第19話 フレアの秘密、リナの謎?
お楽しみいただければ幸いです。
ゴホン!
と、咳払いをして片目を瞑るフレアさん。少々バツが悪いのだろう。
あの恰好に触れた時、「魔力が込められていて、下手な全身鎧より防御力は高いのだ~!」と力説する姿は少女のそれで可愛らしかった。僕の横腹を突いて「話を聞かせて」とリナが先を促さなければ、もう少し見ていたかった気もする。
「リナ……と言うのだな?本当にセレスティナ姉さまではないのだな?」
「人違いです。大体、髪も目の色も違います。それに……」
確かにリナの言う通りだ。黒髪黒目のリナに対してフレアさんは金髪に深紅の瞳、あまりにもかけ離れている。そこはわかるけど、リナは何を躊躇っているんだ。目を泳がせて言いあぐねている。何か言いにくいことでもあるのか?
っ!そうか、わかったぞ!
「年齢だな!リナは十五歳、フレアさんは少し上じゃないか?大人びているし……」
「うむ?そうなのか?確かに私は十七だが……」
「兄さんは少し黙ってて!!」
怒られてしまった……。それにしてもフレアさんの方がやはり年上だったか。言動や雰囲気が少し大人びている印象だったからな。
(リナも体の方は成長しているけど、少し子供っぽいところがあるからな~)
と考えているとギロッ、と睨まれた。少し黙ろう。
「わたしが言いたいのはね……、もっと別のことで……。その、言っていいのかな……?」
リナの視線が一点に注がれる。フレアさんも気付いたようだ。
「む?もしかして耳のことを言いたいのだな?」
コクリと頷き肯定の意をリナは示す。言われて視線を向けるとわずかばかり尖っているようにも見える。髪を後ろで括り隠そうとせず堂々としている分、余計に気付かなかった。
「エルフの血が入っているからな。もっともこの耳も髪も目の色も大した問題ではない。まあ、見ててくれ」
そう言うとフレアさんは目を瞑り、軽く息を吸う。貯めた空気をそっと吐き出すとフレアさんの周りがキラキラと輝き出した。閉じた目を静かに開くと光は霧散していく。
「これで髪に目の色、耳の形は関係ないだろう?」
「「嘘……」」
僕とリナは声を揃えて呟いた。それもそのはず、黄金の髪と深紅の瞳は黒髪黒目に変わり、申し訳程度に尖った耳も丸みを帯びていた。
「私の一族は戦闘などで魔力を高めると、先のように姿が変わるのだ」
「すると、今の状態が通常ってことか?」
「うむ。当然、姉さまも同じ力をもっていたぞ?」
「わっ、わたしは変身なんてしないよ」
片目を瞑りリナをチラリと見るフレアさん。リナは「兄さんじゃあるまいし」と付け加え異議を唱える。メイドコスしている時点で説得力はないけどな。
「記憶と力を無くして……。姉さま、可愛そう」
「わたし、可愛そうじゃないもん。そんな目で見ないでフレアさん」
「『もん』……、うむ。そういうところ、やはり姉さまだ」
うむ、うむ、と腕を組み頷くフレアさん。フォローしようがなく立ち尽くす僕に「ちょっとは兄さんも援護して」とリナの肘が突き刺さる。
「それなら、ねん……いや、何でもない。」
「?」
年齢と言いかけて僕は言いよどむ。女神によって命を落とす直前に召喚んだからリナは十五歳のままでいる。本来、僕と同じ時を過ごしていれば十九だ。かといって異世界での時間の流れが同じとも限らない。時を超えて召喚可能な時点で年齢の線では何の証明にならない。リナは言動こそ幼く見える時もあるが実は聡明だ。僕が最初、年齢の話をしようとした時「黙ってて」と言ったのも、当の昔に気付いていたからだろう。
「どうしたのだ、勇者様?年齢のことを聞こうとしたのではないか?それなら何の問題もない」
「っ!」
(一体、何を知っている!)
僕とリナに緊張が走る。まさか僕達が異世界に来た経緯を知っている!?
握りしめる拳の中は汗でびっしょりになる。リナも不安げな表情を浮かべ半身、僕の影に隠れる。
「ふっ、あの姉さまなら時を超えたり、若返ったりしても不思議はないのだ!」
「「はぁ~?」」
ドヤ顔を決めるフレアさんに対し僕達二人は間抜けな声と顔を浮かべた。毒気を抜かれ拳にもう力は入らない。
「姉さまは機械いじりが得意でな。特に魔導機械を扱わせれば右に出るのは母さまくらいだ。きっとまたよからぬ発明品を……そうでしょう、姉さま?」
「わたしに同意を求めないでぇ~」
(何か無茶苦茶だな。でも、まあ……)
「機械……得意なのか」
「うむ」
「リナも得意だ。マイ・ドライバーとマイ・ペンチを普段から持ち歩いている」
「ほう?」
僕はリナの肩に手を置く。
「良かったなリナ、生き別れの妹に会えて……。紛れもなくフレアさんのお姉さんとリナは同一人物じゃないか(まあ、冗談だけどな)」
「兄さんが裏切った~」
「ふふっ」
僕とリナを見つめるフレアさんは何だか嬉しそうだ。単純に今の僕達に微笑んでいるわけではないだろう。その目はどこか遠き日のことを懐かしんでいるようでもあった。
「まだ姉さまと認めてくれないなら……」
「「?」」
「勇者様、少々失礼を」
「ちょっ、ちょっとフレアさん!」
突然、フレアさんは僕の傍まで駆け寄ってきた。僕の腕に絡まりしがみつくとコテンと頭を肩によりかかる。長い黒髪の“しっぽ”がサラリと揺れた。鎧を纏っているとはいえ所詮はビキニアーマー。女性特有の柔らかさと繊細さが伝わってくる。
「兄さん、不潔です!」
(悪いの僕かよ!!)
「勘違いしてもらっては困る。勇者様は悪くはない。私は好きでこうしているのだ」
「っ~!」
フレアさんはウインク一つを加えてリナをバッサリ退ける。悔しさでリナの目は若干涙目だ。スカートの裾を強く握りしめている。
「う~っ!」
「それだ!!」
「へっ?」
それまでが嘘のようにフレアさんはヒョイと僕から離れた。リナを指差し「待ってました」とばかりに不敵に口端を吊り上げる。
「その『う~っ』って唸り方、まさしく姉さまだ」
「う~っ」
「うむ、姉さまなのだ」
勝敗は決した。コールドでリナの完封負けだった。
「もう、いいよ。ぐすん」
「悪かったって。それに意地悪してゴメン。間違いなくリナはリナだ。幼い頃から一緒に育った僕の家族だ。だから、もう泣くなって」
「兄さんの……、ばかぁ~」
リナの頭を優しく撫でる。リナは黙って受け入れた。リナをフレアさんのお姉さんとして肯定したら一緒に過ごした時間を否定してしまうような気がして、それだけは訂正した。そのことが伝わったのか、涙目ながらもリナは目を細め少し嬉しそうだ。泣き止んだようなので、撫でるのを止めようとしたら、頭を押し付けてきた。もう少しの間だけこうしていよう。
チラリとリナを見る。やっぱり可愛いなあ、と素直に思う僕はリナに心底惚れている。フレアさんとスミスさん一家の生温かい視線が痛い。「兄ちゃん、キスしちゃえよ~」と子供にまで言われる始末。穴があったら入りたい。
「一ついいか?僕を“翼の勇者”と呼ぶのは何故なんだ。魔法の翼程度で“勇者”扱いされても困る」
(この際だから聞いておこう。リナの話題からも逸らせたい)
肝心のリナは未だ子猫のように僕に撫でられている。今度、ネコ耳をつけてもらうのも悪くないかもしれない。猫耳メイドのリナ、語尾に「にゃっ」とつけると更に可愛くなりそうだ。是非やってもらおう。
「なにをニヤけているのだ?」
「っ!すまない。ちょっとした考え事があって……それより説明して欲しい」
「そうか?だが、今の発言を聞いて更に確信したぞ。“魔法の翼程度”と言える時点で紛れもなく翼の勇者だ。あれはそんなに簡単ではない。魔力で翼の形を作ることができたとしても本当に形だけ……、何の力もない飛行などもっての他だ。勇者様は飛べるのだろう?」
首を縦に肯定の意を示すと。フレアさんは「ほらね」と微笑む。
そういえば、フレアさんの僕に対する口調が砕けている。少しは慣れてくれたのかな。どちらにせよ何よりだ。
「それで、その確信する前に判断した理由についても教えてくれないか?」
「うむ。姉さまと一緒にいたからな。それが理由だ」
「はぁ~!」
「うん?そうか言っていなかったな。姉さまは“翼の勇者”だったのだ」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」
「姉さまは勇者」にリナも現実に帰還し僕と一緒に驚きの声を上げる。どうやらこれだけでは済まない様だ。
お読みいただきありがとうございます。
バトルはまだ少し先となります。




