第0話 プロローグ
不定期更新です。
思い切って投稿してみました。
お読みいただければ幸いです。
この世界の名はオキエス。
魔法が存在し水と緑が溢れる世界。
かつて、この世界に隕石群が降り注いだ。
激しい衝突であったにも関わらず比較的地表への被害は少なかったが、隕石から発せられる未知のエネルギーは霧となって拡散し、周辺の動植物ばかりか荒廃した建物までをも別の何かに変貌させていった。
人が住まうには、それはあまりにも過酷な環境となった。
その後、霧が晴れるまでおよそ五百年の時を要した。
やがて世界は二分される。
一つは文明が栄え主に人族が暮らす“内界”。
隕石落下地点から遠く離れ、落下前以前の生態系を保ったまま科学が発展し、様々な国家が存在する人の世界。
もう一つは未知の生命や遺跡が存在する“外界”。
霧が晴れた後に進出した人族の他、激変した環境に適応するかのように変化した人類、エルフや獣人を始めとする亜人種が生活を営んでいる。
そこで採取される資源は内界では手に入ることが叶わぬ素材がほとんどで、高額で取引されるものも多くある。
中でも遺跡――通称、“迷宮”と呼ばれる地には、隕石のエネルギーによって産み出された多くの宝物が眠っていることから、一攫千金を夢見て外界へ旅立つ冒険者は後を絶たない。
魔物と呼ばれる異形の怪物達が跋扈し、常に危険が隣合わせであるにも関わらず……。
そんな危険地域の迷宮を一人の少年が駆けていた。
迷宮の名は【孤独の回廊】。
二人以上のパーティでは侵入することは許されず即、強制退去させられる単独専用のダンジョン。別名“竜の巣”とも呼ばれ竜種の魔物が多く生息する難攻不落の不人気迷宮でもある。
無謀にも攻略に勤しむ少年は黒の髪と瞳、細身ながらも体は鍛えられているが、身に付けているものはお世辞にも上等とは言えない。
黒のズボンとジャケットにくたびれた革の外套、武器は木刀といったようにゲーム風に言うならば“初期装備”という装い。そんな命知らずの背後には魔物の群れというオマケまで付いている。
様子を見るに“駆けていた”というのは言葉が足りなかったようで、正しくは“逃げている”が正解だろう。
縦長の瞳孔に燃え盛るような紅蓮の鱗、大きく開く口からは鋭利な牙を覗かせ、獲物を喰らわんと咆哮を上げながら迫りくる。“レッドドラゴン”――駆け出しの冒険者にその相手は荷が勝ち過ぎている。おまけにワイバーン数体という付録付き。狭く入り組んだ通路を器用なまでに猛スピードで追い立てる。誰の目から見ても少年の命運は尽きたように見える。近い未来に訪れる惨状が目に浮かぶようだ。
ハァハァ、と息を切らせながら十字路を右に曲がり走り抜けると長く狭い一本道、遥か前方には行き止まりとなる壁が無慈悲なまでにそびえ立つ。
少年にとっての絶望は捕食者にとって絶好のスパイスだ。状況を察した魔物達の雄叫びが強くなる。
が……、彼らは気付いていなかった。壁際へと近づくにつれ少年の口端がつり上がっていくことに……。
「さて、逃げ場が無いのはどっちかな?」
壁際で少年はクルリと魔物達に向き直る。その表情には余裕が感じられる。ここまで来ると息を切らしていた様子は演技だったことが伺えた。外套が外れ、ファサリと地に落ちていく。
木刀を持ち直すと腰にあて、柄に左手を添え抜刀術のように構えをとる。
急変した獲物の態度に目もくれず、狭い一本道を一列になって詰め寄る魔物達。その様子は己の勝利を確信し自らが捕食者であることに疑いは感じられない。
「もう僕の間合いだ。蒼葉光刃心月流……」
黒髪の少年から闘気が立ち込め木刀が蒼く輝き始める。
「葉走!!」
気迫のこもった叫びとともに蒼き剣閃を打ち放った。
葉を象るオーラを撒き散らしながら、蒼の衝撃波が地を這いながら突き進む。疾風の如き一撃は魔物に回避の暇など与えることを許さない。衝突と共に光の瞬きと爆撃音が辺りに木霊する。
「グガァ……、キシャッァァァァァーーーー!!」
先手必勝の攻撃も竜種の命を刈り取るまでには至らない。痛みと怒りの声が響き渡る。
魔物達は気付いていない。叫ぶよりもしなくてはいけないことがあるに……。
「これで!蒼刃烈牙斬!」
既に少年は懐に飛び込んでいた。そして狙うはべきは初撃で傷つけた箇所。蒼く輝く刀身は木刀とは思えぬ切れ味を発揮する。半端な名刀を凌ぐ蒼の刀身は固い竜の鱗に対しても易々と刃を滑り込ませた。斬り上げの一閃で先頭のレッドドラゴンを斬り伏せるとともに高く飛翔する。間髪入れた斬り下しの刃がワイバーン数体を瞬時に沈めた。
「グゥゥ……」
「ちっ!やはりまだ足りないか!」
ザッ、と地を踏む音と共に少年が着地すると魔物達の呻きに気付く。竜種の生命力に感心と舌打ちが思わず出る。
「なら!」
少年が何かを決意し呟くと、そっと風が吹いた。黒髪が揺れ、風は勢いを増し地に落ちていた外套をバタバタとはためかせた。
瞬間、光と暴風が巻き上げると同時に少年の姿はすっと掻き消える。少年と入れ替わるように蒼き閃光が幾重にも重なって戦場を駆け抜けた。鋭い風切り音とともに閃光は上下左右関係なしに走り抜け魔物達を蹂躪し尽し、血飛沫を撒き散らしていく。
全ての魔物が肉塊へと変わり果てた時、それまでが嘘かのように光と風は止む。そこには立ち尽くす少年の姿が浮かび上がった。肩で大きく息をしていることから、この蹂躪劇が彼によるものであることに疑いの余地はない。
「やっぱり、ドラゴン相手に手抜きは出来ないか……。まあ、アレ抜きで戦えるようになったから良しとするか」
本音と意味深な言葉を呟いたところで、骸となった魔物達から魔力が漏れ経験値として少年の体に流れ込む。魔石と呼ばれる核と牙や鱗に皮といった戦利品を残してその姿は霧散した。
「さて回収、……頼むよ」
首からチェーンでぶらさげた指輪を取り出し呟くと、淡く明滅し戦利品へと光がほとばしる。光は渦を巻いて数回瞬くと静かに収束した。戦利品はカードへと姿を変え、指輪によって作り出された虚空空間へと吸い込まれる。「ありがとう」と少年が礼を述べ、指輪を撫でると「どういたしまして」と言わんばかりに明滅した。
この指輪の名称は“ナビゲーション・リング”と呼ばれている。
この世界では内界から外界に旅立つ際、必ず冒険者組合にて冒険者登録をしなければならない。登録資格は魔法適応Fランク以上の属性が最低一つ以上あれば誰でも可能となる。理由は魔物の多くが魔法なしでは討伐することが叶わないためだ。
通常このナビゲーション・リングは冒険者組合にて冒険者登録をした際、全員に支給される。 多種多様な機能が備わっていることから冒険者の間でも好評だ。
主な機能については次の通り。
アイテムの格納及び管理。
討伐した魔物の記録。
経験値獲得の知覚化。
ステータスを始めとした個人情報及び装備品、アイテム情報の管理、閲覧。
マッピング機能等。
ゲームのような機能を現実で使用可能とした夢のアイテムである。
余談となってしまうが、このような高価なアイテムを全員に支給するメリットは冒険者組合にもある。
それは“情報”だ。
冒険者一人一人からもたらされる情報をナビゲーション・リングを通して集約し一括管理をする。表向きでは冒険者達が己の力量に見合わぬ冒険をし命を落とさぬよう情報の統一・開示をするため、と謳ってはいるが、それが建前であることは明白だ。
どこでどのような素材が採取可能となるのか。新たに発見された魔物や素材、ダンジョン、集落、それらの情報がもたらす利益は決して少なくはないのだ。
「少し、休憩っと……」
周囲に魔物がいないことを確認し、呟くとそっとダンジョンの冷たい壁にもたれかかる。
ガコッ!
「へ?」
間抜けな声がつい出てしまうが時既に遅し。背にした壁が開くと急な斜面が続き、絶叫を撒き散らしながら転げ落ちていった……。
その転がり具合は正に、彼の運命を物語るようでもある。
罠にかかり、坂道を転げ落ちる黒髪の少年、名前はキョウマ・アキヅキ。
当初は驚きもあり、「うわああああっーーーー!」と絶叫を上げるも今は達観した様子で腕を組みながら斜面を滑り行く。
(外套、失くしちゃった……、でも!この先に宝があれば万々歳!)
と、考える余裕も出てきた。
期待で胸は高鳴り瞳が輝く。口元が緩むのを手で押さえながら、緊張感の中で自分が“ワクワク”していることも思い知る。
(僕……、いや、僕たち、すっかり冒険者生活に染まってきている。こんな日が来るなんて、あの頃は夢にも思わなかった。まあ、でも……悪くない!)
充実感を胸にして首から下げた指輪を見やり、キョウマはこれまでのことを思い浮かべ始めた。
己の運命が変わり始めた日のことを……。
キョウマ・アキヅキ 十五歳
《装備》
右手 なし
左手 木刀
頭 なし
体 黒のジャケット、ズボン
装飾 なし(革の外套 LOST!)
だいじなもの ???
お読み頂きありがとうございます。
ヒロインが出るのはもう少し先です。