表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/93

第30話 夢~おもいでのなかのであい 1

節目の30話ですが短いです。

ご容赦願います。

僕を呼ぶリナの声が聞こえてくる。

必死な声で何度も、何度も……。


(言わなきゃ……。「僕は大丈夫だよ」って……)


 もう腕に力は入らない。リナの涙を一滴拭うのが今の僕の精一杯だった。


(もう泣かないでくれ。笑っているところを見せて欲しい。笑顔のリナは可愛いから……。僕はリナが好きだから……、笑っていて欲しい)


 視界がゆっくりと暗くなる。遠ざかるリナの声に手を伸ばそうとするも体はピクリとも動かない。僕は想いを口にすることもできず、徐々に意識を奪われていった。


…………


 今、僕は暗闇だけの世界にいる。

 気がかりなのはリナのこと。


(ずっと、泣いていたよな)

 

 僕が最後に見たリナの顔は泣き顔だった。

 涙で顔を濡らし笑顔とは程遠い。


(そんな顔は見たくなかったのに……)


 誰がそうした?

 誰がそうさせた?


(僕……、だ。泣かせたのも!笑顔を奪ったのも!!)


 そんなのは認めない!

 僕であろうと許されない!

 許さない!!


彼女(リナ)の笑顔を取り戻すためなら、どんなことだってやってやる)


 暗闇の中で僕は静かに目を閉じる。

 力尽き動かぬ体に比べ、僕の心の中はマグマの如く熱く燃えたぎる。


(必要なら奇跡だって起こしてやる。絶対、絶対だ!)


【……にアクセス……ロード、……エラー】


 不意にどこかで聞いたことのある声がした。全てを耳にしたわけではないが、良くないことだけは理解できる。


(だからどうした?この程度で、あきらめてたまるか!!)


【……再度アクセス……ロード、……最適化、開始……】


 その声を最後に、電源プラグを抜かれた機械の如くブツリ、と僕の意識は途絶えた。



 …………




——……さん——


(リ……ナ?)


——にい……——


 リナの声に深い闇の奥から、僕の意識は呼び起こ(サルベージ)される。


おにいちゃん(・・・・・)、ってば!」


(えっ!?)


 目の前にいるのはリナで間違いはない。間違いないけど……。


子供に(ちいさく)なってる!?)


「りな、こっちだ。はやく~」

「まってってば~」


 今、僕の目の前には幼い僕とリナの二人がいる。先ほどまで暗い闇にいたはずなのに今はどこかの山道に立ち尽くしていた。僕からは子供の僕とリナを見ることはできるけれど、二人には僕が見えないらしい。どうやら今の僕は幽霊のような存在になってしまっている。


(わかった!これは夢だ!!)


 夢なら納得だ。見ればこの山道にも覚えが微かにある。舗装されていない砂利の道に伸び放題の草木。僕とリナが子供の頃、遊び場にしていた思い出の場所だ。


(そういえば、じいちゃんに黙って遊びに行ったのがバレてよく怒られたよな~。この場所、秘密の特訓にも使ったんだっけ……)


 夢なら仕方がないと割り切るも、おかしなことが一つある。妙に意識がはっきりとしていることだ。


「りな、はやく」

「まってよ、おにいちゃ~ん」


 目の前を走り去っていく幼き日の僕とリナ。草木をかき分け奥へ、奥へと進んで行く。


(この頃のリナは僕のことを『おにいちゃん』って呼んでたんだよな。いつも、僕の後ろをついて歩いて来て……。僕もリナといることが嬉しくて、はしゃいでた)


 懐かしさで微笑ましくなる一方、考えることもある。「どうして今、これだけ鮮明な夢を見ているのか?」と疑問が浮かぶ。


(何か意味があるのなら……)


 僕は二人の後を追うことにした。



…………


 山道を外れ、獣道をしばらく進むと、切り立った崖の下に辿り着いた。傍には水の流れがあり、子供が近づくには危険な場所。思い返せば、似たような場所にリナを連れ歩いていたような気がする。後で目が覚めたらリナには謝っておくことにしよう。


「りな、こっち。この中にあるんだ」

「わたし、やだよぉ~くらいのこわいよぉ~」

「それなら、りなにはみせてあげない」

「うーっ。おにいちゃんのイジワル」

「ごめん、りな。なくなって。ほら!て、つないであげるから。それならこわくないだろ?」

「うん!」


(あちゃ~)


 これはアレだ。好きな子に意地悪したくなるというタチの悪いやつだ。その証拠に“きょうま(昔の僕)”の顔が赤い。手をつないだ時、“りな”の花が咲くような笑顔を見てデレまくっている。自分の顔ながら、あのだらしない表情はあまりにも情けない。もしかすると、今もああいう(だらしない)顔しているのかもしれないが、この際置いておく。


(僕、この頃からリナにベタ惚れだったんだな)


 僕はジト目の視線を昔の僕に送る。あちらは僕のことが見えていないはずだけど、一瞬こちらの方を向いて首を傾ける。何もないと知ると洞窟の中へと二人で歩いて行った。


(ん?)


 記憶の引き出しを片っ端から探るが心当たりがまるでない。


洞窟(・・)に遊びに行った記憶……、ないな)


 洞窟、といっても魔物が出るような迷宮までには至らない。流石の“きょうま少年”も奥までは行かず目的場所は光の差し込む入り口付近の様子。


「ほら、りな。こいつのことだよ」

「わぁ~、このこ(・・・)かわいい!!」


(っ!)


 それ(・・)を見た瞬間、僕は激しい頭痛に襲われる。


(思い……出した。僕はよく知っている。どうして今まで忘れていたんだ?)


 思い出した、と言ってもまだ完全ではない。ところどころ抜けがある。だが、僕は知っている。そして思い出さなければならない。それがきっと僕が今この夢をみている理由なのだから……。


お読みいただきありがとうございます。

次話より不定期更新となります。

極力、一日おきに更新できるように頑張ります。

では、次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ