、“透けて見える”や“体のラインを拝めた”なんて現象は起きてはいない。付け加えておこう、“残念だ”なんてことも考えてはいない、と……。


「うそ……本当に光っている!?」


 と呟くリナの瞳は驚きを隠せない。長い黒髪を揺らして、自然と自らの身体を見回している。この変化は現実だ。眼差しに期待の色を含ませて黙々と指輪を起動させ、ステータス画面を宙に映し出す。


「ナニ……、コレ……」


 それまでの巧みな指捌きが静まった。瞬間、出た台詞がこれだ。俯いたまま表情は確認できない。分かることはリナ自身、周囲の時間の流れから切り離されているかのように全てを停止させ固まっていることだけだった。


「一体、何がどうしたって言うんだ?」


 妙な不安に煽られた僕はリナの横へと回り込み、開示されたままのステータス画面に視線を落とす。


「……これは!?」


~~~~~~~~~~


【リナは“サポートメイド”から“竜魂天使ドラグ・ソウルエンジェル”に昇格しました】

【リナのレベル上限が解放されました】

【スキル、“衣装変化(ドレス・チェンジ)”を習得しました】


~~~~~~~~~~


「や、やったじゃないか、リナ! これでレ、レベルが上がるようになるな!」

「……」


 ツッコミどころには敢えて目を瞑る僕の言葉に沈黙で返すリナ。何も言わぬまま、黙々と指を動かし次々と表示を切り替えていく。


~~~~~~~~~~


竜魂天使ドラグ・ソウルエンジェル

 アイテム、“???の証”の効果により発現した特殊上級職。主人から発せられる竜の気を常日頃から浴び続けたことにより、昇格可能となった。レベルに応じ、自身の防具を“衣装変化(ドレス・チェンジ)”することが可能。

 追記 

これで主の望む姿に思いのまま変えられるようになった。心置きなく主人に奉仕することができるようになったぞ! リナの可愛さに勝てる者なし、だ!

 それと“竜魂天使ドラグ・ソウルエンジェル”の名前だが、何となくカッコ可愛いからだ。いい名前だろ~♪


~~~~~~~~~~


「クスクス……」

「あ、あのリナ……、さん?」

「クスクスクスクスクス……」

「ひぃっ!」


 背中を小刻みに震わせて不気味に笑うリナ。ギギギ、の効果音が似合いそうな動きで首を回し僕へと微笑みかける。


「リ、リナ?」

「うん?」


 小首を傾げ、可愛らしく笑みを浮かべる美少女メイドさん。


(あれ? 怒って……ない?)


 取り越し苦労だったのか。リナから殺気は感じられない。僅かばかりの逡巡を経て、ほっと胸をなで下ろす。言葉を無くした僕をリナは上目遣いで覗き込んできた。さらりと肩を流れる長い黒髪に揺れる瞳。僕の頬は熱を帯び始める理由はそれだけで十分だ。


「えっと、リ……。ゴフッ!」


 間違いだった。数秒前の僕の導き出した僕の解はまるで見当違いだった。そう、今の僕に起こっているこの状況全てがその答え。今の僕は体を九の字に曲げ前のめりになっている。胃に突き刺さる重い衝撃。逆流しかける胃液を堪え、途方もない苦痛が全身を駆け巡る。この痛みの正体は単純明快。リナだ、リナの拳が僕の鳩尾にめり込んでいるからだ。


「どうしたの?」


 声のする方向を見上げると、柔らかな笑みを浮かべる少女の姿が映る。冷たい汗が僕の背をダラダラと流れる。これは非常に危険だ。


「い、いやぁ……これは僕のせいじゃ……」

「イイタイコトはソレダケ?」

「っ!」


 これは未だかつてないほど、お怒りになられている。いつの間にかハリセンをしまい右手には僕が渡した木刀が強く握りしめられていた。


「オ・ニ・イ・サ・マ♪」

「……ハ……イ」

「オ・シ・オ・キ・イイヨ、ね?」

(ゴメンよ、ハク。僕はもう猫缶を出してあげることが出来ないかもしれない)


 視界の片隅に映る相棒子竜を見つめ、我が身にこれから起こるだろう運命を僕は受け入れることにした。

お読みいただきありがとうございます。


キョウマとリナのステータスは次回、公開の予定です。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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