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第25話 初依頼としょっぴんぐ

作者の年齢がバレそうなネタの回かもしれません。

 膝をつき、うな垂れるコング。そして傍に駆け寄る受付嬢、どちらも顔色は優れない。原因はリナが提供したタートスの映像にあった。綺麗な街並み、冒険者や商人たちで溢れかえっていた賑やかな喧噪はどこにもない。受け止め難い事実が二人に重石となってのしかかっていた。


「とっ、取り乱して済まない。これが今のタートス……」

「ご存じなかったのですか?」

「うむ。冒険者も組合の連絡員も来なくなって、妙だと思っていたところだ。様子を見に行こうにも長い時間、ここを離れるわけにもいかなくてな」


(この人もここの戦力、ってところかな?)

 コングの体つきは事務職員とは思えぬほど鍛え上げられていた。シャツの生地を通して筋骨隆々な筋肉が伺えた。


「君たちが門前払いを受けたということは、エスリアースにこの情報はまだ伝わっていないのか……」

「それなら心配に及びません。スミスさんが冒険者組合に伝えてくれるそうですので」

「スミス?もしかしてタートス支部のスミスのことか?」

「そうです。わたし達がタートスを訪れた時に出会った方です。その後、エスリアースまでお送りしています。」

「そうか、そうか。あいつなら上手くやるだろう。それにしても、この短期間でよくこれだけの距離を移動できたものだな?」

「兄はそういう術に長けていますので」

「うむ。それなら後で君たちに届け物を頼みたいが構わないか?」

依頼(クエスト)ですか?」


 依頼(クエスト)——と聞いてコングは大きく目を見開くと突然笑い出した。


「ふっははははは!君はしっかりしているな。いいだろう依頼(クエスト)だ。報酬も弾むとしよう」

「ありがとうございます」

「それでは届け物の準備ができるまでは好きにしていて欲しい……と言いたいところだが人手不足でな。魔物の討伐をしてくれると助かる」

「そちらも依頼(クエスト)ですね」

「ふふ、本当に君はしっかりしている。そこの少年!キョウマといったかな」

「えっ?」


 急に話を振られキョウマは素っ頓狂な返事をしてしまう。


「尻に敷かれるなよ!」

「うぐっ!」

「兄さん、照れてる」


…………


 冒険者組合(ギルド)での話はひと段落し、キョウマとリナは集落内を散策することにした。リナの手には金貨十枚入りの袋が握られている。


「結局、魔石や素材の換金しなくてよかったのか?」


 今、リナが手にしている金貨は魔物の規定数討伐報酬の一部金。魔族討伐の例がほとんどないため仮の支給となる。後日、エスリアースの冒険者組合と協議し決定次第、正式な額が支払われることになる。


「いいの。十分、お金はもらったし魔石や素材はいざという時(・・・・・・)のためにとっておきたいから」

「『いざという時』って拠点の風呂(・・)のことだろう?」

「ソウトモイウネ」


 キョウマのジト目の視線にリナは目を逸らした。魔石や素材をキョウマの拠点の維持コスト——風呂に充てる腹積もりを見通され口調は棒読みになる。


「あっ!そうだ。兄さんの防具を買わなきゃ……」

「逃げたか……」


 苦笑を浮かべキョウマは小走りで先を急ぐリナの後を追った。


「う~ん。これなんかいいんじゃない。火耐性もあるみたい」

「赤、って派手じゃないか?」


 防具屋を見つけたリナは真っ先にキョウマの防具を物色し始めた。手にしているのはレッドウルフの素材を原料とした【レッドジャケット】。


「そ~お?結構、似合うと思うよ。それにたまには黒以外の服も着ないとダメだよ」

「そんなこと言ったって“黒”、好きなんだから仕方ないだろう?」

「兄さんはスピード型だよね?」

「そうだけど、どうした?」


 服以外のことが話題に上がりキョウマは困惑の色を浮かべる。


「前から思っていたけど、黒くて速いの、ってアレ(・・)みたいで何かヤダ」

アレ(・・)、って何だ。そんなに嫌なものなのか?」

「黒くて速い、といったらアレ(・・)しかないでしょ。兄さんが害虫みたいで、わたしはイヤなの!」

「それってもしかして……」

「ダメェー!その名は絶ッ対、言わないで!」

「……わかった」


…………


「お買い上げありがとよ。また来てくれよ嬢ちゃん達!」


 結局、二人は【レッドジャケット】を購入することにした。早速、キョウマは装備する。


「うん、うん。やっぱり似合ってる」

「そっ、そっか!?でもやっぱり少し派手じゃないか?」

「“黒くて速い”より“赤くて速い”方がずっといいよ!どこかで聞いた話だと赤い方が三倍速く動けるんだって!」


 リナの「ツノもあったら本当はもっといいらしいよ」の発言にキョウマは「じいちゃんのコレクションの影響だよな……。僕も人の事言えないけど」とゴチた。


「うん!カッコイイよ、兄さん」


 キョウマの前にリナはトン、と立つ。黒髪を揺らしてキョウマの顔を覗き込むとニッコリ微笑んだ。


「そうか、カッコイイか……よし!」

(兄さん、チョロイ)

「ん?何か言ったか?」

「カッコイイ、って言ったの」

「よし!」

(ホント、チョロイね)


 ガッツポーズを作るキョウマを横に生温かい目でリナは見守った。


(でも、カッコイイのは本当だよ)


 浮かれるキョウマにその声が届くことはない。


「次はリナの番だな。何か欲しいのあるか?」

「う~ん。残念だけどここには売っていないみたい。わたしは今度でいいよ」

「そっか、ちなみに何が欲しかったんだ?」

「替えのした……ううん。何でもないよ」

「ん?本当は何かあったんじゃないか?遠慮せず言っていいんだぞ」


 頬を赤らめ言いづらそうにモジモジするリナ。「替えの下着」とは流石に言えない。一方、キョウマは「お兄ちゃんに言ってごらん」と言わんばかりに食い下がる。しつこく且つ、あまりにも鈍い態度にリナはスカートの裾を握り上目遣いのままキョウマを睨んだ。


「う~っ!何でもないの!兄さんのえっちぃ」

「???」

「知らない!置いてっちゃうんだから!」

「ちょっと待てって、リナ~」



 防具の購入が済んだ後、二人は武器屋を訪れた。目的はここでもキョウマの装備を新調するため。それもそのはず。蒼葉光刃心月流そうはこうじんしんげつりゅうの技があるとはいえ、いつまでも木刀という訳にもいかない。蒼の闘気で威力を高めるとしても元の攻撃力が高い方がいい。


「次は武器だね。さっさと適当に選んだらどう?」

「まだ怒ってるのか?」

「べっつにぃ~!」


 リナの機嫌は直っていなかった。財布の主が不機嫌であれば買い物は先に進まない。途方に暮れるキョウマに救いの手を差し伸べたのは思わぬ人物からだった。


「なぁ、そこの若いカップルさんよぉ~。ここは武器の売り買いをする場所だぜ。夫婦喧嘩なら余所でやってくれねぇか」


「カップル……」

「夫婦……」


 キョウマとリナは二人揃って顔を赤くした。そのサマは「プシューッ!」と沸き上がる湯気の音が聞こえてきそうな程の人間湯沸かし器ぶり。お互いに目を合わせてから下を向きオドオドする姿は第三者から見れば初々しく映る。


「おうおう熱いねぇ、ご両人。ウチは武器の他に宿もやってるよ。休憩もありだ。なんなら今から泊まってくかい?」

「「っ~~~~~~~~~!!」」


 ——キラーン!——と歯を輝かせる店主の顔は実に爽やかだった。眩しい笑顔にキョウマとリナの心はドン引いていく。


「「武器でお願いします!!!」」


「ちぃ!つまんねぇの」

(あんた、武器(そっち)の方が本業だろ!!)

(この人今、舌打ちしたよぉ~)


「それでどんな武器が欲しいんだ?」

「剣でお願いします。片手タイプのもので」


 本音を言えば“刀”と言いたかったところ。陳列された品(・・・・・)を見る限り期待を持てなかったキョウマはその言葉を飲み込んだ。


「すまねぇなぁ。生憎、剣は今切らしていてよぉ。こんなのしかねぇんだ」


 店主は奥の木箱をゴソゴソ漁り布で包まれた一振りの剣を取りだした。「昔はもっと上等な品もあったんだが……」と遠い目をしてカウンターへ無造作に置く。 


「おぉ……これは」


 キョウマの目がカッ、と見開く。宝物でも扱うかのように手を震わせ剣をとる。


「間違いない。これはあの有名な……」


 ——【どうのけん】——切れ味はなく叩き潰すことで敵にダメージを与える武器。


「よし、かっ……」

「た、じゃな~い!」


 スパコォーン!


 どこからか取り出したリナのハリセンがキョウマの後頭部を直撃する。子気味良い音を響かせ言葉を遮った」


「つぅ~。いきなりどうしたんだ」

「だって木刀と大して攻撃力変わらないよ。お金を出すんだからもっと良い武器にしないと」

「かぁ~、リナは何もわかっていないな。だって【どうのけん】だぞ!冒険に憧れる全ての男子の基本、憧れの武器!!いわばロマンだ!!!誰もが通る道だというのに、それがわからないなんて……」


 スパコォーン!


 オーバーに両手を広げ頭を抱えるキョウマ。イラッとしたリナは再びハリセンではたく。


「そんなの知らない。分かりたくもないよ。ロマンで魔物が倒せたら苦労しないよ!」

「しかしな……」

「めっ!」

「けど……」

「めっ、て言ったら、めっ!」

「……わかったよ。他に剣はないんだよな」

「おっ、おう。わりぃな、兄ちゃん。近頃、剣の人気が落ちて、鍛冶師が作りたがらないんだ」

「そっか……。なら、投げナイフをいくつか……。それならいいよな」

「……うん。いいよ」


 すっかりやる気のなくしたキョウマにリナの怒りも静まった。相変わらずの子供な振る舞いにリナは微笑ましくなってきた。


「元気出してよ、兄さん」

「……別に僕は落ち込んでなんかいないよ」


 立ち直る気配のないキョウマに「どうしたものか」とリナは考えあぐねた末、一つの妙案を思いつく。


「そっ、そうだ。この後、ごはんにしようよ!前に兄さんが『おいしい』って言ってくれたの、また作ったんだ」

 

 ピクッ!

 “ごはん”の一言にキョウマの耳が微かに反応する。


「ごはん、って前に作ってくれた“リナサンド(・・・・・)”のことか!?」

「う~ん。そうだけどその名前はちょっと嫌かな。何だかわたしが食べ物になったみたい」

(リナサンド……夜に食べてみたいかも……)


「今、何か変な事考えたでしょ……」


 リナはジト目でキョウマを射貫く。図星をつかれたキョウマは身振り手振りで必死に否定した。


「変なこと……なんて考えてない、ぞ?」


「そうなんだ。ところで兄さん……。鼻血、出ているよ?」

「っ!」


 ニッコリ笑ってリナはキョウマの顔を指差した。慌ててキョウマは鼻に手を当てるが流れるものは一切ない。


「リナ~」

「兄さんのえっちぃ」


 今度は調子を取り戻したキョウマがジト目でリナを見る。リナは意に介せずクスリと微笑んだ。


「なぁ~。やっぱりお二人さん。宿(うち)に泊まっていきなよ」

「「っ~~~~~~~~~!!!」」


 蚊帳の外にされた店主の発言にキョウマとリナはハッ、と気付く。二人だけの世界から帰還すると気恥ずかしさで互いに真っ赤となった。

お読みいただきありがとうございます。


RPGの冒険開始時期に装備する武器の定番と言えば「ど〇のつ〇ぎ」か「〇ング〇ード」を最初に思いつきます。違うというので年代差か私の偏見なのかもしれません……。

次回もお読みいただければ幸いです。



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