第28話 戦い、終えて
今日もなんとか更新できました。
お楽しみいただければ幸いです。
虫の魔物を掃討し、一段落したので小休止を取ることにした。周囲に魔物がいないことを確認し変身を解除する。
(くっ!)
ふいに訪れた脱力感が僕を襲う。笑う膝に鞭を打ち、倒れぬように踏みとどまる。
(リナに心配かけたくない)
僕の心を奮い立たせるのはただ、それだけだ。
「もう、大丈夫だよ」
リナの頭に手を置き、そっと一撫でする。コクリと頷くと僕に回した腕をゆっくりと放した。トン、と着地し僕の前に向き直る。
結構、長い時間お姫様抱っこしていたせいか、少しばかり手が寂しくなった気がする。
(柔らかかったな~)
なんて考えていると……。
——ごほん!——
目の前の美少女メイドがわざとらしく咳ばらいをした。「エッチなのは、めっ!」と怒られると思った僕は背筋をピンと張る。
「兄さん、ごめんなさい!」
「えっ?」
リナは背を六十度傾けて僕に謝っている。長い黒髪がサラリとその背を流れた。
「気にしなくていいって。それに僕も……」
——久しぶりに“お兄ちゃん”と呼ばれて少しうれしかった——
そう言いかけて言葉を詰まられた。今は茶化していい場面でないらしい。
(リナ?)
リナは一向に顔を上げようとしない。両手はスカートの裾を強く握り微かに震えている。
「兄さん、違うの!本当にごめんなさい。わたし、わたし……」
「まずは顔を上げてくれ。ちゃんと聞くから、な?」
ゆっくりと顔を上げるリナ。今にも泣きだしてしまいそうだ。何だか雨の中、捨てられた子猫を見ているようで少し寂しくなってくる。
「わたし、兄さんの力になるって……決めた……のに。我儘言って……迷惑かけて、危険な目に合わせた」
「僕は気にしてないって」
リナは首を横に振って、僕の言葉を否定する。
「ダメなの!」
「ダメなの、って何がダメなんだ?」
「だってぇ、わたしの……せい……で死んじゃう、かもしれなかったんだよ?兄さんも!わたしも!」
「大丈夫だったんだから問題ないだろ?それにリナは女の子だ。仕方ないって」
リナの言っていることは正しい。リナがいつも通りに振る舞えていたら少なくとも【星竜闘衣】を使うことはなかっただろう。撤退を選択肢に入れれば【アクセル・ウイング】も使わなくて済んだはずだ。言い換えれば、そのどちらもなければ僕達は本当に危なかった、ということだ。リナはそれに気付いている。気付いているからこその台詞だ。
「それじゃ、ダメなの!力になるどころか足を引っ張って、こんなんじゃわたし……」
(ダメだ。その先を言ったら)
「わたしなんて……いない……方が……」
「もう、何も言うな!」
リナの言葉を遮り、僕は力いっぱいリナを抱きしめていた。何故、そうしたのかなんて考えてなどいない。ただ、そうせずにはいられなかった。
「それ以上、何も言わなくていい」
「でも……」
「言わなくていい。そう言った」
「兄……さん」
それ以上、何もいうことはなくリナは僕の胸の中に顔を埋めたままでいた。余程、思い詰めていたのだろう。嗚咽を漏らす音は収まりそうにもない。僕は「よしよし」と頭を撫でる。
「リナは一つ勘違いをしているな。自分のこと、僕のお荷物か何かだと思っていないか?」
「……」
無言のまま微かに首を縦に振ったように見えた。つまり、肯定ということか。「やっぱり、そうか」と胸中、呟く。
「僕はリナに何度も助けてもらっている。少なくとも、そう思っている」
「にい……さん?」
顔を上げ上目遣いで僕をみるその目は濡れている。リナの頬へと伝うその流れをそっと指で払った。
——傍にいてくれるだけでいい——で片付けてはいけない。リナはそんなことを望まない。だから僕は本当にリナが助けになってくれていることを伝えなければならない。偽りのない僕自身の言葉で。
「今日の冒険者組合での一件でもそうだった。異世界に来てからずっと、慣れない地でどうやって生きていくのか考えてくれただろう?僕には思いつかない答えも出してくれた。僕は脳筋だからな。 戦うことしかできない。僕一人じゃ絶対にやっていけなかったよ」
「そんな……こと、ないよ。兄さん、強いし、それに色々、持っているから……一人でも大丈夫だったよ」
——持っている——拠点のことを言っているのだろう。あそこには確かに施設が揃っている。だが、それだけだ。
「そうだな。だけど僕だけだったら、誰とも関わらず一人でいたと思う。仙人みたいな感じでさ。それって“大丈夫”って言えるのかな?」
「そんなこと……ある、かも……」
流石はリナ。よくわかっていらっしゃる。「そんなことない」って否定しなかったからな。
「僕は今、リナのおかげで充実しているよ。見知らぬ地で時にはトラブルに巻きもまれても、一緒に考えて、行動して……そして乗り越えていく。全部、リナと一緒だからできることなんだ。だから、もう『わたしなんて』とか『いない方がいい』なんて……言わないでくれ。頼むよ。リナがいない人生なんて僕は嫌だ」
——あんな思いはもう味わいたくない——
気が付けば今度は僕の瞳から一滴の流れができていた。
「そう……だよね。わたしも兄さんがいないなんてイヤ。おかしいね。『兄さんを独りにしない』って言ったのわたしの方なのに……。ごめんなさい、兄さん」
リナは僕の頬まで手を伸ばし流れる涙を優しく払った。すっかり立場が逆転してしまい僕は思わず苦笑してしまう。
「リナ、これからもよろしく頼む」
「うん、兄さん」
軽く後ろへ一歩下がり長い黒髪を揺らして微笑むリナ。「可愛い」と思う。同時に「これからも一緒に生きていく」と拳を強く握り密かに誓った。
◇
「これが今の僕達のステータスか」
リナが調子を取り戻したところで、僕達二人はお互いのステータスを確認することにした。色々あって確認が遅くなっていたけど、結構な数の魔物を倒したはず。これは期待が持てる。ナビゲーション・リングを起動させてリナがステータスを映し出す。僕はリナのすぐ横につき一緒になって覗き込んだ。お互い少々顔が赤いことには触れないでおくとする。
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キョウマ・アキヅキ
種族 転生人
職業 竜魂剣士
LV 17
HP 490
MP 209
STR 257
VIT 234
AGI 259
DEX 237
INT 90
MND 113
LUC 302
スキルポイント残 484
≪属性適正≫ (S~H、適正なしは「—」)
光 -
月 S
火 H
水 H
風 E
雷 F
土 H
闇 -
星 S【星竜闘衣】時、限定
全ての属性を一つに統合、統合した属性を星属性として行使可能)
≪スキル≫
・蒼葉光刃心月流 LV10
・逆鱗
・狂乱
・竜技
・ヒーロー見参!
・ウォーターコール
・キュアウォーター
・クリーン
≪魔法≫
・アクセル・ウイング
≪称号≫
・むっつり???
・天井知らずの限界突破者
・白銀の星竜
【リナの加護/呪い】(キョウマには見えない)
・戦闘中にランダムでプラスの効果を得る。
・不幸体質の改善。
・異性にモテなくなる。
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リナ・アキヅキ
種族 転生人
職業 サポートメイド
LV 28
HP 363
MP 455
STR 79
VIT 81
AGI 120
DEX 120
INT 257
MND 229
LUC 88
スキルポイント残 154
≪属性適正≫
光 S
火 B
水 C
風 —
雷 C
土 —
闇 —
≪スキル≫
・ラーニング
・メイドの極意 LV1
・応援 LV5 UP!
・指輪待機
・情報隠蔽 LV 10
・指輪操作 LV8 UP!
・情報解析 LV 10(MAX)
・射撃特性 LV9 UP!
・魔導技工師 LV1
・分解 LV1
・料理は愛情!
・蒼葉光刃心月流 LV5(MAX) UP!
≪魔法≫
・フレイムショット
・アイスショット
・サンダーショット
・ヒール
・キュア
・ストーム・ブリザード
≪称号≫
・世話焼き
・分解好き
・狂気の虫嫌い
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「レベル、結構上がったな」
「今までで一番魔物を倒したもね」
今日だけで倒した魔物の数は百を超えている。加えて僕はリナの料理効果でレベルが上がりやすい状態だった。上がってくれて内心、ほっとしている。
今回、チェックした際の主たるところは僕とリナの大幅なレベルアップとスキルの取得、強化にあたる。
まずは僕。スキルの強化が一つあった。
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・ヒーロー見参!
可愛い女の子、ついでに子供のピンチに駆け付ける。好感度の高い女の子の場合、転移して駆けつけることが可能。
パーティー内の最も好感度の高い女の子がピンチの場合、MP消費なしで【変身系スキル】の発動が可能となる。
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リナから残念スキル扱いされていただけに正直、この強化は嬉しい。これでリナに何か会った時、僕は無条件で変身することができる。まあ、リナがピンチになるようなことがないように気を付けたいけど。
次にリナだ。蒼葉光刃心月流のスキルがレベル「5」で限界を迎えてしまった。元々、リナは射撃主体なので仕方がないのかもしれない。まあ、これはいい。驚きなのが……。
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・ストーム・ブリザード
風属性及び水属性複合魔法
対象を風で吹き飛ばし凍りつかせる。
キョウマの【ストーム・ウイング】と【ドラグ・ブリザード】よりラーニング。
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「リナ。余程、虫が怖かったんだな」
「う~ん。あんまり覚えていない」
「まあ、リナにも必殺技ができて何よりだ」
「必殺技じゃないよ、魔法だよ!わたしを厨二の世界に引きずり込まないで」
もう、手遅れのような気もするけどね。さて、問題なのがコレ。
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・狂気の虫嫌い
虫系の魔物との遭遇時、高確率で状態異常【恐慌】となる。
恐怖の感情が頂点に達した時、魔法の威力が三倍、攻撃が【必中】となる。
虫系の魔物から経験値取得不可。
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「弱点が称号になって現れたか。“狂気”っていうのはやっぱり、魔法の威力がアップするところかな」
「う~っ」
ただ、虫系の魔物から経験値が得られないのが痛い。それにしてももし、この称号がなかったら今頃リナのレベルはいくつになっていたのだろう?
「確認はこんなところかな」
「そうだね。日没まではまだあるけど、今日はこれで帰ろうよ。兄さんも疲れているみたいだしね」
(げっ、バレてたか)
「そっ、そんなことないぞ」
「無理しなくていいんだよ?」
「それじゃ、そろそろ……」
——ドクンッ!——
「兄さん、急にどうしたの?顔色わるいよ」
「なんか突然……」
——ドクンッ!——
(まただ、何だこの痛みは)
僕は胸の辺りを押さえて膝をつく。呼吸は荒く次第に血の気が引いていく。
「あれ?兄さんのステータスの【白銀の星竜】が今、光ったような気が……」
ナビゲーション・リングの表示を消そうとしたリナが僕のステータス表示の異変に気付き声を上げる。
——ドクンッ!——
「行かなきゃ……」
誰かに呼ばれている気がした僕は、ゆっくりと立ち上がり歩き出す。
「兄さん!無理しないで!」
「行かなきゃ……いけないんだ」
得体のしれない衝動に駆られ、僕は何者かの意思に導かれるまま歩を進める。
「洞窟?兄さん待って!」
何の躊躇いもなく僕の足は自然と暗闇の中へと進んでいった。
お読みいただきありがとうございます。




