第46話 神秘の超マシン~駆けろ! マッハ・ドラグーン!! おまけ会話つき
結構、好き勝手に書きました。抵抗ある方はご容赦ください。
お楽しみいただければ幸いです。
転移魔法陣の起動と同時に消えていく魔族達。一歩及ばずキョウマはその場に取り残された。
『行っちゃった……ね?』
「……」
慰めの色を込めたリナの言葉が脳裏に届く。キョウマは何も答えず視線は魔族達のいた辺りをさ迷っている。
『兄さん、もう……』
「いや、まだだ!」
この場を離れることを提案しようとしたリナの言葉をキョウマは遮った。握りしめた拳に力がこもる。当然、瞳に諦めの様子は微塵も感じられない。
「来い!!」
ややオーバーアクション気味に大きく右腕を振りかざし口元へと近づける。ちょっとばかり嫌な予感に駆られたリナの額に冷たい汗が走る。
「マッハ・ドラグーーーーーンッ!!」
『は?』
思わず指輪の中で間抜けな声を上げるリナ。そんな彼女を置き去りに仮面の下で真顔を浮かべるキョウマは虚空をただ見つめている。キョウマの視線の向かう先にリナも後を追うと、そこにはすっかりと見慣れてしまった神社の鳥居——転移門が出現していた。
『あっ、何か光った……』
転移門の奥に煌めく輝きをリナは見つける。地平の彼方に瞬く一番星の如き輝きは流星となりてキョウマの元へと瞬時に駆け付けた。
『ねぇ、何コレ?』
「ふっ……」
呆れ交じりのリナの問いにキョウマはしてやったりの笑みを浮かべる。
「見てわからないか?」
『わかりません!!』
勿体ぶったキョウマの問いにリナは怒気を込めて即答した。
「超マシンだ!」
『はい?』
「超マシンだ!」
『二回、言わなくて結構です!!』
二人の前に佇む超マシン——キョウマの纏う闘衣を折りたたんだような外装の自動二輪車が『バルン、バルン!』とエンジン音を響かせる。まるで、自己紹介でもしているようにリナの目には映った。
「変身戦士なら一つや二つ、誰もが持っているだろう?」
自慢気に語るキョウマの口調はまるで「そんなことも知らないなんてリナはおバカさんだなぁ~」と言っているようにリナには聞こえてしまう。
『そんな常識、知りません!!』
「残念だ」
『残念なのは兄さんの思考回路です!!』
リナの心境は呆れからイライラへと天秤は傾いた。その口調は怒気を含み言葉もまた刺々しい。
「リナの扱いが最近、ヒドイ気がする……」
『な~に?』
「ひぃっ!」
『兄さん、何か言ったかな~?』
「……何でもないです。ごめんなさい」
指輪越しにリナの笑っているのに決して笑ってはいない表情を読み取ったキョウマは力なく頭を垂れた。これ以上、怒らせると最低でも“ご飯抜き”は確実。キョウマとしては絶対にそれだけは避けたかった。
『はぁ~、もういいです。どうせ兄さんのことだから“ちょうましん?”だっけ、出所はあの拠点と同じでよくわからないんでしょ?』
キョウマ一人でマシンを作り上げることは不可能。そして基本、ぼっちな兄に製作を依頼できるような人脈もない(リナ、失礼だぞ! 注 キョウマ談)。で、あれば出自は同じく出所不明の拠点と同様、とリナは推測していた。
「その通りだ。よくわかったな?」
『兄さんですから』
「なんか、ひど……。いや、なんでもない」
折角、収まってきたリナの怒気をほじくり返しても利はない。キョウマは頭を振って思い直すとマッハ・ドラグーンに跨る。
『兄さん、それでどうするの?』
「奴らの跡を追う。まあ、見てろって」
キョウマはステアリングに手を添え軽く握りしめる。キョウマから流れる魔力を受け取るとマシンは白銀の光を解き放った。
「奴らの行き先は……どこだ! 竜探知!!」
(また、変な名前つけてる……)
「リナ、何か言ったか?」
『ううん、なんでもないよ』
「そうか、まあいい。それより、奴らは……。見つけた!!」
キョウマがマッハ・ドラグーンと呼ぶマシンの放つ輝きは魔族達が去った辺りを照らす。二人が軽く言葉を交わした僅かな時間で魔力の痕跡を捉えたキョウマの非常識さにリナが小さな溜息を吐き出したのは言うまでもない。
「転移門!!」
フットペダルを踏むキョウマに合わせて、マッハ・ドラグーンは駆動音を響かせる。予備動作なしに加速すると転移門奥の闇へと姿を消すのであった。会場に残された者の目には閃光が一筋の線を描いて消えたようにしか見えない。その前のやり取りについても理解が追い付かない。
「ここ、異世界だよなぁ? 何でSFがいるんだ?」
テツヒコの呟きは空しく宙をさ迷った。
……
…………
『ところで兄さ……。ううん、何でもない』
転移空間を走行中、ふとリナが何かを言いたげに口にする。言いかけたところで自ら言葉を遮る仕草がかえってキョウマの興味を誘った。
「どうしたんだ?」
『何でもないの』
リナには前々からキョウマに聞いてみたいことがあった。それは以前の世界で繰り広げられていたキョウマの戦いの日々のこと。人が手にするにはあまりにも過ぎた力を以てしても最後はボロボロになるまで傷つき倒れたと耳にした過去の出来事。真実を知る怖さに『今は魔族を追う方が先だから……』と蓋をして言葉を飲み込んだ。もっとも、ニブの極みたるキョウマは斜め上に受けとってしまう。
「そうか……、わかったぞ!」
「な、何!」
「リナ、指輪から出て来て後ろに乗ってもいいんだぞ? このマシン、カッコイイからな。最初から言ってくれれば良かったのに」
『絶ッ対、イヤ!!!』
「照れなくてもいいのに」
「照れてません!! 兄さんのバカァッ!!!」
いつもならここで引き下がるキョウマ。この日は少しだけ違った。一つ目の可能性が違うというのならば二つ目を述べることにした。
「うぐっ……、違ったのか? なら……、分解はダメだからな!」
『そっちは興味あるかも……』
「絶対にダメだからな」
『う~っ……、そうだ! 整備!整備だよ!! 兄さんのことだから碌なメンテもしていないんでしょ? わたしがしてあげる♪』
「断る!」
『え~っ、いざという時に動かなくなってもいいの?』
「それは……困る」
『決~まり♪』
「うぐっ」
『それから兄さん?』
「こ、今度は何だ?」
『このバイク、どこに隠してたのカナ?』
——ギク!——
『多分、拠点の中のあの行き止まりの先カナ?』
——ギク、ギク!——
『ねぇ、兄さん?』
「は……い」
『帰ったら、た~ぷり聞かせてもらうからね♪』
「~~~~~~っ!」
今この時のリナの微笑みが、これから待ち受けるどんな強敵よりも恐ろしくキョウマの瞳には映った。
……
…………
「転移門を抜けるぞ」
『あれが出口だね』
緊張感のない会話をしばらく続けた後、闇に包まれた転移空間の先に光が差し込む。終点が見えたところでキョウマはフットペダルを踏みマシンを一気に加速させる。勢いよく転移門を潜り抜けると目の前には荒野が広がっていた。
『兄さん、アレを見て』
リナの言葉に従いキョウマは前方へと視線を向ける。数十メートル先にイフリルを担ぎ低空飛行を続けるドルネドが視界に飛び込んだ。
「くっ、ここまで追ってきたというのか!?」
相手の存在に気付いたのはドルネドも同じこと。超マシン——マッハ・ドラグーンの唸りを上げるエンジンに気付かぬ訳がない。
「追いついたぞ。これでも喰らえ!」
『えっ!? 問答無用……』
「ドラグ・ミサイルゥッ!」
ステアリング中央の赤いボタンを躊躇い一つ無しにキョウマはポチッと押す。マッハ・ドラグーンの竜の咢を模したフロント部分の一部がパカリと開き、ウィーン、と音を上げミサイルの頭が顔を出す。
「発射ぁああっ!」
キョウマの魂の叫びと共に放たれる一発のミサイル。白銀に輝く光を纏ってドルネド目掛けて飛び交った。突如として放たれた光の弾頭にドルネドの頬は必然的に強張る。
「不意打ちとは……だが、愚かなり人間! 知っているぞ、それは内界で造られた兵器とやらだろう? 無駄だ、そんな魔力の通わぬモノがきくか!!」
不意打ちをついた割に繰り出された攻撃はドルネドの期待を大きく裏切った。落胆、呆れ、それらが怒りへと昇華し咆哮を上げる。イフリルを担ぐ手とは反対の腕に魔力を込めて障壁を展開した。
「ふっ……」
ドルネドは気付いていなかった。この状況がキョウマの読み通りであること。筋書き通りの流れに口端を吊り上げていたことに……。
「そんなぁ、バカな!!」
白銀のミサイルはドルネドの魔力障壁をものともせずに貫通する。予測を超えた事態に焦燥を覚えたドルネドの目が大きく見開かれる。
「バカも何もない。現実とともに受け入れろ! ミサイルをな!!」
「ぬぐぉぉおおおおっ!」
ミサイルの放つ輝きが増すと激しい爆発音をまき散らして爆散した。衝撃に煽られたドルネドは宙を錐もみして地へと激突する。
「ぐぬぅぅぅぅっ! そんな、こんなことがあってたまるか! この俺を傷つける兵器などあるはずが……」
「一発だけで終わると思うなよ! ミサイルのフルコース、遠慮なく受け取れ!!」
次々と放たれるミサイルの雨あられに、ドルネドは悲鳴を上げながら右に左に吹き飛ばされた。魔力障壁を展開するも効き目はほとんどない。
「ただの兵器ではない。僕の魔力が込もっているからな。科学と魔法の融合……、舐めていたのはお前の方だ!」
地に跪くドルネド達に追いついたキョウマは見下ろし、吐き捨てるように言いのけた。バルン、バルン、と主の言葉を後押しするようにマッハ・ドラグーンの駆動音が鳴り響く。
「ぐぬぅっ、いい気になるな! 来い下僕達!!」
ドルネドは懐から取り出した宝珠をいくつか投げ捨てる。地に叩きつけられ真っ二つに割れると浮き上がる転移魔法陣。中からはゴブリン、オークといった魔物達が二十体程現れた。
「オォォォオオオオオッ!」
雄たけびを上げ、一斉に襲い掛かる魔物達。その隙にドルネドは地を蹴り、宙へと離脱した。逃げる魔族を一瞥したキョウマは溜息を吐き出すと迫る魔物へと向き直る。
「邪魔だ!」
ステアリングを引き車体前方を持ち上げ、キョウマはそのまま横へと払う。前輪に頬を打ち付けられたオークの顔が大きく歪み隣の魔物達を巻き込んで叩き付けられた。
※バイクで暴力を振るってはいけません。生き物を轢いてはいけません。
「いいだろう、相手になってやる」
——テレレーン♪——
『ナニ、この曲……?』
どこから響き出したBGMにリナはすかさずツッコミを入れる。キョウマは待ってましたと言わんばかりにドヤ顔を浮かべた。
「ふっ、マッハ・ドラグーンのテーマ曲だ。カッコイイだろう?」
『ウン、ソダネ』
ツッコミを諦めたリナを横にして、ステアリングを握り直しマシンを発進させるキョウマ。逃がすまいと追う魔物達との距離は開くばかり。魔物達に諦めの色が出始めたところでキョウマは車体を百八十度回転させ、追手のいる方角へと向き直る。
「相手になってやる、と言ったはずだ。逃げる訳がない」
『……』
キョウマの意志に応えマシンもまたバルン、バルン、と唸りを上げる。この間も鳴り響くBGMにリナは何も言うことが出来なかった。
「ドラグ・レェェザァーーービィーーームゥッ!」
キョウマの腕から放たれたレーザービームが魔物達を切り裂き邪な身を焼き尽くす。
「止めだ! ドラグ・ミサーーーーイルゥッ!!」
放たれた弾頭は合計三発。遠慮なく撃たれたミサイルは悲鳴を上げることも許さず魔物達を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「雑魚は片付けた。本命を追う」
距離は離れたものの前方、はるか遠くにドルネドの姿を視認することができた。魔物達の躯を一瞥するとキョウマはフットペダルを踏み、マシンを走らせるのであった。
キョウマ作曲のマッハ・ドラグーン専用BGM——古き旧時代のテイスト溢れるその曲を鎮魂歌に散っていった魔物達。密かに同情したリナの目尻に薄っすらと浮かぶ涙が宙を舞っていたとかいないとか……。
~おまけ~
「ねぇ、兄さん?」
「ん? どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたもないよ。さっき、い~っぱいミサイルを撃っていたけど、あんなにたくさんのミサイル、どこにしまっていたの?」
「リナ!」
ガシッ、とキョウマはリナの両肩を掴む。
「なっ、何!?」
「世の中にはなぁ……」
「う、うん」
哀愁漂うキョウマの表情にリナはただ頷いた。頬がちょっと赤く熱を帯びているのは多分、気のせいと自身に言い聞かせる。
「奇跡や神秘の一言で解決することが色々あるんだよ」
「はぁあ?」
「色々あるんだ、ホント」
ホロリと涙を浮かべるキョウマに呆れたリナは半眼を浮かべる。
「もしかして、兄さんが呼んだらあの場にバイクが駆け付けたのも?」
「ああ!そうだよ。リナは賢いなぁ」
キョウマはリナの頭に手を置き優しく撫でる。
「どれも都合のいい一言で片づけてはいけない気がする……」
「気にしたら負けなんだ」
「そう、それは兎も角……」
虚空を切なく見つめるキョウマをリナはジト目で睨んだ。
「いつまで頭を撫でてる気なの?」
「う~ん、あと五分?」
——ギロッ!——
「ひぃっ! あと三分!」
「今すぐ止めなさい! 兄さんのバカーッ!!」
終わり
お読みいただきありがとうございます。
余談ですが主人公が自らを“変身ヒーロー”ではなく“変身戦士”としているのは照れが半分、もう半分は過去にヒロインを守れなかった後ろめたさだったりします。
それでは次回もお楽しみいただければ幸いです。




