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アーセナルアームズ  作者: 活火山
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遭遇

 ギルドに入ると、まず目に入ったのは中央にある大きなテーブルと椅子だった。恐らく何か書き物をするためにあるのだろう。

 それ以外には職員が働くカウンターがあるくらいのシンプルな構造だ。

 カウンターの後ろ側には大量の書類が本棚のごとく並んでいる。どういう順番で並んでいるのか地味に気になる。

「あら? こんにちは、アーネスカちゃん」

 レイジとアーネスカがギルドに入ると、恰幅のいい婦人が話しかけてきた。

 ふくよかな体系をしており、とても柔らかな印象を受ける。

「こんにちは、キプルおばさん。調子はどう?」

「最近はトラブルも少ないから、比較的平和な方ねうちのギルドは。今日はどんな用事? 修道院の修繕か何か?」

 キプルと呼ばれたおばさんはニコヤカに笑う。つられて笑顔を浮かべてしまいそうになるような笑顔だ。

「いえ、今日は新しい住居の手配をお願いしたくて」

「ひょっとして……」

 おばさんと目が合う。思わず謎の会釈をするが、自分でもその会釈の意味がわからなかった。

「その子?」

「はい。実は……」

 アーネスカがレイジのことを一通り説明した。


「う~ん……」

 アーネスカの話を聞いて、おばさんは色々な資料を持ってきた。それらに目を通しながら、おばさんが口を開く。

「あんまりいい家は紹介できないけど、それでもいい?」

「はい、構いません」

 ――何を紹介する気だ?

 妙な不安がレイジの心をよぎる。

 何もない、何も知らない自分にあてがわれる住居ってのは一体なんだろう?

 ――っていうかそれ以前に……。

「あのさ、アーネスカ」

「なに?」

「これからどういう手順を踏んでいくのか軽く説明して欲しいんだけど……」

「あ、それもそうね」

 というわけで簡単にアーネスカが今後について説明してくれた。

 まずこのギルドは住居の斡旋やトラブルの対処、その他諸々を一手に引き受けてくれる場所であること。

 そして、アーネスカはレイジの立場・条件でも住める場所がないかどうかを探すためにこのギルドにやってきたのだ。

「でも、あんまり期待しないでね? 別にボウヤが悪いわけじゃないけれど、やっぱりそれなりの条件とかあるから」

 キプルはどうにも歯切れの悪い言い方をする。

 仕方がないといえば仕方がない。レイジ自身、自分が何者なのかよくわかっていないのだから。

「ところで、俺お金とか何もないけど、その辺どうするんだ?」

「その辺の手配は後よ。お金を稼ぐにしても、まずは生活できなきゃ意味がない。生活できる環境を整えてから、改めてそういった手段を考えればいい。少なくとも、このギルドではそれが認められている」

 ――なるほど

 それに納得すると、キプルは物件の資料をいくつか渡してくれた。

「……」

 さらっと目を通したが、資料を見る限りロクなのものがない。

 窓ガラスが張られていない物置のような建物ばかりで『家』と称していいのか疑問に残るものばかりだ。

 中には元々牛舎だったのものを清掃だけはして、一応人が住める状況にしたというものもある。

 つまり衛生的に疑問が残るようなところばかりだ。

「まぁ、やっぱりこうなるわよね……」

 予想通りだったのか、アーネスカもため息をつく。

「そこにあるのでだめなら、あとはどこかに下宿っていう手段をとらざるを得ないけれど……ここ数年は下宿を募集しているところもないのよねぇ」

 キプルはごそごそとカウンター後ろの資料を漁りながら言う。

「ん~……どうする?」

「どうするも何も、俺自身どうすればいいのかわかんないんだけど……」

「一旦戻りましょう。司祭様だって、問答無用で追い出したりはしないだろうしね」

「すまないな。俺なんかのために」

「謝らなくていい。あんたのためっていうより、ヒノキのためって言うほうが正しいんだから」

 アーネスカはキプルに例を言うと、公営ギルドを後にした。


「え~っとヒノキはどこにいるかなっと……」

 アーネスカと共に、広場に視線を走らせる。

 ――ヒノキはあの男に対して何をする気なんだろう?

 そんな疑問が沸いて出る。

 ヒノキは言った。自分は生き別れた兄に似ていると。

 じゃあ、その生き別れた兄に似ていないのなら、自分はこんな風に行動できてはいなかったということなのだろうか?

 それとも、ヒノキは自分が兄に似ているか否かに関わらず、このように助けてくれたのだろうか?

「あ、いたいた」

 アーネスカの後についていく。ヒノキはさっきの男と会話、というより一方的に話しかけられているようだった。

 建物の日陰で男はうなだれたまま、ボソボソとヒノキに何かを話している。

 男はかなり細身の男だった。短髪で虚ろな目をしている。服装だけは妙に小奇麗で、体にフィットした灰色のシャツとズボンを着用している。

「俺は……何か使命が……やらなきゃならないことがあったはずなんだ……思い出せない思い出せない……」

 そんな台詞を男は何度も繰り返している。

 アーネスカがヒノキの名を呼び、互いに自分達の存在を認める。

「なんなの? この男」

「わからない……。さっきからうわごとばかり呟いてて、会話にならないの」

「ほうって置くわけには……」

「いかないよね」

 二人が並んで会話している。やはり並みの大人よりヒノキの身長は大きい。レイジにしてみれば羨ましい限りだ。

 この華やかで美しい広場において、このような男の存在はやはり異質に映る。

 レイジ自身もそう思った。そして恐らく自分自身もそんな異質な存在なのではないだろうか?

「……!」

 男と目が合う。その瞬間男の目つきが変わった。

「お、お前……!」

「……?」

 虚ろだった目に力が宿り始める。立ち上がろうとゆっくり体を起こそうとして、頭から地面にぶつかる。

「あ、大丈夫ですか?」

「お前のこと……知ってるぞ……俺はァ……!」

 ヒノキの言葉を無視して男は顔を上げる。

 レイジは直感で思った。この男に会話は通じない、と。

「クッ、ヒヒヒヒヒヒ……!」

 ヒノキとアーネスカも気づいた。この男が正気じゃないことに気づき、後ずさる。

「お、お前、ココココ、コロ、コロ、コロコロロロロ……」

 目から光彩が消える。同時に男の口から肉塊のような何かが飛び出た。

「お……さん!」

 そこからどうなったのか、よくわからなかった。

 気が付いたら、ヒノキに抱きしめられ、地面を転がっていた。

 あまりにも一瞬の出来事に頭がついてこない。

 ――な、何が起こってる……!?

「大丈夫ですか!? レイジさん!」

「あ、ああ……」

 ヒノキの体の感触が気になるがそんなことより、事態を把握することに頭を集中させる。

 あの男の口から吐き出したのは、細長い肉塊というよりほかない何かだった。

 よだれのような何かが滴っている肉塊は触れるのもおぞましい臓物のような色を放っていた。

 アレに触れたらどうなっていた?

 ヒノキが助けてくれなかったらどうなっていた?

 肉塊はズルりと音を立てながら、男の口の中に引っ込んでいった。

「モウ……ユダン、シナイ……!」

 男の目は本能に突き動かされる動物のように見えた。

「何が……何が起こってるってんだ?」

「わかりません。でも……」

 ヒノキはゆっくりとレイジから離れ、立ち上がった。

「あの人が、レイジさんの敵だってことはわかります。私達にとっても……」

「どうする気だ?」

「私達の使命は、この町の平和を守ること。だから……」

 ポケットから小さな指輪を取り出す。

 それは、銀色のロザリオリングだった。

「戦いますよ。そのために、私達はいるんです」

 ヒノキはレイジに向き直り、レイジの肩に手を置いた。

「少しだけ、待っていてくださいね」

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