第11話 斬り裂け“木刀”!唸れ“てっぽう”!
タイトル通りバトルありです。
朱色の転移門を潜り二人は昨日の岩陰に出る。
「良かった~。また、魔物に囲まれていたらどうしようかと思った」
辺りを見回したリナは安堵の溜息をつく。
「囲まれてはいないけど、こっちに向かって来るのがいるな」
「う~」
木刀を取り出したキョウマを見て、リナも“てっぽう”を構える。
「何か変なのがいるな。人……じゃ、ないよな?」
「兄さん、あれは魔物だよ。“ゴブリン”、って言うみたい」
小さな緑の体に不格好な軽鎧、頭部には一本の角らしきものが伺える。どこか錆び付き、刃の欠けた剣を振りかざし二人に向かって駆けてきた。その数、三体。
「キシャァァァァーーッ!」
十メートル程離れた先で人とは思えぬ奇声が上がる。
「向こうもやる気みたいだ」
「兄さん、打ち合わせ通りに、ね?」
「わかってるって」
木刀を腰に当てるキョウマの口端が吊り上がる。今にも単身、向かっていきそうな気配にリナは釘を刺した。
「蒼葉光刃心月流、葉走!!」
闘気で蒼く煌く木刀をキョウマは振り抜いた。地を這う衝撃波が三体の魔物へと向かう。地をガリガリと抉る都度、蒼の木の葉が舞い散った。波となって襲い来る異様な光景にゴブリン達は迂闊にも足を止めてしまった。目を見開いた時にはすでに遅し、衝撃波が目の前に来ていた。
ドッゴッォーン!!
激しい衝突音が鳴り響く。哀れな三体のゴブリンは宙へと吹き飛ばされる。
——ジャキッ!
「フレイムショット!!」
——バンッ!バンッ!バンッ!
リナの“てっぽう”が火を吹いた。炎の宿りし紅の弾丸が緑の魔物へ吸い込まれていく。外すことなく全弾、脳天に直撃——炸裂音と共に炎を舞い上がらせ、木っ端微塵に吹き飛ばした。頭部を無くした三体の魔物がドサリと落ちる。すでに息はない。
躯からモヤが浮き上がる。自らに流れ込む波動を感じたキョウマとリナ。「これが“経験値”!?」とお互い左右の手を開いては握り変化を確かめる。
「やったね!兄さん、作戦通り!」
「そっ、そうだな……」
“てっぽう”を片手に満面の笑みでブイサインを作るリナ。キョウマは木刀を軽く掲げて答える。
作戦——絶対にキョウマ一人で戦わないこと。必ず二人で倒すこと——
リナはキョウマにそれだけは守るよう強く訴えた。
キョウマ一人で戦った場合、経験値はリナには入らない。リナのレベルアップはキョウマも望むところ——が性格上、単身突っ込むことは予想がついた。それではリナは強くなれない。
『守られるだけはイヤ。わたしも支えられるようになりたい』
その強い意志にキョウマはただ頷くしかなかった。
「それにしても、リナはその……平気なのか?」
「“平気”って?」
手にした木刀の先をキョウマは魔物の躯に向ける。脳漿をまき散らし首から血飛沫を上げるゴブリンだったものが転がっていた。
「そういえば、平気……みたい」
「無理してないか?」
「大丈夫、だよ」
「ならいいんだ。嫌なことがあったらちゃんと言うんだぞ」
「うっ、うん」
昨日、骸骨兵を前にしてもリナは恐れを見せなかった。今日のゴブリンにしてもそうだ。怯むどころか冷静に対処している。魔物の臓物を見ても嘔吐することもない。つい先日まで一介の“女の子”に過ぎなかったはずなのに……。
キョウマに気を使わせないように無理をしているのではないか、と最初は考えた。注意して見るとそうでないことにすぐに気付いた。
リナは「自分でもよくわからないけど、ゾンビを撃ったりするゲームをよくしていたせいかな?」と自らを納得させる理由を述べた。キョウマは「違う」と考える。実戦経験がある故にわかる。リナの動きは生身の戦闘を知る者の動きだった。
(僕は何か見落としている?)
思考の海に身を投げ出そうとしたところでキョウマはリナの声で現実に引き戻された。
「兄さん!わたし、レベルが一つ上がったよ!」
「えっ!そうなのか。僕はまだだ。まあ、何にせよ、おめでとう。それでステータスはどうだった?」
「聞かないで……」
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リナ・アキヅキ
LV 2
HP 12 → 20
MP 18 → 30
STR 2 → 2
VIT 2 → 2
AGI 3 → 4
DEX 3 → 4
INT 8 → 10
MND 7 → 8
LUC 2 → 2
スキルポイント残 0
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どうやら“へっぽこ”は脱していないらしい。キョウマはそれ以上、触れないことにした。
「まあ、これからだって、な?気を取り直して戦利品の回収を頼むよ」
ナビゲーション・リングを使えばカードにして戦利品を簡単に回収することができる。そのため回収は【指輪操作】のスキルを所持するリナの仕事になる。
「ヤダ……」
「ああ、わかった……って、えっ!何で」
スカートを握りしめ俯くリナにキョウマは驚きを隠せない。「躯を解体しろ」と言っているわけではない。指輪の回収機能を起動するだけで後は自動で回収してくれる。キョウマには拒む理由がわからない。
「リナ、きちんとした理由、あるんだよな?」
「だって、きも……」
「リナ!!」
「う~っ」
オキエスで冒険者として生きていく以上、それは許されない。お金を手に入れるためには絶対に必要になる。リナに甘いキョウマでも流石に見過ごせない。この場の“上目遣い”はキョウマに効き目はなかった。
「『嫌なことがあったらちゃんと言うんだぞ』って言ってたのに……」
「そうだけど、生きていくのに必要なことなんだ。だから、頑張ろう、な?」
「うん……」
リナの頭にその手を置きキョウマは一撫でする。リナは目を細めて小さく頷いた。
ゴブリンと戦うことに抵抗はない。躯を見ても平気。されど戦利品回収には嫌悪感を示す。おかしくはあるも年相応の少女がとる反応と気付くとキョウマは内心で安堵した。急に愛おしさがこみ上げ頭を撫でる行為へと至った。
前言撤回、やはりキョウマはリナに甘い。
「そっ、そうだ兄さん!こうすればいいんだよ!」
「?」
キョウマの撫でる手を振り払いリナは魔物達の躯の前に立つ。“てっぽう”を構え銃口を亡骸に向けると「えいっ!」とばかりにトリガーを引いた。
——スパァーーーーンッ!——
銃口から白い閃光が走る。眩い光が辺りを包み、よく見ることができない。
「リナ、いくら何でも吹き飛ばしたら……」
「違うよ。兄さん、よく見て」
光が収まるとゴブリンの体がどこにもなかった。その場に何もなければキョウマはリナを叱らなければならない。——が、目の前に広がる光景は想像の斜め上を行く結果となっていた。
「これ、全部“魔石”か?」
「そうだよ。この“てっぽう”はね、素材を魔石に変えることができるの」
通常、魔物から回収できる魔石は一体につき一つが相場らしい。倒した魔物の数は合計三体。目の前には十個転がっている。倍以上の成果だ。ゴブリンと同じ緑色の魔石が日の光を浴び反射させる。合わせるようにリナは得意げに笑みを浮かべた。
「ゴブリンの耳とか爪より魔石の方が高く売れるよ。どう?戦利品のまま回収しなくてよかったでしょ」
「結果オーライだ。僕にもやれることがあれば手伝うから……ちゃんとできるようになろうな」
「は~い」
ジト目のキョウマにリナは舌を出して笑みを浮かべる。キョウマがやれやれと肩を竦める。リナはキョウマの傍に駆け寄り、上目遣いで見上げた。
(僕はやっぱり甘いかな。でも……)
キョウマの顔は自然と綻んでいた。
「先を急ごう」
「うん!」
二人肩を並べて北へと歩み始めた。
……
「兄さん!」
「助かる!」
リナの“フレイムショット”による牽制射撃で怯むゴブリン。その間、キョウマは懐に飛び込み袈裟懸けに蒼の斬撃をもって斬り捨てる。態勢を立て直したもう一匹が片手斧を振り下ろした。既にキョウマは右にステップし回避している。獲物の姿がなく困惑するゴブリン……。
「はっ!」
キョウマはその隙を逃さず脇腹に強烈な蹴りを入れる。
「キゲッ!」
悲鳴を上げ、緑の体が吹き飛ばされた。
「アイスショット!」
宙を舞うゴブリンにリナは氷の弾丸を打ち込む。胴体、頭部を撃ち抜いた。ヒンヤリとした冷気が“てっぽう”の銃口から漏れる。
「やったね!」
指を二本立て勝利のブイサインをキョウマに見せる。その姿にキョウマは頬を緩ませた。何か含んだ笑みをリナに向ける。
「ああ、それじゃ回収、頑張ろうな」
「魔石にした方が……」
「一体だけな。少しは慣れないと」
「う~っ、……うん」
バツが悪そうに俯くもリナは小さく首を縦に振った。恐る恐る魔物の躯へと左腕を伸ばした。その手は微かに震えている。キョウマは苦笑を浮かべてリナの隣へ歩み寄った。
「慣れるまでは目を閉じていればいい。僕も手伝うから」
リナの震える手にキョウマの手が重なる。リナはキョウマを見上げる。目が合い互いに頷き合う。リナは小さく息を吐き出して指輪の回収機能を起動させた。
指輪から光が伸びる。倒したゴブリンを光で包み込むとアイテムカードが浮かび上がった。自然と指輪の収納空間に吸い込まれる。
「出来たじゃないか!」
「うん、兄さんのおかげだよ」
【戦利品獲得】
【キョウマはゴブリンの耳、ゴブリンの爪を手に入れた】
「この調子でいこう!」
「うん!」
オキエスに来て二日目、二人の冒険はまだ始まったばかり……。
~おまけ~
「それにしても、ゴブリンの“耳”や“爪”って一体、何に使うんだ?武器や防具の材料にはならないだろ?」
「う~ん、何かの魔法道具に使うのかな?」
「それ、体に振りかけるなら兎も角、飲みたくはないな」
「わたしはどっちもイヤ!」
「意表をついて食材とか……、隠し味にゴブリンを、ってなってたらどうしよう……」
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
~おしまい~
お読みいただきありがとうございます。
いつもお読みいただいている方も初めて読まれた方もありがとうございます。




