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第22話 これからどうする?

登場キャラが少ないですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

「じっ、実はリナに相談したいことがあって……、聞いてもらってもいい……かな?」

「ひゃい!は、話って……」


 キョウマの『大好きだ!』発言から十数分。気まずい空気をキョウマが破る。リナも緊張が解けぬまま何とか返事をする。元々、話があったのはキョウマの方。脱線したままではいられない。


「僕達の今後のことについて話し合いたいんだ」

「今後の……こと……」

(兄さん、それって!)


 急に真剣な瞳を見せるキョウマにリナの心臓は高鳴った。静まりかけた心音が再び激しく脈を打つ。「どうした?」と覗き込む視線を直視することができない。胸に手を当て「続けて」と何とか絞り出す。


「魔神竜の討伐を目標にして動きたい」

「へっ?今なんて……」

「いや、だから魔神竜を倒したい、って」

「……じゃないんだ……」


 リナの素っ頓狂な声が上がる。その後は小さく呟きキョウマの耳には聞こえない。先ほどまでは顔が赤かったのに今は青ざめている。


「ふっ、ふふふ。……じゃないんだ。あれだけ気をもたせて……クスクスクス……」

「リ……ナ?」

「クスクス、な~に?」

「ひぃっ!」


 ユラリとリナは立ち上がる。背からは黒いオーラをまき散らすさまは、さながら幽鬼のよう。クルリと首を曲げ全てを凍えさせる視線でキョウマを射貫く。たまらず、キョウマは悲鳴をあげた。


「リナ、その、何かよくわからないけど……ごめん」

「そっか~、わからないんだ~。フフフフ」

「ひぃっ!悪かったから機嫌直せって!」

「クスクスクス」


 一歩、また一歩とリナはキョウマに歩みよる。キョウマはソファーに腰かけたまま逃げ場を失う。


「兄さんの……」


 震えるリナの拳を見てキョウマは覚悟を決めた。

(さようなら、今日の僕。頑張れ、明日の僕)


「兄さんの……ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


…………


「それで、急に『魔神竜を倒したい』ってどういうこと?兄さんらしくないね」

「まあ……な。それよりいい加減、機嫌直してくれないか」


 冷たい()正座(・・)したままキョウマは見上げリナを伺う。目が合うとリナは満面の笑みでにっこりと微笑んだ。その奥に潜むプレッシャーにキョウマは「ひぃっ!」と本日何度目かの小さな悲鳴を上げる。


「だ~め」

「大体、なんでそんなに怒っているんだ?僕が何かしたのか?」

「わからないから怒っているの。兄さん、しばらくそのままね」


 諦めたキョウマはガックリと頭を垂れる。


「話を戻すけど兄さん。『魔神竜を倒したい』って、やっぱりフレアさんのこと?」

「それだけじゃ……ない。けど、理由の一つではあるかもな」

「そっか……」


 小さく息を吐いたリナはキョウマにソファーへ腰かけるよう促す。「いいのか?」と尋ねられると「本気なんでしょ」と微笑んだ。その笑みに先程までの負のオーラはない。


「フレアさん、不思議な人だったよね。私のこと『姉さま』って呼んだりして……」

「そうだな。僕はただの偶然じゃないと思ってる。リナも薄々感じていたんだろう?」


 コクリとリナは頷く。


「『魔神竜を倒したい』って言ったのも、くだらない正義感なんかじゃない。フレアさんとお姉さんの果たせなかったことを受け継ぎたい気持ちも少しはある。けど、一番の理由はその先に何か答えがあるような気がするんだ」

「そうだ、ね。フレアさんの魔力を纏った時の髪と目……、女神様みたいだったよね」

「僕もそう思った。前に僕は女神に『どうして僕が勇者召喚に選ばれたのか』って、尋ねたことがあるんだ。その時に返ってきた答えが『あなたでなければダメ』、だった」

「偶然……にしては出来過ぎているよね……」

「そうだな。でもまあ、明日すぐにということでもない。前に話した通り当面はレベルアップと金策がメインだな」

「うん、わたしも頑張るよ」


 小さくガッツポーズを作り「兄さんのレベルアップのために料理も頑張るよ!」とリナは意気込む。キョウマも「頼む」と片目を瞑って微笑んだ。


「本当はリナを危険な目に合せたくないんだけどな」

「兄さん、心配し過ぎ。それに何度も言わせないで。わたし、兄さんを支えられるように頑張るから」


(もう、支えてもらっているけどな)


「何?兄さん、今なんて?」

「何でもないさ。一緒に頑張ろうな」

「うん……」


 話が終わり二人はベットへと向かう。当然部屋は別々。リナの足取りには軽く、不機嫌だったことは既に忘却の彼方へと吹き飛んでいた。



「お金、ないね」

(かね)ないな」


 翌朝、朝食を済ませたキョウマとリナが発した第一声が“お金”についてだった。魔石や素材はそれなりにある。が現金がない。ナビゲーション・リングを見せれば、エスリアースの町に入れることを知らない二人は最初の難関に突き当たった。


 1 現金がないので町に入れない。

 2 町に入れないので魔石や素材を換金できない。

 3 現金が手に入らない

 4 1に戻る


「僕達、積んだな」

「ちょっと、兄さん!簡単にあきらめないで!昨日の決意はどこいったの!」

「自給自足……か。ふっ……」

「『ふっ』じゃないでしょ!?兄さん、兄さん、ってば~!」


 ナビゲーション・リングを起動させリナがこの辺り一帯の地図を表示させる。黄昏るキョウマの腕を引き、ある一点を指差した。


「ここに行ってみようよ。エスリアースやタートスよりずっと小さいけど人の集落があるみたい」

「ここは……、タートスの北か。昨日、スミスさんが言ってた山脈に近くないか?」

「そうだね。少し危険かもしれないけど、行ってみようよ」

「そうだな……」


 キョウマは一度、両目を瞑り思案した後、頷いた。


「考えがあるんだろ?」

「うん」


 今度はリナが首を小さく縦に振る。


「昨日、タートスまで向かう途中、街道沿いなのに魔物と何度も出会ったの……覚えてる?」

「まあ、な。あれはタスンとかいう魔族がタートスを襲った時に放った魔物じゃないのか?」

「う~ん。それもあると思うけど……」


 地図上のタートスがある位置をリナは見つめる。リナの視線の先に気付いたキョウマも目を向けた。


「タートスが襲われて、近くの魔物を退治する冒険者がいなくなったのが一番の原因だと思うの」


 なるほど、とキョウマは手の平を叩く。


「それならその集落付近は今、魔物で大変なことになっているんじゃないか?」

「多分ね……。でもそれだけじゃないかもしれないの」

「と、いうと?」

「えっと、ね。エスリアースから北に進んでタートスの町があるじゃない?そして更にその北に集落があるでしょ?」


 リナは地図を指差し各地の場所をなぞっていく。


「この流れの中央にあるタートスが滅んだってことは、エスリアースから集落までにかけて色々なものが滞っているんじゃないかな」

「色々なもの……、人とか物の流れのことか?」

「うん、そう。それと情報もね。タートスが襲われたことも知らない人、多いんじゃないかな」

「まさか、それはいくら何でも……」


 ない——と言いかけてキョウマは言いよどむ。言葉を止めたところでリナは「気付いた?」と重ねた。


「そういえば最初、エスリアースに着いた時、すれ違った人達に慌てた様子はどこにもなかったな」

「うん。多分、まだ知らなかったんだよ。今頃、エスリアースはスミスさんから聞かされて大慌てなんじゃないかな」


 もっとも、それも可能性の一つに過ぎない。最悪、スミスさんの話しが誰にも信じられない可能性もある。キョウマがそのことを口にしようとしたところで、再び言葉を詰まらせた。


「まさか、リナ。それを見越してスミスさんに魔石を譲ったのか?」

「それはどうかな?兄さんの想像にお任せします」

(そういえばリナとスミスさん、二人で何かコソコソしてたんだよな)


 キョウマは別れ際にリナとスミスのやり取りを思い出していた。何かの用紙に一筆書いたかと思えば、魔導具らしき物にナビゲーション・リングの記録を転写していたりした。


(あれ、スミスさんが嘘つき扱いされないための工作だったんだな……)


 策士の顔にキョウマは目を向ける。美少女メイドは「な~に?」と小首を傾げた。


(うん、可愛い)


 キョウマはそれで十分だった。自然と頬を緩ませる。リナからジト目で「話、もどしていい?」と言われ、慌てて取り繕う。そんな姿にリナはクスリと微笑んだ。


「つっ、つまり、北の集落では、『物資が来ない。魔物は出る。情報は全く入らない』で混乱している可能性があるということだな」

「そうだね。だから、わたし達は気を付けないといけないの。タートスに何が起こったのかを伝える時と場所、相手をね」

「それで本音は、上手く立ち回って報酬を得られれば万々歳、ってところか?」

「まあ、そゆこと」

「なら早速、準備ができ次第、出発するとするか!」


 行く気満々のキョウマは勢いよく立ち上がる。リナは「やれやれ」といった表情でその後を追った。


「そうだ、リナ」

「えっと、どうしたの?」

「タートスまでは転移門(ゲート)を開いて行けるけど、そこから先は翼を使って(アクセル・ウイングで)の移動になるだろ?リナは平気かな、って」


 「平気か?」と問われ、お姫様抱っこ(・・・・・・)のことだと察したリナの顔が赤くなる。もちろん、キョウマも恥ずかしさから天井を見上げて鼻の頭を指先で軽く掻いている。


「わっ、わたしは……平気、だよ」

「そっ、そっか。なら今日も頼む」

「頼むのはわたしの方、だよ?」

「そっ、それもそうだな」


 隠せぬ照れ隠しの作り笑いをキョウマは浮かべた。リナは俯き両手の人差し指を手前でチョンチョン突いて、その後を追った。

お読みいただきありがとうございます。


本日も何とか更新できました。

明日も更新できるように頑張ります。


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