表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/93

第48話 炸裂!! ている・ぼんば~

キョウマによって巨大なドラゴンと化したハク。三対三千の戦いが始まります。

 巨大化したハクの頭上から、三千もの大群を僕は見下ろす格好となった。圧倒的なまでの力を前にして、ほとんどの魔物達が戦意を喪失している。


(ふぅ~、ぶっつけ本番だったけど上手くいってよかった)


 茫然自失の敵を前にして僕はリナに聞かれてはいけない安堵の溜息をついた。耳に入っていたならば『兄さんはいつも無計画すぎ!』と怒られていただろう。とはいえ、上手く事が運ぶ確信が強く僕にはあった。そう、これは博打でもなければ奇跡でもない。僕とハクの力だ。

 握りしめた二本の角からハクの意志が伝わってくる。一緒に戦ってくれようとする想いに僕は握り返すことで応えてみせた。


(そうだよな、ハク。僕とお前は一心同体だ)

「キュッ、キュゥーッ!」


 高々と天に向かって声を上げるハク。僕達のやり取りなど知らぬ者達にとっては攻撃の前触れとして映ったようだ。背を向け逃げ出す者、奇声を上げ虚勢をはる者、怯えた目で武器を構える者、魔物達はそれぞれ異なる反応を示している。隊列は既に崩壊し、流れは完全にこちらへ傾いたかに見えたところで、その声は響き渡った。


「ひっ、怯むんじゃないよ! デカイ(マト)ができたと思いな! とにかく撃って撃ちまくるんだよ!!」


 戦う前から敗色濃厚の軍勢を叱咤する一つの影。赤髪の魔族——イフリルだ。傍らのドルネドは無言のまま驚嘆の眼差しを向けている。イフリルは口端を吊り上げその手に握られた得物を僕らに向けると、声を高々に宣言した。


「よく聞くんだよ、お前達ぃっ! あいつを仕留めた者には、褒美をやるよっ! この私自ら、特別な褒美をねぇっ!」


 あれ、褒美? てっきり、死にたくなければ……、と恐怖で煽るか魔法で強制的に働きかけるか、と踏んでいたがハズレのようだ。まあ、今更そんなもので戦意が蘇るとも思えない。何を言っているのだろう、と胸中で首を(かし)げていたところでそれ(・・)は起こった。


「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

「イフリルサマァァァアアアアアアアアアアッ!!!」

「シャァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 突如、巻き起こる魔物達の歓声。吹き荒れる嵐の如き勢いで四方八方を包み込む。僕達を取り囲む魔物達全ての戦意は最高潮にまで登り詰めていた。

 つい先ほどまで、ほぼ全ての魔物達は戦意喪失していたはず。イフリルが何らかの魔法を行使した可能性を一番に疑ったが、魔力の放出は感じられない。と、いうことは口上の中にあった“褒美”とやらが余程の意味をもつ、と見て間違いないだろう。


『ちっ、あの年増(ババァ)……』


 思考の海にダイブしていると、なにやら懐から黒いオーラが溢れている。発生源は間違いなくリナだ。


(リナ~、ダダ漏れだぞ)

『こほんっ、何でもありません! 兄さん、年増(あんなの)なんかに負けちゃダメなんだからね!』

「な、なんかよくわからんが、元より負ける気は欠片もない!」


 僕には見当もつかないが、リナには魔物達が勢いづいた理由に心当たりがあるのかもしれない。原因が気になるところであるが、リナの雰囲気から察するに聞いてはいけないことだと判断した。よって今はスルー。


「ハク! 攻撃が来る」

「キューッ!」


 戦いの火蓋は切って落とされた。僕達に向けて、ある魔物は弓を、また別の魔物は杖を構えている。無数の矢と魔法が一斉に放たれる。


「バリアだ、ハク!!」

「キュッ、キュゥーーーッ!」


 僕の呼びかけに応じ、ハクは光り輝く翼を羽ばたかせた。全身を包み隠すように折りたたむと一気に広げ、翼に宿る光を周囲へと拡散させる。解き放たれた輝く粒子は激しく明滅すると強固な障壁を形成した。


「ソンナ、バカナ……」


 魔物の誰かが不意に漏らした言葉。目の前に起きた光景が余程信じられなかったのだろう。魔物達の軍勢が放った波状攻撃は全て光の壁に遮られた。矢の一本を通すどころか掠り傷一つすら与えることも敵わずあらゆる攻撃が無意味に終わる。

 諦め、攻撃の手を緩める者が出てくる中、苦虫を噛み潰したような表情をイフリルは浮かべる。ギリギリと歯を食いしばった後に瞳を閉じて息を吐き出し落ち着きを取り戻す。次に目を開けた時には妖艶な笑みを浮かべていた。


「お前達、何をサボっているんだい? ゴ・ホ・ウ・ビ……、そんなにいらないのかい?」


 最後にウインク一つを加えてイフリルは言葉を締めくくる。艶めかしく瞳を輝かせると、クスリと満足げに微笑んだ。


「だから“褒美(・・)”、ってなんなんだ!?」

『兄さんは知らなくていいの!! それよりまた攻撃、きっと来るよ!!』

「えっ!?」


 警戒を更に強めたリナの言葉に僕は思わず疑問の声を漏らした。敵の戦意を再び十分に削いだつもりでいた僕としては簡単に闘志が蘇ることはない、と考えていたためだ。もっとも、それが間違いでリナの考えの方が正しかったことをすぐに知ることになる。


「う、ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

「イフリルサマ、バンザーーーーーーーーーーイッ!!!」


 再び巻き起こる魔物達の歓声。一度、消沈していた者も眼をギラつかせ再度、僕達に向けて各々の武器を構えている。


(うそ……だろ?)


 と、そんな考えも浮かぶが、(かぶり)を振ってハクの角を握りしめる。


 ならば!!


「蹴散らすぞ、ハク! “テイル・ボンバー”だ!!」

「キュウッ!」


 僕の呼びかけにハクは応え魔物達を一瞥する。その視線が自分たちに向けられていることを悟った魔物達に緊張が走るが時すでに遅し。今更、対抗策を講じたところでどうにもならない。

 そう、思っていたのだけど……。


……

…………

………………


 いつになっても攻撃する気配がハクにはない。一体、どういうことなのだろう?

 僕の言葉がハクの耳に届いていなかったのだろうか?

 不審に感じた僕はハクへ声をかける。


「どうした、ハク! 聞こえなかったのか? “テイル・ボンバー”だ!」


 拳を前へ突き出すとともに僕は再び攻撃の合図を送る。


「キュウ……」


 ハクの声にどこか元気がない。パチクリと瞬きをした後、沈黙が続く。


「どうしたんだ!? “テイル・ボンバー”だぞ!」

『はぁ~』


 握りしめた拳を再び前へ突き出す僕にそれまで沈黙を保っていたリナの溜息が漏れた。一体、何だというのだろう?


「……キュウ?」

「うわっ!」


 それまで黙り込んでいたハクが不意に小首を(かし)げる。突如、態勢が斜めになったことでズルリと滑り落ちそうになった僕は角にしがみ付き辛うじて転落を免れた。


『あのね、兄さん』

「リナ、何かわかったのか!?」


 リナの声音は何かの確信を得ているようだった。「お腹の調子でも悪いのかな」と加えて先の言葉を促すと指輪越しにリナの殺気を感じたのは内緒の話だ。


「えっとね。はっきり言うよ? ハクちゃんには兄さんの言っている“テイル・ボンバー(厨二用語)”がわからないんだよ!」

「なにぃっ! そうなのかハク!!」

「キュー……、キュッ!」


 ハクの返事を聞く限りリナの推測は間違いないらしい。リナが『ほらね~』と続けるとハクもまた合わせるように愛くるしい声を上げた。


(そんな……そんなハズ……)


この時の僕は固い金属の鈍器で殴られたような衝撃を受けていた。何故なら僕とハクは一心同体……。それなのに僕の考えがわからないなんて信じられなかったからだ。


「……だ」

『兄さん?』

「いや、まだだ!」

『まだも何もないと思う……』


 諦めきれない僕はリナのツッコミをスルーしてハクの角に両手を添える。握りしめる指一本、一本に全神経を集中させて僕の想いを乗せていく。何を、って? もちろん、“テイル・ボンバー”がどんな技なのかに決まっている!


「ハク、僕の想いを……心を感じてくれ……」


 どのくらいそうしていたのかはわからない。当然、今のやり取りをしている間も敵の攻撃は続いている。まあ、全てバリアに弾かれているのでノーダメージだけどね。


……

…………

………………


「キュッ、キューッ、キュィッ♪」


 長く続くかと思われた静寂の時はハクの一啼きによって崩される。握りしめた角を通して分かるハクの心。それは確かに「わかったよ~♪」と告げている。


『ハクちゃんが……ハクちゃんがまた兄さんに汚された……』

(リナ、一言多いぞ。兄さん、終いには泣いちゃうよ)


 まっ、まあいい。これで僕とハクの想いは一つとなった訳だ。あとは行動に移すのみ。


「やれるな? ハク!」

「キューッ!」


 魔物達に向き直るとハクは銀色に輝く偉大な尾を高く振りかざす。その巨躯を横にずらすとすかさず尾を振り下ろし水平に薙ぎ払う。


「ギ、ギシャーーーーーッ!」

「グ、ゲガギゴ……」

「グゲェーーーーーーーッ!」


 断末魔の叫びが魔物達から上げられるが、気にはしない。横に払った尾をそのまま今度は天へと巻き上げ、そして……。


「キュウーーーーーーーーーッ!」


 勢いよく振り下ろす!


「キュッ、キュッ、キューッ♪」


 ちょっとばかり楽しくなってきたハクはその後もドッタン、バッタンと地に尾を叩き付ける。その度に地は揺れ、大地は沈み魔物達はゴム毬のように宙を舞った。

 一回、二回、三回……とリズミカルに尾を動かす度に天へと投げ出される魔物の数と有り得ない方向に曲がっていく手足の数は次第に増えていく。


「とどめだ!!」


 尾の先端に魔力が集中していく。天高く掲げた尾から放たれる光は白銀の輝きを辺りに降らせる。


「キュイッ!」


 狙いを定めたハクは勢いよく尾を振り下ろす。


「喰らえ! テェイィィイイイイルゥッ! ボンバァァアアアアアアアッ!」 「キュウーーーーーーーーーッ(ている・ぼんばーーーっ)!」


 大地に尾が触れた瞬間、収束されていた魔力が爆散。激しい爆発音を上げ、周囲一帯に群がる魔物を木っ端微塵に吹き飛ばした。


「キュウ……」


 ハクの視線の先にはイフリルとドルネドの姿があった。出会った瞬間、ハクのことを馬鹿にしていた彼らもようやく自らの過ちを悟ったことだろう。歯噛みし忌々し気に僕らを睨み返している。


「くっ、クソがーーーーっ!」


 額に筋を走らせ拳を固く握りしめるドルネド。真っ赤に血走らせた眼を見開き真っ直ぐ僕らめがけて飛翔する。


(どこまでも愚弄して……許さん! あれだけの魔力を放った直後、連射はできまい……)


 と、考えているところだろうが、それは最も愚かな解だ。


「畳みかけるぞ! トルネェェェエエエエドォッ! ファイヤァァアアアアアアアッ!!」

「キュッ、キュキュッ、キュィッ(おっけー、それしってるよ~)」


 白銀竜の(あぎと)が開かれる。体の奥から収束される魔力が口の中で瞬く間に充填され赤い閃光となって放出された。


「なっ、何ィィイイイイッ!!」


 驚きの声を上げるドルネドを余所に火炎息(ファイアブレス)が放たれる。灼熱の魔力を帯びた閃光は螺旋を描き猛スピードでドルネドを掠めて過ぎ去っていく。


「外れた……? 外した……のか?」


 頬を伝う冷や汗。震えるまま、空中で静止したドルネドは僕達を一瞥すると恐る恐る振り返る。


「なっ!!」


 驚くのも無理はない。一面の荒野がこのわずかな間で焼け焦げた焦土と化したのだから当然だろう。


「これで大体半分くらいか? そちらはまだ千五百はいるのだろう? 戦いはまだこれからだ!」


 そう、まだ戦いは始まったばかり。だが、ここから先、決着が着くまで僕達のターンは終わらない。


お読みいただきありがとうございます。


戦力差、千倍のはずなのに緊張感の欠片もないキョウマ達……。

戦いは次話へと続きます。

次回もお読みいただければ幸いです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ