第45話 二人目の四魔将
久しぶりの投稿です。
今回は繋ぎ的な回となりますが、四魔将のステータスが公開となります。戦闘がない分、少々のアソビを加えています。お楽しみいただければ幸いです。
——時はキョウマ達が場内まで到着する数分前まで遡る——
「遅い、遅すぎる」
人の気配を感じさせない荒野で漆黒の外套を羽織った者が佇んでいる。彼の名はドルネド、イフリルと同じく四魔将の一人だ。苛立ちから腕を組む指先のトントンと叩く仕草は収まる気配を見せなかった。定時連絡の時間は当の昔に過ぎている。にも関わらず連絡が来るどころか呼びかけにも応答しない。
「まさか……いや、イフリルに限って……」
ドルネドの苛立ちの原因は何も約束の時間が過ぎているだけではなかった。自分達、四魔将の脅威となり得る正体不明の敵——姿なき影がすぐ側まで近づいてくる予感が不安を駆り立てていることも大きい。虚空を見上げ息を吐き出す。幾分、落ち着きを取り戻すが胸騒ぎが収まることはなかった。
「こちらから出向くしかないか」
右手を目の前に出し、「むんっ!」と強く拳を握りしめて念を込める。再び開くと手の平の上に深緑の宝玉が出来上がっていた。
ドルネドは「こんなものか」と無造作に宝玉を足元へと投げ捨てる。地を転がる自らの魔力からなる塊を一瞥すると静かに目を閉じた。
「イフリルが持っている俺の魔力は……」
神経を研ぎ澄まし、己の魔力の気配を探る。ドルネドの有する転移の術は己の魔力を起点に異なる二カ所を繋げることを可能とする。先程、地面に捨てた宝玉とイフリルに渡したそれで転移の術を発動しようと試みているのだ。
(うむ、この位置はエスリアースか……)
ドルネドは顎に指をあて一考する。
「我らに敗北は許されない!」
その言葉とともに開かれた瞳には強い意志の光が宿っている。ドルネドは右手を足元へと掲げた。地に転がる深緑の宝玉は眩い光を放つと砕け散り魔法陣が浮かび上がる。陣の中央へと歩むとドルネドの姿は瞬時に掻き消え目的の場所へと転移するのであった。
転移空間を通り抜けるのは、ほんの一瞬。瞬き一つをする間にドルネドを囲む辺りの風景は一変した。着いた先は何かの闘技場らしき舞台の中央、観客席には人間の姿も見えるがドルネドにとってはどうでもいい。
「イフリル!」
探し人はすぐに見つかった。白目を剥き仰向けになって横たわる同胞には呼びかけに応じる気配はない。すぐさま駆け寄り腕に抱きとめる。見た目、全身ボロボロであるも胸を上下させる様子から辛うじて息はあることが分かる。
——が……
「イフリル、何があった!」
「ううっ、あ……、あわわ……」
体をゆするドルネドの声にイフリルは微かに反応を示す。意識は取り戻したようではあるが開かれた瞳の焦点は定まらない。言葉にならぬ声は小刻みに震え何かに怯えている。
(あのイフリルをここまで追いつめるとは!)
ドルネドは胸中で舌打ちをした。同時にイフリルの精神を打ち砕いた敵の存在に危機感を募らせる。
(誰だ、ここにいるのか!?)
額に青筋を浮かべドルネドは辺りを見渡す。肌に感じる気配から敵がこの場にいないことは分かっていた。それでも探さずにはいられない。ぐるりと見渡し一際、強い波動を放つ存在に視線を向ける。背格好からその人間が鋼鉄の勇者だとすぐにわかった。
(あれがイフリルの言っていたエスリアース最強の勇者か……)
ドルネドの鋭い眼差しに鋼鉄の勇者——テツヒコは気圧され一歩、後ろへ下がる。頭を振って不敵な笑みとともに睨み返してくるも、ドルネドは単なる強がりだと簡単に見破った。
(あいつではないな)
イフリルからの情報でテツヒコが脅威となり得ることは知っている。もっともそれは未来の話。今、この時において与するのは容易い。
(鋼鉄の勇者は後回しだ。今はイフリルの治療が先だ)
懐から最も回復効果の高い魔法石を取り出す。それは“闇の欠片”と呼ばれる魔族の間では切り札ともいえる回復道具。古の魔王の力を宿した破片と言い伝えられている極上の品だ。「まさか、これを使う日が来るとはな」とドルネドは自嘲気味に心中で呟いた。
(これなら壊れた精神も癒してくれるだろう)
半ば強引に肩を貸すようにイフリルを支え胸元へと“闇の欠片”を押し当てる。紫紺の輝きが淡く明滅しイフリルの体内へと少しずつ溶け込んでいく。
(これで応急処置は済んだ。後は……)
ドルネドは屈強な戦士だ。魔族——そして四魔将の地位に至るまでの己の力に絶対の自信を持っている。その戦士としての矜持と勘がまだ見ぬ敵の姿を欲すると同時に警鐘を鳴らしている。相反する二つの感情に撤退が僅かばかり遅れたのは言うまでもない。そのわずかな躊躇いが自らの運命を分かつことをこの時のドルネドは知る由もなかった。
——撤収だ——
すぐ横で苦悶の表情を浮かべるイフリルを垣間見てドルネドは退くことを決意した。今はイフリルの治療が先。落ち着ける場所でイフリルの回復を待った後に直接、聞いた方が確実と判断したためだ。
少しばかり後ろ髪を引かれる思いがあるが今は仕方ない。自らに言い聞かせ、転移魔法陣の起動を始めようとしたところで、ドルネドは空気の変化を肌に感じた。
(この風は!)
理屈より本能に従うままドルネドは構えを取る。己を射貫かんとする強烈なオーラを放つ方向を見やると既に白銀を纏いし流星が眼前にまで迫っていた。構えた片腕に魔力を注ぎ防御を固めるドルネド。間一髪、間に合った防御の術は敵の攻撃を難なく受け止めることを成功させる。肌に伝わる攻撃の余韻が全身を駆け巡った。
(白銀の戦士はまだ本気を出していない……、そして!)
ドルネドは確信した。タスンを殺めイフリルを半死半生まで追いつめたのは白銀の戦士で間違いないと……。
◆
(どうやら一筋縄ではいかないか)
心中、吐き出す素直な僕の感想だった。全力でないとはいえ先制の奇襲攻撃を簡単に受け止められてしまった。互いの視線が絡み合う。実力、そして腹の内を探らんと睨み合うだけの時間——ほんの数秒程度の間がとても長く感じられた。恐らく、相手も同じだろう。
『兄さん、解析できたよ!』
僕と奴、二人だけの時を打ち破ったのはリナだ。
そうだった。僕には情報解析のスペシャリスト——リナがついていた。
『よかった~、兄さんが正気に戻ったおかけで指輪の機能も回復したみたい……』
と、意味深なことを呟いているが事情を聞く時間がない。ひとまずは置いておこう。さて、気になる奴らのステータスは——
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イフリル
状態異常 恐怖
LV 54
HP 242/2800
MP 209/1660
STR 587
VIT 582
AGI 742
DEX 602
INT 751
MND 451
LUC 121
≪属性適正≫ (S~H、適正なしは「—」)
光 -
月 -
火 A
水 -
風 -
雷 C
土 D
闇 S
≪スキル≫
・HP自動回復 LV5
・MP自動回復 LV4
・大鎌 LV10
・魔力感知 LV8
・人化
人の姿に変化することが可能。スキル使用中、全ステータスが三分の一、スキルLVは二分の一に低下する。
・悪魔の美貌
種族を超えてあらゆる異性を虜にすることが可能。
・女神キラー 絶
女神及び若い、または美しい女性に対する攻撃魔法・スキルの威力及びクリティカル率にプラス50%の補正。
攻撃対象が自身より若く美しい場合、効果増大。
自身より美しい場合、補正値にプラス25%(合計75%の補正)
自身より若くて美しい場合、補正値にプラス50%(合計100%の補正)
※ 自身より若いだけで美しさでは劣る場合は通常通りの効果を得る。
効果発動時に対象を撃破した場合、自身の強さと若さ、そして美しさに磨きがかかる。悪魔の美貌取得により発現。
・勇者キラー LV3
勇者に対する攻撃魔法・スキルの威力及びクリティカル率に補正。
補正値はスキルLV×5%
・魔法即時発動
詠唱時間なしに取得魔法をスキルとして即時発動することが可能。
使用回数は一日、三回まで。
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ドルネド
LV 56
HP 3544/3544
MP 1004/1062
STR 851
VIT 702
AGI 839
DEX 711
INT 457
MND 301
LUC 83
≪属性適正≫ (S~H、適正なしは「—」)
光 -
月 C
火 -
水 -
風 S
雷 B
土 -
闇 B
≪スキル≫
・HP自動回復 LV6
・MP自動回復 LV3
・格闘 LV10
・威圧
自身より弱い相手を委縮させることが可能。
・戦闘狂
戦闘時にランダムで様々なプラスの効果を得る。
効果はステータス上昇、痛覚遮断等、多岐に渡る。
・魔法即時発動
詠唱時間なしに取得魔法をスキルとして即時発動することが可能。
使用回数は一日、三回まで。
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外套の新手はドルネドという名なのか。ステータスやスキルから肉弾戦志向のようだ。四魔将というだけあって能力も高い。一対一なら問題ないが、複数同時は避けたいところだ。それにしても……。
(これは……。イフリルとリナを戦わせなくて正解だったな)
イフリルの持つスキル——【女神キラー 絶】、これが何といっても脅威だ。間違いなくリナの方が美しい以上、このスキルの元に晒すわけにはいかないだろう。どうやら奴は“美少女勇者”の天敵らしい。ステータス情報と共に『これだから年増の嫉妬は……』とリナの声が聞こえたような気もしたが空耳ということにしておいた。
改めて僕はイフリルとドルネドを一瞥する。ドルネドは兎も角、イフリルだけはここでも仕留めておきたい。
僕の殺気を感じ取ったのか構えを取り直すドルネド。体の中心から放たれる闘気がピリピリと肌に伝わってくる。
「いかんな、悪いクセだ。お前と拳を交えたいところだが、今は他にやることがあるのでな」
そう呟き構えを解くと同時に渦巻く闘気の波動が収まっていく。
「では、さらばだ。しばしの間、その首、預けておく」
「待て、逃げるのか!」
奴らの足元に佇む転移魔法陣が輝き始めた。
僕は腕を伸ばし捕まえようとするも僅かに手は届かない。
目もくらむ光が辺りに放たれると、二人の魔族の姿は跡形もなく消えていた。
お読みいただきありがとうございます
ドルネドのMPが少し減っているのはスキル効果で回復したとはいえ、転移にMPを消費したからです。
次回からバトルが入ってくる予定となります。
次話もお楽しみいただければ嬉しい限りです。




