表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

学生食堂の値上げ

熊谷蘭子がにっこり笑って「学部は?」と聞く。

「飲酒学科です」とタカシはおどけて答えた。この部屋の者を笑わせるつもりでふざけて言ったのだが

茶色のジャケツトを着た武本は不機嫌な顔をして「最近の新入生は堕落しているよ」と言う。

みんなを笑わせるつもりで言ったのだが、これはまずかったなとタカシは思った。

「大学の権威が失われつつあるよ」と武本。

「今の大学に権威なんてないよ。大学ではなく大学屋さ」と会長の鬼塚。

「その大学屋を大学に変えようと思って僕は苦しんでいるのです」と武本。

「一人で力んでもどうしょうもないさ」

鬼塚は古くててかてか光るトレンチーコートの内側のポケットから国産で一番安いタバコ、ゴールデンバットを取り出す。

「やら ないよりやったほうがいいでしょう」と武本は口をとがらす。

「犬死にさ,苦しんでいるのは君だけじゃない。僕だって苦しんでいるんだ。みんな、苦しんでいるんだ。

だからみんなの苦しみを大衆団交へと結ぶつけていかなきゃならんのだ。大衆団交へと高めて拡大していくことが大切なんだよ。君一人力んでも仕方がないよ。ルールがあるんだよ。ルールに沿って活動しなきゃならんのだよ」

鬼塚はライターでゴルーデンバットに火をつけると、うまそうに吸った。

「僕は鬼塚さんのように冷徹に物事を見ることはできませんよ」と武本。

「僕は冷徹じゃないよ。僕だって君に劣らず情熱は持ってるよ。ただ目先だけ見て動くのは稚拙だと思うのさ。高度なテクニックが必要だと思うよ。我武者羅に突っ込むのは若者の特権かもしれないが、それでは勝てないよ」

タバコを吸い終わると、目の前の灰皿で押しつぶして、鬼塚はふと、緊張してつ立つているタカシの方を見た。「まあ、新入生よ、座りなさい」と鬼塚は言う。

タカシはニッと笑って、同じ新入性の村本のとなりに座った。

この大学では食堂料金の値上げを10月に予定していて、学生たちは猛反発していた。大衆団交とは、そのことに関する全学集会のことである。この年の1月29日、東大医学部の学生は無期限ストに突入した。

東大で教授のつるし上げ事件が起き、医学部教授会は学生たちを処分した事に対する抗議のストである。

2月には学生と医局員とが衝突した。

処分された学生は、その日には東京におらず、誤認問題が起き、処分徹回で学生と医学部の間でもみ合いが続いていた。そうした影響はこの大学にも波及ししていた。3月28日、東大は卒業式を中止した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ