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第37話 決闘開始!~鉄壁 VS ……

バトルは少し少なめです。

 事情があったとはいえ騒動を起こしたことには変わりはない。キョウマとリナは別室でスミス達、冒険者組合(ギルド)職員より説教を受けていた。テツヒコとの決闘(デュエル)はこの後で行うことになる。


 白鬚をさすり、中央に座しているのがエスリアースのギルドマスター。老いているとはいえ若かりし頃は冒険者として名を馳せたのだろう。服の下には鍛え抜かれた筋肉が伺える。その横には若い書記官と中間管理職(上司)らしき人物が一名ずつ。

二人にとって救いだったことは、キョウマが魔族(タスン)を討伐したことに理解を示す者達で執り行われたことだ。


「赤髪の女が魔族だったとして……、あの場で暴れた場合、どれだけの被害が出るのか考えなかったのかね?」

「被害なんて出るわけがない。何かされる前に斬る。それだけだ」


 堂々と答えるキョウマに尋ねたギルドマスターは目を閉じ、首を横に振る。リナとスミスは「あちゃ~」とばかりに天井を仰いだ。キョウマの場合、過信や自惚れからの発言ではない。肌で感じた力量を踏まえた上、確信をもって述べるので尚更タチが悪い。


「そんなにおかしいことか?転移門(ゲート)を開いて、人のいない場所に誘導する。邪魔が入らなければ、そうするつもりだった」



「あっ、そういうこと。それなら……」


 転移門(ゲート)を知るリナは手の平を打った。

 リナ達の余りの呆れ具合に肩を竦めて「僕だって、考えているぞ」と主張するキョウマ。リナは「日頃の行いが悪い」の意を含めた苦笑を浮かべる。事情を知らぬ者達には「彼には転移の術があるのですよ」と説明するスミス。

 ギルドマスターは驚きに目を細め静かに閉じる。再び開くとキョウマの瞳に視線を合わせ、「されど……」とばかりに言葉を紡いだ。


「一歩間違えれば大惨事に繋がったはず。現に君は妹さんを彼らの目に触れさせないつもりが、結局は知られることになった。違うかね?」

「……はい」


 これには流石のキョウマも図星を突かれて押し黙る。


「そもそも……」


 その後、話が「冒険者たるもの……」と飛躍し、小一時間かかることなった。


(兄さん、素直)


 と黙って聞き入るキョウマをリナは評した。



…………


「「やっと、終わった(ね)」」

「聞こえますよ……」

「「あっ……」」


 長いお説教からようやく解放されたキョウマとリナ。退室して早々に漏らす言葉にスミスは苦笑を浮かべた。


「それでは、闘技場までご案内しましょうか」


 スミスの後にキョウマが続き、その隣にリナが並ぶ。角を曲がって、しばらく歩いたところで、呻き声が聞こえてきた。耳をすませば、複数の苦しむ声が入り口を白のカーテンで仕切られた部屋から聞こえてくる。


「ここは、もしかして……」


 リナの呟きにスミスは小さく首を縦に振る。


「ご想像の通り、タートスから逃げ延びた冒険者、そして勇者の方々が治療を受けています。ですが……」

「なにかあるのですか?」

「治療と言いましても、彼らを癒せるだけの治療師(ヒーラー)が不足しておりまして、満足な処置ができていないのが現状です」

「兄さん、わたし……」

「……。スミスさん、リナは初級ですけど回復魔法が使えます。お力にはなれないでしょうか?」

「兄さん、いいの?」


 見知らぬ人との関わり合いを極力避ける傾向にあるキョウマ。それを理解しているリナは遠慮がちに上目遣いで見つめる。気恥ずかくなったキョウマは「僕はそこまで薄情ではないぞ」と肩を竦めて、そっぽを向いた。そんな二人のやり取りにスミスは微笑ましくなる。


「回復魔法が使えれば誰でもいい、というわけでもありません。みなさんなら問題ないかとは思いますが後程、確認しておきますね」


 運び込まれている負傷者の具合は悪いらしく、中途半端な使い手はお断りしている旨がスミスより伝えられ、その場を去ることになった。


「そういえば……」


 後ろ髪をひかれるのか度々、振り返るリナの気を紛らわす意味も含めてキョウマは口を開く。


「タートスが襲われた時、あいつ(・・・)は無事だったんだな」

「あいつ……とは?」

「あいつですよ。えっと……」

「もしかして、勇者テツヒコ様のことですか?」

「そう、それそれ!」


 もう名前を忘れているキョウマにリナとスミスは呆れ顔でジト目を向ける。「仕方ないだろ」と抗議するキョウマを援護する者はいない。


「ごほん。あの方はタートスにはいらっしゃらなかったのです。別の場所で魔物の討伐依頼を受けていたそうです」

「成程、そういうことか……」

「それが、どうかしましたか?」

「逃げ延びてきた割に、そのことに対する負い目や魔族に対する恐怖があるようには感じられなかったので……」

「そうですね。彼の言動からは襲われた冒険者や他の勇者達を侮辱するものもある程ですからね。私もここに来たばかりですが、冒険者組合(ギルド)でも有名ですよ」


 スミスはキョウマの目をじっと見据え、笑みを浮かべる。


「期待していますよ」

「へ?」

「お灸をすえて欲しい、ってことだよ。兄さん」

「まっ、程々にかな。僕としては適当に終わらせて、あの魔族をどうにかしたい。正直、決闘はどうでもいいかな」

「そう甘く見ないほうがよろしいかと……。彼は召喚された勇者の中で一番と聞きますから」

「う~ん。どう見ても“モブ”か“噛ませ犬”だよな~」

「兄さん……」


 今一つ、乗り気のないキョウマの横で「どうにかしないと」とリナは漏らした。


「さあ、こちらが闘技場です」

「これはまた……」

「大きいね……」

「それより何だ?この……」

 

 通路を抜けて辿り着いた闘技場。ちょっとしたスポーツ大会でも開けるのでないか、と思わせる程の広さ。石板をいくつも並べて組み上げた舞台には所々に傷跡が伺え、いくつもの戦いが繰り広げられてきたことを物語る。それより何よりも、キョウマをウンザリさせたものは……。


「この……、この観衆は何だぁぁぁー!」


 舞台の周囲には観客席が設けられ、空席はほとんど見当たらない。勇者テツヒコの雄姿をその目に、とエスリアースの至る所から人が押し寄せたのは言うまでもなかった。


「さぁ!みなさんお待たせしました。無謀にも我がエスリアースが誇る最強勇者に挑む無謀な冒険者のお出ましだ!」


 入場した瞬間、キョウマの頭上にライトが照らされる。マイクを片手に、ちゃっかり実況を務めているのは冒険者組合(ギルド)のスタッフ。キョウマのやる気は更に急降下していく。


「さぁ、舞台へどうぞ」

「えぇ~。帰っちゃダメ?」

「兄さんが蒔いた種でしょ?ほら、さっさと行く!」

「はぁ~」


 リナにその背を押されキョウマは舞台の中央へ上がる。エスリアースの勇者、テツヒコは既に腕を組みキョウマの到着を待っていた。反対側の場外には赤髪の女に扮した魔族——イフリルの姿がある。


「よく逃げ出さなかったな」

「まあな」

「それにしても、その装備(まま)でやるのか?」

「ああ、これしかないからな」


 テツヒコがキョウマの全身を見やり嘲笑を浮かべる。


「ふん。装備を揃えるのも実力の内だ。後の言い訳にするなよ」

「しない、って。それより、サッサと終わらせよう」


 収納空間から木刀を取り出すキョウマの姿にテツヒコの侮蔑を含めた笑みは明らかに強くなった。


「ふはははっ。そんな武器で俺と戦うつもりか?何の冗談だ!」

「木刀だと思って甘く見ていると痛い目を見るぞ」

「い~や。それもそうだが……。くくく、コイツは傑作だ。な~に、知らないならいい。すぐにわかるさ」


 実況席を一瞥し、テツヒコが試合開始を促す。

 勇者の戦いをこの目に、と押し寄せた観客、実況。キョウマにとっては完全に敵地となっていた。


「それではいよいよ決闘(デュエル)開始!お互い、ナビゲーション・リングをこちらにお願いします」


「ふん、これでいいだろ?」

「リナ、頼む」

「はい、兄さん」


 テツヒコが腕を掲げると腕輪型のナビゲーション・リングが輝き、一筋の光が実況席の宝玉へと吸い込まれた。リナもそれに倣って左手をかざす。


「何だ、お前、指輪?それに妹に預けているのか?」

「こっちの事情だ。別にいいだろう」

「ちっ!」


 役目を終えたリナは舞台の外へと再び戻る。観客の目は美少女メイドの姿に奪われるも実況の一声ですぐに視線は中央へと注がれた。


「準備は整った!いよいよ始まりだぁぁぁ!」


——ワァァァァァァァッ!——


 観客の熱狂で辺りは包まれる。キョウマの溜息もその音に掻き消えた。

「先ほどもお伝えしましたが、決闘を見せてくれるのは……。みなさんご存知!我らの希望!鋼鉄の勇者(アイアン・ブレイバー)こと“鉄壁”のぉぉぉぉぉぉっ!テツヒコ!!!」


 ——オォォォォォッ!——


「対するは……ぷっ!」


 キョウマの紹介部分で実況の声が一時、止まる。理由はすぐに明かされた。


「失礼、対するは!“むっつぅぅぅぅぅぅぅぅりぃっ!”キョウマ!!!」


 実況の宣言とともに会場内の巨大スクリーンに大きく表示される各々の名前。


 “鉄壁”のテツヒコ VS “むっつり???”キョウマ


——プッハハハハハハハハ!——


「「???」」


 目の前のテツヒコはもちろん会場内は笑いで溢れた。スミスでさえも手で口元を押さえ必死に笑いを堪えている。キョウマとリナは意味が分からずキョトンと立ち尽くした。


「どういうことだ?」

「くっはははは!お前、そんな“称号”、持っていたのか!」

「称号?」

「大変、兄さん!」


 要領を得ぬキョウマの背にリナから声がかかる。一足先に笑いもだえるスミスから理由を聞き出したのだ。


「スミスさんの話だと決闘(デュエル)の時、持っている称号を付けて紹介されるの。しかもステータス上、一番上にしている称号なんだって!」


(一番上の称号……、あっ!)


 ようやくキョウマも解へと至る。ステータス欄の一番上に位置する称号は確かに【むっつり???】だ。


~~~~~~~~~~~~

・むっつり???

発動時、パーティーメンバーの中で最も好感度を高く持つ女性(・・)に対する敵視(ヘイト)及び攻撃を引き受ける。時々、対象の女性に対して見とれる。

~~~~~~~~~~~~


 決して気のせいではない頭痛にキョウマは頭を抱えてしまう。既視感をも覚える様々な憶測によって更に追いつめられていった。


「おい、あいつ“むっつり”だってよ」

「まあ、確かにそうだよな。自分(てめぇ)の妹にメイド服、着させて連れ回しているくらいだからな」

「て、言うかさ。“むっつり”どころか普通に“スケベ”で“変態”なだけだよな」

「違ぇねぇ。この決闘が終わったら“むっつり”から“変態”に改名すればいいんじゃね?」

「お前、いいこと言うな!」

「だろ~」


 一般大衆の容赦ない視線にキョウマのモチベーションは底辺へと到達する。


「もう、どうでもいいや。好きにしてくれ……」


——ゴォォォォォン!——


「それでは始め!!」


 ドラの音とともに戦いの始まりが告げられた。それまで、勇者を前にした興奮とキョウマを笑う声で包まれた場内が瞬時に静まり返った。


「おい、あの変態……、どこに消えた」

「逃げ出した……とか?でも……」


 会場の誰かが呟いた。そう、開始の音とともにキョウマの姿は掻き消えた。当然、本当に消えたわけではない。消えたように(・・・・・・)見えるだけ。そのことを知っているリナは両手を胸元で結び、祈るように舞台を見つめる。事情を知らずとも察した者——イフリルは目を見開いた。やる気はなくともキョウマは戦士。戦いとなれば戦闘モードのスイッチが自然と入る。


——ガキィィィィンッ!——


 金属同士を打ち付けるような甲高い音が会場内に響き渡る。観客は耳を塞いで、音の鳴り出した舞台の中央を注目する。そこには、それまで見えなかったキョウマが木刀を振り下ろす姿があった。


「その壁、何だ?」


 振り下ろされた木刀はテツヒコの一メートル程手前で、何か(・・)に阻まれていた。その刀身に蒼の輝きはない。木刀に込める闘気は最小限に留め、魔族である赤髪の女を前にして、知られぬように隠しているためだ。


「ふん!」


 魔法石で彩られた槍をテツヒコが払う。キョウマの姿は消え空を切る恰好となった。

 が、その表情に焦りの色はない。


「ちぃっ」


 姿を現すと同時にキョウマの足場から土の槍が突き出してきた。立ち止まらずに素早く回避し、再びその姿は見えなくなる。


「今のを避けたか?思ったよりも速いな」


——ガキンッ、ガキッ!——


 二度目、三度目の剣も見えない壁に遮られダメージを与えることは敵わずに終わる。


「それ……。結構、固いな」

「驚いたか?これは勇者召喚の際に俺が授かったスキルの一つ……」


 ——完全自動防御壁パーフェクト・オート・プロテクション——


「アキヅキぃぃっ。お前は俺にキズ一つつけることはできねぇよ!!」


 テツヒコの不敵な笑みがキョウマの瞳に映るのであった。


 お読みいただきありがとうございます。


 このネタをどうしてもやりたくて主人公の称号に“むっつり”をつけました。「???」の意味も間もなく明らかになる予定です。

 仕事の都合でこの後、ペースが更に落ちますが最後までは書くようにいたします。

 次話もまたよろしくお願いします。

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