第10話 インターミッション?~だって僕らは“運”がない!
二人のいちゃつきが止まらない……。
後半のキョウマの台詞を変更しました。当てもなくエスリアースから北へさまよっていたのに“予定通り”となっていたからです。矛盾が起こらないようにきをつけたいと思います。
ザッザッザッ……。
トントントン……。
コトコトコト……。
グツグツグツ……。
「うっ、う~ん」
子気味いい音とともに漂う香り。どこか懐かしさを感じさせる匂いに起き抜けの精神は徐々に覚醒していく。
「味噌汁の……匂い?」
(何で!?)
ガバッとキョウマはベッドから飛び起きる。ベッドルームの扉は開いていた。キョウマが起きた時、気付くことができるように開けたままにしたのだろう、と理解する。すぐ隣のレストルームには人の気配があった。聞こえてきた音色は夢ではないらしい。
お馴染みの黒のズボンとジャケットに着替える。昨日、着ていたものは戦闘で綻んでいた。収納空間から全く同じ色とデザインの衣服を取り出し、さっさと着替える。ベッドルームを抜けると、美少女メイドが鼻歌交じりで朝の支度に勤しんでいた。
「これでよし、っと……♪」
慣れた手つきでリズミカルに働く後ろ姿はまるで踊っているよう。動くたびに長い黒髪と背の大きなリボンが左右に揺れる。キョウマは何も言えずに立ち尽くした。
「おはよう、兄さん起きたんだね♪」
「おっ、おはよう、リナ」
振り返ったリナは満面の笑みを浮かべる。不意をつかれ言葉を詰まらせるも何とか答えた。見とれてしまい固まっていた、とは言えない。
「ごはん、丁度できたところだよ!」
「ああ、ありがとう……って、えっ!?」
テーブルの上には朝食が並べられていた。白米のご飯に目玉焼き、豆腐とネギの味噌汁……と朝食の定番と呼べるメニューだ。豪華なフルコースというわけではない。もちろん、美味しそうではあるが驚くところは別にある。
「材料、どうしたんだ?米は兎も角、食糧庫には乾パンや缶詰くらいしかなかったはず……?」
味噌に豆腐に卵、ここにあるはずのない食材を指差し疑問を口にした。
「えっとね。これを使ったの!」
「弁当入れのかご……、じゃなくてバスケット?」
買い物かご程の大きさをしたバスケットを横から取り出すと、キョウマに見えるように上下させて「そうだよ~」とリナは笑みを浮かべる。どこか既視感を覚えたキョウマは“バスケット”らしきものを改めて注視した。
一見、外側の作りは竹か何かで出来ているが、よく見ると隙間の奥には金属、フタの部分には魔法石らしきものが伺えた。
「それ、どうしたんだ?」
キョウマの中で大方の予想はつくも指差しリナに尋ねる。
「これはね“まじかる・ばすけっと”だよ。女神様からもらったの!」
「あ~、やっぱり」
想像通りの答えが返りキョウマは合点がいく。効果については左のフタを開けて、いらない素材を入れフタを閉じる。次に欲しい食材をイメージして魔力を注ぐと右のフタから望みの食材を取り出せる仕組みになっている。
(原理はわからないけど、拠点にも似た機能があるし、今更驚くことでもないけど……)
「他にも何か貰ったのか?」
「後はね……」
(まだあるのか!勇者召喚では、召喚した勇者候補に与えられる力や道具は一つだけだったはず。リナにはそれが当てはまらない?あくまで僕に与えた同行者扱いだから?この状況をあの女神が狙っていたとしたら……)
「って、そんなことより先に温かいうちに食べちゃおうよ」
「そっ、そうだな。久しぶりのリナの手料理、楽しみだ!」
一つの重要な解に至りかけたところで霧散する。キョウマにとってリナの手料理は特別なもの。神妙な表情は失せ、目を輝かせる。素早く箸をとり、白米を口へと運び味噌汁を流し込んだ。
「うっ、美味い!!」
「ありがとう。おかわりもあるし、ゆっくり食べてね」
「っ!」
「だから……泣かないで、ね?」
頬を伝わる一滴にキョウマは言われて気が付いた。こみ上げてくる感情と涙で味がわからなくなっていた。箸を止めて鎮めようとしていると、いつの間にかリナに抱きしめられていた。手を後ろに回して、その胸に頭を埋める格好になる。溢れる衝動が抑えられない。必死になってせき止めていたものがついには決壊する。止まらぬ嗚咽が漏れる。
「僕は……、守れ……なかった……のに……」
「うん……」
「また……こうして……」
キョウマにとって確かに久しぶりのリナの手料理は嬉しいものがあった。が、それ以上にリナと一緒に二人で食事をすることが何よりもキョウマの琴線に触れた。召喚の間でとった食事とは違う。これは一度、失った何気ない日常。もう手に入らないはずだった幸せな日々……。
「兄さん……」
そう呟くとリナの瞳からも涙が溢れた。
◇
「ごっ、ご馳走様」
「おっ、お粗末様でした」
一しきり涙し、ようやく食事を終える。互いに目を合わせることが出来ず態度がぎこちない。隠していた弱さを見せたキョウマに少々、大胆に出たリナ。冷静になると両者ともに恥ずかしさが滲み出る。
「しょっ、食器くらいは片付けるよ」
「あっ!わたし、やるからいいよ」
立ち上がろうするキョウマを制し半ば強引に食器を奪い取った。長い黒髪がファサリと揺れ漂う香りがキョウマの鼻孔を擽る。
(シャンプーのいい匂い……。うん?あれ?もしかして……)
「リナ、僕の今のステータス、見せてくれないか?」
「あぅっ!」
どこかバツの悪い表情を浮かべるリナを隅に置き表示されたステータスを見ると……。
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キョウマ・アキヅキ
HP 286/286
MP 22/122
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「リナ~……」
「だっ、だって~」
この拠点の各施設はキョウマの魔力や体力で機能する。ちょっとした日用品の補充も然り、例えば石鹸やシャンプーも該当している。原理は不明。
一晩、眠ったにもかかわらず減ったままのMP、リナから漂うシャンプーの良い香り、結論は一つだった。
ジト目で睨むキョウマの視線がリナに突き刺さる。
「だから、あんなに上機嫌だったのか」
「ごっ、ごはん、美味しかったでしょ!」
「食べ物で誤魔化そうとした、と……」
「う~」
終始、キョウマのペースで進むかに見えたところで流れが傾き始める。リナが自らの体を両手で抱きしめるように隠し蔑む視線を向けた。
「兄さんのえっちぃ……」
「へっ?」
素っ頓狂な声をキョウマが上げる。「なんで?」と目が点になった。
「わたしの……、あれだけ……したのに、まだ足りないんだ」
「っ~!」
抱きしめられた時の柔らかい感触を思い出し、キョウマは絶句する。
「兄さんはわたしにどんなこと、する気なの?」
上目遣いでリナは怯えた声を絞り出した。
「僕が悪かった。もう十分です」
勝敗は決した。胸中でキョウマは「最高でした」と付け加える。称号の【むっつり???】は伊達ではない。
「なら、許す」
その言葉を発したリナに先程までの委縮した姿はなくドヤ顔であった。
◇
食事とその後のいざこざを終えたところでキョウマとリナは今後について話し合うことにした。レストルームのソファーに腰かける。向かい合うのではなく隣になるよう二人は座った。やましい理由はない。リナの手に輝くナビゲーション・リングを起動させた際の表示を二人で見るには都合がいいからだ。
「進路をこのままにエスリアースの北を目指そう。別の町があるみたいだしな」
「途中で魔物を退治しながらだね」
「そうだな。当面の問題はお金だな。戦利品を回収してこの世界の通貨を手に入れよう」
「うん!」
先立つものはやはり“金”、二人は互いに頷き合う。
「それにもっと強くならないと……」
最初に出会ったタスンは“四魔将の右腕”、その上が確実にいる。
「レベルアップ、だよね。それについてだけど一つ提案があるの」
「提案?」
提案、と聞いてキョウマは真っ先にリナのことを考えた。(あの“へっぽこ”ステータスじゃ、息を吹きかけられただけで危ないよな~)と胸中秘めたところでリナにジト目で睨まれる。
「ゴホン、まずは“LUC”を上げましょう!!」
「“LUC”って“運”ってことだよな?そんなに大事か?」
「兄さん、甘い!」
テーブルを両手でドンと叩くと隣のキョウマに詰め寄る。あまりの勢いに「運に頼る方が甘いのではないか」というツッコミをし損ねる。
「考えても見て!異世界に着いた即座にすぐ戦闘……、しかも五十を超える大群と幹部クラスだよ!それでやっとの思いで勝利して町に着いたと思ったら今度は門前払い……。絶対にわたし達、“運”がないよ!LUCが低いせいだよ!」
「そっ、そうか……。でも運なんて意図的に上げられるものなのか?」
転生前のキョウマのLUCは「3」、今は「1」。正直、上がるとは思えない。リナの勢いに押され頷きはするも期待はしない。
「それについては、考えがあるの。わたしに任せて!」
胸を張りドンと叩く仕草をリナはする。大きく二つの双丘が揺れるもキョウマは別のことに気を取られ全くもって気付かない。
(こういう時のリナって結構、とんでもないことするんだよな~)
どんな暴走をしでかすのか、とキョウマの不安は尽きなかった。
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