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第44話 戦い終えて~りな・すまっしゅ!

またしても期間を空けての更新となってしまいました。

 一向に起き上がる気配のないイフリルにキョウマは溜息を一つついた。抵抗する意志どころか精神(こころ)を打ち砕かれた眼前の敵——あっけない幕切れに戦いの熱はすっかり冷めきってしまっていた。


「なんか、もういいや」


 呟きと同時にキョウマは木刀を失った左手を地に向けると魔力弾を撃ち放つ。爆発音が響き、同時に宙を土煙が舞う。辺り一面に広がると、キョウマの姿は完全に覆い隠され誰も視認することが出来ない。やがて、煙が晴れる頃にはその姿はなく、哀れな魔族だけが取り残されていた。場内に残された一部の者は目の前で繰り広げられた光景が夢のように思えて自らの頬を抓る。感じる痛みは決して夢ではないことを告げた。


「一体、何がどうなっているんだ?」


 誰かが漏らしたその一言は残された者全ての意思でもあった。

 



「ちょっ、ちょっと!どこへ行く気なの!?」


 静寂の中、カツカツと足音が響く中、リナが抗議の声を上げる。キョウマの腕の中で(・・・・)身じろぎ抵抗するも、思いの外がっしりしていて身動きすることが出来ない。

 戦いの後、舞台から姿を消したキョウマはそっとリナを連れだしていたのだ。人気(ひとけ)の無い通路をあえて選び、お姫様抱っこ(・・・・・・)で会場の外へと歩を進める。


「どこ、って……、これから帰って約束の混浴(ひと時)を楽しむに決まっているじゃないか」


 にっこりと微笑み「何を言っているんだ。決まっているじゃないか!?リナは忘れん坊さんだなあ」と言いたげな瞳にリナは少しばかりイラッとする。


「ねっ、ねぇっ!あの魔族(イフリル)、放って置いていいの!?」

「ん?ああ、あれね。あんなの別にどうでもいいじゃないか。これからリナと一緒に過ごす時間の方がずっと大事さ」

(うっわ……)


 開いた口が塞がらない。歯を光らせ微笑むキョウマにリナのストレスメーターはぐんぐん上昇する。


「さあ、帰ろう!そして……」

「って、ちょっと兄さん!どさくさに紛れてどこ触っているの!!」

「ん?」


 小首をかしげ悪びれもしないキョウマ。リナの怒りは最高潮——“超必殺技ゲージがMAX”へと到達した。全身を小刻みに震わせ拳を固く握りしめる。


「……げ……に……」

「どうかしたのか、リナ?」

「いい加減に!」

「リナ?」

「しなさーーーーーーーいっ!!!」


 どうにか片腕を振りほどいたリナはそのまま拳をキョウマの顔面へとめり込ませる。

 手加減抜きのいわゆる“グーパン”がメキョッ、と頬にヒットした。「ぐはっ」と、たまらずリナを抱くキョウマの腕は緩む。お姫様抱っこから逃れたリナは懐に潜り込み腰を落とした。


そんな(キモイ)兄さん!!」


 掛け声と同時にリナは左の拳を固く握りしめ、跳躍!

黄金の左がキョウマの顎を打ち抜いた。「ごほっ」と見上げる天井の壁は一面、白い。(あれ、僕……一体)といつもの(・・・・)キョウマに戻るもリナのコンボは終わらない。


「だーーーーーーいっ!」


 キョウマの頭上を取ったリナの右手には光り輝く“ハリセン”が握られる。


「きらいっ!!!」


——スパコーーーーーンッ!——


 存分に怒りの力を乗せた一撃がキョウマの後頭部を打ち、そのまま地面へと沈める。リナはうつ伏せに固い通路の石板とキスしたキョウマを一瞥した。四肢が微かにピクピクと動いているところを見ると一命はとりとめていることが分かる。


「もう、兄さんのばかぁ……」


 口を可愛く尖らせ、リナはハリセンを二、三払う。役目を終えた必殺武器(ハリセン)は光を霧散させ虚空へと消えていく。


「ほんとにどうしようもないんだからぁ……」


 キョウマに視線を戻したリナはクスリと微笑み、そっと漏らした。


 ……

 …………

 ………………


——数分後——


「あれ?ここは……」

「あっ!兄さん、起きた……」


 瞼を開き、体を起こすとリナと目が合った。しゃがみ込んで頬杖をつき、なぜか僕をジト目で睨んでいる。


「えっと、リナ?おはよう……、で合っている?」

「うん。おはよう、兄さん」


 笑っているけど、その目は絶対に笑っていない!!


「な……何か僕、リナを怒らせるようなこと、したかな?」

「覚えてないの?」


 笑顔を崩さぬリナがなぜだか恐ろしく見えた。


「う~ん、何となくだけど……、あの魔族を圧倒したような……、気がする」


 でも、他には思い出すことができない。仕方なく僕はリナに視線を送って次の言葉を待つことにした。


「そっ、どうやらいつもの兄さんに戻ったみたい」

「えっ?」

「なんでもな~い!」

「あっ、ああ」


 リナから毒気が抜けるのを感じ取った僕はそっと胸をなで下ろした。ゆっくりと立ち上がると妙に頭が重い。そっと、手を伸ばすと銀色の長い髪がハラリと僕の視界に飛び込んだ。


「あれ?」

「どうしたの?」

「あ~、やっちゃったか~」

「兄さん?」


 上目遣いで僕を覗き込むリナに気付き、心臓が高鳴ってしまう。

 って、こんな時まで僕は……。

 先程のジト目といい、この様子だとリナに結構、迷惑をかけたのかもしれない。


「元いた世界でも何度かあったんだ。怒りなんかで感情が昂ると記憶が飛んでさ……」

「えっ!それ、大丈夫なの?」

「まあ、漠然としたイメージでは覚えてはいるけど……」

「けど?」

「気付いた時は目の前に敵だったもの(・・・・・・)が転がっている、ってのがいつものパターンかな?」


 そういえば、今回はいつもと違ってリナがいたな~、なんて考えているとリナの視線が突き刺さる。ジトー、と睨む仕草に僕は苦笑を浮かべた。


「まっ、まあ、体はどこもおかしくはないし無事だったからいいだろう。それにほら!」


 僕は大きく息を吸い込み、静かに吐き出した。長い銀髪は明滅し元の短い黒髪へと戻る。


「元通りだろ?」

「うん、そだね。兄さん(・・・)だしね。もう、なんでもありだよね」


 トゲを含ませた言葉を漏らすと溜息を一つつき、リナは僕へ人差し指をビシッ、と向ける。


「あのね!兄さん!」

「どっ、どうした急に……」

「前から言おうと思っていたけど、魔法の翼(アクセル・ウイング)の使用中、紙装甲なのは変わらないんだからね!無闇に突っ込まないこと!!」

「あっ、ああ……」

「返事は“はい”!!」

「はいっ!!」

「よろしい」(これだけ釘を刺しておけば、しばらくはピンチになって暴走なんてことはないよね)

「何か言ったか、リナ?」


——ギロッ!——


「ごめんなさい」


 まっ……まあ、これは僕も多少なりとも自覚していたことだ。アクセル・ウイングを使用するとスピードと攻撃力が大幅に向上する。思う様に体が動くのもあって、防御力はそのままなのを忘れて戦闘にのめり込むことが確かに多い。ここ最近、同じ理由でピンチに陥ることが何度かあった。リナの指摘ももっともだ。

 しばし思考にふけっていると傍でリナが僕を見つめている。先程の睨みを利かせた視線とは異なって優しい瞳を僕に見せた。「本当に心配したんだからね」と話すリナの目元は湿り気を帯びている。

 僕は素直に(こうべ)を垂れた。


「それで、これからどうするの?」


 これからについて話すリナの目が若干泳いでいるのは気のせいだろうか。聞かない方が身のためのような気がして僕は気付かなかったことにした。


「そうだな、今日はもう拠点()に帰って……」

「えっ!?」


 言いかけた僕の言葉をリナの小さな悲鳴が遮った。その様子だとリナも僕同様、この不穏な気配を感じ取ったのかもしれない。僕は考えたことを素直に言葉にした。


「リナも感じたのか?」

「えっと……、感じたと言うか何と言いましょうか……」

「???」


 どうも歯切れが悪い。話も噛みあっていないような気もする。それでも僕は踏み込むことはしなかった。なぜなら、一歩進めばどこを踏んでも地雷に当たりそうな雰囲気が今のリナにはあるからだ。


「まっ、まあ今は会場に戻ろう。どうやらまだ終わってはいないらしい」


 前髪を一房摘んで僕は後ろを振り返る。僕のスキル【ヒーロー見参!】が元来た道を戻れと促している。


「嘘……、あの状態から立ち直ったとでも言うの?」

「そこまでは分からない。でも何かが起きているのは確かだ」

「兄さん、体は大丈夫なんだよね?」

「ああ、心配いらない。どうしかわからないけど体力、気力、ともに充実している。むしろ絶好調なくらいだ。なんか気合でも注入されたのかな?」

「~~っ!へっ、へぇ~……」


 心配かけないように最後は冗談を交えて僕はおどけて見せた。なぜだかリナは一瞬だけ驚きの声を上げる。それにまたしても目が泳いでいる。


「リナ?」

「えっと、その……、連戦になるから心配だったけど、兄さんが平気なら別にいい、よ?」

(なぜに疑問形~~~~~!?)

 

 ぎこちない笑みを浮かべるリナに僕はただ「問題ない」と頷き返してみせる。僕の返事を皮切りに僕達は踵を返して駆け出した。


「そういえば……」

「まだ何かあるの?」

「何か大切なことを忘れているような気がする」

「えっ!」


 僕の言葉にリナはピクッと背を震わせる。


「何か凄くいいことだったような気が……」

「へっ、へぇ~。にっ、兄さんの気のせいじゃないかな」

「そういえば、頬とか顎がちょっと痛い。それに後頭部も……」

「はっ、激しい戦いだったものね!その時、受けたんだよ!きっと」


 挙動不審なリナの言動も手伝って、今一つ腑に落ちない。僕は首を捻って思考するもどこか記憶にモヤがかかって思い出すことができない。喉につかえた魚の骨のような煩わしささえ感じる。


「そうなのかなあ?」

「そっ、そうだよ!きっと」

「う~ん……、そうだ!」


 やや後ろを走るリナに僕は振り返る。


「何かリナと約束をしていなかったっけ?」

「ひぃっ!」

「リナ?」

「なっ、なんでもない……よ?」


 あやしい。


「リナ、何か隠していない?」

「そっ、そんなことない……よ」

「ほんとに?」

「うっ」


 ジトーと送る僕の視線にリナは小さく悲鳴を上げる。やがて上目遣いに僕を見つめ視線と視線が交錯する。「兄さんはわたしをいじめないよね?」と言いたげな小動物を彷彿させる仕草は少々、否!かなり反則だ。やれやれと僕が溜息をついたところで、リナは恐る恐る口を開いた。


「ごはん……」

「ん?」

「今日の夕ごはんのことじゃないかな?ご馳走を作ってあげる、って話」


 な~んかわざとらしい。何か重大なことを隠しているような気がする。ジー、っと見つめる僕の視線の先にリナの瞳が映る。


 う~ん、やっぱり可愛い!!


 どこか満たされた僕はリナの演技に乗ることにした。


「そうか、それは楽しみだ」

「でっ、でしょう!腕によりをかけるんだから!」

「なら、さっさと片付けないとな!」

「えっ、ええ!」


 僕が前を向くと後ろからリナの「ほっ……」と吐き出す溜息を耳にした。リナが何か隠し事をしていることはこれで明白なのだが探るような真似を僕はしない。


「また一つ、リナの可愛いところ、見せてもらったしね」


 リナに聞こえぬよう呟き緩む頬に手をあて、目的の場所へと急いだ。舞台場へと続く通路の出口はもう目の前にまで来ている。


「一体、何があるのやら」


 足を止めることなく通路を通り抜ける。眼下には先程まで戦いの場となった舞台がある。疎らに残った観客の視線は舞台中央へと注がれていた。状況の変化についていくことができていないのか、誰しもが言葉を失い生唾を飲んでいる。僕とリナも周囲に倣って視線を送る。そこには魔族(イフリル)に肩を貸す漆黒の外套を羽織った何者かが佇んでいた。足元に広がる魔法陣——あれは転移系のものに違いない。転移門(ゲート)の使い手の僕には確信が持てた。


(仲間の危機に駆け付けた、といったところか?それより気になるのは……)


 意識のない魔族(イフリル)の胸元に何者かは淡く紫紺に輝く宝玉をあてている。


(あれは回復系の道具(アイテム)!!)


 思わず舌打ちが出てしまう。


 失策だ。


 いくら意識が飛んでいたとはいえ、止めを刺さなかったのは明らかなミスだ。

 この場へと引き戻した僕のスキル【ヒーロー見参!】

 当初は残っている観客の誰かに対して発動したのだ、と思っていた。今、はっきりとして分かる。それが誤りだ、と。その考えをより確信させるかのように僕の前髪(アンテナ)はある一点を指し示す。


 それはリナだ。


 あの魔族達を野放しにしているとリナに危険が迫る、ということだ。ぼくはここにきて自分の愚かさ加減を恨めしく思った。できることなら竜魂解放状態だった(調子に乗っていた)時の僕を一発ぶん殴ってやりたい。

 思案していると心配そうに見つめるリナの眼差しに気付いた。「大丈夫だ」と笑みを作って見せ、安心させようと試みる。もっともリナは僕の笑みが取り繕ったものであることには気づいている。それでも「うん、わかっている」とリナは続けてくれた。僕を信じてのことだ。僕はその信頼に応えなくてはならない。


——星竜闘衣(せいりゅうとうい)——


 瞬時に僕は白銀の戦士へと姿を変える。同時に【指輪待機】を発動させてリナを指輪の中に隠した。首から下げられた指輪を手の平に乗せると淡く明滅を始める。『突然でビックリしたけど……。兄さん、無理はしないでね』とリナの声が伝わった。僕は一度頷くと、舞台へと駆け出し跳躍する。


(リナと過ごす平和な日々を脅かすもの……)


——僕は許さない!!——


 白銀に輝く闘気を纏って、漆黒の外套目掛けて蹴りつける。有無を言わさず攻撃する僕に気付くと、片腕を掲げ易々と受け止めて見せた。


「いい風だ。それにしても惜しいな。勇者のクセに不意打ちとはな……」

「残念だったな。生憎、僕は勇者じゃないんでね」


 互いに、まだ実力はこんなものではない、と言いたげに不敵に口端を吊り上げる。新たな戦いの火蓋が切って落とされた。


お読みいただきありがとうございます。

戦い終えてまた、新たな戦いとなります。次話以降、どうしてもやりたかったネタの一つを展開していく予定です。お楽しみいただければ本当に嬉しい限りです。次回もよろしくお願い致します。


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