第18話 町での真相、そして~これでも防御力が高いのだ!
これまで主人公が遭遇した魔物達のLUCが低いのは、キョウマと出会ったことが彼らにとって運の尽きとなるからです。
「何これ。どういう状況?」
今、僕の目の前には異様な光景が広がっている。
黄金の髪の美少女を先頭に先程、助けた人達が膝をつき僕の前で頭を垂れている。
「これまでの数々のご無礼、大変申し訳ありませんでした」
頭のしっぽがペタリと揺れる。僕に槍を向けた人物と同一とは思えない変貌ぶりだ。
「助けていただきありがとうございました。おかげさまで妻と子も無事に済みました」
リナの回復魔法により傷の癒えた男性が続く。傍で「妻」と呼ばれた女性も頭を下げた。
「兄ちゃん、かっけぇ!」
(おっ、中々見どころがあるじゃないか。この少年は将来有望だな)
「これ、失礼じゃないか!お前も頭を下げなさい」
「は~い……」
キラキラと目を輝かせる少年の頭に手を置く女性。半ば強引に頭を下げさせる。
どうしてこうなったのかというと……。
「「「“翼の勇者”様!!」」」
翼の勇者——騒動の原因はそこにあった。
——話は少し前まで遡る——
地下から脱出し男性の治療を終えたころ、リナから「もういいから、こっちに来て!」とオシオキ終了の許しをもらえた。正座からようやく解放され、痺れる足を引きずり助かった人たちの元へ行く。そこにはリナに詰め寄る“ぽにて”っ娘の姿があった。
「だから違うんだってぇ~」
黄金の髪の美少女がリナの両肩をガッシリ掴む。その勢いに頭のしっぽが揺れる。
「リナ、どうしだんだ?」
「それがね……」
ホールドされたまま僕を見るリナの目は「助けてよ~」と語っていた。
「姉さま!姉さまですよね?そうだと言ってください、姉さま!」
「どっ……どういうことだ?」
「勇者様……なのですよね?申し訳ありません、姉様に会えた嬉しさから挨拶が遅れてしまいました」
(口調が変わった!それにこの人も僕のことを“勇者”って!)
“勇者”発言に僕は「あちゃ~」と額に手を当て空を仰ぐ。助けた他の三人は何やら話し合っている。
「お話し中、申し訳ありません。こちらの方は“勇者様”なのですか?」
傷の癒えた男性が恐る恐る“ぽにて美少女”に声をかける。
「うむ!間違いないぞ。紛れもなくこの方は“翼の勇者”だ!!」
迷いも躊躇いもせず告げる彼女の顔は少々ドヤ顔だった。
◇
「とにかく、頭をあげてくれないか?こっちは事情がサッパリなんだ。それにお互い、自己紹介もまだだろう?」
「それではお言葉に甘えて……」
ようやく話ができそうだ。安堵の溜息が漏れる。全員、立ち上がろうとしたところで「座って話そう」と僕は持ちかけた。「なぜ?」の視線が向けられる。当然、僕は「傷が癒えたとはいえ、病み上がりの人間を立たせるわけにはいかないから」、と答える。その結果、「なんとお優しい勇者様!ありがとうございます」と涙目で感謝されてしまった。背中が痒くなってくる。そんな僕をリナは少し嬉しそうに見つめて微笑んでいた。
「まずは言い出した僕達の方からだ。僕は“キョウマ・アキヅキ”、剣士をやっている。一応、冒険者になるうのかな?それで、こっちが……」
「リナ、“リナ・アキヅキ”です。血は繋がっていないけど、幼い頃に同じ家に引き取られて兄妹同然に育ったので“兄さん”って呼んでいます。兄さんのサポートをしています」
リナは最後に左手薬指のナビゲーション・リングをチラリと見せる。一瞬、驚かれたのは気のせいだろうか?二人そろって「よろしくお願いします」とお辞儀をする。
「リナ……という名前なのか……。それに義妹、なのか?」
「そうだよ。血は繋がっていないけどね」
「そうか……義妹……」
「うん、そう!血は繋がっていないけど!」
“血は繋がっていない”を強調して二度言うリナ。僕もリナも頬が少し赤い。
「うむ。では次はこちらの番だな。私は“フレア”と言う。よろしく頼む」
「「えっ?」」
「うん?どうかしたのか?」
「いや、他に何か言うことはないのかな、と……」
あまりにもあっさりとした紹介に僕とリナは面を喰らう。あれだけ気にかかることを言っていたのだからもう少し話して欲しいところだ。
「そうだな。話したいのは山々だが、後ろの三人の紹介の方が先ではないか?」
そう言って、フレアさんは三人の家族に向かって振り返る。聞くところによると傷ついていた男性はスミスさん、といってこの町にある冒険者組合支部のスタッフの一人とのこと。
「それで、この町にいた魔物達は“勇者様”が退治されたのでしょうか?」
勇者様、と呼ばれて頭を抱えてしまう僕。言葉が見つからない僕に代わってリナが前に出た。
「入り口と広場にいた魔物達は兄さんとわたしで退治しました。町にはもう魔物は残ってはいません。これが証拠です」
ナビゲーション・リングを起動させてると、この町全体の地図が宙に現れた。赤いマーカー、即ち魔物がいないことをリナが説明する。
(いつの間にそんなことまでできるようになったんだろう?)
リナの成長は戦闘だけではなかった。
「この町に一体、何があったのですか?」
「一昨日のことです。突如、魔物の軍勢が現れて町を襲いました。冒険者達も多数おりましたが、とても敵いませんでした。私は……妻と子だけでもと……うっ、うう……」
当時のことを思い出したのだろう。スミスさんは頭を抱えてうずくまり、奥さんが支える。全身が恐怖で震えている。次の言葉が喉から出ないようだ。
「もしかして、魔物に襲われて危ないところをフレアさんに助けてもらって、一緒にあの地下室まで逃げた、ということですか?」
僕の問いかけに小さく頷いているところを見るとそのようだ。
「多勢に無勢というわけか……。そういえば、あの魔物達の中に一匹、レベルが高いのもいたな……。そいつらにこの町の冒険者がやられたのか……」
「勇者様、それは違う」
「フレアさん?」
僕が漏らした声をフレアさんは否定する。苦悶の表情を浮かべ語り始めた。
「オーク程度なら私も冒険者もそうそう遅れはとらない。問題なのは魔物達を率いてたあの化け物……、赤黒い体で長身の魔族……、奴さえいなければ!くっ……」
うん?何か心当たりがあるのは気のせいか?
「もしかして、槍をもってなかったか?そいつ」
「知っているのですか!?」
「う~ん。心当たりがちょっとね。もしかしてこういう姿していなかった?」
身を乗り出すフレアさんをリナが制する。ナビゲーション・リングの表示を変え、ある魔族の姿を映し出す。
「間違いない!そいつだ。そいつにこの町は壊滅させられたんだ!」
その魔族の名はタスン。
『今度は二人か……、来たばかりのようだが早速消えてもらうとしよう』
そんな台詞を吐いていた。僕達と戦う前にこの町を襲ったということか。ならば、あの時の骸骨兵の正体は……。
「この町にいた人達はどうなったの?」
その質問が出たということはリナも僕と同じ結論に達したのだろう。
「うむ。逃げ出した者はわからないが、殺された者が連れて行かれるのをこの目にしたよ。恐らく……」
そうなると、あの大量の骸骨兵はやはり!
僕とリナの表情は途端に青ざめる。俯き握りしめた拳は震え何も言うことができない。僕らの様子を悟ったのかフレアさんが話を振る。
「それにしても流石、勇者様だな。リングに記録されているということは、あの魔族を討伐した何よりの証。指輪持ちなのも頷ける」
フレアさんだけではない。スミスさんの視線もリナの左手に注がれる。
「この指輪……、何かあるんですか?冒険者は皆が持っていると聞きましたが……」
「ええ、ナビゲーション・リングを冒険者の方が持っているのは確かですが、大部分が腕輪になります」
「スミスさん。それってどういうことです。腕輪だったら“ブレスレット”とかじゃないですか?」
冒険者組合スタッフの領域なのだろう。スミスさんの表情に若干、明るさが戻る。
「最初は勇者様がお持ちのように指輪だったんです。ところが、リングの開発者が引退してからというもの……、指輪のサイズにできる程の腕を持ったものがおりません、というより不可能でして……」
それで今では“腕輪”が主流になったということか。となるとリナの手にある指輪はレア物ということになる。「どこで手に入れたのか?」の問には譲ってくれた人の都合を理由に答えるのを避けた。女神にもらった、とはいえない。
「ナビゲーション・リングのこともわかったところで、そろそろフレアさんからも話してくれないか?」
「そうだね。いろいろ聞きたいね」
僕の問いかけに便乗してコクコクと首を縦に振るリナ。
「うむ。それでは何から話そうか」
「わたしのことを『姉様』って呼んだり、兄さんのことを『翼の勇者』って言い切ったこともあるけどその前に……」
リナと僕は互いに見つめて一度コクリと頷く。
「そのビキニアーマー、恥ずかしくないの(か)?」
「っ~!」
人を指差すのは良くないけれど、僕とリナは揃って指を指した。女性の最低限部分の保護を目的とした草色の装甲はまさに“ビキニアーマー”。インナーを着ているとはいえ目のやり場に困る。「そんな鎧でなければ、あんなことも起こらなかったのに……」と考えていたらリナに睨まれたのは内緒だ。「う~っ!」と両腕で自らを抱くように隠し、僕を威嚇している。まあ、可愛いけど。
そんなことをしている間にフレアさんの顔はみるみるうちに赤く染まった。
「これでも、防御力が高いのだーーーーっ!」
と、叫ぶ声が広場に響き渡った。
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