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第51話 再会の子竜 前編~動物をいじめてはいけません!

閑話的な回です。あまり日にちを空けずに次話を投稿する予定です。

 度重なる戦闘も、ようやく終わり。全身にのしかかる倦怠感を振り切り転移門(ゲート)を開く。行き先は我が拠点()、着いた矢先に僕はソファーに腰かけテーブルに突っ伏した。途端、冷たい視線を感じたので元を辿るとリナが目くじらを立てている。


(ああ、そうか)


 今の僕は連戦に次ぐ連戦で服も身体もドロドロに汚れている。そのような状態で腰かけるのが、お気に召さないのだろう。怠い体に鞭を打ち【クリーン】のスキルを発動させる。この際だ、横にもたれかかるハクと仁王立ちするリナもまとめて綺麗にするとしよう。柔らかな光が僕達を包む。スッキリとしたためかハクが「キュイッ!」と鳴き、リナは艶やかな声を漏らした。熱くなる頬を悟られぬよう僕はテーブルに突っ伏したまま、顔を隠す。これで、どうにか一段落だ。


……

…………


「今日の戦闘で兄さんのスキルが強化されたみたい」


 一時間後、シャワータイムを終え、身なりを整えたリナが口を開く。服装はいつか見た学園の制服姿。上気した湯気に混じってシャンプーの香りが僕の鼻孔を刺激する。幸か不幸かリナは指輪の画面ナビゲーション・リングに集中していため、僕の顔がトマトのように赤く染まっていることに気づいていない……はず。


~~~~~~~~~~

 ・白銀の星竜

 最大MPの半分を消費して「レベル+60」の効果を得る。HPが四分の一以下の時、MP消費なし。

発動時に専用装備——星竜闘衣(せいりゅうとうい)を纏い竜技が使用可能となる。

~~~~~~~~~~


星竜闘衣(へんしん)時におけるレベル加算値が「50」から「60」に強化】


 なるほど。最後、かなり消耗していながらも四魔将を圧倒できたのは、このおかげだろう。ハクが目覚めてから負ける気が少しもしなかったことも頷ける。

 ちなみに星竜闘衣(せいりゅうとうい)を常時展開していた僕は当然として魔物の大群を倒したのが、ほとんどハクのおかげだったせいか、リナもレベルアップは一切していない。もしも上がっていたならば、僕の立場はなかったことだろう。内心、ほっ、としたのはここだけの話だ。


「けど、どうして急に強化されたんだろう?」

「う~ん、原因は、っと……これだね」


 人差し指を画面に押し当て、リナは次々と表示を変えていく。お目当てを見つけたらしい。


【契約竜の目覚めにより、称号スキルが強化】


「お前、ホント凄いんだな!」

「キュ、キューッ!」


 僕の頭上に座する相棒の頭に手を置き、撫でると得意気に声が上がる。微笑ましくなって頬を緩めていると、リナが羨まし気な瞳で僕を見つめている。「いいな~」と漏らす視線の対象が自分であることに気付いたハクは羽を広げて着地し、身を隠すように僕を盾にした。


「う~っ……」

「“自業自得”、だな」

「う~っ!!」



 ハクがリナを怖がるようになったのには理由がある。それは戦闘後の一騒動が原因だ。本来なら感動の再会となるはずが……。


「どうして魔物なんか食べちゃうの!! ダメ、って言ったでしょ!!!」


 リナが言っているのは、あの哀れな“やきとり君達(ガルーダ部隊)”のことだ。そういえば、結構な数をたいらげていたな。二十や三十……いや、それ以上だったような気もする。


お腹(ポンポ)、壊したらどうするの!? “めっ!!”なんだから!!!」

 正座?に近い恰好でハクを座らせ腕を組み、仁王立ちするリナ。僕でも逃げ出したい程の迫力に相棒が今、晒されている。恐怖の余り、小さな体を震わせ羽や尻尾はぺたりとして元気がない。「きゅう」と小さく漏らし、上目遣いに瞳を揺らすもお母さんモード(・・・・・・・)のリナには通用しなかった。


「大体、どうしてあんなにお行儀が悪いの!! ホント、“めっ!!”なんだからね!!!」

「きゅう……」


 うむ。“めっ!!”って、二回言ったな。いつもながら、お説教モードのリナは手がつけられない。リナの一挙一動にハクは完全に怯えていた。流石にこれ以上、見ているだけではいられない。僕も怖いけど、相棒のためだ。人肌脱ぐとしよう。頑張れ、僕!


「あのさ、リナ……」

「何……」


 だから、それが怖いんだって!

 

 リナの睨みに一瞬、身を引きそうになるが、視界の片隅に僕を見つめるハクの瞳が映った。勇気を出すんだ僕、相棒のためじゃないか。


「聞いてくれ、リナ!」

「う、うん……」

「ハクの今日の戦闘力(巨大化)は僕の魔力によるものじゃないんだ」

「え、えっと……」

「考えてみてくれ。僕の魔力だけで、あれだけの攻撃をすることなんて不可能だろう?」

「そ、そうだね……」

「あれはあくまでキッカケ……、そう考えてもらった方が良い」

「それって……、つまり?」

「僕から受け取った魔力を起爆剤にして巨大化した。その後の力はハク自身の秘めた力だ。 無理に眠っている力を呼び起こしたんだ、消耗も激しい」

「……」


 黙り込んでいる、ということはリナも気付いたのかもしれない。ならば、答え合わせの時間だ。


「と、なると力の補充は不可欠。当然、お腹も空くわけだ」

「で、でも……」

「それに!」

「っ!」

「もし、あの時に魔物達を取り入れていなかったら、巨大化を維持できていなかったかもしれない。そうなれば、負けていたのは僕達のほうだ。だから、あまり責めないでやってくれ。それにまだ、小さな子供なんだしな」

(まあ、僕もあの時、気分の問題で魔物を食べようとしたのを止めたから人のことは言えないんだけどね)


 途中で事情を察したのか、今度はリナが小さく震えていた。なので、僕はリナの肩に手を置き片目を閉じて最後は笑いかけることにした。


「わ、わかった……。強く言い過ぎてゴメンね、ハクちゃん」

「きゅう~」



 と、これが騒動の顛末。最終的にリナが謝ったけど、ハクの中では恐怖が染みついたらしい。以降、ハクはリナと一定以上の距離を取るようになった。そんな訳でリナはまだハクとスキンシップは出来ていない。時折、僕とハクのやり取りを羨ましそうに見つめる場面が続いている。こっちも助け船を出すとしよう。


「なあ、リナ。腹も空いたし、そろそろ食事にしないか?」

「えっ!? あ、うん」


 突然の話の振りに、リナはきょとん、と立ち尽くしている。僕はハクに聞こえないようにリナにそっと耳打ちを始める。


(ほら、“美味しいご飯を作る”って、約束したろ? それでハクを喜ばせて無事、仲直りだ)

(兄さん……。ありがとう!)


 礼を言うには早いが、リナは無事に復活したようだ。両手の拳を軽く握り「よし!」と台所に駆けていく。元気になったリナをハクは「キュウ?」と小首を傾げて見送っていた。


「そういえば、ハク……」

「キュイ?」


 僕はハクの両脇に手を添え膝元に座らせる。ハクのつぶらな瞳を覗き込むと僕の真剣な眼差しが映っていた。


「お前、僕の()に戻らなくていいのか?」

「キュー、キュッ、キュッ、キュィッ!」


 小さな手足と羽をパタつかせ、ハクは何かをアピールしている。


「えっ、何々……『おそとにいたい。もっと、一緒にいたい!』」

「キュイッ」

「そうか……、そうだよな。これまでずっと、僕の()にいたんだ。昔みたいに一緒に色々なことをしような! もちろんリナも一緒だ」

「キュッ!」 「うん……、うん!」


 遠巻きに僕達の会話に耳を傾けていたリナ。そのことに気付いていた僕はリナにも聞こえる声音で言葉にする。頷くリナの目尻には涙が浮かんでいた。僕は笑いかけ、ハクの頭に手を置き一撫でする。相棒は嬉しそうに羽をパタパタとさせていた。



~おまけ・NG~


 時は少し遡る。場面はリナがハクに恐怖心を植え付けた再会場面。


「ハクちゃん!」

「キュウッ!」


 両手を広げて出迎え状態のリナ。ハクはトコトコと歩より、小さな羽を広げてリナ目掛けて飛び込んだ。


「お前もリナと会いたかったよな。うん、うん」


 数年ぶりの感動の再会。小動物なハクを優しくぎゅっ、と抱きしめる(ハグする)。そんな目頭が熱くなる展開を僕は脳裏に描いていた。が、こともあろうにこの残念美少女メイドは……。


「あ、あいあんくろー……」


 そう、“アイアンクロウ”をしていたのだ。リナの輝く黄金の右手は、小さな子竜の顔面を鷲掴みにして離す気配が微塵もない。小さな手足と尻尾をブンブンと振るハクの抵抗も空しく空振りに終わる。余りの事態に僕の頬は引きつり発音もおかしくなってしまった。リナの笑っているけど笑っていない笑顔が更に怖い。「キュッ、キュキューッ!」と必死にもがく相棒が酷く可哀想だ。


「お、おい……、リナ」

お兄様(・・・)は少し黙っていてね♪」

「ひぃっ!」


 すまない、ハク。僕には黒リナ様を止められそうにない。そもそも、どうしてこんなに怒っていらっしゃるんだ。まるで、見当がつかない。


「ねぇ~、ハクちゃん。ダメ、って言ったのに、どうして魔物を食べちゃうのかな~? それもあんなにお行儀悪く……」

「キュッ、キュウーッ」(訳:キョウマ、たすけて~)

(ゴメン、ハク。無理!)

「キュゥ~」(訳:そんな~)


 リナのお説教は止まらない。様子を見るからに本題は別にあるようだ。ハクをガッシリと掴んだまま、器用に指輪ナビゲーション・リングを起動させる。


「兄さんに発現したこの力って、ハクちゃんが原因だよね~」


 何のことかと覗き込むと、そこには……。


~~~~~~~~~~

≪称号≫

・むっつり・ドラグ・チャージャー

発動時、パーティーメンバーの中で最も好感度を高く持つ女性(・・)に対する敵視(ヘイト)及び攻撃を引き受ける。時々、対象の女性に対して見とれる。

常日頃から、蓄積された(貯まりにたまった)煩悩が頂点に達した時、力に変換して解放される。超竜再生ドラグ・リジェネレート取得により発現。


~~~~~~~~~~


「これ、“むっつり”なのは、実はハクちゃんのことだよね~。だってさっき、私の……、む、()に目掛けて飛び込もうとしてたもの!」

「そ、それは違うんじゃ……」

「お兄様は……だ・ま・っ・て・て♪」

「はい……」

「どうも変だと思っていたの。だって、兄さんは“むっつり”というより、ただのスケベだもの……」

(ビミョーにヒドイぞ、リナ!)


 ハクの顔面を掴むリナの力が増す。ギリギリと締め付け、その痛みにハクは「キュッ、キュッ、キュウッ!」羽を必死にバタつかせる。


「兄さんがおかしくなったのもハクちゃんのせいでしょ?」

(僕がおかしくなった? 何のことだろう。それに、大切な何かを忘れているような気が、またもやしてきたぞ)

「ハクちゃん! エッチなのも“めっ”なんだから!!」


 リナの頭にとうとうツノが生えてしまった。鬼リナ様の機嫌を早く直さなくては相棒の身が本当に危うい。ハク、僕に(鬼リナに立ち向かう)勇気を!


「それは誤解だ! リナ!」

「兄さんは……」

「い~や、聞け! ハクは関係ない! え、エッチなのはこの僕(・・・)だ!!!」


 ——この僕だ!——


 その一言がリナの心中にエコーする。僕の反撃を予期していなかったリナは茫然と立ち尽くしている。


「証拠を見せてやるよ」


 固まっているリナの隙をつき、僕はステータス画面をタップして、次々と表示を切り替える。物的証拠(目的のもの)はすぐに見つかった。


~~~~~~~~~~

≪称号≫

・むっつり・ドラグ・チャージャー


【最愛の人を失った後、“あらゆる人”との関係を絶ち、復讐のみに身を投じていたが故の称号。“あらゆる人”には当然、異性も含まれる。長い禁欲生活の果てに本人の中で知らず知らずの内に蓄積された欲求不満(エネルギー)。失われたはずの愛しい人との再会に今、その力が唸りを上げる(笑)!】

~~~~~~~~~~


「ねぇ、ナニこれ……?」

「うぐっ……」


 自分で晒しておいて何だが、あまりにもツッコミどころが満載だ。“最愛の人”や“愛しい人”、と僕にとってのリナを形容する恥ずかしい言葉も並んでいるが衝撃のあまり、リナは気付いていない様子。ほっ、としたようなそうでないような。寧ろ自爆すぎて穴があったら入りたい気分だ。顔から火を吹くような感情を振り払うべく僕はわざとらしく咳ばらいをする。


「い、今、気にするところはそこじゃない。それよりもこれで分かっただろう? ハクが無実だ、ってことにな!」

「えっ、あ……、そう言えば……」

「大体、ハクは竜だぞ。人間の女の子に欲情したりはしないって。加えて言うと、オス、メスの概念もない。契約しているから分かる。ハクの行動は全て甘える子供、そのものだ」


 ここが勝負だ。流れはこちらにある。ダメ押しするように僕は、ハクが魔物を食べていなければ敗北していた可能性を説明した。


「そ、それじゃあ、わたしは……」

「完全な誤解、勘違い、果ては理不尽な言いがかり、だな!」

「え、あ……」


 固まるリナの手からハクを解放し僕の肩に乗せる。ハクは僕の背中に移動して体を隠し、顔半分だけを出している。視線の先は鬼リナ様だ。


「動物虐待……」

「うぐっ……」

「いじめっ子……」

「あうっ……」

「理不尽女王様(クイーン)……」

「や~……」


 見た目小動物なハクにいきなりの“あいあんくろー”。他に表す言葉を僕は知らない。


「自意識過剰……」

「う~っ……」


 ハクがリナの胸元目当てに飛び込んだ、と勘違いしたのだ。当然の評価だ。


「暴力系残念メイド……いや、今は制服姿だから番長か……」

「う~っ。……が……です」

「ん?」


 小さくてよく聞こえない。はっきり言ってごらん、と僕が目で語るとリナは目に涙をためて上目遣いで僕を睨んだ。少し弄り過ぎたかもしれない。


「兄さんが……、兄さんがエッチなのがいけないんです!」

「そして、人のせいにする、と……」

「う~っ、兄さんの……兄さんの、ばかぁ……」


 最後は泣きだしてしまった。しまったついやり過ぎてしまった。いつもバカスカ叩かれ、避難を浴びてた雪辱とばかりに言い過ぎた。反省だ。


「ご、ごめん、リナ。だけど、リナだって悪かったんだ。こういう時、どうしたら良いかは分かるよな?」


 リナの頭を撫でて僕は必死に謝ることにした。泣きじゃくるリナが顔を上げたところを見計らって、僕の背に隠れるハクを抱え、リナの前に見せる。


「ご、ごめんね、ハクちゃん……」

「キュウー……」

「に、兄さん……。な、何て言ったの?」

「あ~、えっとだな……」


 僕は言いにくそうに頭をガシガシと掻いた。その仕草だけで察したリナの瞳は不安で暗く沈んでいく。


「『やだ』って……」

「う、うわ~ん!」


 その後、リナの大洪水は数時間止まることはなかった。この一件でハクのリナに対する好感度は最高から最低の底を抜け、更に地に落ちたと言う……。


~おしまい~


お読みいただきありがとうございます。


おまけのNGは多少、やり過ぎた感がありますが、折角考えてみたので乗せてみました。

お楽しみいただけていれば幸いです。


次話もまたよろしくお願いいたします。

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