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第31話 夢~おもいでのなかのであい 2

過去の出来事、その2です。

 幼い“りな”は余程、気に入ったのか目をキラキラさせて覗き込んでいる。感嘆の声を耳にし、喜んでもらえて嬉しかったのか“きょうま”の顔は赤く、どこか誇らしげ。


「クゥー、キュイッ!」

「わぁ~」

「りなはよろこんでくれるとおもったんだ」

「うん!」

「こいつケガしててさ。ぼくがここでめんどうみてた。ほかのヤツにはないしょだぞ」

「わかった!ふたりだけのひみつだね」


 幼い僕(きょうま)が得意げに見せたものの正体。

 サッカーボールくらいの大きさで白くて丸っこい謎の生物。頭には生えかけの角、背には小さな羽が生えている。羽と言っても上手く飛べないらしく、パタパタさせるだけで浮き上がっては着地の繰り返し。その姿がツボにハマったようで、りなから感嘆の声が上がる。


「ねぇ、おにいちゃん!そのこ、だいてもいい?」

「いいけど、かまれたってしらないよ。」

「だいじょーぶだよ。だって、このこかわいいもん!」

「ケガはなおったばかりだからギュッ、ってしたらダメだぞ」

「は~い」


 りなはニッコリ笑って、前に立つ。「おいで♪」と言って両手を前に出すと、その白い生き物はトコトコ歩き腕の中へとおさまった。


「ほら、なんともない」

「ちぇっ、ぼくはさいしょ、かまれたのに……」


 きょうまは自分の服の袖を捲り、右腕の傷跡をりなに見せる。チクリと僕の腕も痛むような気がした。


「なにそれぇ?おにいちゃんのらくがきじゃないの?」

「えっ?きのうはちゃんとあったのに……」


 自分の右腕を頭上にかざし、きょうまは「おかしいなぁ」と首を傾げる。僕から見て、その傷跡は一種の魔法陣のようにも見えた。円の中に竜の片翼を模した印を背に「剣」を重ねた紋様。つられるように僕も腕を見るが、今の自分には見当たらなかった。


「へんなの~?それより、おにいちゃん!このこ、なんていうの」

「う~ん。“ねこ”、じゃないよな~。はねもあるし。う~ん、わかんないや」

「そうじゃなくて、なまえ!このこのなまえ!」


 納得し、きょうまは「そういうことか」と手を叩いた。


「そういえば、とくにないな。おまえ、なんてなまえだ?」

「クゥー?」

「このこ、しらないみたいだよ」

「そうなのか?」

「クゥー、クルッ」


 羽をパタつかせて飛び上がり「肯定?」の意を示す白い生き物。りなは「ほら、やっぱり~」と続けた。


「それじゃ、わたしがきめてもい~い?」

「い~よ。りながきめなよ」

「やったぁー。ありがとう、おにいちゃん!」

「っ~!」


 りなの言動一つ一つに赤くなる昔の僕(きょうま)。第三者の視点で見ると、自分が周囲(まわり)にどう映っていたのかがよくわかる。穴があったら入りたい気分だ。


「う~んとね。かわいいなまえにしてあげるね!」

「キュッ、キュッー」

「カッコイイなまえのほうがいいだろ」

「うーっ、おにいちゃんはだまってて!」

「は~い」


昔の僕(ぼく)、尻に敷かれている……)

 

 りなは「なににしよ~かな~♪」と鼻歌交じりに白い生き物の頭を撫でている。その光景を見つめる昔の僕(ぼく)も何だか幸せそうだ。僕も微笑ましくなる。


(……そういうことか。今の僕と同じ目をしている)


 楽しそうに笑うリナを見ていると僕も嬉しくなる。それは今も昔も変わらない。


(……、やっぱり僕は僕なんだ。)


 この夢の中で僕は本当に色々なことを思い出せてもらっている。これは原点、僕が望むリナと過ごす日々……、その根本だ。


そして、もう一つ……。


「きめた、このこのなまえは“シロ”!」

「それじゃ、いぬみたいじゃないか?」 (それじゃ、犬みたいじゃないか!)


 昔の僕と今の僕の声が重なった。思わず吹き出しそうになったじゃないか。

そういえば、リナのネーミングセンスは残念な方だった。リナに言わせれば僕のネーミングセンスもダメダメらしい。結局、似た者同士なのかもしれない。


「えー、だってこのこ、まっしろだもん」

「クゥ……」

「なんか、いやがってるぞ」

「そっ、そんなことないよ、ね?」

「クゥ……」

「おまえ、“シロ”でいいのか?」

「クク、キュゥ、キュッ、キュー!」


 手と足、そして羽をジタバタさせて必死に何かを主張する珍生物。どうみても嫌がっているようにしか見えない。


「ほら、いやだって」

「う~っ。だったら、おにいちゃんなら、どんななまえにするの?」

「そうだな~、おまえがもっとカッコよかったらな~」

「クゥー?」


 丸みを帯びた姿を横目で見て、残念そうに溜息を吐く昔の僕。


「へぇ~。なんてつけようとしたの」

「どらぐ・かいざー」

「へっ?」

「だから、“ドラグ・カイザー”、って」

「ぷっ、へんなの~」

「いっ、いいだろべつに。ツノとかハネとかあるからさ。もし、“ドラゴン”だったら、っておもっただけだから」


 “ドラゴン”だったら——その言葉に僕は自然と右腕に手をあてた。子供の頃から僕のセンスが変わらないことはこの際スルー。


「あなたもイヤだよねぇー?」

「キュッ、キュッー」


 羽をパタパタして丸い体を浮かせるドラゴンもどき。


「もしかして嬉しいのか?」

「そんなことないよね?」

「じゃぁ、“シロ”」

「クゥ……」


 しなびるように羽がペタリと垂れた。


「ドラグ・カイザー」

「キュッ、キュッー♪」


 羽を再びパタパタさせる。生き生きとしているのがよくわかる。


「う~っ、そんなぁ」

「でも、どうみても“カイザー”はにあわないよな~」

「クゥー?」

「なら、“ハク”でどうだ」

「“ハク”?」

「そう、“シロ”は“白”ってかくだろ。“白”は“ハク”ともよめるから」

「へぇ~。おにいちゃん、あたまいい!」

「そ~だろ~」


 りなはパチパチと手を叩いて昔の僕を尊敬の眼差しで見ていた。うん、コレ他の人が見たらどう思うだろう……。


「よし、きょうからおまえは“ハク”だ」

「クゥ……、キュッ!」

(“シロ”よりはマシということか)


 そうして、二人は「ハク~、ハク」と何度もその名を呼びはしゃいでいた。僕は遠巻きに見つめ右腕をさすった。


(そうだったな。お前の名前は“ハク”だったな。今まで忘れていてゴメン)


僕の右腕が淡く明滅している。僕の言葉に「そうだぞ」と訴えているようにも見えた。


(これからも頼むぞ。相棒)


——パシッ!——


(なんだ、今の音は?)


——パリンッ!——


 気のせいじゃない。突然、光が目の前を横切ったかと思えば、辺りの景色にヒビが入り始めている。先ほどまで元気に遊んでいた二人は停止ボタンをおされたビデオの一コマのように動きを止めている。


——ブツッ!——


 目も開けられぬ閃光が突如、襲う。咄嗟に腕で顔を覆い隠して光が止むのを待った。瞼の裏に感じる熱が引いたところで、閉じた視界を開いた。


(要点だけで他は省略か……)


 場所は変わらない。先ほどと同じ山の中。変わったのは時間とその状況。先ほど見た場面より、先の話のようだ。

 それにしても……。


(いきなり何だこの状況は!いくら何でも急すぎだろ!)


 目の前に広がるのは怪物に襲われる昔の僕(きょうま)とりなの姿があった。りなはハクを抱きかかえて、庇う様に立つきょうまの背に身を隠している。


「りな、ぼくのそばからはなれないで!」

「こわいよ、おにいちゃ~ん!」


(この怪物は一体……?)


 二本の角を宿した竜の頭、体は人間に近いが紫紺の鱗が目につく。異世界(オキエス)に来る前に僕が潰した連中とも似ているが違う。


「〇▽β■§……」

「さっきから、こいつなにいってるんだ」

「ハクちゃん!おにいちゃん!」


(あの紫の竜人間の使っている言葉、異世界(オキエス)と同じだ)


『竜ノ子供、ヨコセ。コレデ……』

(『竜の子供』は“ハク”のことか?)


 気になる台詞はそれだけではない


『コレデ、魔神竜様……』

(『魔神竜様』……。どうして異世界(オキエス)でもないのにその名が出る?)


 僕が【解析】を使えれば色々わかっただろうに少々惜しい。どの道、この夢の中では僕に干渉する権限はないようだ。

 竜人間相手に僕の拳は素通りする。その下品な顔に回し蹴りを放つも、やはり通り抜けてしまった。

介入しようとしても、すり抜ける一方で結局何もできないのが悔しい。


 無力でいるまま事態は動き出す。


「おまえなんかー!!」


 昔の僕(きょうま)が竜人間に向かってタックルを仕掛けた。足元にしがみ付き微動だにしない相手を必死になって抑えようとする。


「りな、はやくにげて!!」

「やだぁ、おにいちゃんもいっしょじゃなきゃ、イヤァッ!」


竜人間はつまらないものを見るように溜息を吐き出すと、軽くあしらう様に昔の僕(きょうま)を蹴り飛ばした。吹き飛ばされ地に伏し呻きを上げる。


「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!おにいちゃん!!」

『サァ、ソイツヲ渡セ』

「イヤッ!こ、こないで!」


 竜人間はヤレヤレと言わんばかりに頭を振り、再び溜息を吐く。右手の爪をチラつかせ、無言のままハクを渡すように促すも「いや、いや」と首を横に振り、りなに従う気配はない。


『ナラバ、シネ!』


 竜人間は鱗に覆われた強靭な腕をかかげると、震える少女へとその凶悪な爪を振り下ろした。


——ザシュッ!——


 死へと誘う悪魔の爪が三本の軌跡を刻む。肉を切り裂く音が響き、血飛沫が舞った。


『ナニッ!?』


 飛び散る血の主はりなのものではない。


「おにい……ちゃん?」

「りな……、だいじょうぶ?」

 コク、コクと首を縦に振るりな。


「でも……、おにいちゃんが……」

「りなが……ぶじなら……いい」

「おにいちゃん……」


 りなは無傷で済んでいた。それは昔の僕(きょうま)が割り込み、その背を盾にしたからだ。血液の流れは止まることなく流れ続ける。命までもが共に漏れ出るように……。


「りな……、ぶじ……よかった……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁー!」


 ゴホッ、と血を吐く昔の僕(きょうま)の傍らでりなの悲痛な叫びが響き渡った。


お読みいただきありがとうございました。


不定期更新とはなりますが、最後まで書けるように致します。




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