第15話 疾風の翼! アクセル・ウイング!!
文章力がなくてイメージ通りカッコよく書けないのが……。
クイクイッ、と前を指す前髪の力は強くなる。
目的地には確実に近づいている。助けを求める声が聞こえてくるようだ。
木刀を握る手に緊張が走る。
「兄さん好みの可愛い子だといいね」
「そんなことより急いだ方がいい。危険が迫っている……ような気がする」
「ふ~んだ!」とそっぽを向くリナを横に僕達二人は駆けていた。廃墟と化した家屋からは焼け焦げた匂いが漂い家具が通りに散乱している。凄惨さを目の当たりにし顔を顰めてしまう。不快感を顕わにする中、疑問もあった。
「人……、いないね?」
「それは僕も気になっていた」
むくれた顔は一転し真剣な眼差しで漏らしたのはリナだ。この場合の“人”は生存者に限ったことではない。亡骸も含まれる。この町に入ってから今に至るまで人の姿は何一つ目にしてはいない。
「嫌な予感がする。急ごう」
コクリと小さく頷くリナを隣に先を急いだ。僕のヒーローアンテナは町の中心地を指している。広場らしきものが見えてきた。目指す場所はそこらしい。魔物の姿もいくつか見える。
「人はいないみたいだな」
「そうだね。ピンチの人、いないね……」
「代わりにオークがゴロゴロいるな」
「三十くらいはいるね」
広場は中央に瓦礫と化した噴水のみを残し、後はならされていた。広場と言っても元は公園だったのかもしれない。憩いの場であっただろうベンチやテーブルも無残に壊されている。芝生も抉られ地面が覗く箇所も多い。
一気には踏み込まず、近くにあった何かの崩れた看板の影に隠れて様子を伺った。しゃがみ込み、狭い場所で潜んでいるため、当然のように密着した形となる。
チラリと横を見るとリナの顔がすぐ近くにある。長い艶やかな黒髪の一房から漂う甘い香りが僕の鼻孔をくすぐった。たまらず視線を落とすとそこには豊かな二つの双丘が……。
(って、見とれている場合か!!)
「どうしたの?」
「……、何でもない」
「ふ~ん、そう。この件は後でね」
ガン見していたのがバレていた。この後、執行されるであろうオシオキが脳裏によぎる。額に手を当て、頭を振った。
「まだどこかに隠れているだけかもしれない。このまま突っ込む!」
「誤魔化した……」
呆れて首を横に振るリナは「ホント、脳筋……」と呟き“てっぽう”を構える。ステータスでは僕が勝っているとはいえ敵の数が多い。
最初から飛ばしていく!
「アクセル・ウイング!展開!!」
そっと風が吹くと僕の背に魔法の翼が現れる。透き通る水晶の如き翼から碧の粒子が煌いた。【アクセル・ウイング】はAGIとSTRを大幅に強化し飛行も可能になる。これで準備はできた。
「あとは敵のど真ん中に突っ込むのみ!!」
翼から光が放出し瞬間、敵陣めがけて急加速。蒼の刀身をオークの胸に突き立てた。断末魔の叫びをあげる頃には横に振り払いその巨体を分断する。血飛沫を上げ肉塊と化した体がボトリと崩れる。異変に気付いた周りのオークが「ブヒッ!」と鼻を鳴らして駆け寄るも僕の姿を視認することはない。
(集まってくれて好都合だ!)
背部の翼が光り輝く。風が吹き荒れ僕を中心に渦をなす。
「ストーム・ウイングッ!!」
風は光を纏いオークの集団へと吹きつけ、竜巻となって巨体を絡み取った。重量感溢れるその体を天高く打ち上げ、そして切り刻む。嵐が収まると地に魔物の雨を降らせた。
この間、僕も黙って見ていたわけではない。更に奥へと斬り込み次から次へとオーク達を屠っていく。状況を把握できない魔物達によって広場は阿鼻叫喚に包まれた。「ブヒブヒ」と大合唱が響き渡る。
「フレイムショット!」
リナも問題ないようだ。うろたえる魔物達を順当に撃ち抜いている。前から思っていたけど、一撃で魔物を仕留めるあの“てっぽう”、どれだけ威力が高いんだ?
「っ!」
オークの集団がリナの存在に気付いた。この騒動の原因と定め一斉に襲い掛かろうとしている。「オンナーッ!」と叫ぶ巨体の目は怒りだけでなく好色も秘められていた。想定内とはいえ、全くもって虫唾が走る。
「リナ、指輪待機……」
リナの姿が突然消え、魔物達の攻撃が空を切った。狼狽える豚達を放置し作戦を即座に遂行する。
——指輪待機解除——
広場の中心——そして空中高く美少女メイドが現れる。藍色のスカートを風になびかせ(中は見えない)、太陽を背に標的へと銃口を向ける。
「サンダーショット!」
晴天の中、場違いに轟く雷が肌色の巨体を黒焦げにしていく。リナが着地する頃には再び【指輪待機】によりその姿は既にない。
『兄さん、前!』
突然、指輪からリナの声が聞こえる。超スピードで移動する僕は広場を対角線上に駆け抜け終点に至ろうとしていた。つまり前には壁がある。このままではオーバースピードで激突する、と言いたいのだろう。
甘いぞ!リナ、お前の兄さんは伊達ではない。
「なんの!」
地につく足を固定させたことで砂煙が上がる。土を抉りとりながらもスピードが落ちることはない。
『兄さん、もっとスピード落として!』
(いや、このままでいい)
背中の翼が煌いた。僕はスピードをそのままに、体の向きを横に滑らせ……。
(ここだ!)
「アクセル・ウイング!フルブースト!!行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
背部からジェット噴射の如く光の粒子が飛び散り急加速!
壁への衝突を免れ見事にスピードを殺さず方向転換し、敵陣へと再び突撃をはかる。掲げた光り輝く刀身は光の軌跡を描き、戦場を駆ける蒼き彗星を彷彿させた。
『嘘……、これって、ドリフト?そこからさらに加速って……』
驚きと呆れを含む声が指輪から漏れる中、僕の独壇場は終わらない。
僕が手札を切った以上、オーク達の出番は既にない。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
猛スピードのまま次々と魔物達を仕留めていく。ある者には蒼の斬撃を振るい、別の者は風の刃が切り刻む。蒼の閃光が戦場を駆け抜ける度、跡には屍が積み重なった。
(僕の体、また白く光った。レベルが上がった?でも今は!)
よく見ると一体、立派な金属鎧を身に付けた奴がいる。革製であったり、傷や凹みがあるわけではない。他のオークを前にして陣取っているのを見ると大将クラス。
指輪のリナから解析結果が伝わってくる。
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オークジェネラル
LV 21
HP 340
MP 56
STR 82
VIT 79
AGI 33
DEX 62
INT 21
MND 18
LUC 3
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「一匹、偉そうなのがいるな。まあいい、面倒だ。まとめて一気に吹っ飛ばす!」
『ちょっ、ちょっと兄さん!何する気!』
素の僕なら少々手こずる相手かもしれない。とはいえ、アクセル・ウイング発動時の僕であれば敵ではない。
背部の翼が一回りも二回りも大きくなる。放たれる光の粒子は輝きを増した。一気に溢れ上がる光が蒼の刀身に螺旋を描いて吸い込まれていく。
——蒼葉光刃心月流、葉風——
“葉走”が闘気の塊を飛ばす技なら“葉風”は手裏剣を浴びせる技。振り抜いた斬撃から刀身に纏う蒼の気を放出させるところまでは葉走と同じ。
異なる点は発したエネルギーが無数の刃となって飛ぶことだ。一発、一発は葉走程の威力はない代わりに効果範囲が広く、何より“速い”。アクセル・ウイングの力を足せばオークの集団を一気に殲滅することは十分可能だ。
(あれ?何か凄く調子いい?)
剣から伝わる翼の力に確かな手ごたえを感じる。指先から腕、全身へと波動が伝わり体中が熱くなる。蒼き光の刃が黄金へと変わった。どうやら本当に絶好調のようだ。
「これで終わりだ!」
漲る力に躊躇うことなく僕は黄金の剣を振り抜いた。
「行っけっぇぇぇぇぇぇ!」
刀身から解き放たれた黄金のエネルギーは猛スピードで螺旋を描きながら肥大化し……、うん?
(“葉風”じゃない!?)
木の葉どころか光の竜の姿となっていた。翼を広げ咆哮を上げると、狙いを定め魔物の集団へと突き進む。その牙は易々と鎧ごとオークの巨体をかみ砕き、爪と翼は触れるだけで胴を分断した。更にもう一度、一啼きすると全身から黄金の光を発し爆散。眩いばかりの光と轟音が響き渡る。魔物達に逃げ場などない。全てのオークが黄金の波動の餌食となってその身を消失させる。
後に残るのは魔石と戦利品だけだった。
…………
着地し辺りを見回す。左手にあった木刀は燃え尽き灰となって崩れた。予備の木刀を収納空間から取り出し警戒を続ける。生き残っている魔物は一体もいない。想定外の一撃は魔物のみを滅し他に危害を与えることはなかったようだ。先ほどまでの蹂躙劇が嘘のように今は黄金の光が雨となって優しく降り注いでいる。光を浴びた焼け焦げた地に再び緑が戻る。荒らされた花壇には蕾が花びらを咲かせていた。
「何、これ?僕……一体、何をしたんだろう?」
「それはこっちの台詞だよ!?」
【指輪待機】を解除したリナが僕に詰め寄った。らしくない程、興奮し僕の胸倉を掴んでいる。「非常識にも程があるよ!」と迫る顔があまりにも近い。このままでは……。
「“キス”しちゃいそう」
「はぁ?って……えぇぇぇぇぇぇっ!」
やばっ!口に出しちゃった。リナの顔が茹蛸のようにみるみる赤くなる。僕の襟から手を放し地に下げた手は拳を握りプルプル震えている。
「兄さんの……」
(マズイ、この展開は……)
覚悟を決めて僕は目を閉じ歯を食いしばる。
「兄さんの!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
バチィィィィィィィン!
子気味の良い音とともに僕の頬に紅葉が刻まれた。
……
「それで?兄さんもよくわからない、ってこと?」
赤くなった頬をさすりながら僕はコクリと首を縦に振る。
「竜魂剣士……?」
「僕の職業がどうかしたのか?」
リナの呟きに僕は聞き返す。ちなみに頬はまだ痛い。
「兄さんの厨二が元の単なる自称職業だと思っていたけど違ってたみたい」
「さらりとヒドイな」
「心配しているの!」
ジト目の視線を送ったところでリナに詰め寄られる。その目はいつにも増して真剣で、わずかばかり湿り気を帯びている。
「あれだけの力を使ったんだよ!!」
リナは広場を指して言う。その先に視線を送ると未だ回収のされていない戦利品と魔石が無数に転がっている。
「ねえ!本当に大丈夫?どこも痛いところはない?熱は?体、何ともない?」
「待てって、僕は大丈夫だから、ほら!」
屈伸した後、軽く跳んで見せる。僕の様子にリナはほっとしたのか安堵の溜息をつく。
「そっか……。でも、何か変な事があったら必ず相談すること!それだけは絶対守って!」
「わかった。約束するよ……って、そういえば!」
「何かあったの?」
早速の相談にリナの機嫌は良くなっていた。もっとも言い換えると「ここで誤魔化したら本当に怒るから!」という言葉の現れでもある。もちろん茶化す気は僕にはない。リナには嫌われたくない。
「戦闘中、また僕の体が白く光っていたような気が……」
「今も何だか光っているね」
本当だ。確かに光っている。それにしてもこの光は何なのだろう?
リナは僕の周りを一周して頭の上から爪先まで眺めている。キョロキョロとしてみたり、時には「う~ん」と唸ったり、その仕草がまた可愛い。
「あっ、消えた」
「そうだね。えっ!兄さんのレベルが上がってる!」
「確かに、力が溢れる気が……、さっきの白い光と関係あるのか?リナの時は光らないだろう?」
どうしてだろう、と戦利品の回収もせずに首を傾けたところで解は簡単に明かされた。
ナビゲーション・リングのシステムログに記録が刻まれる。
【リナの料理効果が終了しました。キョウマの経験値取得効率が通常に戻りました】
「「へっ?」」
二人の気の抜けた声が漏れた。そんな僕達の心情を表すかのように、どこからか来たカラスが「か~、か~」と鳴いていた。
お読みいただきありがとうございます。
本来、主人公は「俺TUEEEEEEE!」より「僕BIMYOOOOOO!」路線にするつもりでしたが、スキルが強すぎるせいか無双することが多くなってしまいました
タイトル「微妙ステ剣士のチート技能」にした方が良かったかもしれない、と思う今日この頃です。




